第336話 意味

 side 楠原 豊


 全く、何でこうも次から次へと…


 これは最早、理解が追い付かないというレベルではないぞ…


 只でさえ玲奈の大失態で頭が痛いというのに、あの男はどこまで私の精神を引っ掻き回せば気が済む?

 薩川専務と繋がりがあるだけでなく、お嬢様にプロポーズだと? 

 あいつは自分の相手が誰なのか、本当に理解しているのか?


 もちろん本来であれば、こんな突拍子もない話を気にする必要など微塵もない。そもそも高校生という年齢を考えてみれば、法律的に結婚できない子供の戯言であり、精々が夢の話というくらいにしかならないのだから。

 

 それに…


「…結婚!?」

「…いやいや、流石に高校生でそれは…」

「…だよな、いくらなんでも重すぎだろ」

「…いくら何でも先を見すぎじゃね? 所詮は高校生の恋人だろ? それこそ来月には、つまらねー喧嘩でもして別れるかもしれねーってのに」

「だよなぁ。もしくは、薩川さんがあの男に愛想尽かすとか」

「案外、薩川さんも男に免疫なくて、勘違いしてるだけかもな?」

「あ、それありえるわ!」


 …と、周囲の反応が全てを物語るように、まだ高校生の二人が結婚を意識するなど現実的な話ではない。まして今の年齢から結婚を見据えるなど、そんなことを口にすれば「重い」と一笑に伏されることすら当たり前の話でもある。


 だが…


「ふぅ…」


 薩川専務は大きく息を吐き、少しだけ目許を触る仕草を見せる。それがどういう意味なのか、「あれ」を見てしまった以上は分からなくもない。

 ステージ上で嬉し涙を流し、幸せそうに微笑むお嬢様の姿…そんな姿を見せられてしまえば、他人の私ですら、多少なりとも心に来るものはある。ましてそれが、自分の子供であり親という立場である薩川専務からすれば、あんな幸せそうに涙する娘の姿を見て、感動しない訳がないだろう。


「薩川専務…」


 だが…

 それとは別に気になってしまうのは、やはり「あの男」に対する薩川専務と奥様の反応だ。時折モニターに映る奥様は、明らかに二人のことを歓迎しているようにしか見えず、薩川専務も「あの男」のプロポーズに対して特に反発や否定をするようなリアクションを見せていない。

 まさかとは思うが、子供達の話を真に受けて、このまま結婚を認め…いやいや、そんな筈はない。いくら何でも、結婚などという重要な事柄をそう簡単に決めるなど在り得ないことだ。しかも薩川専務に至って言うならば…


 これは、あくまで可能性の話だが…


 そのお嬢様と結婚する者とは…


 つまり、将来の佐波グループにとって…


 だから薩川専務も、そう簡単には…


「…いや、すまない。娘の成長が嬉しくて、つい」


「い、いえ。お嬢様の成長を喜ばしく思うのは、親として当然のことであるかと…」


「…うん。沙羅がああなってしまったのは、私達夫婦の不甲斐なさが招いたことでもあるからね…だから本当に、一成くんには感謝しかないよ」


「そ、そうでしたか。どちらにしても、お嬢様の成長は喜ばしいことです!」


 とは言え、専務に…恐らくは奥様からも…そこまで認められているあの男が何なのか、それを問い掛けたい気持ちは多分にある。しかも薩川専務の言葉の端々には、あの男に対する信頼のような何かを感じて、とても嫌な予感がしてならない。


 だが今は…


 それよりも先に、玲奈の作った失点を少しでも穴埋めする必要がある。故にここは、例え見え透いたご機嫌とりであったとしても、形振り構っている場合では無いのだ。だからここは、とにかく余計なことを言わず、なるべく穏便に事を進めるしか道はない。しかも幸いなことに、今の状況は私にとって、良くも悪くも話を有耶無耶に出来る、言わばチャンスと呼べる程のものでもあるのだから…


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「いやぁ、その箱、ずっと気になってたんだよねぇ。やっと中身を教えて貰えるんだ?」


「はい。本当は全てが終わった後に、最後の最後で使う予定だったのですが…これは一成さんのせいですよ?」


「うぐ…すみません」


「ふふ…冗談ですから、謝らないで下さいね? それによくよく考えてみれば、結果的にこれで良かったのかもしれませんし…」


「そうなんですか?」


「はい♪」


 沙羅さんが綺麗にラッピングされた包装紙を剥がし始めると、直ぐにカメラを持ったスタッフとみなみんが近寄ってくる。その映像はスクリーンにハッキリと映し出され、騒がしかった客席が静けさを取り戻していく。

