第337話 婚約とは
「ん…」
普段よりも、少しだけ短かったような…
それでも、沢山の気持ちが籠っていたような…
そんな"想い"に溢れる、心からのキスを交わし…沙羅さんはゆっくりと顔を離す。
俺の後頭部に回されていた手も同時に解かれ、沙羅さんの切な気な瞳が、俺の目をじっと見つめ…先程まで繋がっていた艶のあるその唇に、何となく視線を奪われたその瞬間…
「「ぐ…」」
「「き…」」
「…対、衝撃音防御」
「…いや、それって単に耳を塞ぐだけじゃ…」
「…夏海さん、早く!!」
「…………」
「西川さんも、黒くなってる場合じゃないですよ!!」
「…あわわっ」
「…満里奈さん、こっち!!」
…………
「「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」
「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」
「うわっ!?」
「っ!?」
信じられない大音量の慟哭と悲鳴(歓声?)が客席から放たれ、しかもそれを、マイクが一気に増幅してしまう。もはや何が何だかよく分からない、混成された「声」という名の音波が、この学校全体を包み、それを軽く飛び越え、このエリア…いや、この街全体すら飲み込んでしまったような…って、これはそんな悠長に考えている場合じゃないぞ!?
「さ、沙羅さん、大丈夫で…わぷっ」
「一成さん、こちらへ」
咄嗟に沙羅さんを抱き寄せようとしたものの、それよりも早く伸びてきた腕によって、俺は頭を思いきり引き寄せられてしまう。突然のことに何一つ反応出来ないでいると、俺はそのまま避難先…安らぎと幸福と柔らかさ(?)に満ち満ちた、俺専用の天国に思い切り押し込まれてしまい…
ぎゅ…
「むぐっ!?」
しかも俺の耳を塞ごうとしているらしく、沙羅さんは後頭部までしっかりと腕を回し、深々と頭を抱き込んでしまう。つまり俺の顔は、もうこれ以上ないくらい、深々と天国の中心に…
顔いっぱいに広がる沙羅さんの温かさ、甘い匂い、そして大きく柔らかい何かがフルコンボとなって俺を襲い、きっとその光景を端から見れば…場所も弁えず、とんでもないことをしている男の図…と言ったところなんじゃないかと思う。
でもですね、今のタイミングでそんなことをされてしまいますと…
「「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」
「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」
まぁ、こうなりますよねぇ?
分かりますとも…ええ。
「どこに顔を突っ込んでんだ、テメェェェェェェェェ!!!!!」
「いい加減にしろやゴラァァァァ!!!!」
「くそぉぉぉぉ!!!!! 羨ましいぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「…きゃぁぁぁぁ!!! 薩川さん、大胆!!!!」
「…うわっ、うわっ、あんなに深く入っちゃうの!!??」
「…ふぉぉぉ、薩川さん、それは男殺し!!!」
「あーあ…どうすんの、これ?」
「ふふ…ごめんなさいね。沙羅ちゃんは一成くんのことになると、周囲が全く見えなくなっちゃうから」
「いや、それはもう、よぉぉっく分かりましたけど…つか、あれはいくら何でもキャラ変わりすぎじゃないですか?」
「そうねぇ、私も最初は驚いちゃったけど…でも、それだけ…」
「高梨くんが特別ってことですか?」
「そういうことね♪」
そんな俺達の状況を尻目に、ご機嫌な様子の真由美さんと、あからさまに呆れを滲ませている、みなみんのやり取りが続く。
ちなみに俺だって、現状を理解していない訳ではないが…沙羅さんの甘やかしが余りにも心地よくて、ついついそれに甘えたくなってしまうのです。これはもう仕方ないことであり…俺も男ですから。
「ところで真由美さん…本当にいいんですか?」
「あら、何のことかしら?」
「いや、あんなにしっかりとした婚約指輪を受け取っちゃったら…」
「あぁ、そのこと。それなら別に問題ないわよ?」
「問題ないって…確かにウチらの年齢じゃ、結婚の話なんて真に受ける必要はないのかもしれませんけどね。でも曲がりなりにも、あれを"婚約"指輪として受け取っちゃったんですよ? しかもかなりしっかりした物っぽいですし…」
「そうね。一成くんのことだから、その辺は妥協しないで精一杯頑張ってくれんだと思うわ。もう…本当にいじらしいんだから…可愛い♪」
「!?」
今、ゾクゾクっと…得体の知れない何かが背中に走ったような!?
