第387話 クリスマスパーティー(序章)
「おにぃちゃ〜〜〜〜ん…どーん!!」
「うおっと!? はは、未央ちゃん、いらっしゃい!!」
超小型の誘導式ミサイル宜しく、俺の腹部に鋭く突き刺さった未央ちゃんをひょいと持ち上げ、先ずは挨拶代わりの高い高いで軽めのスキンシップ。
きゃーきゃーと楽しそうな悲鳴をあげる未央ちゃんの可愛さに癒やされていると、神社の石段に二つの人影が現れ、キョロキョロと何かを探すような動きを見せながら…
「あぁぁぁぁぁ、やっぱりぃぃぃぃ!!」
「みおちゃん、ずるいよぉぉ!!」
こちらを見るなり開口一番、未央ちゃんを非難するような…ついでに俺ごと非難するような視線と声を向けてくる二人の小さな女の子。
いやいや、流石にそれはどうかと思いますよ?
「ずるくないもんっ!! おにぃちゃんはみおのおにぃちゃんだから、だっこもみおだけなんだよ!!」
「むぅぅぅ」
「ぅぅぅ…」
未央ちゃんの反論に頬を膨らませ、更に恨めしそうな視線を未央ちゃん…よりも寧ろ、俺に向けてくる女の子二人。しかも当の未央ちゃんは、ベタベタ甘えモードな子猫ちゃんのように頬っぺたスリスリをしてくるので…はぁ、可愛い…じゃなくて!!
「はは、相変わらずモテモテだね、一成?」
「だな。羨ましい限りだぞ」
「こうも激しく女の子から奪い合いされるなんて、高梨くんもスミに置けないねぇ…沙羅にチクっちゃおっかな」
「あのですね…」
こちらの様子を後ろから眺めていた夏海先輩達が、嬉々として俺をからかうような声を掛けてくるので…いやいや、そんな余裕があるなら、せめて向こうの二人を応対してあげて下さいよ。特にそこで笑ってる男二人!!
「あぁもう、すみません高梨さん、未央がいつもいつも」
「ごめんなさいねぇ、副会長さん。ほら桜、離れなさい」
「有紀ちゃん、お兄さんを離してあげましょうね?」
子供達より少し遅れて登場(到着)したお母さん達が、こちらを状況を確認するなり慌てたように駆け寄ってきて、俺の足に絶賛しがみついている桜ちゃんと有紀ちゃんを引き剥がしにかかり…でも未央ちゃんだけは、和美さんの手から逃れるように俺の身体へぴったりと密着して、今度は子猫じゃなくコアラモード。うーん…ちょっと冷えてきた時間帯なので温かい。
と言うことで今更ながら、今日の参加者は主賓である未央ちゃんを筆頭に、そのお友達である桜ちゃんと有紀ちゃん、そして三人のお母さんがそれぞれという、俺達の人数と合わせれば結構な大所帯になるクリスマスパーティーが開催される運びになった訳だ。
これは未央ちゃんが、俺達とのパーティーを幼稚園で自慢した結果、特に仲のいい桜ちゃんと有紀ちゃんがどうしても参加したいと言い出したそうで、先日未央ちゃんから直接お願いされてこの状況に至るという経緯があり…
「あの…今更こんなことを言うのも何ですけど、本当に私達まで参加してしまって宜しいんでしょうか?」
「そうよね。もしあれならせめて子供達だけでも参加させて貰って、私達はまた後で迎えに来るというのも…」
「いや、大丈夫ですよ。それに見ず知らずの人間ばかりの中に子供達だけだと、特に二人が不安になっちゃうかもしれませんし…」
未央ちゃんはともかく、桜ちゃんも有紀ちゃんも人見知りをする感じには見えなかったとはいえ、流石にこれだけの人数が揃っている中に放り込まれたら緊張するだろうという結論の元、お母さん達にも参加を打診したので。
「本当にすみません、そこまで気を使って頂いて…」
「いえいえ、どうぞお気になさらず!」
とは言え、お母さん達が恐縮しきりになっているのは見れば分かるから…なるべく明るく、全く問題ありませんよ的に言っておく。
まぁそれで「それじゃ遠慮なく」とはいかないだろうけど。
「おにぃちゃんやさしい〜」
「そうね。ようちえんのだんしにみならってほしいわ」
「えへへ〜、みおのおにぃちゃんはせかいいちだもん!」
果たして意味が分かっているのかいないのか、桜ちゃんと有紀ちゃんの褒め言葉に未央ちゃんが可愛らしいドヤ顔で返し…それが終わると、またしても俺の顔にほっぺたスリスリを開始。
うーん、今日の未央ちゃんは超ご機嫌甘えんぼモード全開だな。
