第49話 自分達のスタンス
「高梨さんは、何か部活をおやりにならないのですか?」
「そうですね…特にやりたいことが見つからないというのが正直な所ですね。」
「趣味と合致するような部活もありませんか?」
「はい、もし何かやりたいことを見つけたら、その時は何かやるかもしれませんね。」
取り留めのない話をしながら歩く。
ザァァァァァァ
雨の音と、傘に雨が当たる音が響く中、結局お互い無言になってしまった。
こんな雰囲気になるのは珍しいと思う。
別に気まずいという感じではないが…先輩は何か考えているような…
無言のまま先輩と歩く。
ちなみに俺の半身は、もうびしょびしょだったりする。
思ったより冷えるな…帰ったらすぐに着替えないと。
「高梨さん…私は過剰なのでしょうか?」
「え?」
先輩が突然、真剣な雰囲気で問いかけてきた。
過剰…?
「どうしました急に?」
「いえ…最近、今までの自分にはなかった行動が多いような気がしまして…先程も少し強引だったような気がしますし…」
色々気にかけてくれているのは確かだと思うけど
「それに最近、本やドラマなどの物語を見たときにふと思ったのです。お弁当をはじめ、私が高梨さんに色々とさせて頂いていることは、友人としては過剰なこともあるのかもしれないと……むしろ…」
ああ…そういう…
確かに、世間一般的な男女の友達として考えるなら、ここまでする友人関係というのはあまり聞いたことがない。
でも俺は、先輩がやりたいことであれば問題ないし、周りがどうであれ俺達は俺達のスタンスでいいと思っている。
「高梨さんに喜んで頂けているのであれば、私も嬉しいです。ですが、それを優先してしまい、普通というものを考えずに行動しておりました。結果、過剰になってしまっているのではないかと…こちらからの押し付けとなってしまっているのであれば…」
「沙羅先輩、俺は、押し付けられているとか、過剰だとか、一度も思ったことはないですし、感じたこともないです。」
「……」
「確かに、世間一般的な友人関係で考えたら、少し違うのかもしれません。でも、世間とか気にする必要はないと思ってます。自分達のスタンスはこうであり、過剰とかそんなことは当人である俺達がそう思わないのであれば全く問題ないです。俺はこれまで沙羅先輩からして頂いたことで、困ったことなど一つもありません。全て嬉しかったです。なので、これからも沙羅先輩の思うようにして頂いて大丈夫ですよ」
「…宜しいのですか?正直、以前より高梨さんに何かして差し上げたいと思うことが増えたような気がするのです。なので、私はきっとこれからも、高梨さんに依頼されてもいないようなことまで勝手にしてしまうかもしれません。私自身の楽しい、嬉しいを優先してしまうかもしれません。」
「大丈夫です。普通なんて気にする必要ないですよ。自分達のことなんですから、周りからとやかく言われる筋合いはないです。」
「はい…ありがとうございます。であれば、これからも私は自分のスタンスでやらせて頂きますね。」
先輩がいつもの笑顔を見せてくれた。
「ふふ…安心致しました。高梨さんにご迷惑だけはかけたくありませんので」
いつか気付くことだったからな…
世間と比べて過剰であるなんてことは、ちょっときっかけがあれば簡単に気付くことだし。
でも、俺達は俺達でいいと思うし、先輩が望む通りで俺はいい
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俺の家…アパートに着いた。
屋根の下に入ったところで、傘を閉じる。
先輩は…まぁ完全には当然無理だけど、そこまで濡れている訳でもなさそうかな。
「ありがとうございました。すみません家まで…」
「いえ、大丈夫ですよ。では私は帰りますので、高梨さんもお家へ………」
先輩が俺のずぶ濡れになった半身に気付いたようだ…そして自分の半身を見て…もう一度こちらを…ひぃぃ
「高梨さん…これはどういうことでしょうか?私はあまり濡れておりませんが、高梨さんは明らかにずぶ濡れとなっておりますね?ご自分を犠牲にするような…」
「沙羅先輩は、俺が濡れないように気付かってくれましたよね?俺だって沙羅先輩に濡れて欲しくないんです。まして、今回は俺が傘を忘れたのが原因です。なら、俺が沙羅先輩を優先するのは当然ですし、逆の立場なら同じことをしますよね?」
畳み掛けるように、一気に話しかけた。
どうだ…?
「…そう言われてしまいますと、私はこれ以上何も言えないではありませんか…確かに、逆の立場なら私も同じことをしたでしょうし…」
ふぅ…納得して貰えたか。
「お風呂に入るか、早く着替えて暖かくして下さいね。着替えるだけではダメですよ?」
「はい。では沙羅先輩、ありがとうございました。気を付けて帰って下さいね。」
「ではまた明日」
先輩が帰っていった。
思わぬ真面目な話をしてしまった。
いつもと違う雰囲気がそうさせたのだろう…と、カッコつけたことを考えた。
寒いから早く着替えよう…
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