しかも見えている訳じゃないのに、何故か真由美さんから猫可愛がりされている自分の姿が目に浮かんでくる!?
コレハ、イッタイ、ナニゴトデショウカ?
「か、可愛いって…そんな悠長なこと言ってる場合じゃないですよ? さっきの様子を見るに、あの二人は本気で結婚とか考えていそうな気もしますし…」
「そ、そうです!! 言うに事欠いて婚約だ結婚だなどと…意味も分からず、おままごとで騒いでいる子供のようですね!! そういうことは、もっと然るべき手順を踏んでからの話でしょう!? 安易に言っていい言葉ではありませんよ!?」
もう絡んでくることはないだろうと思っていたのに、まだ性懲りもなく絡んでくるのか、あいつは?
しかもあれは、もう半ばヤケクソというか…噛みつけるものであれば、何でも構わないとさえ思っていそうな、そんな自棄になっている気配すらある。
本当に面倒臭いヤツだ…
「全く、そんな取って付けたような話で同棲の件を誤魔化そうなどと、実に小賢しく愚かで笑えてしまいますね。最早これは、誰が何と言おうと不純異性交遊そのものであり、倫理的に許されることでは…」
「ん~? でも一成くんと沙羅ちゃんはとっくに婚約済みだし、私達も公認の上で同棲してるんだから、別に問題はないと思うけど。ね、沙羅ちゃん?」
「…は?」
「…へ?」
「そうですね。私達は両家で公認された正式な婚約者ですから、同棲であろうと何であろうと、全くもって問題ないと思いますよ?」
「「…ぁ?」」
さも当然とばかりに告げられた最大級の真実に、みなみんとタカピー女が声にならない声を上げる。
しかもそれは、客席で俺にヤジを飛ばしていた連中の声も、その他大勢の騒ぎ声も、全て綺麗サッパリと消し去り…この辺り一帯を、とても屋外とは思えない程の静寂が…
「うひゃひゃひゃ!!! 見て見て、あの楠原のマヌケ面!!! 写メっとこっと!!!」
「悠里ぃ、お願いだから静かにして!!」
「何でこういうタイミングに限って声を出すの、あんたは!?」
…静寂が辺りを包み込む!!
俺には何も聞こえなかった。だからその表現で問題ない!!
「せ、正式に、婚約…済み?」
「さ、薩川さん…まさか、ひょっとして…全部、最初から…?」
「ええ。婚約についての話でしたら、もう以前から決まっていたことですよ。私達は既に結婚の約束を交わしておりますし、お互いの両親から同意を得ています」
「は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!? 私達ってまだ高校生だよ!!?? そ、それなのに…薩川さんと高梨くんって、まさか、本当の、本当の、本当に!!??」
「はい。全て本当の話です。私達は結婚を前提とした正式な婚約者であり、現在はそれを踏まえた交際をしている真っ最中です。ですから同棲についても、将来に向けた真剣なものであり…先程から煩く喚いているそこの方の話は、全くもって見当外れだということになりますかね?」
「っ!?」
突如、沙羅さんから矛先を向けられ、本日何度目か分からない"だんまり"状態に突入するタカピー女。
でも本音を言えば、「婚約済み」という決定打については、最後の最後にトドメとして俺が宣言したかったことなんだが…まぁ仕方ない。
これで、あいつにとって唯一の攻め所だった「同棲による倫理的な問題」を潰したことになるだろうし、後はこのまま一気に畳み掛けてしまえば…よし、ここは俺も!
