第145話 いつもの二人
「皆さんこんにちは!」
「こんにちは…高梨くん出迎えご苦労様」
駅から出てきたのは立川さんと花子さんだ。
今日は駅前で全員集まることになっており、今この場にいるのは俺と速人と藤堂さんだったが、二人が合流したことで五人になった。
沙羅さんと夏海先輩は家が近いので、一緒にくるのだろう
藤堂さんと立川さんが挨拶(?)のハイタッチを行っている。
花子さんは目の前に来たと思えば、何も言わずにボーッと俺を見上げ、突然手を上げた
…?
「んっ!」
え…と、ハイタッチしろってことか?
パン
とりあえず軽めに叩いてみると
「魂の挨拶は完了」
…よくわからないけど、間違っていた訳ではないようだ。
そのまま他へ挨拶に行くのかと思いきや俺の横で待機を始めた。これは懐かれたのか?
そんなことを考えてると駅の中から雄二が出てきた
「一成! 待たせたか?」
「いや、まだ全員集まってないから大丈夫だ」
雄二にはあの後電話である程度の説明をしたが、細かいことは次の会議(?)で説明するとしてあった。
「久しぶり」
俺の横にいた花子さんが相変わらず淡々とした声で雄二に声をかけた。
そうだ、この二人は知り合いだったんだよな。
「久しぶり、まさか俺を介さずに一成と出会うとは思わなかったよ」
「この出会いは運命に導かれた」
そう言いながら、また俺を見上げた。
う、うーん…花子さんは悪い人じゃないし話も通じる人なんだけど、大袈裟というか、アニメチックことを突発的に言うよな。
雄二が俺と花子さんを見て、不思議そうに首を傾げた。
「ん? ひょっとして結構仲良くなったか?」
「運命共同体」
まぁ、対山崎&柚葉としては間違っていないが…それは全員だけどな。
俺が苦笑してると横から腹に小さいパンチが飛んで来た
それを見た雄二も苦笑している。
どうやら花子さんは共同体のマスコットキャラクターのようだ。
見た目的にも…
「やあ、初めまして、だね。」
花子さんとコントみたいなことをしていたら、いつの間にか速人が近寄ってきていた。
「ああ、初めましてだな。俺は橘雄二、一成とは中学入ってすぐからの付き合いだ。」
「一成からある程度聞いてるよ。俺は横川速人。一成と同じ高校で友達になった。宜しく」
速人が右手を差し出すと、雄二も右手を差し出し握手をした。
良かった、二人が友達になってくれれば俺としても嬉しい。
そんなことを考えていると、俺の腕がくいくいっと引っ張られた。
?
それを見ると花子さんが俺を見ながら手招きをする。
もう片方の手を口元に当てて、何かを話そうとするようなポーズをとったので、身体を屈めて花子さんの口元に耳を近付けると、俺の耳に手を当ててきた。
「この二人何かあった? イケメンの方が妙に緊張してるというか、橘くんを意識してる気がする」
俺はそこまで感じなかったけど、そういうのは女性の方が鋭いかもしれない。
もしそうであるなら、夏海先輩に関することだろう。
あのとき夏海先輩が突然雄二に電話をかけたのはまだ良かったんだが、そのあと結構楽しそうに話していた。
それを気にしていた速人には一応説明したんだが、この前のプールでそんなに仲良くなったのかな?
「説明が難しいけど、思い当たる節はある」
俺が小声でそう答えると、花子さんは興味があるのかないのか良くわからない表情でうんうんと頷いた。
「………一成さん」
!?
