第72話 気に入らない相手

「「 あ 」」


お互い同じリアクションになってしまったのは仕方ないだろう。

こうして実際に会ってしまうと、わかっていたはずなのにやはり同じ学校だったんだと改めて認識できる。


「こんにちは、藤堂さん。」

「こんにちは、高梨くん。」


挨拶まで同じになってしまった。


「学校で会うと変な感じだね。」


「同じ学校なのはわかってたけど、むしろ今日までなぜ出会わなかったのか。」


「確かにそうだね。という訳で、学校でも宜しくね。」


「こちらこそ宜しく」


お互い笑顔で挨拶できた。

どうやら最初にあったであろう警戒感のようなものはなくなったようだ。


「あ、最初に謝っておくね。この前は変な態度をとってごめんなさい。人違いをしてたの。」


「人違い?」


どうやら誰かと間違われていたらしい。

よかった、初対面なのにあそこまで警戒されるなんて、俺はそんなに怪しく見える風貌をしているのかと焦った。


「うん。同姓同名の人がいてね…その人と間違えてたんだ。」


「同姓同名?」


俺の名前は世間一般的にどうなのだろう。

でも、可能性という意味では有り得るのか?


「うん。とにかく高梨くんとは全然違うから、気にしないで。」


こう言われたということは、少なからず悪い印象は持たれていないということだろうし、良しとしよう。


「わかった。変に思われていないなら別にいいよ。」


「ごめんね。それじゃ、また機会があったら未央ちゃんと遊んであげてね。私もいるかもしれないけど、そのときは三人でもいいかな?」


「もちろん、藤堂さんさえ良ければ、俺は全然かまわないけど。」


思ったより受け入れて貰えているようで嬉しい。

ひょっとして、藤堂さんも友達になってくれるかも…


そんな軽いことを考えていた。


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ガラガラガラ


「失礼しまーす。」


他のクラスの男が教室に入ってくるなど珍しいことではない。

ましてや放課後だからな。

だから別に気にしていなかったが、クラスの反応がいつもと違った。


「…え!え!なんで速人くんが」

「…やだ、うそ…」

「…ヤバイヤバイ」


どちらというと女子の方が煩いな


「よ〜速人、何か用か〜?」

「なんだ合コンか?やっと俺を誘う気になったか〜?」

「あー、機会があれば」


……どこかで聞いたような会話だ。

などと他人事のように聞いていたら、俺のすぐ横に気配があった。


「やあ、高梨くんだよね?」


「…そうだけど。」


スカし…爽やかな笑顔で俺に声をかけてきたこいつは

…速人って、そういやそんな名前だったな。


「何か用か?」


正直、こいつの印象は良くない。

モテるからとかイケメンだからとか、そんな小さい理由で気に入らないのではなく、何を考えているのかわからない上に意味深な動きをわざとらしく見せているからだ。


それに俺のことを最初からわかってる癖に何が「だよね?」だ


少なくとも笑顔で友好的に接するような相手ではないだろう。


「そんな邪険にしないでくれよ。先に伝えておくけど、俺は君と友達になりたい。あと、君と敵対するような要素もないから安心して欲しい。」


自分で自分のことを安心しろと言ってきた。

馴れ馴れしいのも好きではない。


…まさか沙羅先輩は自分に相応しいから、お前なんか敵ですらないとか、そういう感じのやつか?


「良かったらちょっと付き合ってくれないか? 話があるんだ。」


この後は、急ぎではないが生徒会室に行く予定がある。

だが、後の憂いを断つ為にもここは話をしておいた方が良さそうな気がする。

何を考えているのかよくわからないし、沙羅先輩をこんな軽薄そうなやつに近付けたくないというのが本音だ。


「…わかった。」


「ありがとう、それじゃついてきてくれるかな? ここじゃ落ち着いて話ができないから。」


俺が席を立つのを確認すると、誘導するように先に歩き出した。


「…速人くんが男の人を…」

「…何? どういうこと?」


「速人〜、俺らも手を貸すぜ〜」

「おい、手伝ってやろうか」


は?

何だそういう話なのか?


だがそれを無視して教室を出て行く。

少し進んだところで、イケメンが俺に聞こえるくらいの声で呟いた


「話しかけてくるなバカ共が。同類に見られるだろうが」


…仲がいい訳でもないのか?


そのまま少し歩いて、普段あまり使われない階段の踊場まできた。

周りは他の生徒もいないが、実は集団で待ち伏せているという訳でもないようだ。


俺が少し周りを確認しているのを見たイケメンが苦笑していた。


「あはは、警戒されてるみたいだけど、本当に君と話がしたいだけなんだよ。裏は何もないから安心してほしい。あのバカ共と俺は関係ないから。」


どうやら話があるというのは本当のようだ。

俺が改めて目を合わせると、自己紹介をしてきた。


「遅くなったけど、俺は横川速人。タメだから好きに呼んで欲しい。」


「…わかった。知ってるだろうけど、俺は高梨一成だ。」


「知ってるよ。あの薩川先輩と仲良くしている唯一の男は有名だからね。」


俺だって、沙羅先輩と一緒にいる以上、自分が全く噂されていないとは思っていない。

有名かどうかは知らないが。


「あ、二人の邪魔をするつもりはないから。そんなことするの空気が読めないバカくらいだね。」


…まぁそう思われているなら別にいいか。


「俺は薩川先輩じゃなくて夏海先輩が好きなんだよ。そういう意味では、俺は君が羨ましい。夏海先輩があんな風に接している男なんて見たことないからね。」


……は?

俺に接近してきて、更に夏海先輩が好き?

それがどういう意味なのか俺だってすぐわかる。

わざわざ宣言されたようなものだ…さすがに苛ついてきたのが自分でもわかった

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