第10話 過去の断片

「あ〜お兄ちゃんだ!!」


登校中の俺に突然子供が走ってきた

一瞬誰かと思ったら、以前商店街で迷子になっていた子…未央ちゃんだ。


「お兄ちゃん、おはよ〜」

「うん、未央ちゃん、おはよう」


人懐っこそうな笑顔が可愛い

まだ保育所通いの女の子だ。


俺の足下まで寄ってきて、ニコニコとこちらを見上げながら両手を上げた

抱っこを要求されているのはすぐわかったので、そのまま抱き上げる


未央ちゃんとは、こうしてたまに登校中に会うことがある

こうやって毎回抱っこをするのが定着してしまった


そのタイミングで、この子のお母さんがやってきた


「おはようございます高梨さん。いつもすみません、未央が…」

「いえ、大丈夫ですよ」


未央ちゃん見ていると、どこか昔のあいつを思い出すようだった


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この子と初めて会ったのは商店街で、定期の買い物(ド○キでカップラーメンの箱買い)の帰り道だった。


キョロキョロしながら目の前に女の子が近寄ってきていた。

もちろん避けたが、女の子も同じ方向に避けた為に結局はぶつかってしまった。


少しよろけただけで倒れたりした訳ではないが、女の子は大きく泣き出してまった。


「ママぁぁ!!どこ〜〜!!」


予想はしていたが、やはり迷子だったようだ。

目の前ということもあり、さすがにこのまま素通りなどできる訳もなく、俺は声をかけることにした。


「こんにちは。お母さんがいないの?」


なるべく優しく声をかけたが、泣き止む気配はなかった


何かいいものはないかと咄嗟に買い物袋を見ると、ペットボトルのお茶に付録でついていた、蓋に取り付ける猫のマスコットが目に入った


俺はそれを指につけて、目の前に見せると猫キャラで話をすることにした。

昔、泣いたあいつをぬいぐるみであやすということが多かったせいで、こういうことは慣れていたりする


「にゃんにゃん、お母さんがいないの?」

「…うん」


上手くいったと思った俺はそのまま会話を続け、お母さんとはぐれた店を聞き出し、子供を連れて向かうことにした。


俺に手を引かれて歩く姿に、かつてのあいつの姿を重ねていた


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「ひっく…ひっく…かずちゃん」

「あー、もう泣くなよ」


泣きながら俺に手を引かれて歩くこいつは「笹川柚葉」。

幼馴染みだった


家が隣同士だったこともあり、小さい頃はよく一緒に遊んでいた。


俺と遊んでいるときはいつも嬉しそうにニコニコしていたが、泣き虫だったこともあり、同い年なのにこいつをあやすことも日常茶飯事だった。


小学校に上がっても、柚葉は引っ込み思案のままだった。

同性の友達ができず、いつも俺と一緒だったので、必然的に俺もあまり友達ができなかった。だから、俺の小さい頃の思い出はこいつとのことばかりだった。

あとは、俺が知らないところで虐められたこともあったようだ


俺は別に迷惑だとか感じていた訳でもなく、むしろ目が離せないこいつがいつも気がかりだった。


俺が見ていないと柚葉が一人になってしまう…


他人からみれば何様だと思われるような考えだったが、そんなことまで考えていた俺は、心配でなるべく柚葉と関わるようにしていた。


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中学生になって柚葉に女友達ができた。


この年になると、お互い異性と一緒にいることを揶揄されることも多く、俺も柚葉もからかわれるのが嫌で距離をとるようにしていた矢先だった。


友達が更に増えた柚葉は、今まで同性の友人がいなかった反動もあったのか、友達と目に見えて積極的に関わるようになった。


…逆に俺とは殆ど関わることがなくなった。

柚葉が楽しんでいるならそれでいいと本心で思っていたが…少し寂しさを感じている自分もいた


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中学三年になった。

俺にも友達がいたが、三年では別のクラスになってしまった。

今のクラスメイトとはそこまで仲がいいとは言えないと思う


そして柚葉は…

友人関係に夢中になるあまり仲間の影響を受けていた。

髪型が変わり、色が変わり、言葉使いが変わり、スカートも短くし、今どきの…と言えば聞こえがいいが、気がつけば正直俺の好きではないタイプの女子になっていた。


あまりの変わりように心配になって俺が話しかけると


「はぁ? 何でアンタにそんなこと言われんの?」


という反応が癇に触り喧嘩になりかけたこともある


それでも、長い間ずっとこいつを心配してきた気持ちもあり、関係をなくす気は俺にはなかった


あの日がくるまでは…


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「お兄ちゃん行ってきま~す」


未央ちゃんは満足したのか、俺の抱っこから降りて幼稚園に向かった


「いってらっしゃい!」


俺は笑顔で見送った

未央ちゃんは途中で振り返り、大きく手を振ってからお母さんと手を繋いだ


さて、俺も学校に行くか


俺は学校に向かい、いつもの道を歩き出した


そんな俺をずっと見ていた人がいたことに気付かないまま…

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