第361話 お披露目

「うん、こんなものかな?」


「ありがとうございます、政臣さん」


 鏡に映った自分を眺め、何となく、ぐるりと一回転。

 鮮やかな紺色に、白のラインが入った控え目なデザイン。落ち着いた雰囲気が実にしっくりくる、正に俺好みって感じの浴衣だ。


 まぁ…似合っているかどうかは別の話だけど。


「案外、捨てずに取っておくものだね。それにしても…はは」


「政臣さん?」


 上から下まで俺の姿を何度も見返し、政臣さんは楽しげな笑い声を漏らす。


「いや…自分の着ていた浴衣を、まさか息子が着てくれる日が訪れるなんてね。何と言うか、感慨深いなと思っただけだよ」


「…そうですか。でも、本当にありがとうございます」


 こうして浴衣を用意してくれたことも。

 俺のことを息子だと言ってくれたことも。

 両方の意味で…だ。


「どういたしまして。あとは…何か忘れ物はないかい? 真由美がそこの巾着に、色々と入れていたみたいだけど」


「えっと…」


 ポツンとテーブルの上に置かれているのは、茶色に唐草模様と、実に如何にもな柄の巾着袋。中を覗いてみると、そこに入っていたのはハンカチにティッシュ、携帯用の櫛と…こっちはウェットティッシュか? あとはポチ袋だ。


 …ポチ袋?


「あの、政臣さん、これ…」


「せっかくお祭りに行くんだから、元手があるに越したことはないだろう? 沙羅には渡していないから、今日は君に任せたよ」


「…分かりました。ありがとうございます」


 咄嗟に遠慮の声が出かかったけど、ここは素直に受け取っておく。

 何よりも、俺のことを息子だと言ってくれた政臣さんに、そんな他人行儀を言いたくないと思ったから。


「ふふ…それでいいんだよ。心置きなく楽しんでおいで」


「はい!」


 俺の返事に大きく頷き、満足そうな笑みを浮かべる政臣さん。

 本当に、俺は…


「政臣さん、一成くんの準備は終わったかしら?」


 コンコンというノックの音と共に、ドアの向こうから聞こえてきたのは、ホンワカ癒やし系のおっとりボイス。

 あちらはあちらで準備をしていたので、どうやらそれが終わったみたいだな。


「あぁ、こっちはもう大丈夫だよ」


 ガチャ…


 政臣さんの返事に一息空けて、リビングのドアがゆっくりと開く。

 パタパタと軽快なスリッパ音を響かせて、中に入ってきた真由美さんは…俺の姿を見るなり、ぱぁっと、花が咲いたような笑顔を見せて。


「あらあら!! 良く似合ってるわよ、一成くん!! 和服姿も良いわねぇ…」


「あ、ありがとうございます」


「んふふぅ…そんな格好で可愛いお顔をされちゃうと、お義母さんキュンキュンきちゃう♪」


「えっ!?」


「真由美、そのくらいにしておきなさい」


「はぁい。それじゃ、こっちもお披露目しちゃいましょうか。沙羅ちゃん!」


「はい」


 真由美さんから名前を呼ばれ、リビングに姿を現した…いや、降臨したのは…


 正に絶世と言う他はない、あまりの神々しさに、後光すら差しているようにも見える、俺にとって最愛の…


 俺だけの…女神様。


「ふふ…お待たせ致しまし…っ!?」


 今日が初お披露目でもある沙羅さんの浴衣は、俺とお揃いの紺色地に、猫柄が散りばめられた珍しいデザイン。帯にも大きく猫のシルエットが描かれ、そこに然りげ無く飾られた俺のお手製ブローチが、一つのアクセントを演出している。いかにも猫好きな沙羅さんらしい、実に可愛らしく素敵な浴衣だ。

 そして美しく長い黒髪も、今日は和装に合わせて大きくアップに巻かれ、そこに華やかな簪と、見覚えある…俺があの日プレゼントした、水色と白の花飾りが、文字通り花を添えていて…


「んふふ…一成くんったら、鼻の下が伸びてるわよ?」


「……」


「あら、聞こえていないのかしら?」


「真由美」


「はぁい」


 別に聞こえていない訳ではないが、ぶっちゃけ今はそれどころじゃない。

 今、目の前にいる沙羅さんが、あまりにも綺麗すぎて…美しすぎて…とにかく目が離せないんだよ。


「ふふ…良かったわねぇ、沙羅ちゃん?」


「……」


「…沙羅ちゃん?」


 大和撫子を地で行く沙羅さんは、本当の本当に和服がよく似合う。しかも普段の大人っぽさや、凛とした佇まいが、和服という装いで一層映えると言うか…とにかく、これに見惚れるなと言う方が無理だ。

 初めて沙羅さんの浴衣姿を見た、夏祭り日も衝撃だったが…ドキドキしすぎて直視出来なかった上に、告白を考えて緊張していた部分もあったので。


「沙羅さん…」


 沙羅さんという"光"に引き寄せられ、俺は半ば無意識に、一歩、また一歩と歩を進める。すると、同じくこちらを見つめていた沙羅さんの瞳が…あれ?