 そんな沙羅さんの行動に、会場全体が注目する中…沙羅さんは包装紙を丁寧に剥がし終わり、ゆっくり箱の蓋を開けると…


 その中には…


「ネクタイ?」


 みなみんが思わずといった様子で呟いた言葉の通り、箱の中には真新しいネクタイが一つ。鮮やかな青にストライプ、実に俺好みのカラーリングが印象的で…って、あれ?


「はい、ネクタイですよ」


「だよね? えーと…男物?」


「男性用です」


「それってつまり、高梨くん?」


「勿論です」


 つまりこれは…沙羅さんから、俺へのプレゼント!?


 よくよく考えてみれば…俺は今まで沙羅さんからして貰ったことは数え切れない程あり、しかも弁当袋など、沙羅さんの手作りを使っていることもあるが…こうしてプレゼントという明確な「形」で何かを貰うことは初めてだ。


 どうしよう…どうしよう!?


 好きな人からのプレゼントが、こんなに嬉しいものだなんて…

 

「それでは…」


 手にしていた箱と包装紙を司会者用テーブルに預け、沙羅さんはネクタイを抱き締めるように両手で抱える。その左手薬指で確かな輝きを放つ指輪に、言い様のない嬉しさのような、誇らしさのような、そんな胸に込み上げる何かを感じながら、沙羅さんの行動を見守っていると…


「一成さん…」


 沙羅さんが真っ直ぐに俺を見つめ、少しずつ、少しずつ距離を詰めてくる。そして、少し手を伸ばせば触れることが出来る距離まで近付いたところで、すっと立ち止まり…大切そうに抱えたネクタイを、俺に見せるようにそっと掲げる。


「本来であれば、私もアルバイトなどで自分の収入を得て、その上で一成さんにプレゼントを差し上げるべきだと思うのですが…」


「沙羅さん、俺は、そんな…」


「いいえ。私は一成さんからプレゼントを頂けたことは本当に嬉しいですし、幸せです。ですが…その"元"となったものが、かつて一成さんの身体に負担を掛ける程の、重労働の末であることも分かっております。それを思えば…あの日に頂いたロケットも、この指輪も、私にとっては本当に…本当に…もう言葉では言い表すことが出来ない程に…私は…」


「沙羅さん…」


 沙羅さんの言いたいことの意味は分かる。

 確かにプレゼントというだけで嬉しい気持ちはあるが、例えばそれが手作りであったり、相手が自分の為に苦労をした上で用意された物であれば…申し訳ないという気持ちはあっても、やはり感動もひとしおと呼べるものであり…

 だがそれを言ってしまえば、そもそも俺は、沙羅さんから数え切れない程の「手作り」を毎日頂いている訳でもある。だからこそ、俺はせめてもの思いで、アルバイトをして購入するという道を選んだのだから。


「…ですが残念なことに、私にはアルバイトのアテも時間もなく、かと言って、短期間で手作り出来るような簡易品をお渡しするなど自分が納得出来ません。ですから今回のこれは、あくまでも半分…後日、私自身が納得できるプレゼントを改めて贈らせて頂きたいと考えております」


「沙羅さん、俺はこのネクタイだけでも本当に嬉しいですし、満足ですよ。だから、そんな…」


「いえ…これは我が儘であるという自覚もありますが、それでも私は受け取って頂きたいのです。そうでなければ、私は自分が許せません。せめて一成さんの努力に見合う半分…いえ、例え三分の一だとしても…」


「沙羅さん…分かりました」


 俺としては本当にこれで十分すぎるくらいに十分なんだが、それで沙羅さんが納得するというのであれば。

 それに好意を無下に断る理由も無いし、ここは素直に…


「ありがとうございます。それでは…」


 俺が素直にそれを受け入れると、沙羅さんはホッとした笑顔を浮かべ…そっと俺の首元、現在着けているネクタイに手を伸ばし、スルっと簡単に外してしまう。沙羅さんはそれを綺麗に折り畳み、そのまま自分のポケットへ。


