第392話 メインイベント
宴もたけなわ、豪勢な上にとても美味しかった食事会が終わり、俺が大切な何かを失いかけた謎のおままごとも無事(?)に乗り越え、今から始まるのは今日のメインイベントの一つ…
プレゼント交換という名のお楽しみと、続いてサプライズの…
「俺はてっきり、サンタは一成がやるんだとばかり思ってたんだがな?」
「いや、俺も最初はやろうと思ったけどさ。でもいきなり俺が居なくなったら…」
「そうだね。未央ちゃん達があそこまで一成にベッタリだと、計画を変更しておいて正解だったと思うよ?」
「だな」
そう…もし俺が居なくなったタイミングでサンタが現れた場合、特に未央ちゃんが俺を探し始めるのは考えるまでもないし、それに桜ちゃんと有紀ちゃんがあんなに懐いてくれるとは思ってもみなかったから、桜ちゃん辺りがサンタの正体を俺だと見抜いてしまう可能性が高い。となれば、やっぱり計画を変更したのは結果オーライだったとしか言いようがない訳で。
まぁ本音を言うと、やっぱり俺がサンタをやって、未央ちゃんを喜ばせてあげたかったという気持ちは大きいんだけどさ。
「ほらほら、男同士で集まって何ヒソヒソやってんの?」
「…何か嫌な感じに聞こえるから、その言い回しは止めて欲しいんですが?」
「だったらさっさと準備しなさいっての!」
「はいはい…」
「はいは一回!」
「はいはい…」
「コ、コイツ…」
うーむ…君子危うきに近寄らず。
とてもじゃないが、俺にはこんな対応できないので、やっぱり夏海先輩のことは雄二に任せるのが一番(見捨てた訳じゃない)だな。
さて、そんじゃ俺も準備を…と言っても、バッグから荷物を一つ取り出すだけなんだが。
「よし、みんな準備できたか?」
「はーい!!」
未央ちゃんの元気なお返事を聞きながら、皆をぐるっと確認して…よし、全員ちゃんと持ってるようだな。前もって伝えておいたから、桜ちゃんと有紀ちゃんもしっかり用意してくれたみたいだし。
「ふふ…おにぃちゃんへのぷれぜんとはさくらだから、あんしんしてね?」
「えっと…」
正直、何が安心なのかよく分からないし、突っ込みどころも満載なんだが…とりあえず言葉の意味を絶対に理解していないことだけは確かか。
それにしても、一体どこでそんな台詞を覚えてくるのか…つか、ご丁寧にウィンクまでしてくるとか、桜ちゃんは本当に幼稚園児なんですかね?
「ははっ、本当にモテるね一成は」
「ふふ…おにぃさんはいけめんだけど、おとこはそれだけじゃないの。だからおにぃちゃんをみならってね?」
「…うん、そうだね。桜ちゃんの言う通りだよ」
何やら激しく意味深な(本当にどこまで理解しているのかはともかく)桜ちゃんの一言に、何故かしみじみと速人がそう答え…うーん?
「こら桜、生意気なこと言ってないでこっちに来なさい! ごめんなさいね、お兄さん」
「いえいえ、さくらちゃんは人を見る目があると思いますよ?」
「ふふ、どうせ意味も分からない癖に、背伸びして適当に言ってるだけですよ。気にしないで下さいね」
「ぶぅぅ…そんなことないもん!」
そんなお母さんの一言に、桜ちゃんは可愛らしく頬を膨らめ、ぷいっと不機嫌そうにそっぽを向く。こういうところは年相応に思えて、見ていて微笑ましい限りないんだけどさ。
「おにぃちゃん、ゆきのぷれぜんとはこれだよ?」
「はは、それじゃ有紀ちゃんも、皆と一緒に交換しようね?」
「うん!!」
そして有紀ちゃんの方は、相変わらず控え目に俺の左手をちょこんと掴み、小さなおててに持ったプレゼントを嬉しそうに見せてくれて…この子はこうしてさりげなく甘えてくるのが、これまた将来男泣かせになりそうな…いや、今からそんな分析をする必要はないんだけど。
「ぷれぜんとっ、ぷれぜんとっ♪」
「未央ちゃん、可愛い…」
ちなみにこういうとき真っ先に名乗りを上げる未央ちゃんは、俺の背中にちゃっかりおんぶされていて上機嫌だったり。しかもその後ろで、花子さんが目一杯背伸びをして頭を撫でている姿がこれまた微笑ましい限り。
「それでは皆さん、それぞれの位置について下さいね」
「「はーい」」
どうやら西川さんの方も、「準備」が終わったようなので…
さぁ、プレゼント交換を始めるとしますかね!
