第137話 立場逆転

「なんで高梨くんがいるのよ…それに横川くんまで」


夕月先輩がそう言うのも無理はない。


屋上のドアまできたときに、話し声が聞こえたから少しだけ覗いてみると、何故か高梨くんの姿があった。

横川くんまで…


あの手紙は確かに薩川先輩が持っている、だから知らないはずなのに。

他にも知らない二人と、手紙を入れたあの男子がいるし…


「これは想定外です…」


さすがに薩川先輩も困惑しているようだ。

こうしている間にも、向こうの話が進んでいるようで、少し開けたドアから声が聞こえてくる。

夕月先輩は、とりあえずスマホで撮影しているみたいだけど。


「さて高梨、山崎から色々聞いたぜ。お前中学の頃は相当なワルだったそうだな。」

「えーとなんだっけ? ストーカー…暴行…傷害…脅迫、こりゃすげぇ」


!?

それは…

そっか、高梨くんがあの高梨だったんだね。

聞いてたイメージと全然違うから他人だと思ってたよ。


「沙羅、落ち着いて、大丈夫だよ信じてないから」


「私もです。それよりすみません、もう少し話を聞かせて下さい。後で説明しますから…」


少し焦ったような様子を見せた薩川先輩。

それを落ち着かせようと、夕月先輩が声をかけたので私もそれに習う。

私達二人の言葉を聞いて、薩川先輩は少し落ち着いたようだ。

あの薩川先輩が、焦ったり不安になったりする様子を見せるなんて…

やっぱり好きな男子のことになると、薩川先輩も普通の女の子になるんだなって思えて可愛いく見えた


でも今は高梨くんの話だ

正直、もう少し聞きたい…


「藤堂さん…?」


私の様子に少し驚いた薩川先輩を尻目に、私は自分の神経を耳に集中した


「それは俺の幼馴染みが蒔いた嘘だ。俺は何もしてない」


高梨くんの言葉が凄くしっくりときた。

幼馴染み…笹川柚葉で間違いないはずだ。

あの女が山崎を唆して洋子を公開処刑したことは有名だった。

そんな性格の捻じ曲がった女なら、高梨くんにそのくらいのことをしても何ら不思議はない。

であれば、やはり私の見ていた高梨くんが本当であり、噂はデマだった訳だ。


「これ婦女暴行犯が捕まってる写真なんだけどな、後ろに山崎が写ってるだろ? 他にも写真あるみたいなんだけど、まさか共犯だとはな。」


!!??

何それ!?

そんな写真があるなら欲しい!!

きっと洋子が喜ぶ…山崎に復讐できるかもしれない


そう思うと、私はもうここでじっとしていることは出来なかった


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沙羅さんと夏海先輩…それになぜか藤堂さん?