「…あれぇ? ねぇおにぃちゃん、あのしろいのって…ゆき?」
不意に何かに気付いたのか、俺に抱き着いたままの未央ちゃんが、肩越しに向こう側…集会所の方に向かって、不思議そうな声を漏らす。
それに合わせて桜ちゃん達も、未央ちゃんと同じ方向に目を向け…
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ゆきだぁぁぁ!!」
「うわぁぁ…ゆきだるまさんもあるぅぅぅぅ!!」
桜ちゃん達が大興奮で走り出し、それを見た未央ちゃんが俺に何かを訴えるような視線を向けてくるので…
「ほら、未央ちゃんも行っといで」
「うん!! ゆきゆきゆきぃぃぃ!!」
先に走り出した二人の後を追いかけるように、バタバタと少し危なっかしい足取りで駆け出し始める未央ちゃん。途中で転ばないか少しヒヤヒヤしたものの、何とか無事に合流出来たようで何より。
「高梨さん、あの雪は一体…」
「人工雪です。特別に用意して貰いました」
「じ、人工雪って…」
「えぇぇ…そ、そんな簡単に…」
「あはは…まぁ普通は驚きますよね」
スキー場や観光施設ならまだしも、こんな個人的な場所で人工雪を用意するなんて、ちょっと考えればどれだけ特異的なことなのか直ぐに分かるだろうし…驚くのも無理はないよな。
「あ、あんなに大きなクリスマスツリーまで…」
「あの、いきなりこんな話をするのも何ですけど…その、費用の方は」
「私達としても、ここまでして頂いて単にありがとうございますという訳にはいかないと言いますか…」
やはり大人視点としてはその点が気になったらしく、申し訳なさに若干の不安さを滲ませ、お母さん達がそう聞いてくるので…
「えっと、本当に大丈夫ですから気にしないで下さい。でも、どうしても気になるなら…」
「今回のスポンサーが中に居るんで、良かったら本人に直接お礼を伝えてあげて下さい! 後で紹介しますから」
俺のフォロー的に入ってくれた夏海先輩の話で、顔を見合わせたお母さん達がコクリと頷いてくれる。
短いながらも、実に安心感のある説明口調だったと俺も思うので…流石は夏海先輩。でも褒めると調子に乗るから褒めないけど。
「おにぃちゃぁぁぁん、ままぁぁぁ!! こっちこっち、はやくぅぅ!!」
「ままもこっちきてぇぇぇ!!」
「まま、まま、おっきぃくりすますつりー!!」
「ほら未央、雪の上で走ったら危ないでしょ!」
「はいはい、今行くわよ!」
「有紀ちゃん、大声出さないの!」
子供達のはしゃぎまくりな呼び声に、意識を切り替えてくれたお母さん達も嬉しそうな笑顔を溢し…
「おにぃちゃん達もはやくぅぅ!!」
「はいよ!! …んじゃ俺達も」
「うん。行こうか」
「そうだな。せめてデートの穴埋めくらいには楽しまないと…」
「雄二、余計なことを言うな!!」
先ずはパーティーの手始め、軽めの雪祭りでも開催するとしましょうかね。
…………………
「さ、それじゃ先ずは未央ちゃんからどうぞ」
少しだけ童心に返った雪遊びを早めに切り上げ、俺は本日のパーティー会場である集会所の扉前でそう切り出す。それは勿論、この先に待っている演出…集会所の中には、今この場に居ない沙羅さん達が配置に着き、未央ちゃん達の入場を待ち構えているからであり…
「お、おじゃましましゅぅ」
何かしら感じるものがあるのか、若干の緊張感を滲ませた未央ちゃんが、手を繋いだ桜ちゃんと有紀ちゃんを引き連れて扉を潜り…本当は建物内の灯りを消しておくという演出も候補に上がっていたが、未央ちゃん達が怖がってしまう可能性を考えて無しに。
「わぁぁぁぁ、かわいいぃ!!」
「すごいすごい、となかいさんいっぱい!!」
「あ、らてぃーちゃんがいるぅ!!」
集会所の玄関を彩るクリスマス飾りの数々や、サンタクロースの格好をした某有名キャラクターが乗るトナカイのソリのオブジェに出迎えられ、ここでも大はしゃぎを始める未央ちゃん達。
こうして実際に喜んでくれている姿を見ると、苦労して準備した甲斐があったというもので…
「せーの」
「「メリー・クリスマーーーーーーーーース!!」」
パン!!
パパン!!
パパパパン!!