何だろう、妙な冷気を感じる。
愛しの沙羅さんの声が聞こえて、俺の名前を呼んだだけなのに…
ギギギギ…と、首が潤滑性を無くしたような音を立てて振り向くと…
極寒の笑顔を浮かべた沙羅さんがこちらを見ていた。
「…お待たせ致しました一成さん。花子さんと随分楽しそうにされていますね?」
こ、怖い…
何故だろう、やましいことは全くないのに、浮気をした現場を恋人に見つかったかのような気分だ
「さ、沙羅さん、どうしましたか?」
誰かフォローに入ってくれないかと周りを見ると…既に誰もいなかった
夏海先輩を始め藤堂さん達も何故か離れたところに集まっていて…あれ、横を見ると花子さんも雄二達もいつの間にかいない
そっか、そんなものなんだ…やっぱり俺なん…
「一成さん、どこをご覧になっているのでしょうか?」
「は、はい、ごめんなさい」
沙羅さんは静かに長く怒るタイプなので、機嫌を直しておかないと今日の話し合いに支障が出かねない。
正直なところ、怒られるようなことをしたつもりはないのだが、惚れた弱味というか沙羅さんには勝てない。
この場を切り抜ける為には、ひそひそ話をする理由があったことを説明するしかない
俺は沙羅さんに近付くと、軽く抱き寄せて頭を撫で始めた
「一成さん?」
突然だったので沙羅さんは少し驚いたようだが、すぐに頬を膨らませて怒っていますとアピールしてくる。でも怒っていても離れようとはしないのが沙羅さんの可愛いところだ
「沙羅さん、さっきのあれは雄二と速人に聞かれたくない会話だったのでやむ無く近距離で話をしたんです」
「聞かれたくない…ですか?」
どうやら話を聞いてくれるようなので、このまま話してしまおう。沙羅さんなら誰かにペラペラ話すこともないだろうし
「実は、速人が夏海先輩のことを好きなんですよ。」
「え!? そうなのですか!」
沙羅さんが驚きの声を上げた。
俺は話を続ける
「この前カラオケで話し合いをしたときに、夏海先輩が雄二に電話をかけたじゃないですか? その後楽しそうに話をしていたのを速人も見てるんですよ。だから、雄二がライバルではないかと速人が勘違いして、様子が変だったのを花子さんが気付いたようで俺にこっそり教えてくれたんです。」
俺の話を黙って聞いていた沙羅さんが、少し何かを考えている様子を見せた後、何かを思い付いたように表情を変えて、俺の手を握って引っ張った。
ついてきて欲しいということだろう。
そのまま皆が集まっている場所までくると、手を離して俺の頭を少し下げ、口元に手を当てるとそのまま耳元でないしょ話をするようにひそひそと話し始めた
えっと…何故わざわざここで…
「橘さんが夏海をどう思っているのか聞いてみてもいいかもしれませんよ。誤解ではないかもしれませんし。私も夏海にそれとなく聞いてみますので」
確かに、雄二からそういう話を聞いたことがない。そうだな、聞いてみてもいいかもしれない。
…でも、もし二人とも同じだった場合…俺はどうすればいいんだろうか
っと、まだ聞いた訳でもないのにそれを考えるのは早計か。
沙羅さんを見ると、不自然に俺の方に耳を向けている
え…これは俺にもやれということか?
沙羅さんの機嫌が直るならと思い、思いきって沙羅さんの耳元に口を近付けて小声で話を始める
「わかりま」
「ひゃんっ」
可愛い声を上げて、沙羅さんが驚いたように顔を少し離した。
…あ、距離が近すぎたか
沙羅さんの顔がどんどん朱くなってきたと思うと、急いで俺の腕に抱きつき顔を隠す。
これは恥ずかしいときに沙羅さんがよくやる行動だ。
つまり恥ずかしかったと…沙羅さんは自分からやる時は堂々としているのだが、逆にやられると弱いよな
俺は沙羅さんが可愛くて思わすにやけそうになったが、突き刺さる視線を感じて前を見ると…白い目の皆さんが
はい、申し訳ございません…
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「お待たせしました! さぁ皆さん、挨拶はお車の中で………あの、どうかしましたか?」
西川さんがやってきて、これで全員が集まった。だが俺たちの微妙な空気を感じたらしく、不思議そうな声を上げた
「お疲れ様です絵里、いえ、大丈夫ですよ」
原因の一端を担っていた沙羅さんは完全復活していて、まるで何もなかったかのように西川さんと話をしている…強い
「さあ皆さん、まずは車に乗って下さいね。お話はそれからにしましょう」
そう言えば、この人数だと普通の車では乗りきれない。
ひょっとしてマイクロバスか何かを…
などと考えていた俺は、相手が西川グループの社長令嬢だということを舐めていたのだろう。
目の前には長い…とてもボディの長い高級車が…
えぇぇぇ、これってリムジンとかいうやつだよな
存在感が凄い…そして目立っている。
「一成さん、一番先に乗って下さいね」
何故か沙羅さんが俺を先に乗せようと押してくる。こんな高級車に乗るのは初めてで少し躊躇したが、運転手さんであろう人がドアを開けて待ってくれているので思いきって乗り込んだ。
うわ…なんだこれ!?
