第76話 体育祭 その1
ドン! ドドン!
朝から花火の音が鳴り響く。
何のことはない、ウチの高校で体育祭が開催されることを知らせる花火だ。
もし俺が以前のままであったら、体育祭など俺に対する嫌がらせイベントでしかなかった。
でも今の俺は違う。
生徒会執行部という居場所があるから嫌々クラス席にいる必要はないし、沙羅先輩と一緒にいられる。
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本日は快晴。
ここ数日は雨も降っていないからグラウンドコンディションもいい。
絵に描いたような体育祭日和だ。
そして俺は去年に引き続き、今年も個人競技が殆どだ。
今日はいつもより早く家を出た。
駅前まで先輩を迎えにいく為だ。
日曜日の朝ということもあるのか、いつもより人は少ない感じだ。
少し待っていると先輩が視界に入った。
先輩もこちらに気付いたようで笑顔を浮かべてくれたが、大きなボストンバッグを持っているので俺は急いで近寄った。
「沙羅先輩おはようございます。荷物は俺が持ちますから。」
「おはようございます高梨さん。いえ、このくらい私が…」
俺はボストンバッグに手を伸ばし、少し強引でも荷物を受けとることにした。
「沙羅先輩、俺はこの為にお迎えに来たんですよ? ですから、俺の為にも荷物は俺に持たせて下さいね。」
先輩にこんな大荷物を持たせたままなんてありえない。
それに先輩がこんな大荷物を持っていて俺が小さい荷物とか、どう考えても非難案件だろう。
だから俺の為というのもあながち間違いではないのだ。
先輩を説得するには、しっかりと目を見て伝えるのが効果的だと最近気付いた。
だから今回もしっかりと目をみて説得する。
効果はあったようで、先輩は頷いてくれた。
「申し訳ございません、では宜しくお願い致します。」
「はい、任せて下さい!」
荷物は思ったより重量があり、やはり来て正解だった。
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一度教室に行き、担任の挨拶が終わるとグラウンドへ。
俺はその足で本部へ向かう。
「おはようございます。」
「おはよ〜」
「おはようございます、今日は頑張ろうね」
会長や先輩はまだ来ていないようだ。
この本部テントは二重の意味でありがたい。
直射日光を受けずに済むだけでもありがたいのに、俺の避難場所にもなってくれる。
などと余計なことを考えていたら、会長や先輩もやってきて、全員揃ったようだ。
「みんなおはよう、今日は一日頑張ろう。」
「おはようございます。私達も楽しめるように、無理のないようにやりましょう。」
二人からの挨拶が終わり一旦解散になる。
面倒だが開会式があるのだ。
特に入場が面倒臭い。
ちなみに俺は白組、先輩は赤組とわかれてしまったのが残念だ。
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開会式が終わり生徒がそれぞれのクラス席に戻ると、俺はそのまま本部へ向かう。
暫く出番はないので、時間的には余裕がある。
ちなみに俺の出場種目は、200m走、借り物競争、玉入れと見事に個人で動ける種目だけだ。
そして強制参加の騎馬戦が一番嫌だった…まぁどうせ馬だから適当に他のやつの動きに合わせるだけだ。
本部に着くと、既に放送部の先輩が準備していた。そう言えばこの人とまともに挨拶をしてないことに今頃気付いた。
「お疲れさまです。今日は宜しくお願いします。」
「お疲れさま。今日は宜しくね、高梨くん」
どうやら俺のことを知っているようだ。
「あ、ごめん自己紹介してないよね。私は深澤南。放送部の"みなみん"だよ。」
そう言えば昼休みの放送で、リクエストや連絡事項を読んでる人が"みなみん"って言ってたな。あの人か。
「高梨くんのことは夏海ちゃんから聞いてるよ。宜しくねん。」
そう言って可愛く笑った。
第一印象として人当たりの良さそうな人だ。
しかし夏海先輩の友達ということは、沙羅先輩とも友達なんだろうか。
「薩川さんと実況とか、正直どうなるのか全く読めないから困ったらフォロー宜しくね?」
「はぁ、取りあえず俺でやれることは頑張ります。」
この感じだと、沙羅先輩とはそこまででもないのかもしれない。
正直、実況でフォローとか言われても困るのだが。
何をやればいいのか全くわからないし。
「お待たせしました。」
沙羅先輩がやってきた。
「深澤さん、本日は宜しくお願いします。」
「薩川さん宜しくね。あ、私のことは"みなみん"で。」
「それでは競技内容を確認しましょう深澤さん。」
無視だ…先輩にそれは無理だと思う
「高梨くん、この椅子を使ってくれ」
会長が実況席の隣に椅子を持ってきた。
本当に俺はここでいいのだろうか…嬉しいけど。
椅子の背もたれには張り紙があった。
「高梨専用 本人以外の使用禁止」
…これ先生に怒られないよな?
もし何か言われたら会長がやったと俺は正直に言う。
「さあ高梨さんもお座り下さいね。」
なぜか先輩は嬉しそうに席を勧めてきた。
まさか高梨専用が気に入った訳じゃないよね?
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