第51話 お見舞い

ピンポーン


「はい…」


正直出たくないが、家にいるのに出ないのもな…


ガチャ


ドアを開けると、妙なオーラを纏った笑顔で沙羅先輩が立っていた…


え!?なんでここに!?


「高梨さん、体調の方は如何でしょうか?詳しいお話の前に、申し訳ございませんがまずはお部屋に失礼させて頂いて宜しいですか?」


「は?いや、大丈夫ですけど…」

「では失礼致します。」


そこまで言うや否や、先輩が部屋に乗り込んできて俺を奥のベッドまで押してくる。


問答無用でベッドに寝かされて布団をかけられると、続けて入ってきた夏海先輩が窓を開けて換気をしていた…

熱のせいで暑かったから、風が入ってきてちょうどいい


沙羅先輩は俺のおでこに手を当てて熱を測っているようだ。

もう片方の手は既に俺の頭を撫でている…落ち着く…


「熱が少々高いようですが…体が辛いなどありませんでしたか?」


「鼻水が少しあるくらいですかね」


「もしこのままでも大丈夫そうでしたら、解熱の薬はやめておきましょうか。その方が早く治るそうなので…」


俺も今の感じなら、薬を飲まなくても大丈夫だと思う。


しかし、まさか家にきてしまうとは…

まぁ無理だろうと思ってました


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「高梨さん、改めまして、突然押し掛けてしまい申し訳ございません。ですが、高梨さんが風邪でお休みとわかった以上、私も見過ごすことはできませんので…」


「高梨くんが沙羅のこと心配して嘘ついたのはわかってるけど、こうなった以上は大人しく看病されないと沙羅が悲しむよ?」


それを言われてしまうと…申し訳ない…


「すみません沙羅先輩…」


「夏海、余計なことを言わないで下さい。今の高梨さんは、風邪を治すことだけを考えていればいいのです。私の話で変な気苦労をかけないで下さい」


「は、はい、すみません」


夏海先輩が台所へ行き、何かし始めた


今日の先輩はかなり真面目モードになってるな

俺のせいで…


「高梨さん…私達のことは構わずに、ゆっくりして下さいね。」


俺の頭を撫でている手はそのままに、手を握ってくれた。


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どうやら沙羅は、高梨くんを寝かしつけ…もとい、寝てもらうつもりのようだ


しかし、まさか沙羅に怒られるとは…


まぁ今回の件は、高梨くんに対して申し訳ないとか色々背負いこんでるから、沙羅も余裕がなかったかな。

迂闊なことを言わない方がいいね。


しかし…うーん…


心配はしてるんだろうけど、嬉しそうに高梨くんの頭を撫でてるし…


これは…この前の膝枕で色々目覚めてしまったかな


ひょっとして、私はお邪魔なのでは…


っと、今のうちに、お粥の準備をしないとね。

作っちゃうと絶対沙羅に怒られるから、準備だけ…


うあ、独り暮らしの男子だねぇ。インスタントばっかりだ…お米はあるね。


ごめん冷蔵庫開けるね…卵はあるから、とりあえずお粥だけならこのまま作れそうかな。


「沙羅、お米研いで準備だけしておくね?」


「ありがとうございます。作るのは」


小声で返してきたということは、高梨君は寝てしまったのかな


「沙羅に任せるよ。私はこれが終わったら学校に戻って部活に顔を出さなきゃならないから。」


「申し訳ございません、お付き合い頂いて…」


「いや、私も心配だったから別にいいんだよ。」


さて、後は沙羅に任せて戻るかな


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頬っぺたにある冷たい感触が気持ちよくて、顔を寄せてしまう。


「ふふ…可愛い…。高梨さん、そろそろ起きることができますか?」


先輩の声が聞こえる…あれ、俺はどうして…


「…沙羅先輩…?」


「体調は如何ですか?」


目を開けると、心配そうにこちらを見ている先輩が見えた


「……少しマシになったような気はします」


「そうですか、お粥を用意しましたが、食べられそうですか?」


「はい、何とか大丈夫そうです。」


「無理はしないで食べられるだけにして下さいね。冷蔵庫にヨーグルトやフルーツが入っていますので、明日の朝食べられそうなら召し上がって下さい。」


俺が寝ている間に、色々してくれていたみたいだ…


「はい、ありがとうございます。すみません何から何まで…」


「いえ。本当はこのままもう暫く様子を見させて頂きたかったのですが、そろそろ帰らないとならないのです。」


時計を見たら…え!?

もう19時回ってる。こんな時間まで、先輩に申し訳ない…


「先輩、ありがとうございました。お陰様で助かりました。俺はもう大丈夫なので。」


本当は送っていきたいんだけど…

そんなこと言ったら怒られるだろうな、体調的にも厳しいし。


「幸い週末ですから。明日の午前中に生徒会の用事が終われば、午後から時間が空きますし、日曜日は一日付きっきりでお世話できますので。何かあればRAINでもいいので連絡を下さいね」


「え、いや、そんな付きっきりなんて…」

「ダメです。今回のことは、あの日私を庇って濡れたことが原因ですから、つまり私には高梨さんの看病をする理由があるのです。理由などなくても看病しますが。」


さすがにそれは…

あ〜でも、この前も注意されたし、素直に受け取ろう。

逆の立場なら、俺だって先輩にしてあげられることを考えて、強引に何かやるだろうし

それに、もし断ろうとしたらまたあの顔をされるだろうし。


「すみません、ありがとうございます。助かります…」


「はい!ではまた明日……あ、そうでした、昨日私に嘘をついた件につきましては、治ったらお説教ですからね。それではお休みなさい、高梨さん」


「…………はい」


先輩のお粥はとっても美味しかった…

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