第101話 テスト勉強

浴室から出て、脱衣場でバスタオルを取ると可能な限り身体を拭いて、先程持ち込んだ替えの下着やズボンを身につける。

問題は上着だが…やはりこのまま出るしかないだろうな。

上半身だけなら今更だし、部屋なら先輩も大丈夫だろう…多分。


一応バスタオルを羽織り脱衣場を出ると、替えの上着や包帯、湿布など準備万端で沙羅先輩が待機していた。


お互い気恥ずかしさやら何やらで、目を合わせた瞬間に赤くなってしまった。

そして恥ずかしがっている沙羅先輩を見るとまた思い出してしまいそうで…


「あ…また想像しています…今日の一成さんは本当にいじわるです…」


そうやって恥ずかしそうに言われると堂々巡りなので、流れを絶つしかないぞこれは。


「す、すみません沙羅先輩。でも恥ずかしいでしょうし、大変ですから風呂はさすがに…」


「い、いえ、今日はまだ馴れなくて醜態を晒してしまいましたが大丈夫です。一成さんの為でしたら私は頑張れますので。」


そう言って、両手でこぶしを握り小さく「ぐっ」とした。

頑張りますって可愛くアピールしている姿がまた…


そしてここでも俺に拒否の二文字は存在しないのだ。

俺が頑張ればいいんだよ…俺が。何を頑張るのかは言えないけど。


「さ、さぁ一成さん、まずは頭をしっかり拭きましょうね。」


そう言うと俺の後ろに回り、羽織っているバスタオルを持ち上げて頭を拭き始めた。


「わぷ」


「ふふ…少々我慢して下さいね」


沙羅先輩が調子を戻したようで、いつもの余裕あるお姉さん的な感じになった。


どうやら何かしらのスイッチで、ちょっと子供っぽくなったり、普段の世話好きお姉さんに戻ったりするようだ…


俺の頭をしっかり拭くと、肩や背中など拭けていなかった場所を拭いて、上着を着せてくれる。

ちなみに我が家にドライヤーはない。


「さぁ一成さん、こちらに座って下さいね」


テーブルには包帯等が用意されているので、椅子に座り右腕を沙羅先輩の方に向かってテーブルの上に置く。

そのまま湿布を貼ると、くるくると包帯を巻いてくれた。


「はい、これで大丈夫です」


「ありがとうございました。すみません何から何まで…」


「いいえ、全部私がやりたいからやっているのですよ。」


沙羅先輩は本気でそう思ってくれているのだから凄いというか…頭が上がらない。


そして沙羅先輩の帰る時間になる。

送って行きたいんだけど…


「一成さんはお怪我があるのですから、お家で大人しくしていて下さいね」


そう言われるのはわかっていました…


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夏休み前の最後の難関…それはテストだ。

俺は授業をサボったりはしてないから、成績は普通くらいだと思う。

だが今回は右手が上手く使えないせいで、問題数や書く文字数の多い教科が大変かもしれない。


「生徒会役員としては、せめて平均点以上を取って貰いたい。去年まではやっていなかったが、今年からはテストまでの数日間、放課後に勉強会を行うことにしよう」


うーん…やっぱり生徒会役員としてはそういう部分も気を付けないといけないのかな


「かいちょ〜、勉強会ってことは教えてくれる先生が欲しいです」


「私で良ければ聞いてくれ。1〜2年の勉強なら薩川さんも協力してくれるだろう。」


「やった!」

「おっしゃ、やる気出た」

「わからないところ結構あるんだよなぁ」


「…オチが見えた」

「…私も」


沙羅先輩はテスト成績が断トツの一位だってことは知ってる。

多分会長もいいんだろうし…他のみんなはどうなんだろう


「高梨くんは勉強どうなんだい?」


「授業はちゃんと受けてるつもりですけど、家では宿題くらいで勉強はしてないです。やっぱりダメですかね…?」


俺がそう言うと、他の人達も会話に混ざってくる。


「私は一応やってるよ〜」

「俺も授業で怪しかったときはやるな」

「テスト前くらいは普通にやるぞ」

「私も〜」


ひょっとして勉強してないの俺だけか?

ヤバい、俺だけ成績悪かったら皆の足を引っ張りそう…


「高梨さんなら大丈夫ですよ。わからないところは私がお教えしますので」


沙羅先輩には、学校では俺のことを今まで通り「高梨さん」と呼ぶようにお願いした。

一番の理由は、俺自身のけじめとして人前でお互いを名前呼びするのは正式に付き合いを始めてから…と決めていることがある。

他にも騒ぎになりそうというのもあったり、二人だけの秘密というフレーズを沙羅先輩が気に入ったとか、まぁ色々あるのだ。


「宜しくお願いします。頑張りますから!」


「頑張って頂けるのは嬉しいのですが、右手を使いすぎないように気を付けて下さいね。」


なるべく力を抜いて書くようにしてるけど、字がヘロヘロになるのがネックなんだよな…


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「すみません沙羅先輩、ここなんですけど」


「はい。ここはですね、これをこうして…」


数学が最も苦手な俺は、どうしてもこの教科だと質問が多くなる。

でも沙羅先輩は凄くわかりやすく丁寧に教えてくれるからありがたい。


「ありがとうございます。すみませんすぐに聞いてしまって…」


「いいのですよ、その為に私がいるのですから。わからないことはどんどん聞いて下さいね」


笑顔でそう言ってくれる沙羅先輩の為にも、成績を少しでも上げないとな。


「な、なぁ薩川さん、ここって」

「教科書をしっかりと読みましたか? 質問は自分で可能な限り調べてからにして下さい」


「…はい」


「やっぱり」

「勉強よりわかりやすいオチだね…」


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沙羅先輩という先生を得たお陰で、俺の勉強はかつてないほど捗っていた。

生徒会の時間だけでなく、家でも空き時間に教えて貰っていた。


でもいまだに馴れないのは…


「一成さん、お背中流しますね」


「は、はい! お願いします…」


沙羅先輩と浴室で二人きりとか、緊張しない方が無理だ。


「ふふ…如何ですか?」


俺はまだ全然なのに、沙羅先輩の方は余裕が出来てきた感がある。


「今日も5分で大丈夫ですか?」


悔しいのでわざわざ聞いてみたりした


「…それは、わかっていて聞いてますよね? いじわるです…」


ぐはっ…

沙羅先輩の恥ずかしがる声を聞いて、結局やられるのは俺だけだった。

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