第127話 不安要素

はぁ…落ち着け…落ち着け俺。

大丈夫だ、あいつはついてきていない。

帰ってしまえばこちらのものだ、地元も学校も違うのだから。


「一成、あのウザい白ギャルは、本当に幼馴染みなのか?」


俺の早足に余裕でついてきながら、速人が聞いてくる。

まぁ運動部と帰宅部の差だろう


「詳しい話は電車に乗ってから話す。」


「わかった。」


それにしても、ウザい…か。

残念だな柚葉、速人は今までお前の近くにいたチャラ男とは感覚が違うからな。


しかしどうする、どこまで説明する?

こうなってしまった以上、速人は今後も柚葉に接触する可能性が高い。

であれば、説明しておかないと後で困ることになり兼ねない。


柚葉はあれで俺が納得したと考えているみたいだったが、俺がその程度に思われてるのか、自分のしたことを理解していないのか…両方の可能性が高いな。


何にせよあいつがアホのままで助かった。


だが、問題はある。

速人が俺の説明を聞いて100%信じてくれるのか…ということだ。

中学のときは、友達として数年は付き合いのあったやつらですら、俺の言うことに耳を貸さなかった。

速人は友達になってまだ二ヶ月くらいだ。

俺はもう親友だと思ってるけど…


駅につくと直ぐに改札を潜り、ホームへ向かう。

案内板を見ると、直ぐに次の電車が来そうだ。

階段を降りているところで電車がホームに入ってきた。

そのまま乗り込むと直ぐに発車だ。

やっと落ち着いた…


「はぁ…すまん速人 」


「いや、何となく訳ありなのはすぐにわかったから。」


まぁあの空気で気付かない方がおかしいよな。


「あいつが幼馴染みというのは本当なんだ。だけど中学のときに色々あって、俺としては絶縁したつもりだ…」


「絶縁とまで言うなら、それなりのことがあったということか。あれは典型的な自己中タイプだろうからな。」


どうやら速人は、あのやりとりや会話で、柚葉が自己中だと見抜いたらしい。

それなら俺の視線にも気付いて欲しかったが…

速人は俺の合図を見たのに結局連絡先を交換したんだよな。

まぁ咄嗟だったし今更仕方ないが…


「…連絡先を教えちゃったんだよな。一応断るように合図したつもりだったんだけど。」


苦言のような言い方になってしまったのだが、速人は逆にニヤリと笑った


「それについては俺にも考えがあったからな。まぁ心配はしないでくれ。そもそもあんなウザい女と遊ぶ気はないから。」


これはどうやら、俺が言おうが言うまいが、柚葉は既に終わっているようだな。


であれば心配することはないのかもしれない。

よかった、柚葉と会って最悪の展開も考えられただけに、問題なく終わりそうだ。


「一成、今度でいいから何があったのか話してくれよ? 今後のことも考えて聞いておきたいし。」


「…そうだな、わかった」


やはり念のためにある程度は話しておいた方がいいだろうな


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駅に着くとちょうど乗りたい電車が入ってきた。

電車に乗り地元の駅につく。

ここまで速人とは、会話らしい会話は殆どなかった。


安心したはずなのに、どうしても柚葉の声が、顔が頭にチラついて…

怒り?  不安? 色々な感情がごちゃ混ぜになったような、不快な気分が抜けきらなかった。


そして気が付けば俺は自分の部屋の前にいた。

いつの間に帰ってきたのか、どうやって帰ってきたのか、速人とはいつわかれたのか、よく覚えていなかった。


玄関を開けて誰もいない家に入る。

今日はいつにも増して、自分の部屋が無機質に感じる。

こんな家だったろうか…もう何もする気が起きない。


着替えもせずに、ベッドに倒れ込むようにして横になる。


…大丈夫だよな。

速人は俺が言うまでもなく柚葉を嫌っている。謝ると言った柚葉の言葉はあまり信用できないから、速人に気を付けさせて、俺のことはスルーしてもらって…あとは俺が速人の応援に直接行かなければ会うこともないだろう…。


そうすれば今までと同じ日常に戻れる。

雄二と速人という親友と楽しく遊んで、沙羅さんと幸せな時間を過ごして、夏海先輩に怒られて…


スマホの画像フォルダを開くと、そこには花壇で踊る俺達の写真がある。

夏海先輩が以前くれた、体育祭のときのものだ。

いつの間にか撮られていたらしく、しっかりとからかわれてしまったが…その後に送ってくれた。


二枚目には、楽しそうな笑顔で俺を見ながら踊っている沙羅さんのアップの写真。

俺のお気に入りだ。


沙羅さんの笑顔見ていると、嫌な気持ちが無くなっていくような感じがして、俺はいつの間にか寝てしまった…


沙羅さん…

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