第11話 すれ違い
金曜日…
今日を乗り切れば休みという一日なのに、気の重くなる事件がおきた。
事の発端は、午後の授業で使う資料を教室まで運ぶように教師から指示されたことだ。
日直だった俺を含め、俺の席に近い面子で3人が指定された
この時点で含むところがあったのだろう。
「お前のせいだ」と俺からすれば理不尽なことを言いたそうな目をしていた。
昼休みを少しでも潰されたくない俺は、トロトロと資料を運ぶこいつらに業を煮やし
「昼休みが減るから早くしようぜ」
と言ってやった。
孤立している俺からすれば、別にどう思われようと知ったことではない。
だが、もともとこの作業が俺のとばっちりだと考えていたこいつらが、それを言われたことで頭にきたらしい。
突然後ろから追突され、資料を全部廊下に撒いてしまった。
頭にきた俺が振り返ると、そいつは俺の胸ぐらを掴み
「調子にのってんなよクソが」
と、吐いて捨てた
俺はそれを振り払い、にらみ合いになった。
「…何をやっているのですか?」
先輩がいた
いつも俺と一緒にいた先輩ではなく、厳しい、冷たい視線でこちらを見ていた。
いつからいたのだろうか?今来たばかりだろうか?
「頑張って運んでたのに、こいつがわざと立ち止まって邪魔されました〜」
「その癖、早くしろって嫌がらせ言われました〜」
まるで呼吸をするように、矢継ぎ早に作り話を展開したこいつらに俺は反応が遅れた
「本当なのですか?」
俺は…ショックを受けた。
あいつらの話を聞いた先輩は、迷うことなく俺を問い詰めてきた。
しかもこのキツい視線、俺を既に疑っていて問い詰めるかのような態度…
先輩は、俺がそんなことをする人間ではないとわかってくれていると思っていた。
普段接していて、少なくとも先輩に悪く思われてはいないと思っていた。
花壇のこと…お婆さんのこと…俺は皆が知らないであろう優しい先輩を知っている。
先輩も他の連中と違い、俺をちゃんと見てくれている…
…と勝手に思っていただけなのか。
だが、今俺が見ている先輩は、今までのことなど何でもないというように…その他大勢を見ているときと同じように…俺に冷たい視線を向けていた。
やっぱり、俺をしっかりと見てくれる人なんていないんだな…
不貞腐れたと言われれば子供みたいだが、正直誰にどう思われようと、どうでもよく思えた。
「すみませんでした。お騒がせしました。俺が悪かったです」
俺はしゃがみこみ、落とした資料を拾いその場を後にした。
「あ…」
先輩が何か呟いたような気がしたが、俺はそのまま教室に向かった。
あいつらに笑われているような気がしたが、それも全てどうでもよかった
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バサバサ
何かが廊下に散らばる音がしました。
気になった私は階段を昇ると、踊り場で睨みあっている男子生徒が三人いるようです。
私はすぐに高梨さんを視認しましたが、状況がわからなかったので、まずは問いかけることにしました。
「何をやっているのですか?」
へらへらしている男子生徒二人に嫌悪感を感じ、つい睨むような視線を送ってしまいました。
「頑張って運んでたのに、こいつがわざと立ち止まって邪魔されました〜」
「その癖、早くしろって嫌がらせ言われました〜」
すぐに二人が理由を言ってきましたが、私は信用していません。
そもそも、私は高梨さんがそんなことをする人だと思っていませんので、これは作り話だと半ば断定していました。
ですが、その現場を見ていない以上それを言う訳にはいかないのです。
他の生徒もこちらを見ているし、明確な証拠もなくそれを否定するのはおかしいですから。
そして…生徒会副会長として、私は全生徒に対し公平でなければいけないのです。
嘘かどうかはともかく、先にそう聞いてしまった以上、私は高梨さんに問いかけるしかありませんでした。
気は進みませんでしたが、高梨さんにも他の男子生徒と同じような態度で接することにします。
「本当なのですか?」
私は高梨さんにこんな態度をとった自分が嫌に思えました。
でも、高梨さんはすぐに違うと言ってくれると思っていました。
それを聞ければ、詳しい話を聞いた上で何か打開策が思い付くかも…と考えたのです。
でも……そして……高梨さんの表情が…私に衝撃を与えました。
今まで、あのように悲しそうな表情をした高梨さんを見たことがありませんでした…
そして何かを諦めたよな表情になると…足早に行ってしまいました。
「巻き込まれていい迷惑ですよ〜」
軽薄な彼らの話しなど、どうでもいい
「早く戻りなさい」
それだけ言うと私は足早に花壇に向かいます。
高梨さんが居てくれることに期待しましたが、やはり高梨さんはいませんでした。
そして…
放課後も様子を見に行きましたが、やはり高梨さんはこなかったのです…
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