そこにお約束の掛け声と共に鳴り響いたのは、パーティーの定番でありお供でもある、ご存知、パーティークラッカーによる合唱。そして室内の物陰に待機していた沙羅さん達が一斉に姿を現し…最初こそ一様に驚いた顔を見せていた未央ちゃん達も、それがクラッカーであり、鳴らした人物達が姿を現せば、直ぐにまた満面の笑顔に変わり…
「さらおねぇちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!」
そこに沙羅さんの姿を見つけた未央ちゃんが、喜びを露わに小型ミサイル突撃を敢行!! …したものの、沙羅さんはその衝撃を上手く逃がし、ふわりと実に軽いタッチで未央ちゃんを優しく抱き止める。
流石は沙羅さん…子供の扱いが上手いぞ。
「いらっしゃい、未央ちゃん」
「うんっ!! いらっしゃいましたぁ…すりすりぃ」
「ふふ…擽ったいですよ、未央ちゃん」
「えへへ、さらおねぇちゃぁん」
先程の俺に対する甘え方然り、やはり沙羅さんへの甘え方も普段より二割…三割くらいは増量中に見える未央ちゃん。まぁそれだけ喜んでくれているのだろうし、甘えられている沙羅さんも実に嬉しそうなので…それを見ている俺の方まで嬉しくなってしまうのは仕方ないこと。
「おにぃちゃん、こっち!!」
「はいよ」
未央ちゃんにちょいちょいと手招きされ、俺はそのまま沙羅さんの傍…ちょうど未央ちゃんの手が届くくらいの位置に寄ると、にこにこ顔の未央ちゃんが手を伸ばしてくるので…これは手を握ればいいのか?
「おにぃちゃんとおねぇちゃんといっしょ!!」
「はは、そうだね」
「ふふ…嬉しそうですね、未央ちゃん?」
「うんっ! えへへ…」
俺と沙羅さんの顔を交互に見つめ、未央ちゃんは太陽のように眩しい、屈託ない笑みを浮かべる。本当に…可愛いなんてもんじゃないぞ、これ。
「…うーわ。やっぱ完全に子持ちの若夫婦ですよね、アレって」
「…ふふ、実に微笑ましくていいではありませんか」
「…お、えりりん余裕だねぇ」
「…うふふ、これは本格的に、ひ孫の顔を見るのが楽しみだわ♪」
「…また気の早い話を」
「…あはは」
「うー…いいなぁ、みおちゃん」
「うん。おにぃちゃんとおねぇちゃん…」
「…っと」
俺達のやり取りをじっと見ていた桜ちゃんと有紀ちゃんが、寂しそうに表情を曇らせていて…どうしようか、未央ちゃんは沙羅さんが抱っこしてるし、今なら俺が…
「未央ちゃん?」
「うんっ」
俺が未央ちゃんの名前を呼ぶと、その意味を理解してくれたのかたまたまなのか、繋いでいた手をそっと離してくれたので…これは許可を貰えたと解釈していいんだろう、多分。
「桜ちゃん、有紀ちゃん?」
俺が手招きしながら名前を呼ぶと、一瞬、二人はきょとんとした表情を浮かべ…でも俺が両手をそれぞれに差し出すと、ぱぁっと表情を輝かせ、きゅっと(桜ちゃんは半分しがみついてるけど)手を握ってくる。
取り敢えずこれで、機嫌を直して貰えれば何とか…
「…こ、子供が三人に増えました!?」
「…洋子、そういう言い方は」
「…ホント、一成は面白いところでモテるね」
「…だな。俺もあいつがこういうモテ方をする男だとは全く思わなかったぞ」
「…うふふ、沙羅ちゃんも将来安心ね♪」
「…それは一体、どういう…」
「えへ、おにぃちゃん♪」
「おにぃちゃん、このままさくらのおにぃちゃんになるのはどうかしら?」
「それはだめぇぇぇぇ!!」
「ぷーん、みおちゃんのけち!!」
「は、はは」
「ふふ…大変ですね、一成さん♪」
そんな子供達の微笑ましい(?)やり取りに、沙羅さんは心から楽しそうな笑顔を浮かべ…だから俺も、そんな沙羅さんの笑顔に心から嬉しく思えてしまい…
「さぁ一成さん、未央ちゃん達を」
「ですね。それじゃ皆、行くよ?」
「「はぁぁい!!」」
三人の元気な返事を合図に…さぁ、パーティー会場へご招待だ!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
という訳で前回の続きです。
今回は思ったよりスラスラと書けた部分が多くて、あまり悩まずに済んだ分、早めに書き終わりました。この先も少し書けているのですが、キリのいい部分がここだったので今回はここまでです。
さて今週末からGWということで、次回の更新は自分の仕事が大忙しになる都合上・・・と思っていたんですが、まさかこうも雨予報続きだとショックで逆に寝込んでしまいそうです。今週土日雨で平日の月火晴れて、本番の5日間が殆ど雨って・・・完璧に嫌がらせされてるとしか思えません。せっかく色々準備してきたのにorz
取りあえずいつも通り、合間を見ながらポチポチと書いていくつもりなので、更新はのんびりとお待ち下さい。調子が良ければ今回のように一気に書きあがることもありますがw
それではまた次回~
P.S. 前回に引き続き、今回の愛され作家にもランクインしてました。沢山の方に応援して頂き本当に感謝の気持ちでいっぱいです! どういう形になろうとも、最後まで書ききれるように頑張りますので、これからも宜しくお願いいたします。
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