第53話 世話焼き女神様(友達ver)その1

「さぁ、遅くなってしまいましたが、お昼ご飯に致しましょう。起きることはできますか?」


「………はっ!」


ずっと先輩を見ていて、いつの間にか呆けていたようだった


「あら、どうかなさいましたか?」


先輩が不思議そうに問い掛けてきた。


「い、いえ、大丈夫です。」


起き上がってテーブルに向かうと、美味しそうなうどんが乗っていた。


「消化を考えてうどんに致しました。風邪には生姜も良いとのことでしたので少し入っております。これで体が温まると良いのですが…」


「ありがとうございます。早速ですけど頂きます」


沙羅先輩が、俺の体のことを考えて作ってくれたうどんだと思うと、美味しさも倍増だ。


「では、私も失礼致しますね。」


先輩は、髪を気にしながら上手く食べている。髪の長い女性は大変だなぁ


少し食欲が戻っていたのか、沙羅先輩のうどんが美味しかったのか、全て食べてしまった。


「ごちそうさまでした。」


「お粗末さまでした。…そういえば、作りたてを召し上がって頂くのは初めてでしたね。」


「そういえばそうですね」


「欲を言えば、せっかく作りたてを召し上がって頂ける初めての機会でしたのに、もっとしっかりとしたお食事を作って差し上げたかったのですが」


「いえ、充分美味しかったですよ。」


これ以上望むなんで、贅沢すぎるだろう。

でも食べたいかと聞かれれば当然


「でも、もし機会があればお願いしたいです。」


「畏まりました。では高梨さんがお元気になられましたら、改めて機会を是非」


なんか、次々とお世話になることが増えてしまっているような…


「では、私は片付けてしまいますので、高梨さんはベッドにお戻り下さいね。」


「はい…すみません宜しくお願いします」


全部任せてしまうのも申し訳ないが、ここまできたら全てお願いして、後日まとめてお礼を言おう。

…手伝うと言えば怒られるだろうし…


ベッドの縁に座り、やはり台所に立つ先輩を眺めてしまう…

何だろう…なんか…いいなぁ


そういえば、あのエプロンを使ってくれているんだな、良かった。


先輩が片付けを終わらせてこちらを向くと、またもや目が合ってしまった。

手には何やら…風呂桶とタオル?


「? ふふ…先程も見ていらっしゃいましたが、何かお気になることでもありましたか?」


そう言って笑顔で近付いてくる先輩に、思わずドキっとしてしまった。


「い、いえ、そのエプロンを使ってくれてるんだなぁと」


「あ、はい。お料理のときは、必ず使わせて頂いておりますよ。先日、母が可愛いと褒めてくれました。」


そうなんだ…って、お母さん?


「お母さんがですか?」


「はい、高梨さんからの贈り物だと伝えましたので。男性だと知った母が、驚いておりました。」


えーと…お母さんなら先輩が男性嫌いなのは知ってるだろうし…

ま、まぁ大丈夫だろう。


「さぁ高梨さん、お休みになる前に体を拭いて、少しでもさっぱりしましょうね」


え?

どういうことだ?


先輩がベッドの側に風呂桶を置くと、俺に手を伸ばしてきた。


「はい、背中から失礼致しますね」


そのまま俺の上着の背中側を持ち上げると、丁寧に拭いてきた


「え!?いや、沙羅先輩、そこまでして貰わなくても!」


「ダメです、大人しくしていて下さいね」


うう…ちょっと恥ずかしいかも…


先輩がタオルを濡らして絞り直し、今度は脇腹や脇の下を拭きにくる


「少しくすぐったいかもしれませんが、我慢して下さいね、すぐ終わりますから」


「はい…」


そして結局、前側も丁寧に拭いて貰ってしまいました…頑張ったよ俺…


「これで大丈夫でしょうか…如何ですか?少しはさっぱりとしましたか?」


「は、はい、ありがとうございます。」


「良かったです。誰かの体を拭いたのは初めてでしたから、上手くできるか不安でしたので。」


初めてなのに、あんなに手馴れた感じでやれるなんて…


「明日、高梨さんの体調が良い様でしたら、もう少ししっかりと拭いて差し上げますから、本日はこれで我慢して下さいね」


何か、きらきらした笑顔で言われてしまうと断れないんだが……明日はこれ以上なの?


「さぁ、体が冷えないように、お布団に入りましょうね」


先輩に言われるままに横になると、布団をかけてくれた。


というか、掛け布団を俺の胸の辺りまでかけると、そのまま布団の上から


ぽん…ぽん


…えーと、これはつまり


「お家のことは私に任せて、夕食まで少しでもお休みになって下さいね。」


微笑みを浮かべた先輩が、もう片方の手を俺の頭に伸ばして、ゆっくりと丁寧に撫でてくれる。


えーと、寝ろってことだよな…


子供みたいに思われていそうで恥ずかしい気もするが…

いや、俺は今風邪だから仕方ないよな、甘えさせて貰ってもやむを得ないよな…


なで…なで…なで…

ぽん…ぽん…ぽん…


………

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