まるでソファのように長いシートがあり、車とは思えない空間が広がっていた
「一成さん、奥から座って下さいね」
おっと、俺が入らないと後ろが詰まってしまう。
そのまま一番奥の席に座ると、沙羅さんが俺の真横にぴったりとくっつくように座った。
もちろん反対側は壁になるので、俺の横にくるのは沙羅さんだけだ
そのまま次々と皆が入ってきて、一様に驚いた様子を見せながら座っていく。
「沙羅…あんたねぇ…まぁ彼氏を独占するのは彼女の特権だけどさ」
夏海先輩はそこまで驚いた様子がなく、俺の横にいる沙羅さんを見ながら、やれやれと言わんばかりに呟いた。
沙羅さんは別に変なことはしてないと思うけど…?
続けて入ってきた花子さんがこちらを見て
「…座れない」
と少し不満そうに呟いた
それを聞いた沙羅さんが…何故だろう、凄まじく鋭い目線で花子さんを見た
「うっ…これは無理」
花子さんが後退るような姿勢をとると、目を反らして空いている藤堂さんの横にすかさず座る。
それを確認した沙羅さんは、再び俺に寄りかかるように密着してくる。
まぁ反対側は壁だから寄りかかられても別に…
「二重人格? あんな強烈な殺気初めて感じた…あの人ヤバい」
「だから高梨くんに近付くと危険だって、この前言ったじゃないですか」
藤堂さんと花子さんがひそひそと何かを話している。
そして花子さんに言われたからかもしれないが、夏海先輩を挟んで両左右に座る雄二と速人を見ると、確かに微妙な空気感がある…ような気がするな…
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「では皆さん、先日は電話での参加でしたので改めまして、西川絵里と申します。どうぞ宜しくお願い致します。」
西川さんの自己紹介を皮切りに、全員が一通り挨拶をする。そう言えばあの日の夜に話をするようなことになっていたのだが、西川さんが急用で結局話をしてないんだよな。
「高梨一成です。宜しくお願いします」
「はい、宜しくお願い致します。…沙羅、仲がいいのはわかりましたから、少し離れてあげたらどうですか? そんなにくっついたら高梨さんが大変でしょう?」
沙羅さんはまだ俺にくっついていた。
…これは表情に出てないだけで、さっきのことをまだ引きずっているのかもしれない。
それならもう少し沙羅さんの好きにさせてあげよう。
「…一成さん、ご迷惑でしょうか?」
少し寂しそうにそんなことを言われて、ダメだと言える俺は存在しない
「いえ、全然大丈夫ですよ」
そう言って沙羅さんの頭を少し撫でると、嬉しそうに笑顔を浮かべて俺の肩にぴったりと顔をくっつけた
そんな様子を見ていた西川さんは、信じられないものを見たと言わんばかりに驚いた様子で
「…………あなた誰ですか? 私の知っている沙羅は、男性に対してゴミを見るような目で、面倒だから話しかけないで下さいと切り捨てるような女だったはずなんですが」
「失礼ですね、私の大切な一成さんを、その他大勢と一緒にしないで下さい」
「いや、そこじゃなくて…」
西川さんの言いたかったこととは違う部分に反応したようだ。
「ねぇ、早く本題に入ろうよ」
夏海先輩が呆れたように本題を求めるのだった
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す、すみません、前話の流れで今回は作戦会議を匂わせていたのに、書いていたらいつの間にか普段のノリに……文字数もいつもより多いですが、最近こういうシーンが不足していたので軽い補充ということで勘弁してください
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