「沙羅さん」
「はい、一成さん」
俺が一言、名前を呼ぶと…沙羅さんは直ぐに意図を理解したようで、そっと腕の力を弛め…るその瞬間、名残惜しそうに、ぎゅっと思いきり抱き締めてくれたのはご愛敬。
「もぅ…沙羅ちゃんたら。少しくらい状況を考えてあげなさいよ? こんなときにいつまでも抱っこされていたら、一成くんも体裁が悪いでしょ?」
「そ、そうですね…申し訳ございません、一成さん」
「え、いや、その、俺も思わず甘えてしまったと言いますか…」
「一成さん…」
とても嬉しそうに微笑む沙羅さんの瞳に、思わず目を奪われてしまいそうになってしまい…でも残念なことに、今はあの煩いタカピー女を黙らせることの方が先決。
それに、もう最終カードを切ってしまった以上、客席を含めて一気に攻めきるしかない。
だから…ここは!
「なぁ…こっちが黙って聞いてれば、さっきから随分と知ったような口を利くけどさ。あんたが得意気に言ってる倫理だ不純異性交遊だってのは、俺達みたいな結婚を前提とした関係でも適用されるのか?」
「そ、それは…」
「もちろん学校的な話で言うなら、それは然るべき人に聞いてみなけりゃ分からない部分もあるさ。俺達が絶対に大丈夫だと思っていても、まだ未成年だってことに間違いはないし…ひょっとしたら、その辺に何か決まりがあったりするのかもしれないからな。でも倫理的にって言うのであれば、俺達は正式な婚約者であり、両親からも許可は得ている。結婚についても本気だから…」
「あ、そのことなら気にしなくてもいいわよ? 学校には二人が一緒に住んでいることを報告してあるし…まぁ、婚約者だってことは、正式にはオフレコだったんだけど…もうこの際だから、別にいいかしらね」
「あ、やっぱそうだったんですね? …ってことらしいが、これで満足したか?」
「く、ぐぅぅぅぅぅ」
もっと厳密に言えば、「世間的にどうなのか?」という点についてだけは、確実に大丈夫と言い切ることはできないんだけどな。
でも俺達が正式な婚約者であり、結婚前提の真剣な交際である以上、少なくとも他人に文句を言われる筋合いはないと思う。
ちなみに…婚約前から同棲していた事実については、気にしない方向で。
「なぁ…いつまで続けるつもりだ?」
「な、なんですか突然、藪から棒に…」
「何であんたが、ここまでムキになるのか分からないけど…これ以上俺達と対立して、あんたに何か良いことでもあるのか?」
「…っ」
「周りを見てみろ。あんただってとっくに気付いてるだろう? 今、自分を応援してくれる人がいるのか? あんたの名前を呼んでくれる人がいるのか?」
自分の評価が地に落ちてしまったことも、既にミスコンで優勝する目が残っていないことも、これ以上俺達に言い掛かりをつける余地がないことも、こいつは全て分かっている筈。それなのに、まだ俺達へ悪意をぶつけることを止めようとしないのは…もう後へ引けないからというヤケクソ感や、或いは、例え僅かでも自分の主張が正しいことを証明して、立場の改善を図りたいとか…大方、そんなところじゃないのか?