「「っ!?」」


 その一連の行動が終わった瞬間、客席から謎のざわめきが起き…みなみんとカメラさんが息を呑む音が聞こえた。

 それが気になったのは、俺だけはなかったようで。


「何か?」


「ふぇっ!? い、いや、薩川さんが妙に手慣れてるというか、凄く自然にネクタイを外したな…と」


「そうですか? 普段からしていることなので、特に意識したことはありませんが…」


「普段からって…高梨くんのネクタイを?」


「ええ」


「へー…そうなんだぁ…へぇぇぇぇぇ~~」


 みなみんの白けたような視線には、「そのくらい自分でやれよ」とか「爆発しろ」とか、その他諸々、色々な意味が込められているような…それにカメラさんからは、やっかみまで多分に混じっていそうな視線が飛んで来ているような気もするし。


 でもな…沙羅さんに「私にやらせて欲しいです」と言われて、それを断ることなんて俺に出来る筈がないだろ?

 だからこれも、やっぱり「仕方ない」ことなんだよ…うん。


「本来であれば、私はこのネクタイをお渡しする前に、この場で全てを語るつもりでおりました。私という人間に対する勝手な理想と思い込みを、本当の自分を白状することで全て否定し…その上で、私には心に決めた方がいるということを宣言するつもりでした。そして、一成さんをこの場にお呼びして…これをお渡ししようと…」


 沙羅さんはそこまで言うと、手にしたネクタイを俺の首元に当て、様子を確かめるような仕草を見せる。ちょうど服を購入する際、サイズや色合いなどを身体に当てて確かめるような、そんな行動を…


「一成さんは、女性がネクタイを男性にプレゼントすることの意味をご存知でしょうか?」


「意味…ですか?」


「はい。単なるプレゼントという意味ではなく…」


「…すみません、ちょっと分からないです」


 よく分からないが、例えば単に指輪をプレゼントとして贈るのではなく、それを薬指へ着けることに意味があるのと同じように…女性から贈るネクタイに、何か特別な意味があるということなんだろうか?


「えっ!? ちょ、ちょ、薩川さん!? まさか、そんな意味まで考えて高梨くんにネクタイを用意したの!?」


「みなみんさんの予想が間違っていないのであれば、そういう意味ですよ?」


「ええええええええええっ!?」


「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」」


 みなみんの驚き声と共に、客席の女性陣から特大の黄色い悲鳴(?)が巻き起こる。それはつまり、少なくとも女性にとって常識とも言える意味が、やはりこのネクタイに含まれているということであり…


「…うおおおおおお、そこまでなのかよぉぉぉぉぉ!!!!!」

「…ちくしょぉぉぉぉ、もう見たくねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

「…なんだよ、ネクタイってそんな大袈裟な意味があるのか!!??」

「…バカ野郎!!! お前知らねーのかよ!?」


「…あららぁ…これはひょっとして、薩川先輩も高梨くんにプロポーズするつもりだったんですかねぇ」

「…これは想定外…まさか嫁がそこまで狙うとは思わなかった」

「…やっぱり、あのネクタイはそういう意味なのか?」

「…それしかないでしょ? でも、あの沙羅がねぇ…」

「…"あの沙羅"だから…と言うべきでしょうね。自分が高梨さんにぞっこんであることをアピールして、僅かな可能性も、高梨さんへの悪意も、全て無意味であることを見せしめるつもりなんでしょう」

「…だね。と言うか、こんな場であそこまで思いきったことが出来るのは、やっぱり"あの沙羅"だからと言うべきなのかな? 少なくとも私には無理だわ」


 よくよく聞いてみると、女性の悲鳴に混じり野郎共の叫びまで聞こえてくるような…これはやっぱり、単に俺が物を知らないというだけなのか?

 でもこうなってくると、ますますその「意味」とやらが気になって仕方ない。


「勿体つけて申し訳ございません。これはネクタイそのものに意味があるのではなく、ネクタイがどういう物であるのかを考えたときに、その意味が生まれるのですよ?」


「ネクタイが、どういう物か…ですか?」


「はい。私は今回、このネクタイを用意するに当たり、決めていた意味は一つでした。ですからこれをお渡しする際、それを一緒にお伝えするつもりでおりましたが…一成さんにプロポーズして頂いたことで、私も意味を少し変化させることに致しました」


「へ、変化ですか?」


 ダメだ、ますます分からなくなってきた。取り敢えず、ネクタイをプレゼントすることで、それに込められる「意味」が複数存在するということだけは理解したが…それ以上のことはさっぱりだ。


