第289話 本当の家族に
俺と政臣さんは、次にやるアルバイトの話をするという名目で、庭にある個人オフィスに移動した。
政臣さん曰く、ここなら何を話しても問題ないし、誰かが近付いて来ても直ぐに分かるから…とのこと。
つまりそれは、政臣さん的に、真由美さんや沙羅さんに聞かせるつもりのない話をするって意味でもある訳で…
政臣さんの雰囲気も相まって、いったいどんな話をされるのか、俺も緊張せずには居られない。
「さて…本題に入る前に、まず先に言っておくね。今から私が話すことは、実は沙羅が知らない話なんだ。これは私達夫婦とお義母さん…今は三人しか知らない。でもそこまで大袈裟な話じゃ…と言っても、当時はやっぱり大騒ぎしたんだけど、今となっては思い出として受け止められているからって意味だよ。だからこれは沙羅にも伝えてないし、この先も伝えなくていいと私達は思ってる」
「あの、そこまで重大な話なら、尚更俺よりも沙羅さんの方がいいんじゃないですか? こんな言い方はしたくないですけど…俺は、血の繋がった本当の親子という訳じゃありませんし…」
政臣さんも真由美さんも、俺のことを本当の家族のように受け入れてくれてるってことは勿論分かってる。十分に実感してる。
でもそれは「ように」であって、あくまでも「義理の息子」であることに変わりはない。しかも本当の娘である沙羅さんですら知らないことを、血の繋がりもない俺が知っていいものかどうか…
「一成くん、確かに私達は血縁がある訳じゃないし、どうやっても義理の親子という事実を変えることは出来ない。それにまだ、正式な養子縁組もしていないからね。でも私は…いや、私も真由美も、君のことはもう実の息子だと思っているんだよ。だから、そんな君と沙羅が一緒になってくれるのは、本当に嬉しいんだ」
「…政臣さん」
どうしよう…
そんな風に言ってくれるなんて…
嬉しいんだけど…本当に嬉しいんだけど…だから油断すると…でもダメだ、堪えろ!
「いきなりこんなことを言って済まないね。でもこれは間違いなく、私達の本心だから。私も今日、君からプレゼントを貰って、改めて自分がそう思っていることを実感した。だから自分に血縁がないとか、本当の家族じゃないとか、そんなことはもう決して思わないで欲しい。今からこれを話すことも、私が君を本当の息子だと思ったからこそ話すんだ」
「…わかりました」
嬉しさで内側から込み上げてくるものが凄いけど、でも気合いでそれを押し止めて、何とか話を聞く体裁を作る。
沙羅さんも知らないという事実はまだ引っ掛かるけど、でも政臣さんがここまで言ってくれたんだ。
だから、今はとにかく話を聞くことに集中しよう。
「ありがとう。それで肝心の本題なんだけどね…一成くん、最近、真由美の行動が色々と行き過ぎていると思わないかい? 単刀直入に言うけど、私は真由美の君に対する愛情表現が、一般的なそれから離れてしまったように思える。ひょっとして、私の見ていないところで、真由美が色々と無茶をしたりしていないかな?」
「えーと…その」
確かに…行き過ぎていると言うか、エスカレートしてると言うか。
最近は油断すると直ぐにスキンシップを図ろうとするし、思い当たる節は色々とあるけど…ちょっと言い難いかも。
でも父母参観のときは、流石にやり過ぎだと思ったかな…
「うん、やっぱりね。済まない、どうやら私の思っていた以上に、君には迷惑をかけていたようだ」
「いえ、そんなこと絶対にないです!! 真由美さんには本当にお世話になってますし、その、可愛がって貰えるのも嬉しいと思ってます。俺のことをそこまで受け入れてくれてるんだって思えば、決して迷惑だなんて!」
俺の反応で政臣さんは何となく察してしまったようだけど、でも俺は、真由美さんの行動を迷惑だなんて感じたことは全くない。
ちょっとやり過ぎかなと感じたことはあっても、それだって俺のことを思ってくれているからこそだと思うし、だから迷惑だとか嫌だとか、そんなことは全く思ってない。
それだけは絶対に間違いないんだ!
「そうか…ありがとう。真由美のことを、そこまでしっかりと考えて貰えるなんて、私も嬉しいよ。これについては、改めてお礼を言わせて欲しい」
「いや、俺の方こそ…」
何か変な雰囲気になってしまったけど…
でも政臣さんが言っていることから察するに、今回の話は、俺に対する真由美さんの行動についての話ってことなのか?
「それで、その真由美についてなんだけど、恐らく君に対して本当の息子…本当のような、じゃなくて、本当の息子として愛情を感じているんだと思う」
「本当の…ですか?」
「そう。本当に、本物の、だよ」
本当に本物の息子…つまり真由美さんは、俺を「義理の息子」とか「息子のように」じゃなくて、「本当の息子」として扱ってくれているって意味か?