 何だか、様子がおかしいような?


「………」


「さ、沙羅さん、どうしました?」


 俺の呼びかけにも全く反応を見せず、沙羅さんは、ただポーっと立ち尽くすようにこちらを見つめる。

 それはまるで、心ここにあらずと言った様子で…


「一成さん…」


「は、はい?」


「よく、お似合いですよ。本当に…すてき…」


「うぇっ!? い、いや、それを言うなら沙羅さんの方で…」


「あ、あらあら…これはひょっとしなくても、沙羅ちゃんの方がメロメロになっちゃったパターンかしら?」


「えっ!?」


 真由美さんの言っている言葉の意味が良く分からないんだが…沙羅さんがメロメロ?


 誰に?


 …俺?


「も、申し訳ございません。その…一成さんのお姿があまりにも凛々しくて…思わず…」


 頬を赤らめ、うっとりと…少し恥ずかしがる様子も覗かせつつ、そんな嬉しいことを言ってくれる沙羅さん。

 でもそれは、寧ろ俺の台詞と言いますか…


 今日の沙羅さんはいつも以上に大人っぽくて、しかも髪型がアップになっているから、普段は見えない白く透き通るようなうなじが覗き、そこはかとない色気を…

 しかもそんな表情まで見せられたら、俺は…俺はぁぁぁ!?


「うふふ…沙羅ちゃんがこんな風になっちゃうなんて、珍しいものを見ましたね」


「そ、そうだな。ところで沙羅…その、ちょっと距離が近いんじゃないか?」


「もぅ、政臣さん。そういう野暮ったいことを言わないの!」


「い、いや、だが…」


「一成さん…本当に、素敵…です」


 どこか熱を帯びた視線で俺を見つめ、沙羅さんは、実にストレートな感想を伝えてくれる。

 これはお世辞でも何でもなく、本心でそう思っているんだと…そんな沙羅さんの気持ちが伝わってくるようで…だから俺も、自分のことを喜ぶより、もっともっと沙羅さんを褒めたい。

 だって今の沙羅さんは、本当に…


「沙羅さんの方こそ、本当に綺麗で…素敵で、眩しくて、そんな表現じゃ全然足りないくらい、とにかく凄いんです。それを上手く言えない自分がもどかしくて仕方ないですけど…でも、俺は本当に…」


 こういうときに、自分の語彙力の無さがとことん嫌になる。

 今の沙羅さんに伝えたい気持ちは…感想は、そんな簡単な言葉で済むようなものじゃないと分かっているのに、何でもっと上手い言葉が出てこないのか。


 でも…

 そんな俺のチープな褒め言葉にも、沙羅さんはとても嬉しそうに、幸せそうに…


「…嬉しい。あなたがそう言って下さるだけで、私は本当に幸せなんですよ? 私はあなたさえ…あなただけに…」


「沙羅さん…」


 沙羅さんの赤らんだ頬が、潤みを帯びた瞳が、俺の目を捉えて離さない。

 今すぐ思い切り抱きしめて、その唇にキスをしたい、そんな欲求に駆られてしまう程に…きっと沙羅さんも、そう思っているんじゃないかって。


 だとすれば、俺は…


「一成さん…」


 不意に距離を縮め、俺の右腕にそっと手を添えた沙羅さんが…

 何かを訴えるように、真っ直ぐ俺の顔を見て…その瞳が、ゆっくりと閉じ…


「ゴホン!!」


「っ!?」


 せっかく良い雰囲気の中、突然、大きな咳払いをかましたのは…もちろん政臣さんだ。

 慌てて様子を伺うと、あからさまな作り笑いを浮かべ、若干引き攣ったような…


 と言いますか…

 またやってしまいましたね、はい。

 

「あーもう、政臣さんったら。良いところで邪魔をして」


「あ、あれのどこが、良いところなんだ!? 二人はまだ高校生なんだから、もう少し節度というものをだな…」


「このくらい普通でしょう? 全く…いい加減、子離れをして下さい」


「なぁっ!? そ、それを言うならお前だって、いい加減、一成くんに余計なちょっかいを出すのをだな!!」


「確かにその通りですね」


「ひ、酷いわ、二人とも!!」


 何だかよく分からないけど、話が妙な方向に飛び火し始めたような?