 うーん…


「…ぷくく、高梨くん困ってるね」

「…まぁ、あいつは精神的に、色恋からかなり掛け離れたところに居たからな。疎い部分があるのも仕方ない」

「…それは問題ない。寧ろ可愛いとさえ思える」

「…と、沙羅も花子さんと同じ事を思ってるんだろうねぇ…ね、えりりん?」

「…そうね。私も可愛いと思いますし」

「…あ、やっぱ高梨くんって、そういう…」


「ふふ…直ぐに分かりますから、ご安心下さい。それよりも…」


 ふわりと優しい笑顔を浮かべ、沙羅さんはネクタイを持った手を俺の首筋に回してくる。それは実に手慣れた手付きで…って、俺のネクタイを締めること自体は日常茶飯事だから…スイスイとネクタイを結んでいく。

 それでも、いつもよりはゆっくりと、何かを逐一確認するように…途中で何度も俺の顔を見ながら、その都度、嬉しそうに笑顔を浮かべて…


「うわぁ、これは相当やり慣れてるね?」


「ふふ…最初は少し難しかったですよ」


「いや、人のネクタイ結ぶのなんて、普通は大変だから。つか…高梨くんは、いつも薩川さんにそこまでやらせてるの?」


「勘違いしないで下さい。これは全て、私が一成さんにして差し上げたいからしていることです。寧ろ、私からお願いしているのですよ?」


「あー、そうですかぁ…それはそれは」


「これで大丈夫ですね。一成さん、よくお似合いですよ♪」


「ありがとうございます、沙羅さん。それで…」


 ネクタイを結び終わり、満足そうに頷いた沙羅さんの手は、まだ俺の首に回されたまま。少し手を伸ばせば、直ぐに抱き合えてしまう程の近距離でお互い見つめあい、何かを語ろうとする沙羅さんの様子を、その体勢でじっと見守る。


「はい。女性から男性にネクタイを贈る場合、勿論、単なるプレゼントとして贈る場合もあるでしょうが…少なくとも私から一成さんに贈るのであれば、やはりそれなりの"意味"が含まれております。そして私は当初、これを一成さんにお渡しする際に、一つの意味を考えておりました」


 沙羅さんは少し照れ臭そうに微笑みながら、少しだけ俯くような仕草を見せる。その可愛らしい仕草に思わずドキっとしてしまい…またしてもそれが伝わってしまったのか、沙羅さんは俺の首に回していた手を片方だけ離し、そのまま後頭部を丁寧に優しく撫で始める。


「私は、あなたに首ったけ…という意味です」


「あ…」


 そうか…そういうことか…


 ネクタイは首に締める物だから、単純に首繋がりの意味で首ったけ…そしてそれを女性が男性に贈るということは、一種の告白としての意味があるということか。


「あなたに首ったけ…私は本当に、あなたが愛しいのです。この愛しさは、どうすれば余すことなく全て伝わるのか…何をしても、どんな言葉を並べても、それでも私の心にある、あなたへの愛しさが伝わりきれない、伝えきれていないのではないかと…ヤキモキしてしまうのです」


「…沙羅さん」


「あなたが大好きです…あなたを愛しております、心からお慕いしております…これは嘘偽りのない私の想いであり、私の本心でもあります。ですが、それを言葉だけでなく、何か他でも…少しでも表すことが出来れば。例えば、一成さんが私に下さった婚約指輪のように…」


 沙羅さんは、いつも俺に対する想いをストレートに伝えてくれる。真っ直ぐに気持ちを表してくれる。そして俺は、それに対して「何か」が不足しているなどと、そんなことは微塵も感じたことはない。

 でもプロポーズリングが、俺の想いと決意を表す「一つの形」として現れたのであれば…やはり沙羅さんも、同じように何かを求めることは自然なのかもしれない。


「一成さんが、この指輪と共に下さった私への想い…それに対する返答と言うのであれば、"首ったけ"という表現では余りにも弱い。だから私は、このネクタイの意味を、この場で言うつもりではなかった本来の意味に戻すことと致しました」


「なるほど…それで変化なんですね。やっと納得できました」


「はい。ですから改めて…私の想いと、先程のプロポーズに対するお返事を、このネクタイの意味を交えた上でお話させて頂きます。と言いましても、お返事そのものは既にしておりますが」


