第73話 真意

「良くわかった。俺も先に言ってやるが、お前みたいに利益狙いで友達になろうなどと言うやつは嫌いなんだよ。俺は友達を人一倍選ぶからな。」


自分でもかなり苛ついているのがわかる。

もともとこいつは気に入らない感じがしていたし、意図してないだろうが中学時代の頃を思い出す。


「誤解しないで欲しいんだ。俺は確かに夏海先輩が好きだけど、それを君に手伝って欲しいとかそんなことを言うつもりはないんだよ。」


こいつは本気で言っているのか?

俺に直接頼む訳じゃないが、間接的に役に立てと言っているようなものだ。

これは相手をするだけ時間の無駄だ。


「君と友達になりたいという気持ちに嘘はない。こう言うと自慢に聞こえてしまうかもしれないが、俺だって好きで女子から言い寄られている訳じゃない。でも俺と友人になろうとするやつらは、下心があって近寄ってくるだけで、俺のことなんか見ちゃいない。」


…確かに、あれだけモテれば有り得る話だ。

だがそれと何の関係があるというのか。


「君は、薩川先輩と夏海先輩という、この学校でもツートップの女性といつも一緒にいる。それに薩川先輩が恋人なんて、それこそ他の女性に目移りなどしないだろ?俺に女性の紹介を求めたいかい?」


……なるほど、言いたいことはわかった。

そういう意味では、確かに俺はこいつにそんな目を向けることはないだろう。

恋人というのは誤解だが、俺は沙羅先輩さえ側に居てくれればそれだけでいい。


「俺が夏海先輩のことを話したのは信用して欲しいからだよ。もし俺が、夏海先輩と仲良くなりたい為だけに君と友達になりたいのなら黙っていれば済む話だ。」


確かにその通りだ。

そしてそんなことをすれば…


「だけど俺が夏海先輩に言い寄った時点で、最初からそのつもりだったと誤解されて絶対に決裂するだろう。何度も言うが、夏海先輩のことは抜きにして君となら友達になれると俺は思っているんだよ。」


横川の思惑がわかって少し冷静になれた。

でも夏海先輩の件は…


「言いたいことはわかったよ。誤解していたとまでは言えないと思っているけど、最初から喧嘩腰だったことは謝る。俺はモテたことはないから気持ちがわかるなんて言わないけど、友人に恵まれないという部分は正直俺にもわかるから。」


「それなら…」

「だけど、理由がどうであれ夏海先輩のことはどうしても気になる」


一番のポイントはそこだ。


こいつは、思っていたより悪いやつではないのかもしれない。


友達に恵まれないという部分は共感できるし、夏海先輩のことがなければ友達になりたいなんて言って貰えて嬉しいと思う。


だけど、真意はさておき実質的には俺を利用する形になるだろうし、素直に受け入れられない。


「俺も自分で話をしていて、すぐに信用して貰えるとは思っていないよ。結果的には、前に自分がやられて嫌だったことを君にやろうとしているのは事実だし。」


既に自分がされていたのか…


「正直に言うと、夏海先輩の件がなければ友達になりたいと言ってくれたのは嬉しかった。俺も友達関係は苦労してきてるからさ。」


今まで真面目な顔をしていた横川が、俺の言葉を聞いて少し笑った。


「そうなんだ。できればこれから俺を見て信用して欲しい。だから先に夏海先輩のことを伝えたんだ。」


これは難しいな。


本当に俺と友達になりたいと思ってくれているなら受け入れたいと思ってしまう。

この必死さは少し気になったが、横川も友人関係で苦労してきてるのは何となくわかった。

それにこれは、夏海先輩のことをあえて言うことで、俺は誠意を示された形だ。


「なんて言って答えればいいのかわからないよ。」


思わず本音で答えてしまった。


これ以上は話をしてもどうにもならないと考えた俺は、横川をその場に残し早足で教室に戻った。


幸いバカ共は帰ったようだ。

これであいつらに絡まれたら、キレる自信しかない。


荷物をまとめて、生徒会室に向かうことにした。


------------------------------------------


「お疲れ様です。」


「お疲れ様で〜す」

「高梨くんお疲れ」

「お疲れ様〜」


生徒会室に入ると、既に集まっていたメンバーが挨拶をしてくれる。

迎え入れてくれている感じがして嬉しかったり。


まだ沙羅先輩と会長はいないようだ…


ガラガラガラ


「お疲れ様です」

「みんなお疲れ様」


と思っていたら、二人が入ってきた。

どうやらどこかに行っていたようだ。


「「「「「お疲れ様です」」」」」


会長は全員を眺めて揃っているのを確認しているようだ。

でも沙羅先輩は…俺を見ていた。


目が合ったのはわかったのだが、先輩は何も言わずに俺の方へ歩いてくる。

そして近くまでくると、俺の顔を少し覗き込むように顔を横に傾けた


「高梨さん、どうかなさいましたか?」


「え?」


「何か気掛かりなことでもございましたか?私で宜しければお話をお聞きしますよ?」


心配してくれているのがはっきりわかる表情だ。


「…変な感じあった?」

「…いや、全然気付かなかったけど」

「…いつも通りだよな?」


確かにあいつとの一件で悩んでいるのは事実だが、さすがにそれを見せるような素振りはしていないはずだ。

これは俺が顔に出やすいというより、沙羅先輩が鋭いのだろうと今更気付いた。


「いえ、何でもないですよ。大丈夫です。」


俺は精一杯の笑顔で返事をする。

だが、それを見た先輩は更に表情を曇らせて、俺の腕を掴んだまま引っ張った…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る