第42話 俺のこと

「如何でしょうか?特にこれといった特徴はなかったと思いますが」


「そんなことはないです。今まで知らなかった先輩のことが色々聞けて嬉しかったですよ。普段の話が聞きたかったんですから、特徴とか関係ないです。」


うん、今まで聞かずにいたことや、スルーしてしまっていたことが色々聞けたのは大きい。


それに…先輩と手を繋いでしまった…実はまだ離してないんだけど、どうしよう…


そう思っていると、先輩がゆっくりと手を離し姿勢を正した。


「何か他にお聞きになりたいことがありますか?今でなくても、今後何かありましたらいつでもお聞き下さいね。」


ない訳ではないが、興味本位の話ばかりだし、また気になったときに聞けばいいだろう。



「では、次は俺ですね。と言っても俺は本当に何もないんですよ。むしろ、沙羅先輩から知りたいことや気になったことを聞いて貰った方が早いかもしれません。」


「ふふ…それでは、普段どんな生活をしているのか教えて下さいね。」


俺は普段のこと…といっても、家ではゲームやマンガ、ネットがメインであることを話た。


両親は実家にいること、家の事情で一人暮らしをしていることにした。

学校でも、クラスでは上手くいっていないことだけにしておいた。

そのくらいなら前も言ったしな。


家事に関しては、必要最低限はこなしていることを伝えた…最低限はしてる…と思う。

男の独り暮らしなんてそんなもんだろ?

飯については危うく全てインスタントや外食、コンビニであることを言いそうだった。


「親戚の方が来て下さるのでしたよね?」


これを先に言われて、そういう設定だったのを思い出した。

いや、別に俺の自由だし、本当は隠す必要はないんだけど…


そして、次の質問をする前に、先輩が少し真面目な表情に変わったのがわかった


「これは、もしお話されたくなければ無理にお聞き致しません。中学生の頃のお話は如何でしょうか?」


やっぱり、そこは気になるところだよな。俺も中途半端に話していたし。


でも…正直言いたくない理由がある…特に女性である先輩には。


柚葉のことは本当にどうでもいいが、先輩に嫌な気分になって欲しくない…せっかく楽しんでいるんだ。

触りだけ上手く説明できるだろうか…


「先輩…すみませんあの頃の話は、俺以外のやつの事情が絡んでいるので詳しく話すことができないんです。」


「あ、でしたら無理をなさらないで下さい。私は…」


「でも…話せる範囲でいいですか?」


「…宜しいのですか?」


「はい、簡単に…ですが」


「俺には幼馴染みがいるんです。小学校までは仲が良かったと思いますが、中学に入って少し疎遠になったんです。まぁ小さい頃から色々と面倒見てきたつもりなんで、俺はそれでも心配で見守っていたんですけどね。でも、あいつは周りに影響されてどんどん変わってしまいました。見た目も言動も、正直俺の嫌いなタイプになってしまったんです。でも、そこは本人の自由ですから、俺がどうこう言う筋合いはないんですけど。」


先輩は黙って聞いてくれている。

俺は話を続けた


「そんなときにあいつのことで見過ごせないことを偶然ですが知ってしまって、俺がそれに怒って元凶を殴ったんですよ。それが原因でその後色々あって、周りからハブにされて、そのまま中学校生活を過ごすことになったってことです。」


実際には、柚葉の嘘で犯罪者扱いされてクラス中から非難されたんだけどな…

でもそこまで話す必要はないよな


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話せないことを避けながらお話されているでしょうから、実際にはもっと色々複雑だったことは間違いないでしょう。


辛いのにここまで話して下さったのです…

この先、もうこのお話を蒸し返すことは止めましょう。

もしいつか、高梨さんが全てお話してくれるときがきたなら、どんな内容であろうと私は受け止めますよ…


ですが、一つだけ気になることが…これだけは


「…一つだけ気になったのですが、高梨さんがそんな状況になったというのに、幼馴染みさんは何をしていらしたのですか?」


「あ〜、あいつは俺のせいで迷惑を被ったと思っていたでしょうからね。殴った辺りの話は多少関係があったので。その後かなり揉めて、結局無視されてました。」


お話から察するに、高梨さんが怒ったのは恐らく幼馴染みさんに関する何かがあったからでしょう。

詳しい理由はわかりませんが、優しい高梨さんが人を殴るなど、余程のことがあったはずです。

幼馴染さんも、そのくらいは考えなかったのでしょうか…?


でも、事実として寧ろ非難する側に回ったと…


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「そうでしたか…すみません、詳細がわからないので安易なことは言えませんが…でも、これだけは言えます。私は高梨さんの味方です。これだけはハッキリとお伝えしておきますね。」


先輩ならそう言ってくれると思っていた。

こんな曖昧な説明だったのに、それでもそう言ってくれる先輩の気持ちが嬉しい。


実際、俺は間違っていたとは思ってない。


「殴られて当然」という言葉があるなら、むしろ殴るだけでは済まないことだったと俺は考えている。


「……私は、その幼馴染みさんと仲良くはできないですね…」


先輩が無表情でポツリと小声で何か呟いた…

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