「ははっ…確かに。俺も今回は"改めて"でしたから、既に約束自体は…」


「ええ。ですが、こうして一成さんから正式にプロポーズをして頂いた以上、私からも正式にお返事をさせて頂きたいのです」


「わかりました」


 既に婚約を済ませている俺達からすれば、今回のこれはあくまでも形式というか、儀式的な意味合いが強い。だからお互いの気持ちを伝えあっても、それは再確認に近いものがあり…言わば答えの分かっている話でもある。


 だが…


 それが分かっているというのに…


 何だろう、この言いようのない緊張感は…


「一成さん…私はあなたと出会えたことで、世界の全てが変わりました。あなたと出会えたことへの喜びで、私自身がこの世に生まれてきたことへの喜びを感じ、あなたと共にあることが、私の生きる喜びと幸せに変わりました。つまり、私にとっての喜びと幸せは、常にあなたと共にあるのです。ですから私は、その喜びと幸せを、少しでも…いいえ、全身全霊を以てあなたに伝えたい。あなたには、私以上の喜びと幸せを感じて欲しい。だから私はこの先も、更にその先も、あなたと共に歩んでいくことで、それを為していきたいのです。何よりも、私の想いを…只ひたすらに、あなただけを愛しいと想うこの気持ちを、これからもずっと伝えさせて頂きたい。伝えさせて欲しい。ずっとずっと…ずっと…」


 沙羅さんの想いが、気持ちが、俺の心に深く深く入り込んでくる。それは本当に深く、正に心の中心とも言える程の深さに。

 そんな俺を真っ直ぐに見つめ…一瞬たりとも目を逸らさない沙羅さんの、明確なまでに"意思"の瞳が、俺の目をしっかりと捉え…目から、耳から…全身から…沙羅さんの想いが伝わってくるようで…


「そしてこのネクタイは、私が毎日あなたに結んで差し上げる物であるという意思の表れです。この先、あなたのネクタイは私に結ばせて欲しい。それは将来に至るまで…その先も、更にその先も、ずっと…ですから」


 ここまで言われてしまえば…いくら無知で鈍感な俺でも流石に分かる。

 今、使っているネクタイは登校前、朝の仕度で身に付ける物であり、そして将来は出社前…俺が政臣さんとの約束を果たした暁には、やはり朝の仕度で身に付ける物となる。それを沙羅さんが、毎日俺にしてくれるということは…つまり、生涯、共に生活をしていこうという意味であり…


「一成さん…私を将来、あなたの妻にして下さい。もちろん本音を言えば、今すぐにでもあなたの妻になりたい。そして、あなたを世界一幸せにして差し上げたい。それは私の役目であり、他の誰かに譲るなど絶対に出来ません。私は文字通り、自分の全身全霊を持って、あなたを愛し、あなたに尽くし、私の感じている幸せを、余すことなく…それ以上に、あなたにも伝えたいのです」


 沙羅さんの瞳が…違う、沙羅さん自身が、ゆっくりと俺に近付いてくる。それは手を伸ばして触れ合える位置を越え、最早一つになれる程、ゼロ距離と呼べるまで近付いたところで…


 沙羅さんが…


「一成さん…私が必ず、あなたを幸せにして差し上げますからね?」


「沙羅さん、それは俺も…むぐっ!?」


 俺は最後までそれを言うことも出来ず…いつも通り、問答無用とばかりに口を塞がれてしまう。

 後頭部に回された沙羅さんの腕に引き寄せられ、相も変わらず沙羅さんの為すがまま。


 でも…


 それを嬉しい、幸せだと思ってしまうのだから…


 やっぱり、仕方ないよな


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 今回は取り掛かりが遅かった割に、比較的早く書けました。

 やはりモチベが上がっていると、ペースも早くなりますね。

 今回は不調もあったり諸々のこともあり、せっかくのカクヨムコンだったのに、思うような更新ができませんでした。

 まぁ・・・執筆は趣味なので、このまま続けることに変わりはありませんけど。

 次回はいよいよミスコンのフィナーレ辺りになるのではないかと思っています。

 まだ使われていない質問も登場するので、もう少しかかるかもしれませんが・・相変わらず長いですね(^^;


 前回、キスが未遂に終わったので、もう無いと思った方・・・甘いです(爆)


 それではまた次回~

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