 しかもこの流れは、凄まじく嫌な予感しかしな…


「しくしく…一成くんは、そんなこと言わないですよね? お義母さんとのコミュニケーションは、余計なことなんかじゃないですよね?」


「ええぇっ!?」


 なんてことを考えてたら、予感どころか直球でボールが飛んできたぞ!?

 しかも真由美さんのアレは、嘘泣きといえ、俺が弱いことを完全に分かっていてやっているからタチが悪い!!


「くすん…一成くんは、お義母さんと…」


「いい加減にしなさい。これ以上、一成さんのお優しい心に付け込むのであれば、私も容赦しませんよ?」


「ひぇっ!?」


 突如、沙羅さんの声音に、聞いてるこちらまで寒気を感じる程の強烈な冷気が宿る。口調も厳しさに溢れ、これはもう「冗談でした」で済むようなレベルじゃ…


「も、もぅ、沙羅ちゃんたら。冗談だから落ち着いて」


「冗談だろうと何であろうと、一成さんを困らせた時点で万死に値します」


「さ、沙羅ちゃんの目が座ってる…」


 顔を見なくても俺には分かる。沙羅さんのあれは、間違いなく本気だ…


 普段はとてもお淑やかで、包容力に溢れ(俺限定)、どこまでも優しい(俺限定)沙羅さんだけど、俺への悪意や迷惑行為に対しては一切容赦しない。

 それも沙羅さんの、明確な一面だから。


「真由美」


「はぁい…わかりました。ごめんなさいね、一成くん」


「い、いや、俺は別に」


 これは真由美さんにとって軽いお茶目であり、悪気も悪意もないことくらい十分に承知してる。だからそもそも、迷惑だなんて思っていないんだけど。


「沙羅さん、俺なら大丈夫ですから、そろそろ真由美さんを許してあげて下さい」


「一成さんが、そう仰るのであれば」


「んふふ…だから一成くん、大す…」


「は?」


「ナ、ナンデモナイデス…」


 今の沙羅さんの前では、如何な真由美さんといえども蛇に睨まれた蛙、鷹の前のキジ。逆らうなんて、絶対に出来ないだろうな。


「はは…真由美の負けだな」


「はぁ…一成くんのことになると、沙羅ちゃんはホント冗談が通じなくなっちゃうんだもん」


「他は許せても、一成さんのことだけは一切妥協出来ませんね」


「ま、まぁまぁ、沙羅さん。そのくらいで…」


「ふふ…畏まりました。他ならぬ一成さんのお言葉に免じて、今日はこのくらいにしておきましょう。では時間も勿体無いので、そろそろ参りましょうか?」


「そうですね!」


 約束している集合時間まで、まだ少し余裕はあるが…きっと皆も早めに来るだろうから、今から向かえばちょうどいいくらいか?


「それじゃ、政臣さん、真由美さん、行ってきます」


「うん、行ってらっしゃい。沙羅のこと、宜しく頼むよ?」


「ゆっくり楽しんできてね!」


「はい!」


「行ってきます」


 玄関まで見送ってくれた二人に手を振り、沙羅さんと二人で玄関を出る。

 今日のお祭りは本当に楽しみだけど…西川さんから聞いた、去年の惨状のことがるからな。それを忘れずに、心して向かうことにしよう。


…………


………


……


 薩川家を出た俺達は、先ず最初の目的地でもある、花崎家のマンションへ向かう。

 まだ夜と言うには早い時間だが、秋の夜長と呼ばれる今時期、外は既に薄暗くなっており…女の子の独り歩きなど、以っての外。

 それを想定して、迎えに行くことを念押ししておいた訳だが…正解だったな、これは。

 

