第113話 速人の「友人」

スパーン!!


「ゲームセット! マッチウォンバイ…」


速人の勝利を告げる審判のコールが響く。


「きゃあああ!!」

「速人くーん!!!」

「は・や・と!! は・や・と!!」


うーん…相変わらず大人気だなぁ。

まぁあの容姿でスポーツまで出来るとなれば当然か。そういや雑誌の読モをやったことあるんだっけ?


コートから出て荷物を持ったあと、控え室に向かい歩きながらラケットを持った手を挙げて、スタンドに向けて勝利したことのアピールをした


「「「きゃあああ!」」」

「今、私と目が合った!!」

「何言ってるのよ、あれは私よ!!」

「寝言は寝て言いなさいよ!」


本当にそうだな…あれは完全に俺に向けたアピールだった(笑)


夏休みともなれば、運動系の部活は試合や大会があったりして忙しくなる。

テニス部だってそれは例外ではなく、今日も大事な試合とのことで、俺も沙羅先輩も応援に来ているのだ。


そして今回は、ついでという訳ではないが、夏海先輩も交えてこの後花火大会の話をすることになっている。


まずは応援ということで、俺は速人を、沙羅先輩は夏海先輩の応援に分かれているのだ。


速人には相変わらずファンクラブがいるんだが(夏海先輩もいるだろうけど)、夏休みのせいなのか以前より人数が増えてないか?


「えっ! 嘘!?」

「なんで、なんで速人くんがこっちに」

「やばいやばいって」

「はぁ…カッコいい…」


何か騒がしいと思ったら、速人がこちらにやって来たらしい。

真っ直ぐこちらに向かってくるようだ。


「速人くーん、試合凄かったよ!」

「ありがとう、今日は調子が良かったんだよ」


「速人くん、今度私たちと」

「ごめんね、さすがに今はテニスが忙しいから」


「ちょっと何言ってんのよあんた」

「テニスの応援に来てるんじゃないなら帰り…」

「あー俺は大丈夫だから。いつも応援ありがとね」


速人は笑顔で応対しているが、あれは裏で面倒臭いと思っている顔だ。

女子の人だかりを突破して、俺のところまでやってきた。


「よう人気者。相変わらずスゲーな」


俺の方から声をかけると、速人は満面の笑みを浮かべて手を上げた

これはハイタッチしろというアピールだろう。照れ臭いというか俺のキャラじゃないんだが…

まぁやらないと手を上げた速人が可哀想か


パン!


ハイタッチの音が響く。

ちょっと恥ずかしい…こういうことを照れずに素でやれるからモテるんだろうなぁ


「ありがとな、一成!」


嬉しそうに笑いながら俺にお礼を言ってくる速人。

男友達優先は相変わらずだ…見た目も相変わらずチャラそうなんだけどな


「最近やっとルールが少しわかったよ。それに見てて楽しいと思えるようになった。」


「それは良かった! 興味が湧いたならいつでも入部してくれ。一緒に楽しもう」


俺の言葉が嬉しかったのか、速人が少し興奮した様子を見せた。

いや、いくらなんでも無理だから


「いや、それは遠慮しておくよ。運動部なんて無理だし」


「楽しいと思うけどな。それに一成がテニス始めたら夏海先輩も喜びそうだし、薩川先輩なんか専属マネージャーやるとか言い出しそうじゃないか?」


…確かに、沙羅先輩なら喜んでやってくれそうな気がする。

いやいや、沙羅先輩の負担を増やすだけだし、それ以前に無理だから


「いや、それでも止めておくよ。それに速人がやっているのを見ていた方が楽しいからさ」


「そう言って貰えるのは素直に嬉しいけどな。よし、なら次の試合も一成に楽しんで貰えるように頑張るさ!」


こういうことを素直に言えるんだから、こいつは本当にいいやつなんだよな。

でも俺に気を使って夏海先輩にアピールが減るのは本末転倒すぎる。

この前の穴埋めもあるし、今回の花火大会で何かフォローできるといいんだが


「それじゃ、俺は控え室に戻るよ。」


「あいよ、次の試合も期待してるからな」


「任せとけ!」


そう言って拳を前に出してボーズをとる

イケメンは何をやっても絵になるな…周りのファンが必死で写真撮ってるけど


控え室に戻る速人が見えなくなるまで後ろ姿を眺めてから、一旦沙羅先輩と合流しようと荷物をまとめたところで不意に声をかけられた


「…あの、横川くんのお友達なんですか?」

「すっごい仲良さそうでしたよね!」


先程までの様子を見ていたであろうから、違いますとは言えないよな…


「あー、まぁ友達だけど…」


「やっぱりそうなんだ! 私達とお話ししましょうよ!」


「え? いや、俺は今から…」


魂胆が見え見えすぎて嫌悪感が湧くというか、俺はこういう人が嫌いなんだけどな


「あ、右手を怪我してるんですね? それなら私が荷物を持ってあげます!」


そう言って座席に置いてある俺の荷物を持とうと手を伸ばしてくる。


「ちょ、勝手に…」


それを止めようと俺も右手を伸ばし始めたところで、別方向から伸びた手が俺の荷物を素早く取ってしまう。


「あ…」


しまったと思い荷物を拾い上げた人物を見ると…いつの間に来ていたのか、それは笑顔の沙羅先輩だった。


「もう…右手は使ってはいけませんと、いつも言っているではありませんか。」


少しだけ俺を注意するような口調でそう言いながら、荷物をしっかりと両手に持ち替えた。


「荷物は私がお持ちします。さあ一成さん、お昼ご飯に参りましょうね」


そのまま俺の真横に寄り添うよう近付くと、笑顔で俺にそう促した。


「え、ちょっとその人は私達と」

「煩いですよ。まだそこにいたのですか?」


沙羅先輩の口調が一気に変わった。

表情も、俺の大好きな可愛い笑顔が消えてしまい、無表情の鋭い目付きに変わる


「そんな卑しい媚びを売ってまで男に近付きたいと? ならその辺の遊び人でも相手にしていなさい。お似合いですよ」


沙羅先輩が久々の毒舌モードに入ってしまったようだ。

男狙いで媚びを売る女が嫌いだって言ってたからなぁ


「話したいことがあるなら本人に直接言いなさい。そしてこちらには二度と近寄らないように。」


沙羅先輩の迫力に押されて、あの二人は完全に萎縮しているようだ。一言も口をきけていない。


「一成さん、行きましょう」


表情と口調を戻した沙羅先輩が、突然俺の腕を取り、絡ませるようにして俺を引っ張る。


「さ、沙羅先輩、引っ張らなくても一緒に行きますから。」


沙羅先輩がこんな風に俺を引っ張るようなことをした記憶がない。

珍しいなと思い沙羅先輩の顔を見ると…見事に膨れていた


「あ…あの、沙羅先輩?」


「あの人達が迷惑なら迷惑と、はっきり言わないから流されそうになってしまうんですよ。あんなに接近されて…」


えーと…これは怒っているというか、むくれていますか?


「あの…沙羅先輩、ひょっとして」


「知りません……一成さんのばか」


どうやら俺がはっきり断れないまま、なし崩し的にされそうだったことにお冠らしい。


可愛い…と言ったら怒られるんだろうが、やっぱり可愛いと思ってしまうのだから仕方ない。

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