第63話 会長の思惑

「あぁそれは大変だ。いいよ、終わるまで隣で休んでいてくれ。皆も別にいいだろう?」


沙羅先輩が周りを見渡している。

特に何かを話した訳ではないのだが、有無を言わさない空気があるように感じる


「だ、大丈夫です…」

「体調が悪いのでしたら、ゆっくり休んでいて下さい」

「そうです、どうせ休憩室は殆ど使うことありませんから」

「ごゆっくり〜」


その空気に圧されたように、受け入れの言葉を口にしていく面々

本当にいいのか? とは思うけど。


「高梨くん、冗談抜きで気にしないでくれ。それに、ついでと言っては何だが少し相談もあるんだ。」

「会長、お話なら私が伺いますが?」


デジャヴというか以前も同じやり取りがあったような

いや、生徒会長は相談だって言ってるし、なら俺が聞かないと


「沙羅先輩、俺がちゃんと聞きますから」


「はい、高梨さんがそう仰るのでしたら。」


!!!!


「…薩川先輩が二つ返事!?」

「…なに、あの人なんなの!?」

「…恋人じゃないよな!?違うよな!?」

「…落ち着け、落ち着け、落ち着け」

「…あんたが落ち着きなさい」

「…あれが、この前の高梨さんって人か…」


さっきから何なのだろうか?

妙に俺を知っているような気もするし

ずっとヒソヒソ言われているみたいだ。


「やはりか…ではゆっくりしていてくれ。」


会長が何か確認したような素振りを見せた。


「すみません、では少しお邪魔します…」


「高梨さん、こちらのお部屋へどうぞ」


先輩が、生徒会室の中にあるドアを開けてくた。

部屋に入り見回すと、部屋の中には資料であろうファイルが壁一面の棚に並べられている。かなりの量だ。

しかしそれ以外にも、テーブルと少し大きめのソファがあった。

これなら横になることもできるだろう。


「高梨さん、こちらのソファでお休み下さい。遅くはならないはずなので…私の我が儘で申し訳ございません。」


「先輩、俺の為にしてくれているんですから…」


「ふふ…そうでした、気を付けますね。」


皆まで言わなくとも察してくれたみたいだ。

わかってくれている、そんな実感のする会話だったと思う。


先輩が自分のバッグを開けて、中から大きめのタオルを取り出した。


「何かに使う可能性もあるかと考えて持ってきたのですが、正解でした。」


そのタオルを手に持ち、少し折り畳んでからくるくると丸めて、ある程度の厚さを作ると俺に渡してきた


「枕代わりにお使い下さい。本当でしたら膝枕をして差し上げたいのですが、今から打ち合わせがありますので…さぁ、横になってお休み下さいね。」


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ドアが開いたままである以上、声だけではあるがやり取りは聞こえてくる。

聞き耳を立てていると言えば聞こえは悪いが、気になってしまうのは仕方がないだろう。


「膝枕って言った…言ったよな…」

「しっかりしろ、どうせ俺達に可能性なんかなかっただろう、なかったんだよ」

「薩川さんが嫁になったらあんな風に優しくしてくれるのかな…羨ましい…羨ましい…」


「…ねぇねぇ、あの二人もうデキてるのかな?恋人かな?」

「いや〜、あれはまだ恋人未満だね」

「薩川さん、普段と違いすぎて別人みたい…」


興味津々の者もいれば、ショックをうけている者もいる…

まぁ普段の薩川さんを知っていれば、高梨くんへの対応は明らかに違うからね。

薩川さんが彼をどう思っているのかなんて、あれではすぐにわかるだろう。


しかし、本人達は友人のつもりだと言うのだからな…


まぁ、あそこまで親密になっている以上、何か切っ掛け一つで意識してしまえば簡単だろう。


それよりも、ちょうどいい機会だ。

高梨くんにはぜひ生徒会に入って貰いたいからね…

私は先日、夏海に電話で相談をしたことを思い出していた


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「はぁ?高梨くんを生徒会に?」

「ああ、彼にはぜひ手伝って貰いたい。」


先日のあれを見たときから考えていたことだ。


「…大地、あんた何企んでるの?、高梨くんは私の友達だからね?」

「もちろんわかっている。俺が夏海の友人に妙な真似をする訳ないだろう…まだ死にたくないからな。」

「私よりも沙羅よ。もし高梨くんを変なことに巻き込んだら…何をするかわからないわよ? 今のあの子は、高梨くんに何かあれば本気で容赦しないからね? 多分、私でも止められないわ」

「ーー肝に命じておこう……」


そこまで言われると多少怖さを感じるが、薩川さんは普段が普段だけに、高梨くんのことで怒ればどうなるのか想像がつかないのも事実だ。


「それを聞いた上で、何を企んでるの?」

「別に企んでる訳ではない。先日、彼と一緒にいるときの薩川さんを見たんだが、素直すぎるというか、あんなに優しくて接しやすそうな彼女を初めて見たんだよ。」

「そりゃ沙羅は高梨くんのこと好きなんだから当然でしょ。まぁ私も高梨くんとのことを見て知ったけど、沙羅はああいう一面を持ってたみたいなのよね。その分、その他大勢との差が凄いんだけど。」

「ああ。そこで思ったのだが、高梨くんに生徒会へ入ってもらって、薩川さんの補助をして貰いたいんだ。」

「……あんたまさか、高梨くんを緩衝材にするつもり?」


補助の一言だけで、的確に私の狙いを指摘してくる夏海。

相変わらずの鋭さだ


「さすがは夏海だな。高梨くんを通せば他の生徒会メンバーも薩川さんに依頼や確認をしやすいだろうし、彼が一緒にいることで薩川さんの機嫌の向上や気掛かりも減らせるのではないだろうか。彼女が何かを気にしているときは高梨くんのことだろうし、そうであれば一緒にいることで解決するだろう。」


建前を多くしたが、本音としてはやはり緩衝材だ。

薩川さんは、本人の厳しさに加えて、夏海から少し聞いているが他人への壁もあるせいで、人当たりが決して良くはない。

寧ろキツいので、ある程度は馴れた生徒会メンバーですら、いまだに萎縮することも多い。そこに彼を挟めば…


「う〜ん…高梨くんを利用して沙羅を上手く動かそうとしている…と考えると私は嫌なんだけど、でも沙羅は喜ぶわよねぇ…あの子は好き好んで副会長をやってる訳じゃないんだろうし…」

「どうだろうか?」


この感じでは、夏海本人の了承は得られそうだ。


「高梨くんに直接聞いて。本人がいいって言えば私も文句は言わない。でも、沙羅の逆鱗に触れたくなければ余計なことはしないように。」


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取りあえず打ち合わせをしながら、機会を伺うか…

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