第134話 二学期開始
「おはようございます」
「おはようございます、夏海」
夏海先輩が先にコンビニで待っていたので、俺と沙羅さんが遅れて合流という形になった。
「…………」
夏海さんが無言でポケーっとこちらを眺めている
「夏海、どうかしましたか?」
沙羅さんが不思議そうに話しかけると、夏海先輩が視線を沙羅さん→俺と動かし、何かを考えた素振りを挟んでから話始めた。
「あのさ、沙羅が待ち合わせ場所にいなかったから、もうコンビニに居るかと思ってとりあえずここに来たのよ。そしたら…あんた今どっちから来た?」
「? 一成さんのお家から来ましたが?」
どっちと聞かれたのに、沙羅さんはあっさりと俺の家だと言い切った。
夏海先輩は当然あきれたようで
「高梨くんを迎えに行くなら行くって連絡くらい寄越しなさいよ。」
「そうでした、昨日の夜は色々あったので、夏海に連絡をすることまで気が回りませんでした…すみません。」
まぁ確かに、昨日の夜はいきなり泊まりになったからな。
俺の話も長かっただろうし。
「はぁ…いいわ。あんたが高梨くん最優先なのはいつものことだから。それじゃ行きましょうか」
昨日の夜の話に言及されなくて助かった…
こうして三人で登校する風景も、久しぶりな気がする。
変わったのは、俺と沙羅さんが恋人になった点だけど。
「あー、夏休み終わっちゃったよ…」
「そうですね。二学期は色々あるので、生徒会も忙しいです。」
二学期の予定だと…大きいのは学祭かな。
あとは何だろう
「えーと、学祭と、球技大会と…そうよ修学旅行があるのよね!」
そうか、二年生は修学旅行があるのか。
…え!?
つまりまた何日か会えない…
「あの…修学旅行って何日くらい行くんですか?」
「確か一週間だっけ?」
一週間…更に二日も…いや、いい加減にしろ俺!
何となくそんな情けないことを考えてまった自分に活を入れる
「? 何かあるの?」
夏海先輩が不思議そうに反応した。
そうだろうな、楽しみな自分達の修学旅行の日程を聞いて微妙な反応をされるなど、意味がわからないだろうし。
「そうでした、私も忘れていましたが一週間も……夏海、私は修学旅行をキャンセルするので、私の分まで楽しんできて下さいね。」
沙羅さんがこちらを見たと思えば、俺の腕に手を添えていきなりそんなことを言い出した。
「は? なんでそうなるのよ!」
「私は一成さんを残して一週間も離れるなどできません」
いやいや、いくらなんでも修学旅行なんて大事なものを休ませるなんてダメだぞ。
「沙羅さん、修学旅行は大事なものですから、ちゃんと参加して下さいね」
頃合いを見て説得する必要があるだろう。
沙羅さんは恐らく本気で言っている。
一瞬でも情けないことを考えた自分を叱りたい…
「一成さん…一週間という期間、あなたに会えないなんて私は…」
「俺だって同じ気持ちですけど、修学旅行は必ず行って下さい。もし俺のせいで行かなかったなんてなれば、俺は自分が許せなくなります。」
「一成さん…私の為に…」
「沙羅さんこそ、本当は俺の為に…」
沙羅さんが少し感動したように俺を見つめてくる
俺も見つめ返し、距離が少し縮むと…
「おい、新学期早々そのコントはいつまで続けるつもりだ?」
絵に描いたような普段の光景だった・・・
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学校に着いて教室に入る。
あぁ…
色々あった夏休みが終わって、とうとう二学期が始まるんだな。
でも夏休みの宿題に困らなかったのがこんなに気分的に楽だとは…
沙羅さんに感謝だ。
「おはー」
「おはよう高梨くん!」
「おはよう〜」
夏海先輩や速人のファンクラブじゃなくても挨拶を返してくれる。
昨日あの話をしただけに、この光景が改めてありがたく思えた。
そういえば、いつもの三人組の声が聞こえない…と思ったら、どうやら山川が宿題をやっているようだ。
うーん、沙羅さんがいなかったなら俺も同じだったかもしれない…
川村と田中が協力してるみたいだな。
「おはよう」
「おっす高梨。久しぶり」
「おはよう。その様子だと山川みたいにはなってないな。」
山川はもう挨拶を返す余裕などないと言わんばかりに必死だ。
「間に合うのか?」
「無理だな。まぁそれがわかっていても…ってところか。」
「そうか…頑張ってくれ」
そうとしか言えないからな。
そして無情にもチャイムが鳴り、朝のHRが始まるのだった。
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眠たい始業式が終わり、さすがに初日だから大したことはない。
「速人、例の話だけど、今日は生徒会があるから明日にでもどうかな?」
「そうだな…今日は二学期最初の部活だから遅れる訳にもいかないし、俺も明日の方が助かるかな。」
休み時間に速人がやってきたので、例の話をすることを伝えた。
どうやら速人的にも明日の方が良さそうだ。
なら明日、全ての話をしよう。
「わかった。じゃあ明日の放課後に」
「あぁ。それじゃまた明日」
柚葉が動く前に話をしておけば、もしあいつが速人に余計な動きを見せても先に潰せるだろう。あとは警戒するように伝えて、適当にやり過ごせば…
いや、そもそも取り越し苦労の可能性もあるからな…
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今日は半日で終わりだ。
久しぶりに花壇でお弁当を食べて、水やりをしてから生徒会室に向かう。
夏休み中は先生達がやってくれていたのだが、雑草とか手入れが甘い…
放課後の生徒会は、新学期最初の挨拶と、行事の確認がメインだった。
「学祭もそうだが、私の生徒会長の任期も終わるので、会長選があるんだよ。」
そうか…
会長は三年だから、二学期で引き継ぎになるのか。
ということは、誰かが会長に…って沙羅さんしかいないか。
「薩川さんが出てくれれば選挙などやる必要も…」
「私は会長職に興味などありませんよ。そんなことをする時間があるなら、一成さんのお世話を致しますので。」
「「「「「……………」」」」」
あー…どうしよう。
俺はこの場をどう収めればいいのか…
「…名前で呼んでる」
「…夏休みに何かあったね」
「…やっぱそうなのか? 恋人になったとか言うのか?」
「…嘘だ…薩川さんが…薩川さんが」
「…というか、高梨くんのお世話って何するの?」
「ま、まぁこれはまだ時間があるから、今決める必要はないだろう。」
どうやらこの反応だと、夏海先輩から聞いてないみたいだな。
会長の焦ったリアクションは珍しい。
とりあえず一通りの行事確認で今日は終わりだった。
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