第191話 バイト生活最終日
一成さんが私の誕生日にデートへ誘って下さいました!!
それも水族館でデートなんです!!
ああ、楽しみで今日は眠れないかもしれません…
当日はどんな服を着て行きましょうか…
一成さんが喜んで下さるコーディネートは、今となっては私のお気に入りとなっています。なので夏海と出かけるときに、ナイショでこっそりと増やしているのですが…喜んで頂けたら嬉しいですね。
「ただいま帰りました。」
「お帰りなさい、沙羅ちゃん。あら、何かいいことあったのかしら?」
「…何故ですか?」
「んふふ〜、そんな嬉しそうな顔をしてたら誰でもわかるわよ。」
自分の顔をペタペタと触っても…鏡を見ないとよくわかりませんね。
「ひょっとして、沙羅ちゃんの誕生日に高梨さんがデートしてくれるとか?」
「!?」
「あら、大当たり! 良かったわね〜沙羅ちゃん」
「…はい」
どうしても口許が緩んでしまうのが自分でもわかります。
ですが、それは仕方がないのです。
今週の日曜日のお話を頂いた時点で、私としても期待はありました。ですが一成さんは内容までお話して下さいませんでしたから…ちょっとだけイジワルです…
普段のお休みの日は、お買い物に出掛けたり、ウィンドウショッピングをするなどのことはあるのですが、改めて目的地を定めたデートとなると実はありません。
というのも、お付き合いを始めてから今日まで色々な事が立て続けにあり、正直余裕がなかったという理由が大きいのです。
特にあの思い出したくもない一件の最中は、そんなことを考えている余裕すらありませんでしたし…
もちろん私は一成さんと一緒であればどこであろうと幸せですから、不満など全くありません。ですが、デートとなれば特別なんです…
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俺「みんな、こんばんは」
西「こんばんは。お久しぶりですね、皆さん」
花「こんばんは、元気そうで何より」
藤「こんばんは。こんなに大人数でRAINやるの初めてだよ〜」
速「そうだね。俺も初めてだよ。こんばんは」
立「皆さんこんばんは! お久しぶりです」
夏「やっほ〜。」
雄「こんばんは。一成、身体の方はどうだ?」
俺「まぁ…なんとか」
初めてグループRAIN通話というものを試してみた。
文字でやり取りでも出来なくはないが、話した方が早いと判断した俺が提案したら、皆が面白そうだからとタイミングを合わせてくれたのだ。
西「高梨さん、その後如何ですか?」
俺「予定通りになってますよ。後は当日を迎えるのみです。」
雄「ということは、例のプレゼントを買えたのか?」
俺「ああ、何とかなった。」
藤「高梨くんは本当に頑張ってるんだよ。お祖父ちゃんが褒めてたもん」
おっと、意外な情報が…それは素直に嬉しいな。
花「なら、今度会ったらお姉ちゃんからも褒めてあげる。」
立「花子さん、まだその設定生きてたんだね…」
夏「それよりも高梨くん、今日沙羅と話したけど気付きかけてるわよ。まだ少し勘違いしてるみたいだけど」
やはり沙羅さんに隠し事をするのは難しいか。自分では上手くやれていると思っていたのだが…
俺「ちなみに何で気付きそうなのか理由はわかります?」
夏「色々言ってたわよ。朝いつもの時間に起きれないとか、洗濯物に他と汚れの違うシャツがあるとか、身体が引き締まってるとか…」
しまった…シャツは盲点だった。
そこまで気を回していなかったのは失敗だったか。
立「凄いです…流石は薩川先輩!」
花「通い妻は伊達じゃない」
西「ねぇ高梨さん、あなたは沙羅にどこまでやらせてるのかしら?」
電話の画面越しなのに、目のハイライトが消えたことがわかってしまうくらいのダーク西川さんが出現していた。怖い…
速「まぁまぁ、それよりも今は、当日の最終確認でしょう」
雄「そうだな。具体的な集合時間とか、持ち寄る物とか確認しといた方がいいだろう」
ここで透かさず親友の二人が間に入ってくれた。持つべき物は友だな。
二人の意見を皮切りに、当日のスケジュール、全員の時間、持ち物を確認する。
それが終われば打ち合わせは完了だ。
藤「男の子のお部屋へ行くの初めてだから、ちょっと楽しみだな〜」
花「今の内に、隠してあるものを処分することをオススメする。」
西「え…あの、私も男性のお部屋へ伺うのは初めてなんですが…急に不安になって…」
俺「いや、そんなもの無いですから」
夏「そうね、沙羅が入り浸ってる部屋にそんな危険物は置かないよね。」
西「……説得力はありますけど、気持ち的には凄い複雑です。」
うーん、なんだろう…家捜しされそうで怖いような…
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土曜日
今日も沙羅さんは朝からご機嫌だった。
本当に嬉しそうで、その姿を見る度に俺は自分の行動が正しかったと改めて実感していた。
「明日は駅前で待ち合わせましょう。」
「駅前で宜しいのですか?」
「その方がデートっぽいかなって。」
「なるほど、そういうことでしたら。一成さんと待ち合わせでお出かけするのは久しぶりですね。」
今までは上手く予定が組めなかったとはいえ、なかなかしっかりとしたデートが出来なかったことを申し訳なく思う。
今後はもっと定期的に考えておきたいな…
さぁ、アルバイトも今日で最後だ。
張り切って頑張ろう。
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一成さんのお家からの帰り道、頭の中は明日のことでいっぱいでした。
明日の服はもう決まっています。一成さん好みのコーディネートを選びました。お弁当の献立も決まっていますから、今晩仕込みをして…何か他には…
あ!? そうでした、お金です!
