第148話 決行
「お待たせしました、山崎さん」
待ち合わせ場所に着くと、既に山崎は指定された場所で待っていた。
車を降りて声をかけると、飛びきりの作り笑顔を浮かべる山崎。
今までも嫌らしいとは思っていたが、本性を知ると尚更嫌らしく見える…
「いえ、私も今来たところですよ。」
お決まりの台詞を反す山崎に、思わず白けそうになる自分を叱る。今はとにかく普通にしなさいよ、私。
「では、早速向かいましょうか。」
山崎と二人で車に乗るだけで汚らわしいと感じてしまい、顔に出そうな自分の感情を必死に堪える。
…あとで山崎が触れた場所は全て消毒させなければ。
「絵里さんからお誘い頂けるなんて、とても光栄ですよ」
絵里さん…ね。
私はその呼び方を許した覚えはないのだが、いつの間にかこいつは私のことを名前で呼ぶようになっていた。
まぁ余計な会話はしたくないし、どうせ今日で最後だから。
他愛のない会話を嫌々続け、車はやっと会場に到着した。
ロビーには、山崎の部下達が20人程たむろしていた。
今回はちょっとしたパーティーで、内々の発表もある為、山崎には自分に近しい会社の人物だけ招待するように伝えておいた。
もちろん余計なことを考えられないように、わざとギリギリのタイミングで連絡したんだけどね…
「山崎さん、今日は招待して貰ってありがとうございます」
「いや、いつも支えて貰っているからな。お前らは選ばれたメンバーだぞ」
恩着せがましい言い回しでそんなことを言う山崎。ここに呼ばれた面子は、山崎的に重要なメンバーなのかもしれない。
まぁ好都合ですけどね。目の前で見放されたときにどう思うか…
まだ開場していないが、私と山崎は一足先に会場に入る。
人数も多くないので、そこまで広い場所ではない。
「どんな発表があるのか楽しみですよ。ひょっとして、私達に関するお話もあるのでしょうか?」
山崎が微妙にニヤケた表情でそんなことを言い出した。
私達の話って…まさかこいつは都合よく、私達の将来に関する話が出るとかおめでたいことを考えているの?
気持ち悪い…率直な感想がそれだ。
さっさと話を進めてしまおう。
「山崎さん、少々席を外しますので、少しお待ち下さい」
「はい、ごゆっくり」
予定通り山崎を一人残し、私は別のドアから外に出る。
そこに待っていたのは、高梨さん、花子さん、立川さんの三人。
お互いに頷くと、私と入れ替わりになるように三人が会場に入った。
では、準備開始ですね…
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「速人くんから誘ってくれるなんて嬉しいなぁ」
RAINで、合コンの数会わせで参加して欲しいと連絡したところ、笹川はあっさりと気持ち悪いくらいに食いついてきた。
待ち合わせして、今はタクシーで会場に向かっているところだ。
「どんな人がいるのか楽しみ〜」
どんな人って…まるで品定めに行くような態度に思わず不快感が込み上げる。
「…ねぇ、一成の中学の話なんだけど」
「あ、ひょっとして噂とか知ってるの?」
白々しい…自分達から仕掛けておいて
…予定にはないけど、少し聞いてみよう
「あれは本当なのかな?」
「うん、本当だよ。一成って酷いよね」
「いくつか腑に落ちないんだけど…昔からストーカーってさ、それだと年齢的に幼稚園や小学生でストーカーってことなんだけど、それは有り得ないと思うんだけどな」
「え………」
笹川は、まるでそう聞かれたのが初めてで想定外といった表情を浮かべた。
「一成が人を殴るのも、誰かの為になら納得できるけど…笹川さんは誰から話を聞いたの?」
「えっと……彼氏から」
不安気におどおどと答える笹川柚葉。
どうやら今までこうやって聞かれたことはないようだ。
絶対に気付くやつはいるはずなのに…これは山崎が裏で動いていたのは間違いない
そうしている間にタクシーが停車して、目的地に着いた。
「さぁ、着いたから早速会場に入ろうか」
俺が気を取り直して話しかけると、ホっとしたような笑顔を浮かべ、車から降りてきた。
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「よう山崎、久しぶりだな。」
反対側を向いていた山崎に声をかけたら、一瞬驚いたように振り返った。
そして俺の顔を見て、みるみる表情が歪んでいく。
「……何でお前がここにいる?」
「何故って、西川さんに招待されたからだけど?」
「はぁ? どうしてお前みたいなのが招待されるんだよ?」
完全にバカにしたような口調で言い返してくる山崎。
相変わらずイチイチ勘に障る
「久しぶりに見たけど相変わらず。ここにいるんだから招待されたという事実しかないのに、何で? どうして? 幼稚園児と一緒」
「事実でも本人が気付いてないんだから黙っててあげるのも優しさだよ」
花子さんと立川さんがここぞとばかりに山崎を見下す。
ここで初めて俺以外の面子に気付いたようだ。
「誰かと思えば…どういう繋がりか知らないが、勘違いトリオが誰に口をきていて」
「おっと、そうだ山崎。お前には礼を言わないとな。」
山崎が叫ぶ前に俺が割り込み勢いを削ぐ。
こいつの金切り声など聞きたくもない
「礼だと? 意味のわからないことを」
苛つきはあるだろうが、意味深に礼などと言われて流石に気になったようだ。
一応は話を聞く様子を見せた
