第44話 今度は俺が

少し移動して、最初の雑貨屋の近くで意図的に御手洗いを打診した。

日曜日なので少し並んでしまっているが、都合がいい。


俺は急いでその場を離れ店に入り、エプロンのコーナーへ急ぐ。


色々なエプロンを見ていくと、弁当箱のイラストに何となく似ている、可愛い動物のデフォルメイラストが散りばめられたエプロンを見つけた。

直感的にそれを手に取り、会計を済ませる。

ちょっと可愛い袋に入れて貰った。


急いで戻り、少しだけ待つと沙羅先輩が戻ってきた。


「申し訳ございません、混んでいまして…」


「いえいえ、最初から混んでいたのが見えてましたから。」


そして、少しぶらぶらしながら歩いていると、最初に入ってきた入口にたどり着いてしまった。


「それでは、そろそろ…」

「はい…そうですね」


俺もそうなんだが、先輩も「帰りましょうか」と言えない様子のようで、今日を惜しんで貰えているのかと思うと嬉しい。


だから俺は…


「沙羅先輩、今日は本当にありがとうございました。俺はこんなに楽しい休日を過ごしたのは初めてです。」


「高梨さん…私もこんなに楽しかった休日は記憶にないです。本当にありがとうございました。」


「次は、俺から誘ってもいいですか?もちろん沙羅先輩が夏海先輩も誘いたいのでしたら、三人でも俺は大丈夫です。どうでしょうか?」


「ふふ…ありがとうございます。夏海はわかりませんが、私は可能な限り予定を合わせますので、お誘い頂けるのを楽しみにお待ちしておりますね」


「では…帰りましょうか」


「はい…」


何となく物静かな帰り道だけど、笑顔の先輩が横に居れば不思議と気にならなかった。


先輩はたまに、帽子の位置を確認するように触れている。

それが微笑ましくて見ていたら、目が合ってしまった。


「あ、いえ、あの、普段帽子をかぶることがないので、かぶり方が間違ってないかなとか気になっただけでして…」


「いえ、自分で選んだものではあるんですが…本当によく似合ってますよ。」


もともとショッピングモールと駅が近いので、もう着いてしまう。

名残惜しいけど、今日はここまでだな。

朝待ち合わせしたところで、立ち止まる


俺は弁当箱を差し出す


「先輩、ではこれをお願いします。」


「はい…お預かりします。明日から、このお弁当箱で高梨さんのお昼ご飯をお作りしますね。楽しみです」


「お手数ですけど、宜しくお願いします。そしてこれは…」


俺はエプロンを差し出す


「お弁当を作るときでも、普段のお料理のときでも、使って貰えると嬉しいです。」


「え…そんな」


俺はそのまま沙羅先輩の手を取り握らせてしまう


「このエプロンは、お弁当箱とセットみたいなものです。ですから、これも一緒に受け取って貰えないと俺は困りますよ?」


「……高梨さんを困らせるなんて、私にはできませんね。ありがとうございます。これからお料理のときに使わせて頂きますね。」


先輩がエプロンをぎゅっと抱き締めるように持った


「では、本日はこれで失礼致します。また明日。」


「はい、また明日」


先輩が歩いていく姿を眺めていると、こちらを振り向いた。

俺が手を振ると、先輩も手を振り返してくれる…


明日、また先輩に会える時間が待ち遠しい…


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家に着き、着替えてからベッドに置いた帽子を改めて眺める


高梨さんから頂いた帽子です。

万が一にも汚したくありませんけど…

でも、誰かに自慢する訳ではありませんが普段も使わせて頂きたいですし

…うう、悩ましいです…


実はエプロンも同じ悩みを抱えています。

ですが、あれはお弁当や料理を作るときに使うという約束ですから…しっかりと使わせて頂くつもりです。


あ、そうです、お手入れや保管に関することを調べておきませんと…


ピロリン


RAINの着信音が鳴りました。

…夏海からですね。


「もう帰って来た?」

「はい、もうお部屋です。」


いきなり電話の着信が鳴りました。


「お疲れ」

「はい、お疲れ様です」

「目的の物は買えた?」

「ええ、可愛いお弁当箱を買って頂きましたよ。早速明日からお弁当を詰めさせて頂きます。」

「そっか、見るのが楽しみだ。そのまま帰って来たの?」

「いえ、色々なお話をして…その、贈り物を頂いてしまいました」

「そっか、ちゃんと決まったんだ」

「え?」

「ううん、こっちの話。何を貰ったの?」

「可愛い帽子とエプロンです。高梨さんが選んで下さいました…その、絶対に似合うから…と」

「そっかそっか。なら今度出掛けるときにお披露目して貰えそうかな。」

「うう…いま悩んでいるのです。普段も使わせて頂くべきか」

「え?ひょっとして普段使うのには恥ずかしい感じなぼう…」

「私が高梨さんから頂いた宝物を恥ずかしいなどと思う訳がないでしょう!」

「ひぇ!ごめん冗談だから…」

「まったく…汚したり痛んだりしてしまうのが怖いのですよ。」

「う〜ん、でも積極的に使ってあげた方が高梨くんが喜ぶと思うよ。」

「…ですよね。せめて手入れや保管面で気を付けるように致します。」

「うん、それがいいと思う。とにかく、今日楽しめたなら良かったよ。お疲れ様。ゆっくり休んでね」

「はい、ありがとうございます。ではまた明日」

「じゃあね〜」


明日の献立は…

高梨さん専用のお弁当箱に詰める最初の料理は、ハンバーグしかありませんね。

喜んで頂けるように、頑張りましょう

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