第147話 作戦会議 その二

山崎の方針は決まった。

であれば残るは柚葉なんだけど…


「柚葉については、俺の考えを先に話しておきます。あいつには俺達と山崎のやり取りを目の前で見せたいと考えてます」


「それは立川さんがやられたことをやり返すんだね?」


夏海先輩がそう捉えるのは当然だろう。

きっと皆そう考えていると思う

立川さんも表情を少し固くした。


「夏海、一成さんのお話を最後まで聞きましょう」


沙羅さんは、俺が他の理由を考えていることに少し気付いているのかもしれないな。


「柚葉は、今回の山崎の件が全て暴露されれば、自分が山崎にどう思われていたか嫌でも理解するしかないです。だから俺は、まず目の前であいつに現実を見せてやりたい。」


俺の考えがこうなったのは、柚葉についても山崎が裏で関わっていたということもあるが、みんなのお陰で確実に山崎を追い込む算段がついたからだ。


「上手く言えないんだけど、俺は単に柚葉を辛い目に会わせたい訳じゃない。自分がしてきたことがどういうことなのか、あいつに理解させる。その為に辛い思いをするのは自業自得だ。その上であいつが本当に反省をするなら、目を覚ましてくれるなら…」


みんなは黙って俺の話を聞いてくれている。

だから俺は話を続けた。


「みんなも感じていると思うけど、俺は自分が甘いことを言っていると思う。これだけはハッキリ言うけど、最終的に俺は柚葉を許すつもりはない。絶対に許さない。だけど子供の頃からずっと面倒を見てきた幼馴染みとして…最後にせめて、あいつに少しでも…」


そこまで言うと、俺を包み込むようにフワッとした感触で優しく抱きしめられた。

もちろんこれは沙羅さんだ


「一成さん、あなたの気持ちは良くわかりました。あなたがそれを望むというのなら、私はそれが叶うようにします。本当に…いえ、そんなあなただから、私はあなたに恋をしたのでしょうね。笹川柚葉については、あなたが決めて下さい。」


(そして私は、憎まれ役を引き受けましょう。自らの行為を悔いる為には、笹川柚葉自身も痛い思いをしなければならないのです。であればそれは私の役目…)


みんなを見ると、苦笑していたり、呆れ顔だったりするが、誰一人嫌そうな顔はしていなかった。


「そもそも私はその方と何かあった訳ではありませんのでお任せします」


「私も同じ」


西川さんと花子さんは俺に任せてくれるようだ。


「そうだね、一番迷惑を受けた高梨くんが決めていいと思うよ。」


「俺も夏海先輩と同じ意見だね。ただ、どういう形であれ俺は少し関わってるから、多少は絡むつもりだけど」


夏海先輩と速人も大丈夫のようだ


「…私はあの女にも復讐したい気持ちはあるよ。でも、山崎の本性を暴くことで結果として私と同じ道を歩くことになるなら…それはやり返したことになったと考える」


「洋子が納得するなら、私はそれでいいです。」


立川さんは、実質的には山崎を叩くことで納得してくれるという結論を出してくれた…藤堂さんもそれに合わせると…俺の我が儘を聞いてくれた


「俺はここにいる誰よりも中学生の一成を見てきた…辛い目にあっているときもだ。一成が柚葉をどう思ってきたのか知っているから、あいつを捨てきれない気持ちも理解できるが、許せない気持ちの方が強い。一成が柚葉にチャンスを与えるというなら一度だけ見届けてやる。二度はない」


雄二は俺が柚葉を大切に思っていたことも、最悪だった中三時代も全部知っている。

全て飲み込んで、それでも俺に任せると言ってくれた。


みんな俺の我が儘を受け入れてくれた。

本当にありがたい、嬉しい。

俺は中学のときに全て失ったと思ったけど、今はそれ以上、比べ物にならないくらいの大切な人達を見つけた


柚葉、これがお前にしてやれる最後のことだ…


お前がそれでも目を覚まさないというのであれば…俺は


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「では流れとしてはこんな形でいいでしょうか?」


大まかな流れが決まり、あとは実行するだけだ。

多少の誤差は気にしない、山崎はもうどうにもならない。

その結果、柚葉が辛い思いをするのも自業自得だ。

余計なことを考えて、俺にまたちょっかいを出してきたことを後悔して貰う。


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「さて、難しいお話はこれくらいにして、そろそろ夕食としましょうか」