なんで三人がここに…


速人も、バカABも、あとよくわからない一人も、全員驚いている。


「沙羅さん…なぜここに」


「一成さん、事情は後で説明致しますので。それよりも、脅迫を行ったその二人を先に処分する…」


「高梨くん、今話をしてた写真を見せて! 私はそれが…」


「なんだ! なんで薩川先輩と夕月先輩がここに」


「姫!? ちょうど良いところに、今高梨の化けの皮を剥がしてる最中で…」


「横川くん、何があった…」


カオスだ

俺も早くあいつらにこの写真のことを問い詰めたいのに…

心許ない写真一枚で相手をする以上、向こうが心理的余裕を取り戻す前にこの勢いで話を進めたいのだ。

でもそれぞれが言いたいことがあるらしく…


話が進められない状況に思わず苛ついてしまった



「全員黙ってろ!!!!!」



俺は今まで出したことない大声で一喝した。

驚いたようで、全員一斉に黙ってくれた


沙羅さん達には後で謝ろう…


「沙羅さん、とりあえず今は俺に任せて下さい!」


「は、はい…一成さんにお任せ致します…」


沙羅さんは素直に受け入れてくれた。

顔が朱くなっていて、俺の顔をぽーっと見てるのは何故なんだろうか…


「藤堂さんの話はこの後聞くから、一旦保留にさせて」


「う、うん、わかった…ゴメンね高梨くん」


藤堂さんは落ち着いてくれたみたいだ。


「夏海先輩は…沙羅さん達をお願いします」


「あたしはいつも冷静だからね。」


手に持っているスマホを見るに、今回も撮影班をしてくれていたようだ。


あとは速人に…


「一成、先に俺に話をさせてくれないか? 悪いようにはしないから。もういい加減聞くに堪えないというのもあるけど、一成の話でこいつらに問い詰めることができたんだよ。ひょっとしたらその写真に関係してるかも。」


この写真に関係してるなら聞いておきたい。

正直なところ、この曖昧な写真だけでは、あいつらが反論してきたときにどこまで切り抜けられるかわからない。


「横川、なんだよお前、俺達側じゃ…」


「は? 俺はそんなこと一度も思ったことないけど。それよりさ、勝手に俺の名前を使って女子に声かけてただろ?」


二人が速人から目をそらす。

セコいことやってるな、この二人…


「でも今はそれじゃない。君らが声をかけた人の中に、犯罪に巻き込まれた子が一人いたんだけど…佐川ってさっき言ったよね? 何で犯人の名前を知ってる?」


!?

おいおい…この写真思ったより凄いんじゃないのか?

かなり役に立ってるぞ雄二。

今度礼を言わないとな…


「俺らはそんなこと言ってな…」

「ああ、さっきの会話は私が録画してるから、見返せばわかるよ?」


間髪入れずに夏海先輩が横槍を入れた。


「「…………」」


これは言い逃れできないだろう、俺も録音してるしな。


「君らに関係ある佐川が起こした事件の被害者が、君らが声をかけたのことのある人物…よくわかった、君ら二人が関わっていた可能性が高いから警察に通報する。警察が調べてくれるだろうし」


本気なのか意図があるのかわからないが、速人が警察というフレーズを出すと、二人が一気に慌て出した。


「俺らは関係ない! あの一件は本当に関係ないんだよ!!」

「本当なんだよ!! だいたい俺達は被害者のことを今知ったんだよ!!」


かなり焦っているようで、捲し立てるように弁明を始めた。

様子を見る限り嘘は言ってなさそうだけど、山崎のことを聞き出すチャンスかもしれないな。


「関係ないってことがわかる証拠でもあるのか?」


俺はこの流れに便乗することにした。

しかし逆の立場になってみると、改めてこの「証拠があるのか?」という台詞の強さを改めて感じてしまう。

中学のとき、俺にこれを言ったやつらはこんな気分だったのだろうか?


「証拠…証拠っ…何か…あ、RAINで、俺達が関係してないことがわかるやり取りがあるから、それを見てくれればわかるはずだ!!」


焦ったようにAが自分のスマホを出すとRAINを立ち上げた。


「見せて」


速人がスマホを取り上げて、俺にも見えるようにしながら履歴を上る

…俺に関する噂を広げるように指示があるな。こいつらパシリか?


「いつの辺りだ?」


Aがスマホをもう一度手に取り、履歴を遡る。暫く待っていると


「あった、ここだ」


改めて、速人と二人で画面を見る。

そこには三人のやり取りが残っていた


「佐川先輩の件は誰にも言うなよ?」

「言うもなにも、俺らは全く関係ないだろうが」

「山崎の紹介した女だろ! 寧ろ関係してるのお前だろうが」

「俺だって紹介しただけだ。佐川先輩が勝手に暴行しただけだからな。それ以降あの人に会ってない」

「本当かよ? なら何で口止めした?」

「おい止めようぜ。とにかく俺らは関係ないからな。誰が捕まっても俺らは関係ない」


…………


これは面白いRAINだ。

夏海先輩が録画してるから、俺は録音を止めて画面を撮影する。

グループも表示して…


こんなあやふやな写真からの流れで、思わぬ情報が手に入ったことに思わずほくそ笑んでしまった

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