………………
………
…
「♪〜」
「♪〜」
スピーカーから流れてくる定番のクリスマスソングを皆で一緒に歌いながら、手元に回ってくるプレゼントを右へ右へと順番に流していく。
既に自分の用意したプレゼントは何度目か通り過ぎ、今もまた、それは隣にいる未央ちゃんの手元に…
「はい!」
そこでちょうど曲が終わりを迎え、最後の掛け声に合わせ、行われていた受け渡しもピタリと止まる。そして今、俺の手の中にある小さな箱は…少なくとも自分の用意したプレゼントでないことだけは確かなので、密かにホッとしていたり。
やっぱりプレゼント交換で一番怖いのは、自分のプレゼントに当たることだからな…
「やったぁぁぁぁ、おにぃちゃんのぷれぜんとだぁぁぁ!!」
隣で大声を上げた未央ちゃんの手には、当然だけど、直前で俺が渡したプレゼントがあるので…どうやら運命の女神は未央ちゃんに微笑んだらしい。
と言いますか、しっかり俺の用意した箱の柄を覚えてたのね、未央ちゃんは。
「ふふ…良かったですね、未央ちゃん」
「うんっ!! えへへ〜、おにぃちゃんのぷれぜんと!!」
余程嬉しいのか、未央ちゃんはプレゼントを自慢するように頭の上で持ち上げ、俺と沙羅さんの間でぴょんぴょん飛び跳ねる。ただ、そんな未央ちゃんを羨ましそうに眺めている桜ちゃんと有紀ちゃんの姿が、少しだけ可哀想にも思えてしまい…でもこれはルールだから、仕方ないよな。
それに本音を言えば、俺も未央ちゃんに届くことを期待してプレゼントを選んだのだし。
「ねぇおにぃちゃん、あけていい!?」
「いいよ」
「わーい!!」
俺から許可を取ると、未央ちゃんは勢いよく包装紙を破…ろうとして、少し困ったように、俺と沙羅さんの顔を交互に見つめてくる。
えーと、今度は一体…?
「ふふ…未央ちゃん、私に貸して下さい」
「うんっ!」
どうやら沙羅さんの方は意味を理解しているらしく、未央ちゃんから箱を受け取ると、先にリボンを解いてから丁寧にシールを剥がしていく。そして慎重な手つきで包装紙を綺麗に剥がしてから、最後にその包装紙を綺麗に折り畳み…
…なるほど、そういうことか。
これはちょっと嬉しいかも。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、さらおねぇちゃん!!」
プレゼントの箱と一緒に、綺麗に折り畳まれた包装紙やリボンを受け取ると、未央ちゃんは小走りでトテトテとどこかへ…部屋の隅に置かれた自分のリュックを開き、そこへ大切そうにしっかりとしまいこむ。
しかも最後にポンポンと、満足気に軽くリュックを叩く仕草が何とも…
「んふふ、未央ちゃんも女の子だねぇ」
「そうですね。本当に可愛らしくてほのぼのしてしまいます」
「あー、私にもあんな時期が…」
「は? 夏海は昔から、真っ先に中身を取り出して、外身は適当に放り出すタイプでしょ?」
「あぁ、夏海さんは今でもそうですね」
「雄二!! 余計なこと言うな!!」
「あはは…」
確かに俺も、夏海先輩は花より団子寄な性格だと思うので、それも然もありなん…と言ったところなんだけど。でも雄二の言い方から察するに、どうやら身に覚えのある出来事でもあったのかもしれないな、あれは。
「なにかなっ、なにかなっ」
「ふふ…」
俺達の間に戻ってきた未央ちゃんは、もう待ちきれないとばかりに早速上蓋を持ち上げ、箱に納められていた中身が見えると…
「あぁぁ、みぃかわちゃんだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大きな喜びと共に箱から取り出したそれは、今大人気のアニメ、みぃかわの主人公「みぃかわ」の新作マスコット。これは先日の買い物で、店員さんが入荷したばかりの商品を出している中に一つだけ見つけた掘り出し物であり、たまたま買うことが出来た幸運の一品だ。
なんでも店員さんいわく、これは通販でも瞬殺だった人気商品で、転売以外の正規購入が難しいレアアイテムとのこと。
うーん…恐るべし、みぃかわ人気。
「あ、いいないいな!! さくらそれもってない!!」
「ぁぅ…いいなぁみおちゃん」
「だめぇ、このみぃかわちゃんはみおのだもん!! ね、おにぃちゃん?」
「そ、そうだね。これは未央ちゃんが当たったものだから」
桜ちゃんと有紀ちゃん…特に桜ちゃんから恨めしそうに見つめられ、思わずどもってしまい…この子、ホントに将来が怖いかも。
「未央ちゃん、私にも見せて!!」
「うわぁ、可愛いぃ」
「うーん…こりゃクラスの女子連中が夢中になる訳だ」
「そうなんですか?」
「あんたは高梨くんしか興味ないから知らないだろうけど、世間ではすっごい流行ってんのよ!」
「そのくらい私だって知ってますよ。何なら大きいぬいぐるみも持ってますし」
「えっ!? それひょっとしてプライズのやつですか!?」
「ええ。以前ゲームコーナーへ寄った際に、一成さんが取って下さいまして」
「うわっ、よくアレが取れたね高梨くん! 私全然取れなかったんだけど…」
「まぁ…ちょっとな」
沙羅さんが凄いと褒めてくれたので、あまり大っぴらに言いたくないが、あれは所謂ハイエナ戦法…前のお客さんがだいぶ突っ込んでいたようなので、試しにワンコインだけ試してみたら、アッサリ取れてしまったというだけの物。
