第9話 好きなものは…

翌日

今日も教室からさっさと避難した俺は、いつも通り花壇に向かう。


もう授業以外の時間はクラスに居たくない。

俺の学校生活は、花壇という決められた空間での出来事が全てになっていた。


花壇に着くと、珍しく先輩がベンチに座っていた。


「こんにちは、高梨さん」

「こんにちは、先輩」


よく見ると、先輩はお弁当を拡げているところのようだ。


…昼食を持ってきているのを初めて見た


先輩は昼食をここで食べたことがない。

恐らく食べてからここに来ているか、早めに戻るときは後で食べているのだろう。


「今日は私もここで食事をして宜しいでしょうか?」


「え、はい、俺は全然大丈夫ですよ!」


「ありがとうございます」


あまりじろじろ見るのも失礼なので、俺もベンチの隅に座りコンビニおにぎりの包装を剥き始めた。


「すみません、少々お願いがあるですが…」


「はい、俺でできることなら」


準備ができたので食べ始めようかというところで、先輩から声がかかった。

断る理由などないので返事をすると、先輩はベンチに置いてあった自分の弁当箱を俺の方に少し近づけてきた。


「試しに作ってみたのですけど、宜しければ高梨さんの感想を聞かせて頂きたいのです。もしお嫌でなければ、少し召し上がって頂けないでしょうか?」


「え…いいんですか? 正直、ちゃんとした感想を言える自信がないですが。」


嬉しいというか、寧ろこちらからお願いしたいような内容だった。

正直ラッキーだと思う。


「はい。難しくお考えにならなくて大丈夫です。お口に合ったかどうかだけでも構いませんので」


「それなら…頂きます」


あまりがっついて印象を悪くしたくないと思ったこともあるが、感想が言えなくなっても困るので、なるべく味わうように少しずつ食べてみた。


一通り口にしてみた感想は… 正直美味しいという感想以外出てこない。

別にお世辞で考えている訳ではない。

美味しいとしか言えない自分の表現力の無さが恨めしい。


結局、それも含めて全て正直に伝えてみた。


「そうですか、安心しました。どうやら大丈夫のようですね。お手数おかけしました。」


先輩の表情は相変わらずだが、どこか安心したような雰囲気を感じる。


というかお礼を言いたいのはこちらな訳で、まさか先輩の手作りが食べられるとは…


「こちらこそありがとうございました。本当に美味しかったです」


「そう言って頂けて嬉しいです」


先輩は空になったお弁当箱を丁寧に片付け初めた。

それをバッグに戻したところで、不意に問いかけてきた。


「ところで、高梨さんが一番お好きなおかずは何でしょうか?」


「一番ですか?」


「はい、何となく気になりましたので」


今食べた弁当の中から選ぶことも一瞬考えたが、素直に伝えることにしよう。

俺の好きなものは、昔から決まっているのだ。


「ハンバーグです…子供っぽいですが」


「いえ、好きな食べ物に大人も子供もないと思いますよ」


正直笑われるかもと思ったが、先輩は普通に返してくれた。

本当にそう思ってくれているようだ。


「そう言ってもらえると助かります」


「いえ…それでは時間が足りなくなってしまわないように、水やりを始めましょうか。」


そう言うと先輩は立ち上がり、さっそくホースの準備を始めた。


「ですね」


俺も散水パーツを用意してから、目立つ雑草をピックアップして抜いていく。


先輩のお弁当が食べられるなんて、今日はラッキーだったな


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なるほど、ハンバーグでしたか…


先程までの一連の流れは昨日考えたのですが…思っていた以上にすんなり成功してしまいました。

なるべく自然になるように気を付けたのが、功を奏したようです。


今回は、高梨さんの味の好みを知る意味で深く考えずに作ったお弁当だったのですが、ハンバーグを入れなかったのは後のお楽しみの意味で正解でした。


そして、美味しいと言ってもらえたのは素直に嬉しかったです。


あとは…いつにするかだけですね。


その前にハンバーグの練習をしなければなりませんね。

もちろん普通に作れますが、どうせなら美味しいと言って貰えるような物を作りたいので。

練習時間も考慮して、来週の月曜日を仮の予定日としましょう。


まさか私が男性にお弁当を作る日がくるなんて…


お弁当を食べていたときの一成を思い出すと、悪い気がしない沙羅だった。

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