第393話 サンタさん
天井から聞こえてきた今の声は一体…
なんて、ワザとらしく演技をしてみたり。
そして謎の声に続きシャンシャンという小気味よい音が聞こえ始め、やがて一つの窓が開くと、そこに居たのは特徴的な赤い服に身を包んだ白い髭の…
「あぁぁぁぁぁぁぁ、さんたさんだぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁぁ、さんたさん!!」
「やったぁぁぁぁ!!」
大興奮の未央ちゃん達が見守る中、身軽な動きで窓からサッと室内に入り、もう一度"あの笑い声"を上げるサンタさん。
そして、背中に背負った特徴的な白い袋を大袈裟に持ち直すと、それをキラキラとした目で見つめていた未央ちゃん達が一斉に駆け出し…
「さんたさん!? ほんもののさんたさん!?」
「ほっほっ…そうだよ。私はサンタクロースさぁ」
サンタさんはそう言いながら、未央ちゃん達に差し出した左手をくるっと回すと、その手には今まで無かった筈の小さな花が一輪。しかも回す度に、二輪三輪と増えていき…おぉ、これは普通に凄い。
最も…手品がサンタと関係あるのかどうかは知らんけど。
「おぉぉぉ!!」
「すごい、ほんもののさんたさんだぁぁ!!」
「さんたさん、いらっしゃいませぇ」
でも子供達へのこうかはばつぐ…もとい、掴みは完璧だったようで、サンタさんを取り囲むように未央ちゃん達が一斉に抱き付く。
うーん…俺がやったらこんな演出絶対に出来なかったし、これは頼んで本当に正解だったかも。
まぁ肝心の中身は本物のサンタさんでも知り合いでもなく、西川さんが依頼してくれた大道芸人なんだけどさ。
「あはは、未央ちゃん達、大興奮だね」
「うん。とっても嬉しそう…」
「やっぱ子供の夢は大事にしないとね」
「ありがとうございます、子供達の為にここまでして頂いて…」
「でも本当に大丈夫なんですか? その、外の人工雪といい、お手伝いに来ていた皆さんのこともそうですし、それにお食事やこれも…」
「ふふ…どうぞご心配なく。その辺りはしっかりとスポンサーがおりますので」
「ス、スポンサー?」
ちなみに西川さんの言っているスポンサーとは、勿論バックアップを受け持ってくれた薩川・西川両家のこと。でも何故に「スポンサー」なのかと言うと、実は後日、俺と沙羅さんと西川さんの三人に、両家から「簡単な依頼」があるそうなので。
俺達としてもここまで大きな支援をして貰った手前、無下に断る訳にもいかなかったから一応引き受けたけど、後々が微妙に怖いような…うーん。
「おにぃちゃんもきてぇ!! さんたさんがぷれぜんとくれるって!!」
「お、そりゃ凄いな。そんじゃ俺も、サンタさんに挨拶でもしよっかね」
「うんっ!」
「おにぃちゃん、こっち!!」
ま、後のことは後で考えるとして、今は迎えに来てくれた未央ちゃん達と一緒にサンタの元へ。
改めて近くで見ると…うん、これはどっからどう見てもイメージ通りのサンタだ。服だけじゃなく、付け髭やカツラまで実にリアルで再現度高い。
「やぁお兄さん、いらっしゃい」
「どうもサンタさん。今日はありがとうございます」
一応この展開は想定済みだったので、俺達はお互いに決めてあった挨拶を交わす。俺の方は何だか棒読みな気がしないでもないけど…素人なんだから勘弁して。
「ねぇねぇさんたさん、おにぃちゃんのぷれぜんともある?」
「あ~、残念だけど、お兄さんにはプレゼントが無いんだよ」
「えぇぇ、なんでぇ!?」
「ほっほっ、お兄さんはもう"大人"だからねぇ」
「あ、そっかぁ…」
「むぅ…」
俺のプレゼントが用意されていないことに、若干納得しきれない様子の未央ちゃん達。
そんな三人の姿に思わず嬉しさが込み上げてくるものの…ここは俺が、サンタのフォローをしておかないと。
「サンタさん、今までプレゼントありがとうございました」
「ほっほっほ、大きくなったねぇ。私も嬉しいよ」
「さんたさん、おにぃちゃんのことしってるの?」
「勿論だよ。私は良い子のことなら皆知ってるからねぇ」
「みおは!? みおは!?」
「勿論知っているよ。未央ちゃんも、桜ちゃんも、有紀ちゃんもねぇ」
「わ、すごい!!」
「じゃあじゃあさんたさん、さくらのだしたおてがみよんでくれた!?」
「ああ、ちゃんと届いたよ。未央ちゃんと有紀ちゃんのお手紙もね?」
「やったぁぁ!!」
「さんたさん…」
「ほら、この中を見てごらん?」
サンタが背中に背負っていた袋を下ろし、中が見易いようにサッと広げる。でも、それを我先にと覗き込んだ未央ちゃん達の表情が直ぐに困惑へと変わり、俺もその後ろから覗いてみると…そもそも膨らみが無かったので予想はしていたが、やっぱり中身は空だ。
「さんたさん、なにもはいってないよ?」
「ほっほっほ…よく見ていてご覧?」
サンタが袋の口を閉じて、何やらぶつぶつと呪文的な言葉を唱えながら袋の上を撫で始めと…急にその部分がぷっくりと膨れ上がり、何やら存在感のあるものが!?
