第83話 変わる日常

「おはよー高梨!」

「おっす!」


教室に入ると声をかけてくれたのは、騎馬戦で一緒だった面子だ。

あのとき限りの対応という訳ではなかったようだ。


「おはよう。」


「おはよう高梨くん、体育祭はお疲れ様」

「生徒会は大変だったでしょ?」


夏海先輩ファンクラブの二人も声をかけてくれる。


本来であれば普通であるこの光景も、俺には久しくなかったものだ。

今まで大騒ぎしていたやつらも、前のようにバカ騒ぎはしていない。


ガラガラガラ


「失礼しまーす」


速人が教室に入ってきた。

一直線にこちらへ向かってくると、俺の肩を叩いた


「おはよう親友!」


朝からテンションが高いというか…キャラが変わってないかこいつ?


「おはよう速人。朝っぱらからどうした?」


「どうしたって、挨拶に来ただけだよ。」


後で聞いた話だが、どうやら俺が考えていた以上に「友達」という存在が欲しかったらしい。

まぁイケメンにはイケメンの苦労があるんだろうからな…


取りあえず挨拶を返すと、嬉しそうな笑顔を見せた。


…これ俺が女だったら勘違いするぞ。


そして俺達を嬉しそうにチラチラと眺める女子は何なのだろうか…


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体育祭が終わり、月曜日が代休になるので火曜日が登校日だった。


そして今、俺の席の周りに人が集まっている。

…今日はこの後ゲリラ豪雨でもあるんじゃないか?


騎馬戦で一緒だった連中を相手に、高校に入って初めてじゃないかと思われるダベりが始まった。


「この前お前がキレただろ? あの後から雰囲気が変わってさ…」


聞くところによると、俺がキレたあの日の昼休みに、俺がムカつくだなんだとあいつらが騒いだらしい。

ただ、その内容のあまりの幼稚さに加えて、俺に加勢した夏海先輩ファンクラブの二人までバカにしたらしく、主に女子から敵視されるようになったとのことだった。


「確かに、いつもならバカ騒ぎしてるあいつらがいないな…」


「最近はこんな感じだよ。お前のお陰で俺らも気楽になったし、教室も静かになったわ。」


どうやら俺の行動が、結果的にクラスの状況を変えることになったらしい。

それで好意的な感じになっていたのか…


ぶっちゃけクラスのことなんか微塵も考えてなかったし、雰囲気が悪くなったところでどうでもいいって思ってたことは黙っておこう…


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「ふーん、でも結果オーライならいいんじゃない?」


「はい。正直なところ、改善が見られないようでしたら生徒会か風紀辺りの権限で乗り込むことも考えていましたので」


沙羅先輩は何気に物騒なことを考えていたよだ。


しかし、これである程度は快適な高校生活を迎えられるのかもしれないな。

だからと言ってこの幸せな時間に変更を加えるようなことは絶対にしないが。


「体育祭が終わったから、次はテストを考えなきゃねぇ…」


憂鬱そうに夏海先輩が言い放ったその一言は、テストという存在を忘れていた俺にもダメージを与えた。

俺の表情を見た沙羅先輩が気になったようで


「高梨さん? テストがどうかなさいましたか?」


「いや…普通に忘れていたというか、まぁ授業はしっかり受けてるんで、大丈夫だろうとは思います。」


普通に授業は受けてるしサボっている訳でもない。だが俺には家で勉強するという無駄時間は存在しないのだ。


「お家で勉強はなさっているのですか?」


当然聞いてくるよな…

前の俺ならすぐに「勉強している」と答えただろうが、今の沙羅先輩にそんな嘘は通じない。


「…やってません。」


なので正直に即答する。

それを聞いた沙羅先輩が、何故か笑顔を浮かべて近付いてくる。


「はい、正直に言えましたね。」


頭を撫でられてしまった。

……たまに思うのだが、俺は沙羅先輩に子供だと思われているのだろうか?

少なくとも手が掛かるやつだとは思われているかもしれないが。


「私で宜しければいつでも仰って下さいね。」


多分お願いすることになる予感…


弁当を食べ終わり、日課の水やりしてから先輩達と別れた。


上履きに履き替える為に下駄箱へ向かうと、タイミングよく反対側から速人がやってくる。


「やあ一成、今日の弁当は美味かったかい?」


速人は俺が先輩達と昼食を食べていることも、沙羅先輩のお弁当のことも知っている。

そして、俺が沙羅先輩と恋人ではないことも伝えてあるのだ。


「沙羅先輩の料理で美味い以外の感想を持ったことはないぞ」


「それはそれは、羨ましい限りだよ」


そんな会話をしながら速人が下駄箱を開けると…何かが複数枚落ちてきた。


「毎日毎日よくもまぁ…」


こいつにとっては日常茶飯事なんだろう。

落ちた手紙を広い集めている。


「相変わらずおモテになることで。」


別に羨ましくはない…俺は沙羅先輩だけだからな。

さっさと履き替えて教室に戻ろうと下駄箱を開けると


パサリ…


「………は?」


「おっと、お揃いだね」


足元に落ちているこれは…手紙だよな?

うーん…いくら考えても俺にはフラグを立てた覚えはない。

ということで考えられる可能性は


1.速人を紹介して欲しい

2.沙羅先輩を紹介して欲しい

3.夏海先輩を紹介して欲しい

4.俺に告白したい

5.その他


どれだろう…

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