第124話 バカップルの電話
「こんばんは、一成さん」
「こんばんは、沙羅さん」
もう待ち望んでいたと言っても過言ではないくらいの、沙羅さんからの電話だった。
「ふふ…お出になるのが早かったですね?」
それはそうだろう。
スマホを手に持って、電話がかかってくるのを待っていたのだから。
「いえ、たまたまネットを見ていたので」
まさか初日で寂しくなったなどと、情けないことは言えなかった。
「私は今日一日、一成さんの心配ばかりしていてお母さんに怒られてしまいました。お父さんには、二学期の生徒会で考えていることがあるって嘘をついてしまいましたけど。」
沙羅さんが可愛らしい口調でそんなことを言った。
こんな普通のやり取りとはいえ、声だけでも愛しい。
「そんなに俺のこと考えてくれてたんですか?」
「はい。ところでご飯はどうしましたか? せめてコンビニやスーパーでお弁当を買ってくださいね。インスタントのラーメンはダメですよ?」
「………」
どうしてわかるのだろうか…
言えない…二食ともカップラーメンなんて
「もうっ、インスタントはダメですといつも言っているではありませんか。めっ、ですよ?」
「はい…すみません…」
やはり気付かれるよな。
怒られてしまった…沙羅さんに余計な心配をかけない為にも、せめて明日から弁当にした方がいいだろう。
「…ごめんなさい、そんなお小言を言いたかった訳ではないのです。」
「いえ、俺が悪いですから。」
沙羅さんは悪いことなど何も言っていないのに、何故か俺に謝ってきた。
心なし、トーンダウンもしたような気がする。
「あなたのお側にいれないということが、こんなに不安に思えるなんて…まだ一日だというのに、私はとても寂しいです…」
少し暗い声色で沙羅さんがそう呟いた。
それは勿論俺も同じだった
「……俺は朝目が覚めて、沙羅さんと今日から暫く会えないと思ったら愕然としてしまいました。自分の家なのに、何をしたらいいのか…以前は何をしていたのか思い出せませんでした。この電話に出るのか早かったのも、ネットをしていたなんて嘘です。本当は…沙羅さんから早く電話がかかってこないかなと、スマホをずっと持っていて…」
本当はこんなこと言うつもりではなかったのに…
沙羅さんの言葉に釣られて喋り始めたら止まらなくなってしまい、遂には本音まで言ってしまって後悔した。
男なのに情けないって怒られるかな…
「……一成さん」
「はい…」
怒られるのを覚悟した
「………今、一成さんが目の前にいらっしゃるなら思いきり抱き締めて差し上げたいです。もどかしい…一成さん可愛い…可愛いです」
ある意味沙羅さんらしい反応が返ってきた。
声が揺れているのだが、クネクネしてるのだろうか?
「一成さん…」
「沙羅さん…」
会いたいな…
会えないと思うと余計に会いたいと思うのは人間心理だよな
「あぁもう煩いですね…」
「? え、何ですか?」
突然沙羅さんの口調が変わったので焦った
俺は何かしてしまったのだろうか?
「申し訳ございません、父がうるさ…呼ばれているようです。」
「あ、そうなんですね。あの…声が聞けて嬉しかったです…」
呼ばれているなら、もう電話はここまでかな。名残惜しい…もっと声を聞いていたかったけど。
「一成さん、今日がもう終わりとすれば、あと四日です。私は頑張って耐えますので、一成さんも…」
「はい、俺も頑張ります。沙羅さんの声が聞けて嬉しかったです…」
寂しいのは沙羅さんも同じなんだ。
であれば、男の俺が情けないことを言ってどうする。
笑顔で帰りを待つくらいの甲斐性を見せるべきだろう。
「私も一成さんのお声が聞けて嬉しかったです…本当に嬉しかった…お休みなさい一成さん。ゆっくりお休み下さいね。」
沙羅さんの染々とした声が俺の心に響く。
「はい。沙羅さんも…お休みなさい。」
「一成さん大好き…ちゅ…」
ピー
通話終了…か。
電話越しにキスをしてくれた沙羅さんを想像する。
お休みなさい沙羅さん…俺も大好きです。
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こんな感じでやっと三日…
あと二日、二日で沙羅さんに会える。
たった二日がこんなに待ち遠しいと感じたのは生まれて初めてだった。
俺もそうだが、沙羅さんも寂しさが募っているらしく、今日の電話はなかなか切ることができなかった。
「お休みなさい、沙羅さん」
「お休みなさい、一成さん」
「「 …… 」」
「あの…一成さんから切って下さいませんか?」
「いや、沙羅さんのタイミングで大丈夫ですよ?」
「無理です、私は電話を切れません…本当はずっと一成さんのお声を聞いていたい…」
「それは俺も同じなんです。沙羅さんの声を聞いていたくて、俺では踏ん切りが…」
「一成さん…嬉しい…」
「俺も嬉しいです…沙羅さん」
こんな感じでなかなか切れず、二人同時に通話終了ボタンを押すことにしてやっと踏ん切りがついた。
沙羅さん…会いたいです
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