「わわっ!?」
「なんかでてきたぁ!?」
「えっ、えっ!?」
目をパチパチしながらその様子を見守っている未央ちゃん達と、同じくそれを興味深そうに見守っている皆の前で、サンタがもう一度袋を開くと…今度はそこに、先程までは無かった筈の、A4サイズくらいの綺麗にラッピングされた箱が存在している。
…え!?
「すごぉぉぉい!!」
「おにぃちゃんみてみて!! ぷれぜんとがでてきたぁ!!」
「う、うん、どうやったんだろうな?」
少なくとも俺が見ていた限り、袋の中にも下にもサンタは手を入れてない。そして最初から集会場に敷かれているカーペットに仕掛けをするのは不可能だろうし、袋の中に何も入っていなかったことも間違いない。
でも現実として、プレゼントがそこにある訳で…
「はい、これは桜ちゃんだよ」
「やったぁぁ!! さくらの!!」
袋から取り出したプレゼントを桜ちゃんに渡し、サンタは満足げに頷いてからもう一度袋を閉じる。そして先程と同じように、謎の呪文を唱えながら平らになったを袋を撫で始めると…またしてもプックリと膨らんだ!?
「えぇ!?」
」
「ど、どうなってんのアレ!?」
「う、うん…凄いね」
「くっ…タネさえ見つければ…」
同じく驚きを隠せない皆(約一名、違うみたいだが)の様子を、サンタは楽しそうに眺めながら再び袋を開くと…今度は若干薄いものの、その分サイズが思ったより大きい、綺麗にラッピングされた"何か"がまたしても現れ…
「ほっほっほ…これは有紀ちゃんだねぇ」
「わぁぁい、さんたさんありがとう!!」
有紀ちゃんは大喜びでプレゼントを受け取ると、それをぎゅっと抱き締めながら、「きゅあっきゅあ、きゅあっきゅあ♪」と何やら可愛らしく歌い出す。
恐らく中身に関係のある歌なんだろうけど…どこかで聞いたことがあるような、無いような?
