第26話 毎朝一緒に…

「先日もお話したと思うのですが、私は登校中に何度か高梨さんとあの子が一緒にいる姿を見ております。決まって途中の交差点付近にあるコンビニの辺りでしたが、あの場所は毎日通過される場所ということで宜しいでしょうか?」


恐らく俺が毎朝寄っていたコンビニのことを言っているのだろう。

確かにあの辺りでいつも未央ちゃんに会うからな。


「ええ、未央ちゃんと合うのがちょうどあの辺りなんで。」


「私も駅側からあの交差点に向かうコースなんですよ。であれば…高梨さんさえ宜しければ、待ち合わせ致しませんか?」


「え!?お、俺は別に大丈夫ですけど」


先輩からのお誘いを受けるとは思っていなかった。

それはつまり毎朝一緒に行こうってことだ。


うわ…俺って一生の運をこの短期間で使い切ろうとしてないか…?


「それでしたら、毎朝ご挨拶できますし、邪魔が入ることもありませんので」


「え…と、本当にいいんですか?」


女神様と毎朝一緒に登校とかどんなご褒美だろうか。

これは夢じゃないよな?

もし雄二がいれば、俺の頬をつね…いや、思いっきり叩かれるな


「はい、夏海もよく一緒に登校しますので。三人になることが多いと思いますが、高梨さんさえ宜しければ是非如何でしょうか?」


あ、夏海さんも一緒なんだ。

いやいや、三人の方が気兼ねないだろうし、いきなり二人は難しいだろう


それよりも、そうだよ夏海さん?だ。

多分…というかほぼ間違いなくあの人のことだろうとは思っている。

今まで何だかんだで確認しないまま曖昧にしてたんだが、そろそろちゃんと聞いておくべきだろう。


「わかりました。ところであの、夏海さんって先輩と同じクラスにいたお友達の名前でいいんですよね? この前屋上に来てくれた…」


「………あ、申し訳ございません! そうでしたね、まだしっかり紹介させて頂いておりませんでした!」


先輩が忘れていたと言わんばかりに驚いた表情をした。

まぁ正直なところ、何となく話が通ってしまっていたような感じだからな


「夏海には高梨さんのことをお話ししてあるのですが…でしたら尚更、一緒に登校致しましょう。ぜひ夏海を紹介させて頂きたいですし、夏海にも高梨さんをきちんと紹介させて頂きたいのです。」


友達同士を紹介したいという意味なのはわかっているのだが、何か別の意味にも聞こえてしまうのは俺が悪いのだろうか…

正式に紹介して貰えるというのなら別にかまわないし、先輩の親友がどういう人か興味はある。


「了解です。なら俺としても是非お願いします。でも、先にお友達に確認を取らなくて大丈夫ですか?」


これからほぼ毎日一緒に登校することになる訳で、それを当人に確認しないで決めてしまうのは気になるので一応聞いてみた。


「夏海は、高梨さんと私の状況を知っておりますからきっと大丈夫です。彼女は社交的で人当たりもいいですから、きっとすぐに打ち解けられると思いますよ。」


「わかりました。では、ご友人に話を通して貰って、夜にでもRAINで時間を確認させて下さい」


「はい。ふふ…明日から楽しくなりそうで嬉しいです」


そう言った先輩は、本当に嬉しそうに笑った。

これから毎朝か…楽しみがどんどん増えていくことは嬉しい。

先輩に出会わなければ、俺の高校生活はどうなっていたのだろうか。


「時間を使っちゃいましたね。急いで水やりをしましょう」


「はい。二人で一緒に行えば焦らなくても充分間に合いますね。では本日もお願い致します。」


日課の水やりと、雑草抜きを始める。

数日振りの作業だったが、楽しいと思えるのは先輩がいるからだろうな…


片付けを終えても一息入れるくらいはまだ少し時間が残った。

先輩の言った通り、二人でやったおかげで余裕ができたようだ。


先輩はベンチに置いてあった荷物をまとめ、教室に戻る支度を始めた。


「では、私は教室へ戻りますね」


「はい、俺も戻ります。先輩、今日はご馳走様でした。美味しかったです」


「ありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです。ではまた今晩、連絡致しますね。」


そう言って先輩は教室へ戻って行った。


そして俺は、いつもギリギリまでここで時間を潰す。

教室にいる時間を可能な限り削りたいからだ。


ベンチでスマホを適当に弄りながら、残りの時間を過ごした。


美味しいものを食べたこともあり、何となくぼーっとしてしまうような感じがある。

この後の授業、眠くならなきゃいいけどな…頑張りますか


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家に帰り、課題を終わらせて食事、ゲームと毎日の流れだ。

俺はこれといった趣味がある訳ではないので、いつも基本的には同じだと思う。


ちなみに先輩は放課後、基本的に生徒会がある為に会うことはほぼない。

だから帰りは基本的に一人だ。


これからは朝も会えるし、これ以上望んでしまったら間違いなく贅沢だと思う。

そもそも長いこと一人だった俺にやっと出来た、更に言えば柚葉以外では初めての女性の友人だ。


二重の意味で嬉しい…いや、それも女神様だと考えたらそれ以上だよな…


ピロピロン


RAINの着信が鳴り、先輩とメッセージのやり取りを行う


「こんばんは、高梨さん」

「こんばんは、先輩。今日はご馳走様でした。」

「いえ、こちらこそありがとうございました。美味しいと言って頂けて嬉しかったです」

「いやいや、本当に美味しかったので。次も楽しみです。」

「頑張って作りますね。それで、明日からの朝の件ですが、夏海も問題ないとのことなので、予定通り待ち合わせにしましょう」

「了解です。時間はどうしましょうか?俺は合わせられるのでお任せします。」

「では、私と夏海の待ち合わせ時間を考えると、7時半くらいにあのコンビニに着くと思います。」

「そのくらいなら、俺も誤差の範囲ですね。なら、7時半にしますか?」

「高梨さんが問題ないのでしたらそれで」

「了解です。じゃあ明日の7時半に」

「はい、宜しくお願い致します。それではまた明日」

「はい、それではお休みなさい先輩」

「お休みなさい高梨さん」


…俺が夜に、女性と、しかも女神様とRAINなどまだ現実味がないし実感がわかない。

でもスマホの画面に残っているこれは、間違いなく現実だと認識させられるものだ。


さて、早く寝よう。

明日は絶対に遅刻できないのだから。

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