「暗くなる時間が、ますます早くなって参りましたね」


「ですね。気温もかなり涼しくなってきたし…沙羅さん、もし寒くなったら…」


「ふふ…そのときは、一成さんと腕を組ませて頂きますね♪」


「…え、えと、了解です」


 そういうつもりで聞いた訳じゃないんだけど…まぁいいや。

 でも冗談めかしているとはいえ、沙羅さんがこういう軽口を言うのは珍しいかも。


「あら、あれは…」


「待たせちゃったかな…」


 マンションのエントランス前に、薄明かりに照らされた人影が三つ。

 一人は遠目でも分かる、華やかな…かなり特徴的な衣装に身を包んだ花子さんと…つまり、残りの二人は。


「お待たせ、花子さん。それと…お久し振りです、忠夫さん。佳代さんも、こんばんは」


「大丈夫、待ってない」


「こんばんは、高梨さん。いつも莉子がお世話になっております」


 ふわりと優しい笑顔を浮かべ、俺達に丁寧なお辞儀を返してくれる佳代さん。相変わらず、真由美さんとは違う意味で歳を感じさせない、驚きの若さ。


「いやぁ、高梨さん、ご無沙汰してます。この度は、娘のお迎えまでして頂いて…」


「い、いえ、近所ですし…それに、もう暗いですから。女の子の独り歩きは流石に…」


 忠夫さんは忠夫さんで、相変わらず腰が低いというか…高圧的にされても困るけど、どうにも接し難いんだよな。


「そ、それで、その…」


 そんな忠夫さんが、こちらに伺うような視線を向けたのは…当然、俺の横に居る沙羅さんが気になっているからだろう。

 佳代さんとは既に面識があっても、忠夫さんとは初対面だから当然だけど。


「紹介しますね。沙羅さん…」


「はい」


 俺が名前を呼ぶと、沙羅さんは一歩前に出て、惚れ惚れする程の丁寧なお辞儀を見せる。堂に入るとは、正にこのことだと言わんばかり。


「初めまして、薩川沙羅と申します」


「こ、これはどうもご丁寧に!! 初めまして、莉子の父、忠夫と申します。薩川専務とは、直接の面識はございませんが…」


「いえ、父は父、私は私ですから。どうぞ普通になさって下さい」


「は、はい…」


 見るからに腰が引けている忠夫さんに対し、沙羅さんの態度は実に堂々としたもの。それはある種、風格のようなものすら感じてしまう程で。


「莉子さんとは、掛け替えのない友人として、親しくお付き合いをさせて頂いております。一成さん共々、どうぞ宜しくお願い致します」


「こ、こちらこそ、不束な娘ではありますが、今後ともどうぞ宜しくお願い致します!!」


 ペコペコと何度も頭を下げ、見ていて可哀想になってしまうくらい、忠夫さんの腰が低い。でもあの姿は、以前、ウチの親父が出先で会社の人と遭遇したときの、ひたすら低姿勢モードを思い出しちゃうような気も…


「ちょっと情けないけど、お父さんの立場では仕方ない」


「花子さん、それは言わないであげて…」


「分かった。それよりも一成…」


 ワクワクとした様子を隠そうともせず、期待の籠もった視線をこちらに寄越す花子さん。たまにチラチラと自分の姿を眺め、それが何のアピールなのか、実に分かり易い。

 まぁ…例えそれがなくても、最初から伝えるつもりだったけど。


「よ、よく似合ってるよ、花子さん。その…か、可愛い」


 相変わらず、俺の下手糞すぎる褒め言葉はさて置き…

 独特のファッションセンスを持つ花子さんは、やはり浴衣姿も独特感に溢れた装い。


 黒地に鮮やかな白の縁取り、太い袖とスカートっぽい形状が特徴的な、これは所謂、ゴスロリ仕様(?)と呼べるような浴衣。巻かれているピンクの帯も、黒のあみあみが施され、そこに、あのブローチが華を添えている。

 でも特徴的な見た目のワリに、どこかシックで落ち着いた雰囲気を纏っており…これは言うなれば「可愛いらしさの中に、少しの大人っぽさを秘めた」と表現できる、正に花子さん向けといったところだろう。