「ふむふむ、それじゃあ次は…」
サンタが勿体つけるように袋を手で伸ばし直し、またしてもゆっくり、二度三度と袋を撫でていると…やはりその部分がひょっこりと、内側から膨らんでいく。
そして未央ちゃんは、順番的にそれが自分へのプレゼントだと分かっているので、目を輝かせながら俺の手をぎゅっと握りしめ…
「ほっほっ…それじゃあ未央ちゃん、プレゼントだよ」
サンタがパッと袋を開くと、そこには桜ちゃん達と同じ柄の包装紙に包まれた小さい何か…未央ちゃんへのプレゼントが姿を現し、それを受け取った未央ちゃんが、ぱぁぁっと表情を輝かせ…
「ありがとぉ、さんたさん!! おにいちゃん、さんたさんからもらったぁ!!」
俺の渡したプレゼントと一緒に大切そうに胸へ抱え、とても嬉しそうに報告してくれる。
「良かったね、未央ちゃん」
「うんっ!! ままにもみせてくる!!」
未央ちゃんはトテトテと、ちょっと危なっかしい小走りで和美さんの元へ向かい、桜ちゃんと有紀ちゃんも、それを追い掛けるようにお母さんの元へ向かう。
そしてサンタは…
「それじゃあ、私はこれで…」
俺だけに聞こえるような小声でそう呟くと、未央ちゃん達の注意がお母さん達へ逸れている今の内に、入ってきた窓から素早く外へ出ていってしまう。
相変わらず身軽だな…あのサンタ。
「あれっ、さんたさんは?」
「さんたさん、いないよ?」
「さんたさ〜ん?」
少し遅れてサンタが居なくなったことに気付いた未央ちゃん達が声を上げると、ちょうどそれに答えるように、天井の飾りに隠したスピーカーからシャンシャンという音が流れ始め…
「ほっほっほ。私は次の子にプレゼントを届けに行くから、これでさようならだ。また来年も会えるように…良い子にしているんだよぉ〜』
少しエコーが掛かったサンタの声が聞こえてくると、未央ちゃん達は慌てて窓を開けるものの…当然だけど、そこには誰も居ない。
「さんたさん、ありがとぉぉ〜!!」
「またきてねぇぇぇ!!」
「ばいばぁぁい!!」
三人は夜空に向かって声を上げ、暫くそのまま、じっと空を見上げ続け…
きっと未央ちゃん達には、トナカイのソリで空を飛ぶサンタクロースが見えているのだろうから…なんて。
「さんたさん、いっちゃった」
「うん、いっしょにあそびたかった…」
「さんたさん…」
寂しそうにそう呟く未央ちゃん達の元へ寄り添い、冷たい夜風の入ってくる窓をそっと閉めると、三人はぎゅと、俺にしがみつくように身体を寄せてきて…
「おにぃちゃん…またらいねん、さんたさんきてくれるかな?」
「うん、もちろん来てくれるよ。皆が今までみたいに良い子にしてたら、絶対にまた来てくれる」
「ほんとに?」
「ほんとにほんと?」
「ホントのホント。だから…」
「大丈夫!! もし来ないなんて言ったら、私が尻をひっぱたいてやるから!!」
いつの間にか夏海先輩が…皆が集まって、思い思いに未央ちゃん達の頭を撫でながら…
「このお姉さんはとっても怖いから、サンタさんも逆らえないんですよ?」
「あん? 誰が怖いって、誰が?」
「既に怖いです、夏海さん…」
「大丈夫、皆はとっても良い子だから、サンタは真っ先に来てくれる。私が保障する」
「そうそう。このちっこいお姉ちゃんの言う通り!」
「大丈夫だよ、未央ちゃん。今までだって、サンタさんはプレゼントを持って来てくれたでしょ?」
「うん…まりなおねぇちゃん」
「サンタさんがまた来年って言ったんだから、絶対また来てくれるよ」
「そっかぁ…うん!!」
皆の励ましに笑顔を浮かべ、三人はお互いの顔を見合いながら大きく頷く。
良かった…ひょっとしたら泣いてしまうかもと思ったので、少しホッとした。
やっぱり楽しいパーティーは、最後まで楽しくないとな。
「ふふ…それでは皆さん、お待ちかねのクリスマスケーキにしましょうか?」
そこにタイミングよく戻ってきた沙羅さんと幸枝さんが持っているのは、何号サイズなのか分からない特大のホールケーキと、同じく大きなサイズの横長ケーキ…
あれは沙羅さんと真由美さんが合作で作ってくれた、密かに俺も楽しみにしていたブッシュドノエル!!