でもそんな下らない、無意味な理由でまだ止めないと言うのであれば…
今度こそ、ぐうの音が出なくなるまで追い詰めて、最後に最大級の恥を掻かせるしか道はない。
だからこれは…俺にとっての最終通告だ。
「もうこれ以上やっても意味は無い。俺達が結婚を前提に交際している事実と、学校からの正式な許可がある限り、あんたの理屈は全て通らないんだよ」
「…く…ぅぅぅぅ」
ここまでで最大級の悔しさを滲ませ…あからさまに肩を落とし、大きく俯く
タカピー女。
少なくともプライドはへし折ってしまったかもしれないが、最後の最後まで追い詰め無かっただけでもありがたいと思えよ。それに、こっちはお前一人だけに構っている場合じゃないんだ。
ここから先は、当初の計画通りに…
「それと…これはこの場にいる全員に聞いて欲しい!! さっきから俺達が話をしている通り、俺と沙羅さんは本当に婚約をしてる!! それはお互いの両親も認めてくれたことであり、俺はもう、それを見据えた上で進路まで決めているんだ!! そしてそれが全部落ち着いたら、その時点で俺は沙羅さんと結婚する!! これは嘘でも冗談でもない!! 俺達は本気だ!!」
本来であれば、この話は指輪を渡した直後にしようと思っていた。
俺達がどれだけ本気で考えているのか、婚約がどこまで現実味のある話なのか、それをキッチリと伝えておかなければ、指輪の意味も俺の行動も安易に取られてしまうと分かっていたから。
でも結果的に、ここまでの流れが、それらを全て裏付ける証拠になってくれた訳で…だから、この話をするなら今のタイミングを置いて他に無い!!
「ふふ…畏まりました」
「…沙羅さん?」
「いえ…一成さんが、明確に結婚のタイミングを考えていらっしゃることが分かりましたので」
「え……あっ!?」
しまった…つい勢いで、余計なことまで言ってしまったかも…
具体的な話については、実際その時になってみなければ分からないだろうから、俺としても漠然と「そのくらいの時期になるだろ」くらいで考えていただけなのに…
しかも、沙羅さんに何の相談もしないで勝手に言い切ってしまったし、これは幾らなんでも先走りすぎた。
「す、すみません沙羅さん。これは、何となくそのくらいかなって、俺が勝手に思っただけなんで…」
「いえ。私としましても、結婚の時期については一成さん次第になると考えておりましたので…特に問題はございませんよ?」
「え? あの、沙羅さん。それは流石に、二人で決めた方が…」
「ふふ…ご安心下さい。これは依存しているという意味ではなく、単に就職その他を鑑みて、私よりも一成さんの方が忙しくなるだろうと考えたまでです。そうなれば、結果的にお任せすることになるのではないかと」
「あ、そういう…」
「はい。ですから結婚の時期については、最終的にお任せすることになると申したまでです。ですが、一成さんが就職を一つの目安としているのであれば、私もその心積もりでおりますね?」
「りょ、了解です。でも、やっぱり気が早すぎませんか?」
「そうでしょうか? 私達は実際に婚約をしているのですから、極端な話、再来年には結婚することも可能ですよ?」
「そ、そう言われてみれば、確かに…」
何となく「将来」という言葉で、まだまだ先の長い話だというイメージがあったが…確かに沙羅さんの言う通り、既に婚約までしている以上、俺が18歳になった時点で結婚することも出来るということになる。
勿論そういうことは、俺がしっかりと収入を得て、生活に必要な基盤を確立させてからだと思うけど…でも結婚しようと思えば再来年にも出来てしまうと考えたら、一気に現実味というか、強ち気が早いとも言い切れないような。
「んふふ~、それは良いこと聞いちゃった!」
「は? 何故そこで、お母さんが喜ぶのか分かりませんね?」
「え~…だって、一成くんが就職したら、二人は結婚するんでしょ?」
「それはあくまでも目安というだけですよ。一成さんの考えているご予定としては、そうなるのかも…くらいの話です。それが一体なんだと…」
「ということは、思ったよりも早く、孫の顔が見れそうだなぁ…って!!」
「「…は?」」
沙羅さんと俺の声が、まるで示し合わせたようにピッタリと重なる。
今一瞬、自分が何を言われたのか、全く理解出来なかったんだが…真由美さんは何を言った?
孫?
一体、何の話を?
