第75話 体育祭前日

いよいよ体育祭が明日に迫り、生徒会室では最終確認が行われていた。


放送部員や体育委員、風紀委員の代表も集まり、全体的な進行や競技内容の最終確認。

使用する道具の最終確認等々…


実況もある程度生徒任せでやらせてくれるのは楽しいかもしれない。


そして俺にとって一番ありがたいのは、生徒会メンバーは本部席や、待機席を使うことができることだ。


つまりクラス席に嫌々居る必要がないということ。用がないときは常時こっちにいることにしよう。


「高梨さん、そちらの確認は如何でしょうか?」


俺は巡回ルートの確認をしていた。

体育祭の最中に余計な場所で集まっていたり、遊んでいるようなやつらがいないかチェックする必要がある。

風紀委員との合同作業だが、俺もやることになっている。


「こっちは大丈夫です。風紀委員も動いてくれるんで、範囲はそれほどないですから。」


「何かわからないことがあれば、すぐに聞いて下さいね。」


「了解です」


もうすぐ終わるから、そうしたら逆に先輩を手伝えることがないか聞きにいこう。


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「副会長、明日の実況担当なんですけど。」

「あの…本当に私が入るのですか? 正直に言いまして、喋ることは苦手なのですが」

「薩川さん、これは私もやるんだから副会長もやってこそ意味があるのだが…」

「そもそも私は了承しておりません。」


明日が本番なのに何か揉めてるのか?

先輩に無茶をやらせるつもりなら見過ごせないが


「…あれは説得するの難しいな」

「…今まであの状態からひっくり返せた試しがないからね。」

「…そもそも、薩川さんの性格的に難しい案件でしょ」


周りが色々言っているな。

でも沙羅先輩が嫌なら俺も止めてあげて欲しいと思う。


「えぇぇ、今になってそれは困りますよぉ。会長!」

「ちょっと待ってくれ」


「あの…会長、沙羅先輩が嫌だと思うような仕事は…」


俺が苦言を言い始めると、会長は俺の顔を見て何かを思い付いたらしい。


「…そうだ高梨くん。薩川さんの実況を間近で聞きたくないかい?」


いきなり俺に問いかけてきた。

それはもちろん、聞けるものなら聞いてみたいが。


「会長、高梨さんに何を…」


「それは…聞いてみたい気持ちはもちろんありますけど、沙羅先輩が嫌がっているのなら」


そこまで聞いた会長は、沙羅先輩に問いかけた


「高梨くんが君の実況を側で聞きたいと言っているが、どうだろうか? 実況のときは彼の席を隣に配置しよう。」


「…高梨さん、私の実況をお聞きになりたいのですか?」


どう答えるべきか。

俺が迂闊なことを言って先輩に迷惑をかけたくない、でも聞きたいのは本当だ。


「沙羅先輩が嫌じゃないなら聞いてみたいですけど、少しでも嫌だと感じてい…」


「その話お受けします。」

「よし、これで問題は解決だ。お互い頑張ろう。」

「……えぇぇ絶対に揉めると思ったのに即決!? …夏海ちゃんが言ってたのあの子かぁ」



「…このオチは予想できたよ。」

「…あーあーそうですね高梨くんですよね」

「…もう悔しくない…悔しくない」


…本当にいいのだろうか。

先輩は、実はやりたくなかったのではないかと思うと…


「高梨さん、頑張って実況致しますので見ていて下さいね。」


笑顔で張り切っているように見えるから大丈夫かな…


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「明日はいっぱいお弁当を作りますので、楽しみにしていて下さいね。」


「そんなに作るんですか?」


「はい。高梨さんと、夏海と、お母さんの分がありますので、重箱で用意致します。」


!?

お母さんって言ったよな!?

でも学校行事だから来ても不思議ではないか。

ウチの親はこないけど。

楽しみなような緊張するような


「沙羅先輩のお母さんがくるんですか?」


「はい。珍しく時間が取れたようで、本人も張り切っております。高梨さんを紹介するように言われておりますので、宜しくお願い致しますね。」


あー、そんなことを言われてしまうと余計に緊張するな。

でも沙羅先輩のお母さんなら少しでも印象を良くしておきたいし、ヘマをしないように気を付けておこう。


「高梨さん…あの、高梨さんのお父様やお母様は…」


先輩は言い難そうに聞いてきた。

学校行事については親に伝えていない。

親が来ること自体は問題はないと思うが、例えば競技やクラス待機席で、俺がここでもクラスの連中と上手くやれていないのを悟られた場合に何を言われるかわからないからだ。


「いや、単に仕事で来れないだけなんですよ。学校行事であんまり来たことないんです。」


思わず嘘をついてしまったが、俺の嘘は沙羅先輩に通じないことを思い出して焦った。


「…そうでしたか。では、もしご両親がいらっしゃる機会がありましたら、ぜひご挨拶させて下さいね。」


思ったことを飲み込んでくれたようで、沙羅先輩はそのままの答えをくれた。

俺は沙羅先輩に頭が上がらないな…

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