第43話 強引でも
「ありがとうございました。答えづらいお話を聞いてしまい、申し訳ございませんでした。」
「いえ、俺こそ上手く言えなくてすみません…」
せっかく楽しい時間だったのに、少し盛り下がってしまったかな…
「高梨さん、お買い物の続きに行きましょうか?」
「そうですね、話はこのくらいで。」
ちょっと…気分を盛り上げる何かがあれば…
そんなことを考えていた俺に、先輩が近付いてきた。
まるで最初からそうすることが当然だったように俺の手を握り、そのまま歩き出した
って、手を握ったまま歩くの!?
「ふふ…私達はお互いのことをお話して、もっと仲良くなれましたよね?私は今とても嬉しいのです。ですから…このままで宜しいですか?」
先輩がこちらを覗き込むように笑顔を浮かべて、握った手を少し持ち上げた。
これはきっと、気落ちした俺に先輩が気を使ってくれたんだと思う。
そんな先輩の優しさが嬉しかった。
「はい!先輩が宜しければ俺はこのままで」
「では、このままお買い物の続きに戻りましょう」
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「さて…あの二人は大丈夫そうだし、もういいということにしようか…これ以上は色々な意味できつい」
「そうですね、俺は正直この前の一件があったんで心配してたんですが、これなら大丈夫そうですね…かなり」
「それじゃ帰る前に、休憩がてら少しお茶でもしていこっか…疲れたし。私達も手を繋ぐ?」
「いやいやいや、冗談言わないで下さい」
「冗談なのは事実だけど、その言い方はつまらないな〜」
ま、あとは二人でごゆっくり〜
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先輩に気を使われたままなんて、情けなさすぎだろう俺は…
そう思った俺は、多少強引にでも目的を一つ果たすことにした。
「先輩、ちょっと行きたい店があるんで、ついてきて下さい」
「はい、お好きなお店へどうぞ。」
少し手を引き、先導するように先程見つけたお店に向かう
えーと…確かこの辺…ここだ。
「え…と、高梨さん、ここはレディースのお店なので」
「はい、わかってますよ。大丈夫です、間違っていませんから。」
それを伝えると、そのままお店の中へ入る
「いらっしゃいませ〜」
先輩と同系統の服装を着た店員が挨拶して近付いてきた
「何かお探しのものがあれば、仰って下さいね」
店の中には女性客が数人いたが、みんなこちらを…正確には先輩を見て固まっている
まぁ…似合いすぎて、この店のファッションモデルみたいに見えるもんな。
気持ちはわかる。
俺はもう目的を決めているので、帽子のコーナーを探して先輩をつれていく。
「すみません先輩、少しだけじっとしていて下さいね。」
「は、はい…?」
俺の感覚になってしまうが、先輩に似合うと思ったベレー帽をいくつか手に取り、先輩の頭に軽く乗せてみる。
どれも先輩の綺麗な長い黒髪によく似合っているが、その中でも一番いいものを見つけたい。
そして、サイドに大きなリボンをあしらった、可愛いベレー帽を乗せたとき、俺はこれしかないと思った。
「沙羅先輩…俺は先輩にこの帽子をかぶって欲しいです。」
そう伝えると、沙羅先輩を姿見の前に立たせた
ちょっと戸惑っているような、気恥ずかしそうな様子の先輩が写る
「は、はい。あの、高梨さんがそう仰るのでしたら、私は別に」
「なら、これを俺からプレゼントさせて下さい。使って欲しいです」
「え!?いえ、そんなプレゼントなんて」
先輩はお弁当箱を買ったことでプレゼントは貰ったと考えていただろうから、遠慮することは当然想定内だ。だからさっさと買ってしまう。
近くにいた店員に声をかけた
「すみません、この帽子をこのままかぶっていきたいので、お会計だけお願いします。」
「はい、ありがとうございます。あら〜凄いですねぇ、お似合いなんてものじゃないですよ。彼氏さん、センスありますねぇ」
「あの、高梨さん…」
店員さんは、タグを取るとレジに向かったので、俺はそれについていき、会計をすませてしまう。
「ありがとうございました…彼女さん凄いですねぇ。あんなに可愛いと彼氏さん大変ですね色々と」
まぁそう思われるよな。
でも違うんだよ、それに俺はそこにこだわってないから
「友達なんですよ。」
「え!?…そうでしたか、では頑張って下さいね〜」
「どうも。」
会計を済ませ、先輩の元へ戻る。
「お待たせしました沙羅先輩」
「あの…この帽子は…」
「先輩、あのお弁当箱とは別に貰って欲しいんです。絶対に似合うと思っていたんですよ。俺のワガママですが、先輩にかぶって欲しいです…」
「高梨さん……はい、素直に受け取らせて頂きます。ありがとうございます…大事にしますね。」
本当に…破壊力が倍増した先輩の笑顔は、俺だけではなく周辺に甚大な影響を及ぼしていた。
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