「お母さん、一体、何の話を…」
沙羅さんも理解が追い付いていないようで、訝しげに真由美さんの顔を眺めながら、何度も何度も瞬きを繰り返す。
でも段々と…何故か顔が朱くなってきたような…
「え? だって結婚をしたら、その次は当然、子供の話になるでしょ?」
「いや、それは…」
「そ、そうかもしれませんが、そういう話は幾らなんでも早すぎでしょう?」
「んふふぅ…子供は一姫二太郎って言うけど、お母さんは断然、男の子がいいと思うわ!」
「で、ですから、何でお母さんがそういうことを言うのですか!?」
ちょ、ちょっと待て。何だこの流れは!?
突然、真由美さんは何の話を…しかも理由は分からないが、何故か暴走モードに入ってるような?
まさかとは思うが、男の子が欲しかったという自分の夢を、沙羅さんに託すつもりでそんなことを…いや、いくらなんでも、それは流石に考えすぎか?
「沙羅ちゃんだって男の子が欲しいと思わない?」
「な、何でそうなるんですか!?」
「え~? でも自分の産んだ赤ちゃんが、一成くん似の男の子だったら…沙羅ちゃんだって嬉しいでしょ?」
「えぇぇっ!? そ、それは…その…えっと…」
突然恥ずかしそうに俯きながら、チラチラと俺の様子を伺ってくる沙羅さん。
と言いますか、そんな仕草をされてしまうと、真由美さんの言っていることが図星だと認めているようなものなんですが!?
「んふふ~…一成くんはどう思う?」
「うぇぇ!? そ、そんなの分かりませんよ!? 考えたこともないし!!」
「沙羅ちゃんは男の子が欲しいって言ってるけど…一成くんは男の子と女の子、どっちがいい?」
「だから、そんなこと急に言われても分かりませんって!?」
「お、お母さん!! 私はそんなこと、まだ一言も言っていませんよ!?」
「あ、やっぱり男性としては、女の子の方が欲しいと思うものかしら? 一成くんはどう思う?」
「だから、俺はそんなこと分かりませんって!! …でも、どちらかと言えば、やっぱり俺よりも沙羅さん似の可愛い女の子の方が…」
「ねぇ高梨くん、心の声がモロに漏れてるからね?」
「はわっ!?」
し、しまった、思わず本音が漏れ…じゃない!!
これは単に、どちらがいいかと聞かれれば、俺に似た男の子よりも、沙羅さん似の女の子の方が絶対に可愛いくなると思っただけで!!
それ以上の深い意味なんて、これっぽっちもないんだからね!!
「か、一成さん…」
「さ、沙羅さん!! これは、その…何と言いますか…」
「…は、恥ずかしいです…一成さんの、ばか…」
「ぐはっ!?」
只でさえ照れ臭い状況なのに、真っ赤な顔で恥ずかしそうに俯いて、しかも小声で呟くとか…沙羅さん、それは余りにもズルいです。卑怯です…可愛いです…
「あのですね、俺は単に…」
「その…一成さん? 私は男の子とか女の子とか、そんなことは関係なく…いつか…」
「うっきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! いい加減にしろやぁぁぁぁぁぁぁ、この超絶先走りバカップルがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「はっ!?」」
天をつんざく、みなみんの凄まじい怒声を直で全身に浴び、俺は一瞬で我に返る。
そしてそこに待っていたのは、もはやキャラが崩壊した…もとい、色々と"何か"を失ってしまった、鬼(みなみん)の姿。
「高梨くんが真面目に話を始めたから、こっちは黙って聞いてたのに…いつまでイチャついてんのよ!!?? この超絶バカップルが!!!!」
「ご、ごめんなさい…」
「すみません…」
「て言うか、これどーすんの!!??」
「…これ?」
ビシィィィっと、激しい効果音が聞こえてきそうなくらい、鋭く指し示されたみなみんの指先を視線で追いかけていくと…そこにある光景は…
光景は…
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ、分かってたぁぁぁぁ、そりゃ分かってたけどさぁぁぁぁ!!!」
「そうだよなぁぁぁぁ、同棲してるんだもんなぁぁぁぁ、そりゃそうだよなぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぁぁぁぁぁぁぁ…もう子供の話をするくらいの関係…薩川さんがぁぁぁぁ!!!」
「神は死んだぁぁぁぁぁ!!!」
「さ、薩川さんと…同棲…結婚の約束…つまり、もう何があっても責任を取れるってことですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」
「言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、それだけは言うなぁぁぁぁぁ!!!!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「赤ちゃんだって、赤ちゃんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「薩川さん、高梨くん似の赤ちゃん欲しいって!!!!!」
「違うでしょ!!! 高梨くんが、薩川さんに女の子の赤ちゃん産んで欲しいってことでしょ!!??」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! ストレートすぎぃぃぃぃぃ!!!」
「もう、やだぁぁぁぁぁ!! 高梨くんったら、ダイタン!!!!!」
うわぁ…これ、どうしよう…
最初からミスコンをぶっ潰すつもりだったので、騒動自体は別に問題ないんだが…それでもこんな話の内容で騒動になることは、全くもって想定外だ。
しかも観客の声が大きすぎて、自分が何を言われているのか、スピーカー越しにハッキリと聞こえてくるんですが…
って言うか…
沙羅さんに女の子の赤ちゃんを産んで欲しいなんて、そんなこと言った覚えは微塵もないんですけど!?