確率機は設定金額を越えると、正攻法でも簡単に取れるからな。
「ま、三本爪はな…」
同じく、そういったゲームに詳しい雄二がニヤリと笑い、花子さんや速人も雄二の一言にコクりと頷く。
まぁこの辺の情報は、ちょっと調べれば直ぐに分かることだし…
「まま、みてみて、みぃかわちゃん!!」
「あら、良かったわねぇ未央。欲しかったみぃかわちゃんが貰えて」
「うんっ。おにぃちゃんがくれたんだよ!」
未央ちゃんは本当に喜んでくれているようで、何度もみぃかわのマスコットを眺めながら、時折ぐっと抱き締めて嬉しそうに頭を撫でている。
まさかここまで喜んで貰えるとは思ってなかったので、我ながらGJってやつだな、これは。
「あ、これはデジタルフォトフレームですね?」
「あ、それ私のやつです! 良かったら使って下さいね!」
「ふふ…ありがとうございます。一成さんとの写真を飾らせて頂きますね」
沙羅さんに当たったプレゼントは、立川さんが用意したらしいシンプルなデザインのフォトフレーム。箱に大きく「スライドショー対応」と書かれているので、いくつか良さそうな写真を見繕って、二人でそれを眺めながらゆっくりするのもあり…だな、うん。
「えーと、私のは…お、これ石鹸? すっごい良い匂いがすんだけど」
「ふふ…お部屋のフレグランスとして使うこともできますから、ご自由にどうぞ」
「ってことは、沙羅のプレゼントか」
夏海先輩に当たったプレゼントは、沙羅さんが用意した石鹸…いわゆるフレグランスソープってやつか。既に俺の所まで良い香りが漂ってきているので、これをお風呂で使ってしまうのは少し勿体ないかも。
「あ、可愛いボールペン!」
「へぇ…卓上の加湿器か」
「私はアロマストーンですね」
皆も次々とプレゼントを開けていき、お互い中身を確認しながら嬉しそうに見せあっている。他にもハンカチセットやハンドクリーム、お洒落なお菓子セットなど色々あり、皆がそれぞれ拘って用意してくれたことが伺えるので、見ているだけでも楽しい気持ちになれるな、これは。
「あとは一成さんだけですよ?」
「え? あ、そっか」
沙羅さんに指摘されて、自分のプレゼントをまだ開けていなかったことに気付く。
皆の様子を見るのが楽しくて忘れていたが、いつの間にか俺だけになっていたんだな。
「どうやら私のプレゼントは、高梨さんに当たったようですね?」
「はは、そうみたいですね」
ここまでのプレゼントで名乗りを上げていないのは西川さんだけなので、つまり俺の持っているプレゼントは、西川さんが用意してくれた物ということになる。
では俺も失礼して…
「ふふ…高梨さんに貰って頂けるのであれば、もっと男性向けのプレゼントにするべきでした」
「それじゃプレゼント交換の醍醐味がないでしょ、えりりん」
「分かってるわよ」
「はは…」
俺も皆に習い、包装紙を極力破らないよう丁寧に剥がし、わくわくする気持ちを抑えながらゆっくり箱を開けると…そこに納められていたのは、可愛らしいサイズの缶が一つで、何やら難しい英語(?)が書かれたデザインにteaという文字…えーと、つまりこれは。
「これ、紅茶ですか?」
「はい。私が普段飲んでいる紅茶なんですが、お勧めなので是非にと思いまして」
「ありがとうございます。それじゃ今晩にでも…」
「ふふ、早速お淹れしますね?」
紅茶なら俺も普段から飲んでいるので(沙羅さんの影響)、これは素直にありがたい。それにこのデザイン缶は確か、薩川家にも同じものがあったような気がするので…ひょっとしたら知らずに飲んだことがあるのかもしれないな。
「全員にプレゼントが行き渡りましたかね?」
「ですね。それじゃ、プレゼント交換はこれで…」
「ほっほっほ〜…メリークリスマ~~~~~ス!!」
「っ!?」
「何?」
「誰の声?」
これでプレゼント交換を終わろうというそのとき、室内の天井から一際大きな声が響き、全員が驚いたようにキョロキョロと周囲を見回す。
この声の主は、一体…?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
前回告知を忘れていましたが、本編を中断して書き込んだ私からの「お願い」に関する部分は、本編再開に合わせて全て非公開とさせていただきました。
ですが削除をした訳ではないので、皆さんから頂いたコメントは全て私の方に残っております。これはこのまま、保存させて頂ければと思っておりますので。
さて、次回はいよいよ(ようやく?)クリスマスパーティのラストとなります。
そしてその次はロスタイムというか、クリパ中に不足していた二人のお砂糖的な話(お約束)で締めくくり、ちょっとしたエピソードを一つ挟んでから、そのまま年末パーティー編となります。
次回の更新は特に問題なければ明日を予定していますので、もう少しお待ち下さい。
ちなみに今回は思わせぶりな引きでしたが、そこまで・・・(ぉ
それではまた次回に~
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