第240話 生徒総会

生徒総会当日。


体育館に全校生徒が集まる中、俺達生徒会メンバーは壇上の袖で待機していた。この総会はあくまでも生徒会のメンバーで進行することになっているので、今ここに居るのは俺達だけだ。

様子が気になり陰からこっそり確認すると、改めてその人数の多さに焦りを覚えてしまう。わかっていたことだけど、今からこれだけの人数の前で、俺達が色々と話をしなければならないのだ。


皆を見ると、緊張しているのは俺だけではないことがよくわかる。特に藤堂さんは俺以上に緊張が凄いらしく、先輩達が親身になって励ましているみたいだ。


「高梨くん、大丈夫か?」


「え、ええ。何とか…」


「俺も初めてのときはそんな感じだったよ。壇上に出ちゃうと案外何とかなるけどね。」


かく言う俺も、緊張してることに気付かれているようで、男性陣が小まめに話しかけてくれていた。正直それだけでも気分転換になっているので素直にありがたい。


この後の主な流れとしては、まず現会長が最後の挨拶をして、新会長である沙羅さんに引き継ぎを行う。後は沙羅さんから俺達役員の紹介があり、生徒から承認されれば、後はそれぞれが担当の報告を行うということになっていた。因みに俺は副会長なので、担当はないが簡単な挨拶をする必要があったり。


つまり俺には、副会長として承認を受けるという最大の見せ場(?)と挨拶があるので、今からそれを考えると本当に緊張でヤバいことになっているのだ。

無いとは思うが、もし万が一承認されないとなどという話になれば、恥ずかしくて明日から学校に来れなくなるかもしれない…冗談抜きに。


まぁそれをやったら沙羅さんに怒られるだろうけど。


余計なことを考えたせいで緊張が酷くなってしまった俺に、安らぎを与えてくれる優しい何かが現れて、ふわりと包みこむように頭を抱き寄せてくれた。もちろん俺はそれが何なのかわかっているので、身を任せるようにゆっくりと身体を預けてしまう。


「ふふ…暫くこうしておりますので、ゆっくりと気持ちを落ち着けて下さいね…大丈夫、大丈夫ですよ…」


優しさと幸せで俺を包み込み、丁寧に頭を撫でて俺を安心させてくれる…きっと天国よりも幸せな沙羅さんの甘やかし。

それはもちろん嬉しいけど、沙羅さんはさっきまで原稿をチェックしていた筈だ。それを俺のせいで中断させてしまったのであれば、その点は申し訳ない訳で…


「あの、俺のせいで沙羅さんに迷惑をかけ…ぶっ!?」

「一成さん、そんな言い方は…めっ、です」


俺の口を、幸せな何かで強引に塞ぐ沙羅さんの必殺技により、話を強制的に止められてしまった。


そうだよな…俺が逆の立場なら迷惑だなんて絶対に思わない。沙羅さんを優先するに決まってるじゃないか。

沙羅さんの気持ちに素直に甘えてしまおうと決めた俺は、力を抜いて完全に身体を委ねてしまう。沙羅さんは俺が素直に甘えたことが嬉しかったのか少し笑いを溢していた。


「そのまま力を抜いて、ゆっくりと気持ちを落ち着けて下さいね…いい子いい子です♪」


俺が素直に従ったからなのか、沙羅さんはとてもご機嫌な様子で頭を撫でてくれている。ハッキリ言ってこの安心感は筆舌に尽くしがたい。そのお陰なのか、気がついたら緊張が殆ど消えていた。


「…ぁぁぁ、羨ましい…マジで羨ましい」

「…俺も一度でいいから、薩川さんにあんな風にされてみたい…」


「何があったの?」


引き継ぎをする先輩と話をしていた花子さんがこちらに戻ってきたみたいだ。新しい生徒会のメンバーとして、この後俺と同じように承認を受けることになっている。それにしても…俺がこんなに緊張しているというのに、花子さんはあまり緊張を感じていないみたいだ。頼もしいけど、それが逆に俺の情けなさを浮き彫りにさせているというか…


