第81話 体育祭 その6
「お母さん? お姉さんじゃなくてお母さん?」
正直なところ、沙羅先輩からお姉さんの話は聞いたことがないし、残る可能性はお母さんしかないとは思った。
でも見た限りとてもお母さんには見えなかったし、親戚のお姉さんとか何か訳ありの可能性も残っていた訳で…
「沙羅ちゃんのお母さんです。ごめんなさいね、高梨さん。」
「取りあえず高梨さんの手を離してください!」
沙羅先輩が実力行使しようとかなりの勢いで近付いてきたので、お母さんが急いで俺の手を離した。
沙羅先輩はそれを確認すると、俺を後ろに庇うかのように俺の前に立った。
「申し訳ございません高梨さん、母が失礼な真似を…」
「も〜沙羅ちゃんたら。でも…んふふ〜、そっか、高梨さん相手だとそんな感じなのね〜…」
「? 何でしょうか?」
「何でもないわよ〜」
お母さん…こんなに若いのか…
いや実年齢は知らないんだけど。
それより、さっき手を引かれたたときに思わず見てしまったというか、身体のラインがはっきりと出る服を着ているので…とても自己主張の強い二つのお山が…
「あら? 高梨さんどうかなさいましたか? 何か気になるところでも?」
知ってか知らずか先程より更にイタズラな表情で、しかも何故かポーズをとるように俺に話しかけてきたので、咄嗟に下を向いてしまった。
「……た か な し さ ん?」
呼ばれたので顔を上げると、何故か沙羅先輩の笑顔が強化(?)されていた。
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「お騒がせしました。改めまして薩川真由美です。沙羅ちゃんがいつもお世話になっております。気軽に真由美お姉ちゃんって呼んでね。あ、お義姉ちゃんでもいいですよ?」
?
なぜ同じ事を2回言い直したのだろうか?
もちろんお姉さんとは呼びません。
…沙羅先輩が怖いので…
お弁当を食べる準備をしていた所で夏海先輩が合流したので、そのまま食べることになった。
「それで、えと…お母さんは」
「やだもうお義母さんなんて、良かったわねぇ沙羅ちゃん!」
「? 何を言っているのかよくわからないんですが?」
沙羅先輩が真顔で不思議そうな声を出した。
だが俺も同じだ…
今のどこに反応する要素があったのか?
お母さん呼びはマズいのか?
「え…と、では真由美さんと呼んだ方がいいですか?」
「あら残念。でもどうせこのさ…」
「何が言いたいのかよくわからないですが、話が先に進まないのでお母さんは黙って下さい。」
沙羅先輩は真由美さんのよくわからないノリに苛ついているようで、強めに言い放った。
「ぷ…くく」
夏海先輩は逆に真由美さんのノリを理解しているようで、手で口元を隠しながら一人で笑っていた。
あ…自分で何を聞こうとしたのか忘れた。
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「さて、沙羅ちゃんが頑張って作ってくれたお弁当を食べましょうか。本当はゆっくりできる予定だったけど、さっきあの人が電話で泣きついてきたから食べ終わったら帰らなきゃならないの…」
あの人…以前先輩から話を聞いたときに、お母さんはお父さんの仕事を手伝っていると言っていた。
つまり、先輩のお父さんからの電話だろう。
泣きついてきたのが本当かどうかはわからないが。
「そうでしたか。今お父さんは忙しいはずなので、よく一日取れたなと思いました。」
「だから最後まで見れないのよぉ。せっかく最後のフォークダンスで、高梨さんと沙羅ちゃんの記念動画を…」
うわ、この人そんなこと考えてたのか。
バッグからカメラを取り出してアピールしているが、あれは既にある程度写してあるはずだ。
……欲しい。
それはともかく、フォークダンスは確かにあるが、見回りや片付けがあってどちらにしても生徒会メンバーは参加しないんだが…
「はぁ…残念ですが、我々は生徒会の仕事があるのでフォークダンスは参加しません」
「あらぁ…それは残念。それじゃ帰る前に記念写真だけでも撮りましょうね。」
そう言って何故か俺にウインクしてくる真由美さん。
先輩が怖いので止めて欲しい…
そして、先輩の作ってくれた大変美味しい重箱のお弁当を食べ始めたのだが
「はい高梨さん、これ美味しいわよ? あ〜ん…」
「いい加減にして下さい! 高梨さんに迷惑をかけないで下さい! 第一、作ったのは私です!」
面白い(?)お母さんだなぁ。
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「さて、名残惜しいけどそろそろ帰らないと、本当に泣き声が聞こえてきそうね。」
食事をしていて疲れたのは初めての経験かもしれない。
まぁそれだけ楽しんでくれたと思えば悪くない…のか?
そう思っていると、真由美さんはバッグからスマホを出した。
「さぁ、せっかくだから記念写真をとりましょうね。」
「真由美さん、私が撮りますよ!」
夏海先輩が名乗りを上げた。
集合写真じゃないのか?
「それじゃ宜しくね夏海ちゃん。さぁ高梨さん、まずは私と撮りましょうね。」
言うが早いか、俺の腕を掴むような素振りを見せたと思いきや、そのまま腕を絡ませてきた。
「ま、真由美さん!?」
「ほら高梨さん、カメラ目線よ〜」
沙羅先輩の顔を見るのが怖くて夏海先輩の持つスマホに集中すると、真由美さんは更に身体を押し付けてきた。
とても大きくて柔らかいものが腕に…我慢だ!!
「……高梨さん、沙羅のこと本当にありがとうございます。これからもどうぞ宜しくお願い致します。」
!?
真由美さんは、俺だけに聞こえるくらいの小さな声で呟いた。
そうか、これを俺に言うために…
真由美さんがそのまま沙羅先輩の方を指したので思わず顔を向けると、いつぞやのように可愛く頬を膨らます沙羅先輩がこちらを睨んでいた。
…やっぱ違うか。
いや、久々にあれを見れたのはご褒美だ。
後が怖いけど…
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