第88話 今までと同じ?

「そうか、おめでとうと言っておくよ」


夜になり、雄二に電話連絡をした。

こういうことは直接声で話をしたいから。


「沙羅先輩がちゃんとわかってくれるように頑張るよ。」


「とは言っても実質的に恋人になっているようなものだろう。はっきり言わせてもらうが、今までの状態でも既に恋人のようなものだったと俺は思うし。」


そうなのだろうか?

俺は確かに沙羅先輩のことを好きだったが、先輩がそう思っていなかったのだからかなり違うと思っていたのだが。


「多分だけど、今まで通りでもいいと思うぞ。既に条件が揃ってるからその内色々気付くと思うし。」


「そうなのか?」


そんなに前提条件が揃っていたのだろうか?

俺も先輩に任せて流されていた部分があるからな。


でも雄二はよくわかってるんだな。

今まで電話で話をしただけで、沙羅先輩を紹介したこともないのに…


「今度紹介させてくれ。」


「おう、楽しみにしておくよ。」


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「どうしよっか? おめでとうって言った方がいい?」


どうなのでしょうか。

高梨さんの気持ちはお伺い致しましたが、私はしっかりとお答えできていないと思いますし。

家に帰ってきて少し落ち着いて色々考えてみましたが、例えば明日から何か変えるのかと聞かれても、取りあえずは同じようにしますとしか言えないのではないでしょうか。

そう考えますと難しい気がしますね。


「夏海、一つ聞きたいのですが…」


「ん? 何々、さっそく恋バナ?」


恋バナ…これはそういう話になるのでしょうか?

わからないことが多くて困りますね…


「私は今、早く明日になって高梨さんに会いたいと思っているのですが、では今までそう思ったことはなかったのかと聞かれますと、今までもそう思っていたのです。」


「うん、それで?」


「高梨さんにお弁当を作って差し上げて、美味しいと言って頂ければ嬉しいです。喜んで頂けることをして差し上げたいです。」


「うんうん」


「ですがそれも今まで思っていたことなのです。せっかく恋をすると決めたのに、こうして考えてみると高梨さんにして差し上げたいことが今までと変わらないような…」


「………」


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あーそうかぁ…


要は本人が自覚していなかっただけで、今まで沙羅が感じていた気持ちも実際にやっていたことも、既に恋人レベルだったんだよね。

だから、例えば今日二人が恋人になったのだと仮定しても、基本的にやることが変わらない訳だ。

逆に言えば、今まで通りにしていても恋人同士と言えてしまうということになる。


つまり意気込んだのに、今までと違いが見えなくて戸惑ったと。


え?

こういう場合ってどう言えばいいの?


…沙羅の場合は、違ってくるのは心の部分だからなぁ

取りあえず説明だけして、高梨くんに期待しよう。


「えーと、まずはわかって欲しいんだけど、今まで沙羅が高梨くんにしてあげていたことはとっくに友達の範囲を越えていたんだよ。恋人にしてあげるようなことを、いつも高梨くんにしていたの。だからそう思ってしまうのも不思議はない。」


「なるほど…つまり私は意識していなかっただけで、既に高梨さんを恋人のように…高梨さんと…恋…」


平然としてるように見えてやっぱり意識してるわね。

でも自覚して来てるからだろうし、決して悪い話ではない。


「わかりました。そうであれば、まずは明日からも今まで通りにしてみます。何かわかってくることもあるかもしれませんし。とにかく今は高梨さんと早くお会いしたいです。いっぱいお話しして、喜んで頂けることをして差し上げて…」


…意識したせいか、高梨くんへの気持ちが高ぶっている気はする。

よくこれで今までと同じとか言ったわね


でも今の沙羅が次に進むには、恋ならではの感情ってやつが必要かもしれない

それって何があったかなぁ…


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「おはようございます沙羅先輩」

「おはようございます高梨さん」


沙羅先輩を前にすると、やはり昨日のことが思い出される。

先輩の笑顔、恋を教えて欲しいと言ってくれた可愛らしさ


「大好きです…高梨さん」

あの声を思い出すと顔が…


「高梨さん、どうかなさいました? お顔が赤いですよ?」


「いえ、沙羅先輩を見たら、昨日のことが色々思い出されてきて」


ダメだ、意識するとますます…


「高梨さん、失礼致しますね」


俺の顔を見ていた沙羅先輩は、そう言うと俺に軽く寄り添い頭に手を伸ばしてきた。


「落ち着いて下さいね。私は高梨さんにお願いしている身ですので、このくらいしかできないのですが…」


そういいながら、ゆっくり丁寧に俺の頭を撫でてくる。

思わず嬉しさが顔に出てしまったが、それを見た先輩が突然聞いてきた


「高梨さん…私がこうして差し上げると嬉しいでしょうか?」


「え…その?」


今までこんな直球で確認してきたことあっただろうか?

嬉しいけど、それを言うのはさすがに恥ずかしいというか


「…いえ、何でもございません。今までもこうして差し上げたことはありますし、お顔を見れば喜んで頂けていることはわかりますので。昨日の夜からずっと、高梨さんの喜んでいるお顔が見たかったのですよ…」


沙羅先輩が凄く嬉しそうな表情を見せて、俺に寄り添う距離をもう少し縮めてくる。


な、なんだ、沙羅先輩の様子が…?


「いや、あの、先輩…ここ通学路なんで…」


「高梨さん…」


沙羅先輩が俺の目をしっかりと見てくる。

吸い寄せられるように、俺も目を合わせると、先輩が嬉しそうに微笑んで…


「ねぇ? いつまでイチャついてるの? 私のことを完全に忘れてるよね?」


不機嫌そうな夏海先輩の声を聞いて我に帰った。


「…全く、私の昨日の苦悩はなんだったの よ…どこが今までと同じよ、普通にイチャラブが増してるじゃないの…」


昨日に引き続き、夏海先輩の機嫌を損ねてしまったらしい…

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