「一成、大丈夫?」


「だ、大丈夫」


沙羅さんの胸に抱かれながらそんな返事をしても、説得力はゼロどころかマイナスなのは流石に俺もわかってる。でも大丈夫という答え以外が言える訳ないだろう。


「さ、薩川さん、申し訳ないが、そろそろいいだろうか?」


会長が少し焦った様子で沙羅さんを呼びに来た。

しまった、いつの間にか開始時間が近付いていたのか…

幸せすぎて思わず甘え続けてしまったが、これ以上は本当に沙羅さんの迷惑になってしまう。もう緊張感も殆どないし、沙羅さんに感謝だ。


「沙羅さん、俺はもう本当に大丈夫です。ありがとうございました。」


大丈夫だということを分かって貰えるように、少し強めのアピールをしておいた。そんな俺の様子にある程度は納得してくれたようで、沙羅さんはゆっくりと俺から離れていく。名残惜しそうな表情をしているので、何気にもう少しこうしていたかったのかもしれないな。


「一成さん、私はいつでもあなたのお側におります。ですから、頑張って下さいね。」


「はい!」


俺の返事を聞いて満足してくれたようで、コクリと頷いてから会長と一緒に壇上へ向かって行った。それを見送ってから、念の為に自分を確認してみるが…うん、これならきっと大丈夫。


「一成、まだ緊張してるなら、代わりにお姉ちゃんが抱っこしてあげるよ?」


俺と一緒に沙羅さんを見送った花子さんが、不意にそんなお誘い(?)をかけてきた。

花子さんが俺を抱っこ?

思わずその姿を想像してしてしまいそうになり、慌てて頭を振ってそれを飛ばす。


「……バ、バブみ!?」

「……ていうか、お姉ちゃんって何!?」


「は、花子さん、俺はもう大丈夫だから。」


「…残念。」


…これはどうやら本気で考えていたらしい。沙羅さんが居なくなってからそれを言い出したのは、一応気を使ってくれたと考えるのは好意的に解釈しすぎだろうか?

まぁ…迷惑をかけている訳ではないし、俺を心配してくれただけなんだろうしな…


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いよいよ総会が始まり、現在壇上では、会長が退任の挨拶を行っている。それが終われば会長職の引き継ぎに関する話になり、新生徒会長となった沙羅さんの就任挨拶、そして次は俺の番だ。


「……ここまでやり遂げることが出来たのも、私を支えてくれた役員及び、協力してくれた皆さんのお陰です。本当に感謝しています。ありがとうございました。この先も引き続き、ご協力をお願い致します。以上で、私の挨拶を終わらせて頂きます。」


パチパチ…

パチパチパチパチ!!!


まるで波紋が広がるように…拍手の波が生徒全体に広がっていき、体育館には大きな拍手が鳴り響いていた。その拍手を浴びながら、会長は清々しさを感じさせる笑顔を浮かべていた。自分のやるべきことをやりきったのだと…そう言っているような、満足げな笑顔に見えた。


拍手がある程度落ち着くのを待って、同じく引退する先輩達の紹介と簡単な挨拶があり、いよいよ会長職の引き継ぎが行われる。


「それでは紹介します。今日から新しく生徒会長に就任する…薩川沙羅さんです。」


沙羅さんの名前が挙がると、体育館は割れんばかりの大きな拍手が響き渡り、それに加えてあちこちから「薩川さ~ん」「沙羅ちゃ~ん」という不快な叫び声まで聞こえてきた。


アイドルか何かと勘違いしてるだろあいつら…


もっとも、当の沙羅さんは完全に無視をしているので、眉一つ動かすことは無かった。正面だけを真っ直ぐ見据えて、上坂さんと挨拶を交わしながら入れ替わりに教壇へ立つ。


……俺はこの時の沙羅さんの姿を生涯忘れないだろう。

凛として、堂々とした佇まい、俺には見せたことのない鋭い目付き、真っ直ぐ前を向き、強い意思を感じさせる佇まいは、どこか神々しさすら感じさせる…いつもとは別人のような沙羅さんだった。


