第146話 作戦会議 その一
「こほん…気を取り直してお話しさせて頂きます。」
西川さんが仕切り直すように話を始めた。
全員が注目する中、話の続きを待つ。
…沙羅さんは離れる気がないようだけど
「まず、今回山崎を調査した結果と、それに対する対応の話し合いはこのまま車で行いたいと思います。正直、報告内容があまり大っぴらに言えるようなものではなかった為です。」
大袈裟にも聞こえるけど、ひょっとしたら一つの会社を消してしまうかもしれない内容ともなれば、そのくらいは必要なのかもしれないな。
「話の内容に嫌悪感…特に女性陣にとって不愉快な内容が含まれていますが…皆さんは覚悟しているはずなので、このままお話しさせて頂きます。」
そう言って、車内のTVに映されたのは懇親会という名の合コン映像。
そして山崎の主導による、接待、主催が男性陣にグレーゾーンな女性の斡旋を勧める、そしてそこに高校生がいるという事実。
「ん?…すみません、ちょっとゆっくり戻して下さい…そこで止めて。一成、この子だけど」
速人が何か気付いたようで、再生されている映像を少し戻してから一人の女子を指差している。
どこかで見たような?
「大会で笹川柚葉と会ったときに、一緒にいた子だね。」
そうだ、俺が柚葉と話していたときに、速人がつまらなそうに話していた女子だ。
「彼女が絡んでいるのかどうかは知らないけど、間違いなく山崎が連れてきたってことかな」
どうやらそのようだ。
会社のことについては柚葉は知らないだろうし、そこまでは流石に関わっていないだろうな。
「報告としては以上となります。現状で発覚した事実だけでも、山崎に関して言えば会社ごと終わらせることも可能でしょう。西川グループとして今後一切の関係を絶つようにお父様に報告しますから、経営の行き詰まっている山崎はすぐに立ち行かなくなるでしょう。もしくは事件化することも可能なはずです。」
つまり、どう転ぼうとも山崎はそれで終わりということだ。
でもそれでは、山崎に俺達が直接痛みを与えたことにならない。
花子さんと立川さんを見ると二人とも同じ事を考えたようで、視線が合ったと思うとコクリと頷いた。
「…ふふふ、やはり簡単に終わらせるのでは気が済まないという顔ですね。かく言う私も、山崎和馬は直接痛い目に遭わさなければ気が済みません。屑男の分際で、私をコケにしたことを精々後悔させてやらなければ」
きっとこのときの俺の表情は、悪い顔をしていたと思う。何故なら西川さんも、花子さんも、立川さんもそんな顔をしていたからだ。
そんな中、声を上げたのは沙羅さんだった。
「先に言わせて頂きますが、私は笹川柚葉に直接言いたいことがあります。これまでの話で、山崎に踊らされていたということはわかりました。だからと言って、一成さんの優しさを踏みにじり、辛い目に会わせことについて、このまま許すつもりはありません」
沙羅さんが俺の為に怒ってくれているのはわかっている。
でも俺は、いつもの優しい沙羅さんでいて欲しい、いつでも笑っていて欲しい、どうしてもそう思ってしまう。
それに柚葉と決着をつけるのは俺の役目だ
「沙羅さん…俺は沙羅さんには…」
「申し訳ございません…仰りたいことはわかっております。優しいあなたは、きっと私がそんな考えを持つことを良しとしないということも…私もこんな自分をあなたに見せたくはありません。ですが、それでも私は、笹川柚葉には言わなければならないことがあるのです。」
沙羅さんが悲しそうにそんなことを言い出した。
何で俺は沙羅さんにそんな顔をさせている?
どんな沙羅さんでも受け入れるのが俺の役目だろう。
俺はそれ以上言わせないように沙羅さんを思いきり抱きしめる
「俺はどんな沙羅さんでも大好きです。それに、沙羅さんが今感じている怒りは俺の為ですよね? 沙羅さんは優しいから俺の為に怒ってくれているんです。不謹慎かもしれませんが、俺はそれが嬉しいです」
いつも沙羅さんからして貰ってばかりだから、今回は俺が…
ちゅ…
沙羅さんの頬にキスをした。
そういえば、俺からするのは初めてだろうか?
そう思うと、既にキスをした後だというのに緊張してきた
沙羅さんの顔を見ると…うん、「林檎のように真っ赤」という表現はよくあるが、今の沙羅さんはそれなのかもしれない。
「一成さん…私はあなたと出会えて本当に良かった。お慕いしております。本当に…大好き…」
ちゅ…
お返しとばかりに俺の頬にキスをした…
そして潤んだ瞳で俺の口を見ながら、ゆっくりと自分の指を俺の口に当てて
「……初めては、一成さんからお願いしますね…」
と、真っ赤な顔で呟いた
俺だってその意味がわからないなんてことはない。ファーストキスは必ず…
きっと俺の顔も沙羅さんと同じくらい真っ赤になっているだろう。
「ハックシュン!! あ…しまった…」
?
花子さんの声が聞こえた
あれ、今どこだっ…………け
そーーーっと、視線を上げると…
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「沙羅が…沙羅が…私なんてまだ…」
「帰ってきなさい! 私達はこれからよ!」
何やらぶつぶつ呟いている西川さんを夏海先輩が揺すっている
「砂糖吐くかと思った」
「高梨くんって、中学の頃の不幸なんて忘れてもいいんじゃない…」
「あはは…でも私は、あんなに自分を好きになってくれる人がいるなんて羨ましいな」
花子さん、立川さん、藤堂さんは何か言い合っている。
「一成は相変わらず勇者だな」
「まぁ、俺や夏海先輩どころか、薩川先輩のお母さんの目の前で告白した男だからな。」
「何? それは聞いてないぞ」
なんだあの二人は、俺をダシにすれば仲良くなれるのか…
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「えー、お二人さんのお陰で、またしても話が横に反れましたが…なんか締まらないですね」
一応立ち直った西川さんが再び話の進行を開始するが、俺達のせいでシリアスな空気が飛んでしまい緩んだ感じになってしまった。
「申し訳ないです…」
「一成さん、私達は悪いことなど何も…」
沙羅さんが俺のフォロー(?)を始めようとしたが、それをするとまた話が止まってしまうので、沙羅さんの目を見ながら頭をぽんぽんとゆっくり軽く叩いた。
するとこくりと頷き、俺の方に少し身体を預けながらも大人しく会話に参加する姿勢をとってくれた。
「はぁ…あなた達は本当にすぐイチャつくんですねぇ。もういいです、話を続けましょう。」
西川さんが仕切り直して、先程の話の続きになった。
そして視線で俺に意見を求めてきたので、先に俺の考えを話すことにした
「まず山崎についてですが、西川さんの圧力で終わらせることができても、それだけでは意味がないです。花子さんや立川さんも同じ考えだと思います。それに西川さんも個人的に…となれば、あいつを呼び出して目の前でそれを伝えるのが一番です。」
俺がそういうと
「異議なし!」
「とことん追い込んでやる…」
立川さんと花子さんが勢い良く同意してくれた
「わかりました。どうせなら追い込むだけ追い込んで、一番最後にどうにもならない破滅をプレゼントしてあげます。私をコケにした報いです」
西川さんが黒い笑顔で最後にそう宣言した。
山崎に関してはこれで方向が決まった訳だ。
後はシチュエーションというか、どういう流れにするかというシナリオ作りだな
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いつもお読み頂きありがとうございます。
近況ノートにコメントを下さった皆様、一括で失礼しますが返信のコメントを書かせて頂きました、
本当にありがとうございます。
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