西川さんがそう宣言したのは、会議が終わった後に食事会が予定されていたからだ


「お腹減った」


「楽しみですね」


「どんなお店なんだろう」


藤堂さん達が騒ぐのも無理はない。

西川さんが予約してくれたのは有名なレストランだからだ。

しかも貸切り…大丈夫なのかな


「絵里、本当に良いのですか?」


「夏海の強いリクエストがあったので」


「えりりんがいるなら行かない手はないでしよ」


どうやら沙羅さん達は知ってる店のようだ。

この車にも驚いた様子はなかったし…まぁ友達だから既に俺達のような驚きは経験済みかもな。


「あの…俺、テーブルマナーとかわからないんですけど…」


後で困る可能性があるので、今の内に伝えておこうと思った。

というか、俺以外はみんな大丈夫なのか?


「ああ、大丈夫ですよ、貸切りですから私達以外は他に誰もいませんので、店も細かいことは言いません…というか言わせませんから」


西川さんが少しおちゃらけた様子で教えてくれた。

それなら良かった。

本格的な店だと聞いていたから、着く前に勉強も必要になるかと考えていた。


「でも沙羅と付き合っていくのなら、覚えておいた方がいいですよ?」


そうなのか?

でもそうか、例えば記念日とかお祝いの日にそういうところに行くことはあるかもしれないし…俺としてもそのくらいの甲斐性は見せたいかな。


「では、夕食のときにテーブルマナーのお勉強をする機会を少し加えてみましょうか。」


沙羅さんも俺に必要だと感じたのか、協力してくれることを申し出てくれた。

正直、沙羅さんの料理は気兼ねなく食べたいと思うけど、勉強も必要か…


「ふふ…大丈夫ですよ。最低限把握するくらいなら難しい話ではありませんから。それに、私のご飯は気兼ねなく召し上がって頂きたいので…」


「沙羅、その言い方ですと、高梨さんのご飯はあなたが作っているように聞こえますが」


またもや西川さんが食いついてきた。

あー、その辺も知らないだろうからな。


「はい。私がお作りしておりますよ。」


「「「「………え?」」」」


その一言に反応したのは西川さんだけではなかった。

花子さん、立川さん、藤堂さんのトリオも声を上げた。


「そう言えば、高梨くんは独り暮らしだっけ…」


藤堂さんがポツリと呟いた。

あれ、藤堂さんも知らなかったか?

その呟きを聞いた西川さんがピクリと反応した。


「ねぇ沙羅、まさか独り暮らしの男性のお家で…ではないですよね?」

「一成さんのお家ですよ」

「「「………」」」


こうしてまた俺達のプライベートが公開されていくんだな。

沙羅さんはこういうことに物怖じしないから、聞かれたら素直に答えてしまう癖がある


「毎日…男性のお家でご飯を作って、二人きり…」


また西川さんが旅立とうとしている気配がする…


「びっくり…高校生で通い妻なんて、それなんてエ…」

「花子さん、それは言っちゃダメ!!」


花子さんが何かを言おうとして、藤堂さんが盛大にストップをかけた。

うん、それは良くない。


「あの…そんな、私達…その、まだゴニョゴニョ…妻なんて…」


沙羅さんが突然くねくねと身体を揺らしながら、朱い顔で何かブツブツ言い出した。


「さ、沙羅さん、落ち着いて下さいね。」


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「はぁ…今まで散々夫婦みたいにしといて何を今更…」


夕月さんが呟いたその台詞は、俺にもしっかり聞こえていた。

確かに今更だな、まぁ本人達がいいなら他人がとやかく言う必要はないというのが俺の持論だ。

それに…一成には幸せになって貰いたいからな。


「まぁ思ったより深刻になっていないようで安心しましたよ」


しかし、あの横川ってやつは何かを言いたそうな雰囲気があるんだよな。今もこっちをチラチラ見ている


「橘くんは、渋々みたいだったね」


渋々という訳ではないが、柚葉のしたことを考えるとな…

とは言え俺自身も、では柚葉をどうすれば溜飲が下がるのかと改めて考えた場合、単に痛め付けて昔の憂さ晴らしをするのは違うと思う。

それでは何の解決にもならない。

そういう意味では、一成の言う「わからせる」という気持ちは間違ってはいないのではないか? そんな気もする。


ただ、そうであれば…


「後で一成には言いますが、俺は当日、独自行動を取らせて貰います」


「え? そうなの?」


(一成の希望を叶えるには、あと一人…)

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