俺はこんな沙羅さんを見た記憶は勿論ない。ひょっとしたら入学当初にあったかもしれないが、あのときの俺はそんな余裕がなかったから。


「薩川先輩…いつもと全然違うね。」


俺と同じく袖から舞台上を見守っていた藤堂さんが、沙羅さんを見ながら呆然と感想を漏らした。やはりあんな沙羅さんを見たことはないのだろう。


「そうだな。俺もあんな沙羅さんを見た覚えがないよ。」


「高梨くんと一緒にいる薩川先輩は全然違うからね。」


「きっと、あれがもともとの嫁のスタイルなんだと思う。敢えて言うなら…余所行き?」


花子さんが言う、余所行きという言葉の意味…

何となくだけど言いたいことはわかるような気がする。つまりあれは、沙羅さんが対外用として意図的に作り出している厳しい一面だということ。かつての沙羅さんが、孤高を貫く為に纏ったもう一人の自分の姿…それがあの沙羅さんなんだろう。


「…………会長を始め、諸先輩方の努力、尽力に敬意を表し、この場で改めてお礼の言葉を申し上げたいと思います。…」


俺たちが普段と様子の違う沙羅さんに戸惑っている間も、就任の挨拶は続いていた。

そして俺は…そんな沙羅さんの姿に惹きつけられて、目が離せなくなっていた。


「……新体制となる生徒会運営には、生徒の皆さんの協力が必要不可欠です。私達役員も、一丸となって運営を行って参りますが……」


例え作られた姿だとしても、沙羅さん自身が好んでないとしても、沙羅さんの一面であることに間違いはないと俺は思っているから。それも含めた全てを俺は受け入れたのだから、この姿もしっかりと覚えておかなければならない、そんな使命感に似た思いが俺の心にあったからだ。


「…以上で、私の就任挨拶とさせて頂きます。改めて、これから宜しくお願い致します。」


パチパチパチパチ!!!


先程と同じように、割れんばかりの大きな拍手が体育館に鳴り響く。今度は空気を読んだのか、それとも沙羅さんの雰囲気に呑まれたのか、余計なことを騒ぐ生徒は現れなかった。


「高梨くん、そろそろ出番だよ」


「!?」


感動で震えていた俺は、自分の出番が近いことをすっかり忘れていた。

藤堂さんの声でそれに気付き、慌てて気持ちを切り替える為に深呼吸。

…ふう、落ち着けば大丈夫だ。


「一成、頑張って。お姉ちゃんがついてる」


花子さんが俺の手をしっかりと握ってくれた。小さくて可愛らしい…でもとても温かい手。優しさが伝わってくる。


「が、頑張ってね、高梨くん!!」


「二人とも、ありがと!」


花子さんだけでなく藤堂さんからの応援も背に受けながら袖幕の陰に移動すると、ちょうど沙羅さんがこちらへ視線を向けたところだった。

俺が大丈夫であることを視線で沙羅さんに伝えるてみると、沙羅さんもそれをわかってくれたようで、凛々しい表情を崩してニコリと微笑みを浮かべてくれた。


「高梨一成さん、どうぞこちらへ」


そして沙羅さんに呼ばれた俺は、いよいよ舞台へ上がるのだった。


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総会は一話完結のつもりでしたが、真面目なシーンがもう少し続きそうなので一旦切らせて頂きました。


という訳で…

ノートを含めてコメントを下さった皆様、ありがとうございます!

全て目を通させて頂いております。嬉しいです。

私の拙作を、ここまで楽しんで下さっている読者様がいらっしゃることは本当に幸せです。とっても励まされました!!

もう少し落ち着いたらお返事もさせて頂きたいと思います。


結論から言うと、本調子ではないものの書き方を思い出しました。

正確には、自分が気にし過ぎて逆におかしくしてしまっていたことに気付きました。

そして意味もなく自信を無くしたことも気付きました。


気分転換を考えて色々やってみました。でも一番効果があったと思うのは、この先のイチャラブシーンを色々思いつくままに書いてみたことです。

書いている内に段々楽しくなってきて、気分が乗ってきたのでそのまま今回分を書いたら思っていたより早く書けてしまったんです。


楽しさを思い出せたのは成功だったと思います。


ペースは落ちるかもしれませんが、書けると自分でも思えるようになりました。

この先の展開は決まっていますから、絶対に途中で止めるつもりはありません。このまま最後まで書ききります。というと早く終わりそうに聞こえますけど、まだまだ長いですw


調子が元に戻るように、楽しさを忘れないで書いていこうと思います

引き続き、宜しくお願い致します!


つがん

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