「んもぅ、一成くんも沙羅ちゃんも大胆ねぇ」
「ちょっ、これは真由美さんのせいでしょうがっ!?」
「そ、そうですよ!! お母さんが変なことを言い出すから!!」
この状況を作り出した元凶の癖に、しれっとまぁ…
全く悪びれた様子のない真由美さんに、俺は元より、流石の沙羅さんも焦りを隠せないらしい。それにこんな話題をいつまでも続けられてしまったら、話がどんどん膨らんで、明日から俺がどんな目で見られてしまうのか…想像しただけで怖い。
主に女子から…
「変なことって…これはとても大切なことでしょう? それじゃあ沙羅ちゃんは、一成くんの赤ちゃん欲しくないの?」
「誰もそんなこと言ってないでしょう!? そういう話はまだ早いというだけで、一成さんの赤ちゃんなら私が…」
「さ、沙羅さんっ!!??」
「はっ!?」
「「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」
「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」
無意識だった(だよな!?)沙羅さんのトンデモ発言に、またしても客席から、大きな慟哭と黄色い悲鳴があがる。
しかも当の沙羅さんは、もうこれでもかと言うくらいに顔を真っ赤にしていて…それがどういう理由によるものなのか、俺には全く分かりません。本当です!!
「真由美、いい加減にしなさい」
「「「っ!?」」」
「あら、あなた?」
そんなカオスと化した会場に、どこか馴染みのある男性の声が、妙にハッキリと聞こえてくる。嫌な予感を覚えつつ周囲を見渡せば、ステージ傍の空きスペース…先程から何度も乱入者が現れているその場所に、いつの間にか現れていた人影。
場違いなまでにピッシリとしたスーツ姿の出で立ち、ただ立っているだけなのに、凛々しさを…独特のオーラすら感じさせるその姿は、何処となく沙羅さんを彷彿とさせるような、正に「出来る男」の理想像。
その人物とは勿論、言わずと知れた…
「ま、政臣さんっ!!??」
「お父さん?」
そう…今日に限って言えば、この場に居て欲しくなかった人ナンバーワン!!
沙羅さんの実父、俺の将来の義父。
と言いますか…
何でここにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!??
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
お待たせしました。
少し復調してから見直してみたら、まぁ~台詞の酷いこと酷いこと。
無理やり更新しなくて良かったと、つくづく思いました。
でも、カクヨムコンの締め切り前に更新したかったのが本音ですが・・・まぁ、今回は(も)最初から無理だと思ってますので(^^;
執筆は私の趣味ですからね~
今回はちょっと騒ぎが多くなりすぎて、特に終盤は予定していなかった下りだったんですけどね・・・書いていたらいつの間にかそんな流れに。
真由美さんもやり過ぎてしまいましたが、皆さん、怒らないであげて下さい(ぉ
ではまた次回
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