お母様から振り込まれる口座のキャッシュカードと通帳は私が預かっておりますので、一成さんはいつも持ち合わせが最低限なんです。ネット銀行ですから今からでも下ろせますし…そうですね、一成さんと一緒にコンビニへ行きましょう。
ついでに私…も……?
…そうです、一成さんの生活費は私が預かっています。
では、一成さんは今回のチケットをどうやって用意したのでしょう?
いえ、ひょっとしたらお母様からお小遣いを頂いたのかもしれません。もしくは一成さんが手元に残してあったお金かもしれません。
…平静を装ってみたものの、小さく生まれた何かが、次第に心の中で大きくなっていくのが自分でもわかります。
そして私が見たのは、どこかへ出かけて行く一成さんの姿でした……
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「おはようございます!」
「高梨くん、おはよう。いよいよ今日で最後かぁ…残念だなぁ」
「あはは、そう言って貰えて嬉しいです。」
「満里奈ちゃんから聞いたけど、右手は大丈夫かい?」
「大丈夫です。それに今日で仕事納めですから!」
この仕事も今日で終わりだ。本当にお世話になったし、恩返しの意味で今日はいつもより気合いを入れて仕事をしようと思っている。
「それじゃ、始めますね!」
「宜しく頼むよ。」
よし、それじゃあ始めよう。
手袋と、今日はエプロンを借りることにした。明日の納品予定表を確認して…
「お疲れさま、高梨くん!」
「やあ一成、お疲れさま」
藤堂さんと、今日は速人まで来てくれたようだ。
二人お揃いで、しっかり連絡を取り合ってるようで何より。
俺がニヤリと速人に視線を投げると、速人は苦笑を浮かべて返してきた。
「今日で最後だから、応援に来たんだよ!」
「ちなみに俺は、藤堂さんから呼ばれたんだ。」
「親友なんだから、こういうときは応援しなきゃ」
藤堂さんに笑顔を向けられて、速人も嬉しそうだ。
でも応援に来てくれたのは嬉しいが、俺のバイト終わりまでいる訳じゃないよな?
「えーと…」
「あ、私達は向こうで明日の飾りを作ってるから、気にしないでね。」
「ということらしいよ。」
何となく俺の言いたいことを察したのか、藤堂さんが先んじて教えてくれた。
なるほど、まぁそれならいいか。
最終日だから、俺も仕事に集中したいのだ。
並んで歩いていく二人を見送って、作業を開始する。
今日の仕事量は普通くらいだから、これなら少し早く終わりそうだな。
配達する順番を考慮して最後の配達先から順に積んでいく。最初の頃は重かった箱も、身体が慣れたのか少しは楽になったような気がするのだ。
積んで…倉庫から出して…積んで…慣れ親しんだこの作業も終わりに近付いてきた頃には、やはり気を付けていても手の痛みが少し出てきた。我慢我慢…
「高梨くんお疲れさま。おや、もう積み込みが終わったのかい?」
ひょっこりとお祖父さんが顔を出してくれた。
今日はいつも来る常連のおじさん達がいないようで、暇なのかもしれない。
「はい。後は倉庫の方の整理だけですね」
「それなら少し休憩していいよ。さっき向こうで満里奈ちゃん達が何か話をしてたみたいだし、行ってきたらどうだい?」
「そうですね、ありがとうございます。」
そう言い残し、お祖父さんがお店に引っ込んで行く。
せっかくだからお言葉に甘えて、休憩がてら二人の様子を見に行ってみようと思った。
もしイチャついていたら、そっとしておいてあげよう(笑)
お祖父さんが言っていた方に向かい歩き出すと、誰かがこちらへ走ってくるのが見えた。
タッタッタッ…
「た、高梨く〜ん! ちょっと待って〜!」
藤堂さんが何故か走ってこちらへやってくるようだ。
待ってというのは、ここで待てということだろうか?
取りあえずこの場で待っていると、やって来た藤堂さんがひょいと手を差し出した。
「は、はいこれ。差し入れだよ!」
その手には、いつものコーヒー缶が握られていた。
嬉しいけど、毎回だからちょっと申し訳ない気もする。
「いつもありがとう。ところで速人は?」
どうやら藤堂さんは一人で来たようだ。
お礼を伝えてコーヒー缶を受け取りながら、何となく気になったことを尋ねただけのつもりだったのだが…
「えっ!? あ、えと、そ、そう、一人で作業してるんだよ!」
?
このタイミングで、藤堂さんは少し不自然なリアクションを見せた。別に速人が一人で作業していても不思議でもなんでもないのだが、何故そこで言葉に詰まるのだろうか?
少しだけ疑問に思いながらも、差し入れのコーヒーに口をつけるのだった。
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