第82話 体育祭 ラスト

嵐のようなランチタイムが終わり、沙羅先輩の膝枕で色々と回復(?)してから本部に戻った。


競技はつつがなく進み、生徒企画だった仮装リレーは思いの外好評だった。

というのも、衣装の各パーツをリレー形式で順番に運んで仮装を完成させるというもので、走るだけではなく仮装者に着せなければならないのが案外手こずり白熱していた。


これはまた来年やるのもいいかもしれない…


そして最後に、俺も強制参加になる騎馬戦が始まる。

ちなみに俺は騎馬の後方担当だ。

幸いなことに、面子はクラスの中でも比較的やりやすい孤立組というか不干渉組だった。


「さて、怪我をしない程度に頑張ろうぜ。」

「頑張るけど俺を落とさないでくれよ。」

「なんか妙に見られてないか?」


見られてるな…俺が。

これは午前中のヘイトがそのまま残っている可能性が高い。


「あ〜…すまん、多分俺が…」

「おぉそうか午前中のあれか!」

「あれな、俺も何があったのか結構興味あるんだけど」

「ぶっちゃけ面白くなってきたわ!つまり敵だらけってことだろ?」


あれ?

今までの経験から、お前のせいだとか言われて嫌がられると思ったんだが…

それぞれ違う反応をしているが、みんな笑顔だった


「…嫌じゃないのか?」

「冗談! 燃えてきたぜ!」

「あ〜こいつはこういうキャラだから大丈夫だ。」

「高梨は多分誤解してると思うけど、俺らは別にお前のこと嫌ってるとかじゃないからな?」


……は?


とても衝撃的な発言があった。

確かにこいつらは不干渉組だから、俺と特別仲の悪いあのバカ共と繋がりはないかもしれないが。


「ちょっと違うが、敵の敵は味方とでも思っておけよ。」

「お前すぐ教室からいなくなるから知らないだろうけど、今あいつら敵の方が多いからな。」

「おい始まるぞ!」


俺は今かなりの衝撃を受けているが、騎馬戦は油断すれば怪我の可能性もある競技だ。

集中攻撃を受ける可能性もあるし、余計なことを考えるのは一旦止めて集中することにする。


パン!


開始の合図と共に、真っ直ぐこちらに突っ込んでくるやつらがいた。


「全部を相手なんかしてられねーから、取りあえず逃げながら様子を見て反撃な!」


騎乗しているやつが指示を出した。

俺もそれに従い、先頭の動きに合わせて移動を開始する。

ちょっと大変だが、基本立ち止まらないで目立たない場所を狙って動く。

追ってきているやつらがバラけたところで反撃して、また移動という流れをを繰り返す。


どこに移動しても狙われるので、上手く避けると同士討ちを起こし潰れてしまうやつらもいた。


途中、速人達の騎馬が俺達をフォローしてくれたこともあり、かなり健闘できたとは思う。

だがさすがに狙われすぎて、中盤を越えた辺りでハチマキを取られてしまい俺達は終了となった。


「あ〜終わりか」

「高梨のお陰で楽しめたわ!」

「お前はこういうのが本当に好きだな」

「…俺も楽しかった」


そう、正直に言って楽しかった。

まさかクラスメイトとの競技で楽しめるなど、微塵も考えていなかったのだから…


騎馬戦が終わりどうやら白組が勝ったようだが、俺はそんな結果よりも楽しかったということで頭がいっぱいだった。


俺が本部に戻るときも、お疲れさんという声をかけてくれた。

正直、嬉しいというより狐につままれたような気分だった。


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競技が全て終わり、残すは恒例のフォークダンスタイムだ。


男女共に色々期待しているだろうが、こういうものは自分の好きな人や気になっている人に限って一緒に踊ることができないというお約束が存在する。

…まぁ頑張ってくれ。


俺はこの後に最後の巡回があり、それを終えたら片付けに参加する予定になっていた。


もう少しで出発というところで、一緒に回る予定だった風紀委員が先程の騎馬戦で少し怪我をした為、保健室で治療中らしい。


…という訳で、現在は代理と一緒に巡回をしているのだ。


「高梨さん、後は花壇のある校舎裏エリアだけです。」


「沙羅先輩、本部の方は本当によかったんですか?」


代理で同行しているのは沙羅先輩だ。


というのも、本部で代理を誰かに…という話が出たところ、沙羅先輩はすぐに自分の仕事を会長に押しつ…引き継いで同行を申し出てくれた。


「高梨さん、体育祭は如何でしたか?」


先輩が突然聞いてきた。

単に楽しかったのかを聞いてきただけなのか、それ以外のことを含めて諸々でどうだったのかと聞いてきたのか…


「正直、良いことがいっぱいあって、驚きもあって上手く言えないんですが…でも全部ひっくるめて楽しかったと思いますよ。」


上手くまとまっていないが、俺は素直な心境として伝えた。

本当に色々なことがあった。

驚きも多かった。

楽しいとも感じた。

友人もできた。

こんないい思い出になるようなイベントなんて久々だった。


だけど沙羅先輩がいなければ、あるいは何か理由をつけてそもそも体育祭に参加しなかった可能性もあるのではないか?


そう考えると、全て沙羅先輩のお陰だと思ってしまう。

逆に俺は、この体育祭で沙羅先輩に何か思い出を、お返しをできただろうか?

もっと何か…


スピーカーから、オクラホマミキサーが流れ始めた。

どうやらフォークダンスが始まったようだ。


そういえば、オクラホマミキサーってどう踊るんだっけ?


「沙羅先輩はオクラホマミキサーって踊れるんですか?」


「はい、正直踊りたくなかったのですが覚える必要はあったので…そういう聞き方をされると言うことは、高梨さんは踊れないのですか?」


沙羅先輩は男と踊りたくなかっただろうからな。

俺は何となく覚えているような気もするが、暫く踊っていないからどうなんだろう?


!?

今なら二人きりで踊れるじゃないか…

どうしようか、少しくらい遅れても大丈夫かな…

少し悩んだが、こんなチャンスを逃すのはありえないと思った。


「あの…沙羅先輩、俺となら踊って貰えますか? その、今なら…」


沙羅先輩は真面目だから注意される可能性もあったけど、思いきって伝えてみた。


「…宜しいのですか? 高梨さんと踊ることができるのでしたら、私も嬉しいですが…」


どうやら大丈夫のようだ。

お互い嬉しいなら問題ない。


時間が勿体ないので、俺はそれ以上聞かずに沙羅先輩に近付くと手をとった。

沙羅先輩は笑顔を浮かべると、そのまま俺に合わせるように動き始めた。


そして曲が終わるまで、ペアの交代がない二人だけのフォークダンスが…


花壇という会場でひっそりと開催されたのだった。

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