「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「こ、これは…」
「うわぁぁ、綺麗!!」
「凄い!! どこぞの高級店なんか絶対目じゃないですよこのケーキ!!」
「薩川さん、本当に何でも出来るんだな…」
「だね。一体どれだけ努力すれば、あんな風になれるのか…」
この力作を前に、皆も最初の食事会を上回る興奮(特に夏海先輩)で色めき立ち…
「けーき!! くりすますけーき!!」
「まま、おっきいけーき!!」
「はやく、はやく!!」
「ふふ…もう少しだけ待って下さいね?」
テーブルの上に鎮座されたケーキに顔を寄せる未央ちゃん達を微笑ましそうに眺め、沙羅さんが持ち出したのは…ロウソク。
そっか、確かにそれもクリスマスの定番…
「海外ではクリスマスケーキにキャンドルを使わないのが一般的なんですよ?」
「そうなんですか?」
そんな俺の考えを補足するかのように、隣に居た西川さんがポツリと呟く。
「ええ。日本ではバースデーケーキのイメージが強いのか、そのままクリスマスケーキにも定着しているようなので」
「へぇ…あ、でもそう言われると」
確かにバースデーケーキであれば、年齢を考えてロウソクを立てるものだけど…でもクリスマスケーキに関して言えば、ロウソクを立てる理由も、具体的に何本立てるのかなど、そういった話を聞いたことがない。
「もう、えりりん!! そんなムードもへったくれもないこと言わないでさ」
「ふふ…ごめんね。でもキャンドルを使うと幻想的なムードを演出できるから、やっぱりクリスマスケーキには必須だと私も思うわよ?」
「だったら最初からそういう言えばいいのに…ったく」
俺も暗くした部屋で、ゆらゆらと揺れるロウソクの灯りに照らされた光景は、やっぱり幻想的な雰囲気だと思うから…クリスマスケーキにロウソクは正解だと思う。
「それでは明かりを消しますよ」
沙羅さんが両方のケーキに立てた数本のロウソクに火を灯し、室内の明かりを消すと…ケーキの周りだけがぼやっと明るくなり、ロウソクの灯りが作り出す影の揺らめきが独特の雰囲気を醸し出し、そこは一気に幻想的な世界へ。
ケーキの上に飾られたサンタや雪だるまが、まるで生きているかのように…それこそ、どこか別の世界に迷い込んでしまったような、そんな不思議な空間の中で、皆の顔がほんわりと優しい灯りに照らされている。
「♪〜」
その中でも一際、あまりにも幻想的すぎて、あまりにも神秘的すぎる沙羅さんの姿に目を奪われていると…一瞬、沙羅さんがこちらを見てふわりと微笑みを受かべ、直ぐに目を閉じてから、まるで「奏でる」ような透き通る音色の、クリスマスソングを口ずさみ始める。
「♪〜」
「♪〜」
俺も、皆も、未央ちゃん達も、お母さん達も…
その歌声に吸い寄せられるように、全員で同じ歌を口ずさみながら、やがて歌は終わりを迎え…
「さぁ未央ちゃん、桜ちゃん、有紀ちゃん…」
「うん!!」
「はーい!!」
「わかったぁ!!」
沙羅さんから名前を呼ばれ、その意味を理解した三人が顔を合わせると、一斉に大きく息を吸い込み…
「「ふぅぅ〜」」
ロウソクに息を吹き掛け、次の瞬間、暗闇に閉ざされた世界が俺達を包み込む。
でもそれは直ぐに終わりを迎え、パッと室内の明かりが戻ると…
それは同時に、あの"幻想的なの世界"から、現実に戻ってしまったたことをハッキリと実感させるもので…
でも今は…
「せーの!!」
「「メリー…クリスマーース!!」」
メリークリスマス…未央ちゃん。
そして…沙羅さん!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
えー…前回の引きを失敗して、サンタさんの正体にスポットを当ててしまうという痛恨のミスを犯しました。ちょっと考えれば直ぐ分かったのに…お陰で、正体が誰でもない第三者というつまらないオチを披露する結果になってしまい本当に申し訳なく思ってますorz
という訳で、取りあえず今回を持ってクリスマスパーティそのものは終了となります。次回はアフター的なお話と、その次にもう一つ、ちょっとしたお話を挟んで、いよいよ年末パーティー編になる・・・という流れです。
それにしても、前回サンタさんの登場で区切ってしまったせいか、妙に正体を勿体付ける結果になってしまい、オチにガッカリさせてしまいそうでちょっと失敗したかもと後悔しました。
今回は完全な第三者に任せるということで、当初からそう予定していたので、まさかここから展開を変えるわけにもいかず・・・実は政臣さんというオチも今更ながら面白そうだと思ったんですが、それをやると真由美さんの登場もあるので収拾がね(^^;
まぁ・・・政臣さんサンタは、孫が産まれてから(ぉ
それではまた次回に~
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