第71話 練習試合
夏海先輩の練習試合当日、駅前で沙羅先輩と待ち合わせていた。
会場はウチの学校だから、いつものコンビニでも良かったのだが…
せっかくの日曜日に会うんだから…という小さい理由だった。
俺が言い出したことだけど、先輩は何も聞かずに二つ返事で頷いてくれた。
そして当日、もちろん俺は早く来ていた。
男だからとか待たせたくないとか色々あるかもしれないが、一番重要なのは沙羅先輩がナンパされるフラグを折ることだ。
あんな可愛い人が一人で立っていれば、その辺にいるチャラ男が黙っている訳がない。
「おはようございます、高梨さん。お待たせしてしまいましたか?」
「おはようございます、沙羅先輩。大丈夫です、さっき来たところですから。」
などとテンプレな挨拶も俺は嬉しいのだ。
「毎回お待たせするのは申し訳ありませんので、次の機会は私も早く…」
「沙羅先輩、先に来て待つのは俺の役目なんです。だから、俺より早く来ようとするのは禁止です。」
「は、はい。高梨さんがそう仰るのでしたら、私は時間通りに致します?」
という訳で、今回も無事に合流できたので学校に向かう。
「テニスを生で見たのはこの前が初めてなんですけど、思っていたより楽しかったんですよ。まぁ夏海先輩の試合だったからという理由もありますけど。」
「そうですね、私もテニスに興味がある訳ではないのですが、やはり友人がやっているというだけで違いますね。」
ちなみに、今日の先輩は前回のデート(?)とはまた違い、比較的ラフな服装ではあるのだが……
でも爽やかで清楚な雰囲気満載でやっぱり俺を殺しに来てるんだよ!
ただ、今日は俺のプレゼントした帽子をかぶってはこなかったらしい。
俺が頭を見ていることに気付いたのか、先輩は
「申し訳ございません、あの帽子は私の宝物なのです。少しでも長持ちするように、しっかりとしたお出掛けのとき以外には使用しないと決めておりまして…」
そんな風に言われてしまうと、プレゼントをした甲斐があるな。
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学校に着いてテニスコートに向かう。
意外と生徒がいるみたいだ…部活で登校してきている人も多いようだが、私服はテニスの応援かもしれない。
そう言えば、先輩は夏海先輩の応援に何度もきているんだっけ…
テニスコートに着くと、思っていたより人が多い。
夏海先輩専用の横断幕が一際目を引いた。
あれは多分ファンクラブだろう。
…こちらに手を振っているのはクラスの二人か。
少し手を挙げて挨拶だけはしておく。
「この辺りに致しましょうか。」
先輩が比較的空いている場所を選んでくれた。
まだ試合まで時間があるようだ。
しかし、早くも俺達は注目を集めているようだ。
沙羅先輩の私服姿は破壊力が凄まじいからな…
対戦相手側の応援に来ているであろう連中までこちらを見ているし。
「…薩川さんと一緒にいるやつなんだよ」
「…おいおい、男連れとか」
「…やべ、めっちゃ好みだわ。お前声かけてこいよ」
「…男が隣にいるだろ」
虫除けになっているなら何よりだな。
「お昼ご飯はお弁当を用意しましたので、お腹が空いたときは仰って下さいね。」
全く気にしていないらしい先輩は、いつも通りの様子で俺に話しかけてくる。
昼食のことは話をしていなかったが、先輩がお弁当を用意してくれたらしい。
休日まで先輩のご飯を食べられるのは嬉しい。
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夏海先輩が圧勝した試合が終わり、暫く時間があるのかジャージ姿でこちらへ来ていた。
「お疲れ様です、夏海」
「夏海先輩、凄かったですよ。」
声をかけると、夏海先輩が少し照れ臭そうな
表情をした。
「沙羅は来てくれると思ってたけど、高梨くんまで来てくれるなんて聞いてなかったんだけど?」
「内緒で誘われてましたから」
そんな会話をしていると、キャーキャー煩い歓声が聞こえてきた。
「あいつは相変わらす人気があるねぇ。」
横断幕には「横川速人」とかかれている。
テニスコートを見てみると…あいつだ。
かなりの人気なんだろう。
ひょっとして他の学校の女子までいるんじゃないか…?
「私は応援団の子達のところへ行ってくるね。」
そう言うと、夏海先輩はファンクラブの方へ向かった。
「さて、今の内にお昼ご飯を食べておきましょうか? 夏海は後でもう一試合あるんですよ。」
「あ、そうなんですね。どこで食べましょうか?」
何事もなかったように先輩がお昼ご飯の話をしてきた。
正直…沙羅先輩が、あいつに全く興味を示していないことにホッとしていた。
「ここでは落ち着きませんね。花壇へ行きましょうか? あそこなら他に誰もいないでしょうから、二人だけでゆっくりお食事できると思います。」
二人だけと言われて、また過剰反応するところだった。
落ち着け、先輩はそんな深い意味で言った訳じゃない…
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ルールはよくわからないが、団体戦なのだから勝ちが多ければいいのだろう。
どうやらウチの学校が勝ったようだ。
あいつも勝ったようだが、悔しそうな表情をしていた。
あの様子をみる限り、少なくともテニスは真面目にやっているのであろうことはわかる。
「おめでとうございます、夏海」
「ありがと。高梨くんどうだった?少しは楽しんで貰えたかな?」
「はい、今までテニスは見たことなかったんですけどかなり面白かったです。夏海先輩かっこよかったですよ」
俺が素直に感想を伝えると、少し照れ臭そうな顔をした夏海先輩に背中を叩かれた
「照れるからそういう言い方しないでよ!」
自分の好きなテニスで褒められたからだろうか、いつもの夏海先輩とは少し様子が違って新鮮だった。
「では、夏海も忙しいでしょうから、私達は失礼しましょう。高梨さん、宜しいでしょうか?」
「はい。夏海先輩、話の続きはまた明日」
「いや、私の話はもういいから! とにかく、今日も来てくれてありがとうね」
夏海先輩が手を振って見送ってくれた。
……もちろん気付いていたさ。
あいつはずっとこちらを見ていた。
最初は見られていることに苛ついていたのだが、睨まれているとか、クラスのチャラ男達のような敵意を向けてきているとか、そういう感じではなかった。
そして、最後に目が合ったときに、少し笑い顔を見せた。
手を挙げて、挨拶のような仕草をしてきた…よくわからんやつだな。
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