「俺達の学校で俺に余計なちょっかいを考えてくれただろ? 巡り巡って、面白い物が手に入ったんだよ。」
「…何のことだ?」
ピクリと一瞬反応したが、すぐにしらを切った。だがこんな場面で目を逸らしたら、白状したようなものなんだけどな。
「謙遜しなくていい。佐川とかいう犯罪者に被害者を紹介したなんて面白いネタをありがとうな」
「は!?」
今度こそ間違いなく驚きの表情に変わった
これぞ正に「寝耳に水」って感じで面白い
パシャ
花子さんがスマホで山崎の顔の写真を撮った
それに気付いた山崎が表情を変えて花子さんを睨む
「何の真似だ!!」
「面白い顔だったから記念写真。顔全体で、何でそれを知っている? って言ってたから。」
「花子さん、後で見せて下さいね。」
山崎はかなり頭に来ているな。
煽られて苛ついているのに加えて、あいつが満足に喋れないようにわざと被せて話しかけているからだ。
「ふん、証拠もない言いがかりは悪質だな。早急に訴えてやるぜ。俺はお前らみたいな一般人とは違うんでな。」
「なら何で俺達はそれを知ってるんだろうな?」
「ここまで言われて相手が何も掴んでないと考えているなら、見た目と同じでおめでたい頭」
そして花子さんの一言を聞いて、やっとその事実に辿り着いたらしい山崎は、明らかに動揺した素振りを見せた
「ふん…確かにその話は知っている。だが俺はあくまでも紹介しただけだ。その後の展開なんて想像していなかったし関与もしていない。紹介した以上の関わりがないのだから、俺には何ら問題はない。残念だったな」
一転、自信満々でそう話す山崎は、妙に得意気な様子だ
確かにこの件に関しては山崎の言う通り、相手に紹介しただけだろう。
俺達からすれば、関係があったという事実だけで充分なんだけどな
「そうだな、俺達が掴んだ話でも、お前はあくまで紹介しただけのようだ」
俺が素直にそう認めると、ニヤリと笑みを浮かべて饒舌に語りだした
「そうだろう、それが真実だからな。どこで話を掴んだのか知らないが、これ以上の言いがかりじみた話題はやめて貰おう。お前らも一応は絵里さんに招待されているようだが、分相応に大人しくしていたらどうだ?」
得意気に話すその顔は、間違いなくあの頃のままだ。
ん? つまり成長していないということか?
「あら、何やら話が盛り上がっていらっしゃるようですね。」
「絵里さん!」
ちょうど話が一段落したタイミングで西川さんが現れた。
合図したんだから当然だけど。
西川さんの横に並ぶ沙羅さんも、なぜかドレスに着替えていた。
沙羅さんのパーティードレス姿を見たのは初めてだが…こんな状況でなければしっかりと褒めたかった。
「失礼、絵里さんと一緒にいるお美しい女性はどなたでしょうか? 宜しければ是非ご紹介…」
「ふふ…一成さんったら。そんなに見つめられてしまいますと、少し恥ずかしいです」
沙羅さんは山崎をガン無視して俺に話しかけてきた。
どうやら俺が見とれていたことに気付いていたようで、嬉しそうに笑顔を浮かべてはにかんだ。
山崎が少しだけ引き攣った笑顔を見せたことを確認した西川さんが、一応紹介するつもりなのか咳払いをして気を取り直したような素振りを見せる
「ご紹介しておきますね。こちらは薩川沙羅さん。私の親友ですよ」
「薩川? 薩川さんとはあの?」
ん?
山崎が妙な反応を見せた。
沙羅さんを知っている訳ではないようだが、何か思い当たることでもあるのだろうか?
「…薩川沙羅です。」
「山崎和馬です。いや、こんな美しい女性とお近づきになれるなんて。是非今後とも…」
山崎に話しかけられている沙羅さんの表情は、恐らく俺が今まで見てきた沙羅さんの表情として、どれも当てはまらない酷いものだった。
ゴミを見る、汚物を見る、あらゆる嫌悪感をまるで隠していない。
さすがに山崎も何かしら気付いたようで、途中で話を止めてしまった。
「あの? 何か…」
「いえ、私も今まで様々な男性から嫌々話しかけられてきましたが、ただの挨拶でここまで不快感を感じたのは初めてですよ。まだ上があったのかと、自分でも驚きました」
沙羅さんが少し予定と違う会話を混ぜた。
まだ空気を悪くするのは早いんだけど…我慢できなかったかな…
「……は? 何を」
「あっれ〜〜? 何で和馬くんがここにいるの?」
呑気な声を上げて柚葉が近付いてきた。
速人、ナイスタイミングだ
「!? 何でお前がこんなとこにいるんだ!!」
盛大に驚いてくれたようで、こちらとしても嬉しいよ。
花子さんもニヤニヤしながら写真を撮っている。
立川さんは表情が固いな。
そして沙羅さんが………これはヤバい。
西川さんと目が合うと、俺の焦りに気付いてくれたようでコクリと頷いた
「あら、山崎さんはそちらの方とお知り合いですか?」
「い、いや、こいつは」
「私は和馬くんの彼女で〜す」
さぁ…柚葉の能天気な発言が出た
そしてこの発言が、山崎の終わりの始まりだとは、二人も予想しないだろう。
西川さんが一瞬だけどニヤリとした。
「…あら、山崎さん。恋人が居らしたんですか? そうでしたか、申し訳ございません、私にアプローチして頂いているのかと勘違いしておりました。」
西川さんが少し悲しそうな表情を浮かべて白々しい話を始めた。
さて、ここからはどこまで予想通りに話が進むか…
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