第8話 side 沙羅
私は高梨さんを見送ったときのことを思い出していた…
いつの間にか手を振っていた自分に少しだけ驚きました。
今までそんなことをしたのは…少なくとも男子にした覚えはないです。
あのとき…高梨さんがこちらを振り向いたとき、上手く説明できない不思議な気持ちがありました。
そして、気付いたら手を振っていたのです。
「高梨さんは沙羅ちゃんから見てどんな人なの?」
お祖母ちゃんが興味深そうに尋ねました。
まぁ、私が同年代の男性と普通に話をしている姿なんて、お祖母ちゃんは見たことないでしょうから。
実際、私は高梨さんは他の男子とは違うと思っています。
友人と一緒にいるときと同じで、余計なことを考えずに接することができていると思います。
きっと嫌悪感を覚えない初めての異性であるということが、何となく不思議な感じに思えているのでしょう。
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私は昔から男子が苦手でした。
幼稚園の頃は覚えていませんが、小学生のときにはよく虐められた記憶があります。
それも一人や二人ではありませんでした。
クラスメイトに限らず、他のクラスからやって来て、わざわざ私をからかう男子もいました。
酷いときは、物を隠されたりして困らされたこともあります。
男子と話をしただけで、あいつと仲がいい、あいつが好きなんだろうと騒がれました。
そして中学になっても男子は大して変わらない様子です。
頭の中身は子供のまま成長しないのでしょうか?
ゲームやアニメの話ばかりしているのはまだしも、聞いてもいないのにそれを自慢気に話をしてくる男子もいました。
そしてそれを聞かされているだけなのに、いつの間にか付き合っているだなんだと…
中には、それを言われて俺の女に声をかけるな等と調子に乗った寝言を言う男子もいました。
面倒臭くなり、相手をするのは時間の無駄だと思えた私は、空気も読めない幼稚な男子にはハッキリと言うしかないと思いました。
「話しかけないで、目障りです。俺の女とは誰のことですか? 頭がおかしくて妄想と現実の区別がつかないのですか?」
私のことを自分の女と言っていた男子の驚いた表情は今でも記憶に残っています。
これ以降、男子からの印象は悪くなったと思います…どうでもいいですが。
逆に女子からは、クラス問わず色々と話しかけられるようになりました。
男子の幼稚さ、うざったさに嫌気がさしていたという女子達が、格好良かった、スッキリしたと言ってくれました。
でも口では迷惑してたと言いつつ、結局そんな男子と仲良くなろうと、近付こうとしている姿は嫌らしく見えて…所詮はそんなものでしょうね。
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私は自分のスタンスを崩すつもりはありません。
でも自分のこの態度は、敵を増やすだけということも理解はしています。
誰にも文句を言われない為には…
私は自分で言うのもなんですが、勉強が苦手ではありません。
家事や家庭的な作業も嫌いではありません。
どうせ時間もあるのですから、やれることは全て頑張り、自分を高めることに決めたのです。
「あいつなら仕方ない」と思わせる為に、誰にも文句を言わせないくらい…
高校に入っても勿論スタンスは変えません。
男子は色々違いが大きくなっているようですが…
見るだけで頭の悪そうな茶髪の軽薄男…程度の低さを露呈させ、不快さを感じる言葉使いで場所も弁えず大騒ぎしています。
私のことを何も知らないくせに、この軽薄なノリで突然付き合おうなどと言ってくる者も現れます。
それどころか普通そうに見える男子でも、見ず知らずの私に好きだと告白してくる人が増えてきました。
知り合いですらないのに、突然好きだと言われても意味がわからないですね。私の何を知っていて、どこが好きだと言うのでしょうか?
そんな男子が増え、辟易していた私はますます態度が硬化したと自分でもわかっています。
私は自分の目的もあり、生徒会からの勧誘を二つ返事で了承しました。
望んだ訳ではありませんが、気が付けば副会長となり、特に生徒からの要望で必要と思ったことはなるべく叶えられるように動きました…もちろん打算です。
生徒会への要望を、難しくない範囲に絞りつつ上手く叶えてしまえば、自分を周りに認めさせる役に立つだろうと考えました。
勉強も頑張りました。
体育も家庭科も、筆記以外の分野の成績も悪くないと思います。
気がつけば、先輩も、同級生も、後輩も、私を凄いと言ってくれるようになっていました。
普通にやっていたつもりでしたが、感謝してもらえることは普通に嬉しかったです。
でも打算だったこともあり、嬉しさを素直に表すのは難しかったですが。
私を手伝ってくれる人も増えていきました。
特にクラスメイトの夏海は、ボーイッシュな見た目通りの活発な子で、人当たりの悪い私に対してもいつもグイグイと押してくるような子でした。
だから気がつけば、普通に話せるようになっていたのです。
今ではとても大切な親友だと思っています。
生徒会では、みんな私をちゃんと受け入れてくれていると思います。
私は副会長として、いつも通りに指示を飛ばします。
ときには…いえ、いつもですね…厳しいことを言っています。
そのせいなのでしょう、何かハッキリとした理由がない限り私に近づく人はあまりいません。
そんな折に、高梨さんと出会いました。
彼は今まで私の周りにいなかったタイプの男子に思えました。
どこが…と言われまると困るのですが、学校で接する度に少しずつ気になっていったのです。
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家に帰り、何となく今日のことを考えていました。
…そうだ、お礼を…
とは言うものの、どうすればいいか悩みますね。
「手軽なもので」と約束もしてしまいましたから。
そもそも男子に贈り物をしたことなんて全く無いのです。
お菓子ではピンとこない…必要かもわからない小物を渡しても…
何かヒントになることがないか、花壇に居るいつもの高梨さんを思い出してみましょう。
まずは花壇に来て最初にご飯を食べて…
高梨さんはいつもおにぎりだけしか食べていないことに気付きました。
お弁当…おにぎりと被るといけませんからおかずだけでも…
高梨さんの好きなおかずがわかれば…
あっさりと思い付いてしまいましたね。
明日会えたらそれとなく伺ってみましょう。
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