 ちなみにツインテールの方も、根本に左右非対称の花飾りがあしらわれ、途中にリボンが結ばれた二段階の豪華仕様だ。


 もう本当に…可愛いという言葉しか思い浮かばないくらい、これは可愛すぎるぞ。


「その浴衣も、大人っぽい可愛らしさって言うか…花子さんのイメージにピッタリだから…その、良く似合ってる」


 我ながら、もうガッカリしてしまう程の語彙力の無さ。

 別にナンパな台詞を言いたい訳じゃないけど、せめてもう少しくらい、気の利いた台詞を言うことが出来ないものか…


「…嬉しい」


「…花子さん?」


 でも…

 そんな俺の不格好すぎる褒め言葉にも、花子さんは、あの日の笑顔に勝るとも劣らない、満開の笑みを浮かべて…


「上手い言い方なんて必要ない。一成が本心で、私のことを可愛いって言ってくれたのが分かるから…」


「そ、そっか…うん、俺は花子さんのこと、本当に可愛いって思ってるよ。それにその浴衣も、凄く良く似合ってるから」


 場の雰囲気に背中を押して貰い、何とか素直に、感想を伝えることは出来た…はず。例え言葉がチープだとしても、せめて気持ちだけでも伝わってくれれば…


「か、一成…その…あの…」


「良かったわね、莉子。高梨さんに可愛いって言って貰えて」


「…う、うん」


「ふふ…この子がこんなに恥ずかしがるなんて、私達も見るのは初めてなんですよ? でも仕方ないわね…莉子はこの浴衣を買った日から、ずっと高梨さんに見て欲しいって…」


「お、お母さん、一成に余計なことを言わないで」


 薄明かりでもハッキリと分かるくらい、花子さんは真っ赤に頬を染め、目が合うと、恥ずかしそうに俯いてしまう。

 そんな、いつもと違う初々しいリアクションに、俺もちょっと…戸惑うと言いますか…


「一成に褒めて貰えただけで、思い切った甲斐がある」


「そ、そっか。でも本当に良く似合ってるからさ」


「うん…ありがとう、嬉しい。それと…その、一成も格好いい…よ?」


「へ?」


 ポツリとそう呟き、花子さんは、またしても恥ずかしそうに俯いてしまう。

 格好いいって…俺が?

 いやいや…俺だよ?


「これはお世辞じゃない。いつも一成は可愛いけど、今日は大人っぽくて…凛々しくて…その、格好いい。だから、皆はともかく、他の女に見せたくない」


「それは完全に同意ですね。私も出来れば、今の一成さんは、私だけ…」


「それはズルい。姉である私にも、弟を愛でる権利がある」


「それを言うのであれば、婚約者であり将来の妻である私にこそ、最大にして絶対の独占権があると思いますが?」


「あの、二人とも、さっきから何の話を…」


 謎の権利を主張し合う二人に対し、一応のツッコミを入れておく。

 ちなみに、もし独占権が存在するのであれば、「沙羅さんは俺、俺は沙羅さん」が、正しい形だと思うぞ?


「ふふ…嬉しいですね」


「あぁ。気になることが、あるにはあるが…」


「今は、それは忘れましょう?」


「…そうだな」


 二人の意味深な会話が何を指しているのか、何となく分からないでもない…が。

 でもそれは、俺が口を出すべきことではないから。


「二人とも、そろそろ…」


「はい。参りましょうか」


「うん。お父さん、お母さん、行ってくる」


「行ってらっしゃい。高梨さん、ご面倒をお掛けしますが、莉子のことも宜しくお願いしますね」


「はい!」


「ゆっくり楽しんで来なさい。気をつけてな」


「分かった」


「行ってきます」


 忠夫さん達に手を振り、今度は三人で駅前を目指す。


 いつも以上に華やかで、綺麗で、可愛いらしい二人を見ていると…一層の男避けが必要になることを予感せずにはいられない。

 俺の最優先は、あくまでも沙羅さんのガードだけど…これはますます気合を入れる必要があるだろうな…頑張れよ、俺。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 全員集合前に一話消費するとは想定外でした(^^;

 こういうシーンは、本当に自分の描写力の無さが目立ちます。

 このペースでは、二話で収まりきらずに三話構成になりそうですね…なるべく間が空かないように頑張りたいです。


 という訳で、一日早いですが、私がこの物語の執筆を始めてから丸二年が経ちました。本当にただの思い付きで執筆を始め、ロクに設定も展開も内容も考えていないまま始まった本作も、まさか告白を越えて、婚約まで行くとは思いもしませんでしたが…執筆当初の自分が聞いたら驚くでしょうね(^^;

 それもこれも、こんなに沢山の読者様にお読み頂けているからこそであり、感謝の言葉しかありません! サポーターになって下さった方も、本当にありがとうございます!!

 何度も読み返して下さっているというお声も頂きますが、そこまで愛読頂いて嬉しい限りです。


 スランプがあり、ペースも落ちてしまい、思うように書けず悩みながら続けていますが、それでも一歩ずつ、書いていこうと思います。

 コンテストの方も、機会があれば申し込んでいきます。


 それでは、これからも宜しくお願い致します!!


 つがん


 P.S. 後書きの続きはノートにて

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