第41話 沙羅のこと
「少し順を追ってお話しましょうか。何かお聞きになりたいことがありましたら仰って下さいね」
先輩はそういうと、俺が店の中で知らないと言ってしまった辺りのことから話を始めた。
夏海先輩と同じくらい仲の良かった園芸部員の友達がいたこと。
その友達が引っ越しで園芸部員がいなくなり
、花壇のお世話をする人がいない為、沙羅先輩が引き継いだこと。
俺が初めて花壇に行ったときは、先輩が風邪で数日休んでしまっていたタイミングだったこと。
そして話は、先輩個人の話に移った
「家族構成としては、父、母、私の三人です。あとは、高梨さんもご存知ですが、近所に母方のお祖母ちゃんがいます。父方は既に亡くなっております。」
そこから先輩は、昔から男子が苦手だったこと、中学の頃から酷くなったこと、高校で嫌気がさしたこと…勉強等を頑張っていたことや生徒会に入った経緯なども聞いた。
「なんか、沙羅先輩も周囲に嫌気がさして今のスタンスになってしまったとか、気持ちがわかるような気がしますよ。」
「以前お話したときに、何となくですが私と高梨さんは似ているような気がしたのです。」
そして、普段の話をしてくれた。
「趣味は特にないとお話しましたが、最近は、料理に関する時間が増えたのです。新しいメニューをチェックして、作り方を調べたり練習することが少し多くなりました。男性の好むメニューをあまり知らなかったので、新しいレパートリーが増えて楽しいです。」
男向けの料理を練習してるって、それはつまり俺の為なんだよな
俺の為に、そこまでしてくれているのか…
「あの…いえ、ありがとうございます。そこまでして貰っていたなんて、申し訳ない気持ちもあるんですが…本当に嬉しいです。」
「私は楽しんでやっておりますので、それで高梨さんに喜んで頂けるのであれば、言うことはありませんよ。」
先輩は料理が本当に好きなんだな。
そして今は料理が趣味と言えなくもないくらいだと…
ならプレゼントはやっぱり料理に関することだろうな。
道具は使いなれている物の方がいいという話も聞くし、であれば道具ではなく料理のときに使えるものや身に着けるもの……うん、決めた。
エプロンにしよう。
先輩好みの、可愛いエプロンを探すんだ!
それにさっき見つけたものも、買ってしまえ!
「ふふ…どうかなさいましたか?嬉しそうなお顔をされていますよ?」
「い、いえ、本当に嬉しかったので。」
プレゼントが思い付いたことで、思わず顔に出てしまったようだ。
すると先輩が、テーブルの上にあった俺の手に自分の両手を伸ばした…
そして、そっと触れた
「……私は今、学校生活がとても楽しいのですよ。高梨さんと夏海と私…朝の登校も一緒、お昼ご飯も一緒、こうしてお休みの日にお買い物や遊びに行くこともできる。周囲が変わらなくても、それが気にもならない楽しいと思えることができたのです。」
先輩が本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた
俺は、少なくとも先輩の幸せの要素の一つになれていることが嬉しい…この笑顔を守りたいと改めて思った。
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「………あの…夕月さん…」
「…言わないで、わかってるから…」
うん…私たちお邪魔だよね…
別に絡んでる訳じゃないから直接邪魔はしてないんだけど、それでもお邪魔虫のような気がしてどうにも…
橘くんもそう思ってるんだろうから、気まずさを隠せなくなってるんだよね。
なぜここまでムードを作れて恋人じゃないんだろう…
というか、これで本人達はまだ友達のつもりなんだから…実際に恋人になったらどうなるの?
考えるのが恐ろしい…しかもそれをいつも目の前で繰り広げられるとか…うん、これは苦労を分かち合える犠牲…もとい協力者が必要だよね?
「ねえ橘くん。あの二人を今後も見守るには、私一人では荷が重いと思うのよ。」
「いや、俺は学校も違うんでさすがに…」
「取り敢えずRAINの交換をしようか。はい、スマホ出して」
「えっ?今ですか!?」
「橘くんは運がいいね。私のRAINなんて、知りたくても知ることができない子は多いんだよ。嬉しいでしょ?」
「……はい。」
よしよし、友達は色々と分かち合わないとね
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