なるほど…確かにそう言われて見れば、合点の行く部分は多いように思う。
特に最近の真由美さんは、明らかに「義理の息子」に対する接し方を逸脱したレベルになって来ているような気もするし。
でも、仮に俺のことを「本当の息子」だと思ってくれていたとして、高校生の息子に対して、あそこまではやらないと思うんだけど…
「そもそも、真由美は最初から君のことを気に入っていたんだと思う。沙羅と仲良くなれた唯一の男子という点もあるだろうし、沙羅を本当に大切にしてくれる君だからこそ…という理由もあるだろう。後はこんなことを私が言うのも何だけど、どうやら若い頃の私と、今の君が重なって見えている部分があるみたいだね。それで学生時代を思い出して楽しくなったり、初々しい君の反応を見て嬉しくなったりしているんだと思う。これについては、私も申し訳ないと思っているんだが…」
「い、いえ…その辺りは、何となくわかってましたから。それに、俺の沙羅さんへの想いとか、本当に喜んでくれていたのも知ってます」
「うん。でもね…私が思うに、それは切っ掛けと言うか表面的なことだと思うんだよ。恐らく真由美は、それとは別に、無意識で君のことを…」
政臣さんの歯切れが悪い…
かなり言い難そうにしている様子も伺えるし、つまり政臣さんが今から話そうとしているのは、それだけ重要な話ってこと。
恐らく真由美さんの深層に関わる部分であり、政臣さん達夫婦にとっても深い話。
本当に、そんな話を俺が聞いてもいいんだろうか…
「済まないね。これを言えば、少なからず君にも背負わせてしまうことになると分かっているんだ。でも、これから家族として、ずっと真由美と接していく君には知っておいて貰うべきだと私は思った。だから言わせて貰うよ」
そこまで前置きすると、政臣さんは少し目を閉じて一呼吸入れるような仕草を見せた。気持ちを切り替えるような、気合いを入れたような…そんな風に見えて。
「これはまだ、私達が結婚する前とか前後とか…その頃の話なんだけどね。最初の子供の話になると、真由美は男の子を欲しがったんだよ。でも私は女の子が欲しかった。だから子供は最低でも二人…って考えてたんだ。勿論、生まれてきてくれるなら、どちらが先でも構わないって私は思ってた」
「………」
「真由美が男の子を欲しがったのは、自分が子供の頃に兄が欲しいと思っていたから…らしいんだ。だから真由美と仲良くなれた頃は、私はお兄ちゃんが欲しかった、政臣くんが年上なら良かったのにって…そんなこと言われてもね…でもよく言われたんだよ。だから結婚して子供が出来たら、最初は必ず男の子がいいって、真由美はずっとそう言ってた。そして二人目は女の子だって」
「そしてね、結婚して、やがて真由美の妊娠が分かって、私達は本当に喜んだ。真由美はまだ性別すらわかっていないお腹の子に、絶対に男の子だからって、そう言い張っていたんだ。でもそんな矢先に…流産してしまって…ね。まだ妊娠初期だったから、結局性別も何も分からないままだった」
どうしよう…俺が思っていたより、遥かに重い話だ。
もう何と言っていいのか分からないし、かける言葉も見つからない。でも政臣さんは、特に何かを言って欲しい訳じゃなさそう…と、俺が勝手にそう感じているだけかもしれないけど、でもそんな風に思えて。
だから、もうここは、黙って最後まで話を聞くしかない。
「本当に…真由美のショックが凄くてね。もう一度前を向けるようになるまで、暫く時間がかかった。今の真由美からは想像出来ないかもしれないけど、あの時は本当に酷かったんだよ」
「そう……なんですね…」
「うん。だから沙羅が生まれたときは、私達はもう本当に嬉しくて嬉しくて。真由美も私も、男の子とか女の子とか、もうそんなことはどうでもよかった。ただ生まれてきてくれただけで、生まれてくれただけで、只それだけで、もう本当に嬉しかった」
その当時のことを思い出しているのか、政臣さんの本当に幸せそうな笑顔が俺の心に激しく響く。政臣さんの気持ちが伝わってくるようで、当時の様子が何となくでも頭に思い浮かんでくるようで…
だから、さっき我慢した、込み上げてくるそれが、また顔を出しそうで…
俺は…俺は。
「だから私達は、沙羅のことが本当に可愛くてね。しかも幸いなことに、沙羅は真由美に似てくれたから…これは親バカだと思われるかもしれないけど、将来は絶対に美人になると確信していたよ。でもそれが仇になって、まさか男嫌いになってしまうとは思ってもみなかったけどね」
「そうですね。でも、俺としてはそのお陰で…って部分もあります」
「はは、確かに。だから君が、沙羅と交際しているなんて言い出したときは、本当に驚いたよ。全くもって信じられなかった。でもね、そんな沙羅が選んだ君だからこそ、私はどういう形になろうとも、二人を認めるつもりでいたんだ。やっぱり親として、寂しい気持ちはどうしてもあったけど、それでも沙羅が選んだ男であれば、間違いなどある筈がない…ってね。そしてそれは正しかった。しかも結果的に、君は私の望みすら叶えようとしてくれているんだから」
「俺は…俺は沙羅さんと一緒に居られれば、他には何も要らないと思ってました。今でもそう思ってます。だからあの時、もしどうにもならないのであれば、沙羅さんを連れて実家に帰ることも考えました。でもそんなことをしても、両親が心から認めてくれなきゃ、沙羅さんが本当の意味で幸せになれる訳がないって…心にずっとそれが残ることになるって、分かってましたから。沙羅さんが本当に幸せになる為には、俺が政臣さんと真由美さんから認めて貰わなくちゃダメだって。だから、皆に一番いい形で認めて貰える道を探すのが俺の役目なんだって、そう思ってました。だって、沙羅さんを幸せにするのは俺の役目だから。それは誰にも譲れない。沙羅さんが一番幸せになれる道を選ぶことが、俺にとっても一番幸せな道なんです」
沙羅さんのお見合い話が出たときは、最悪のケースも考えなかった訳じゃない。
でもそれは、本当に最後の最後だって思ってた。
それに俺個人としても、政臣さんや真由美さんに自分を認めて欲しいって気持ちは強かったし、沙羅さんの為にも絶対に諦める訳にはいかなかった。
だからこそ、提示された条件を受け入れることに迷いなんか無かったし、それで道が開けるのであれば寧ろ望むところだって、そう思った。
しかも肝心な条件だって、俺からすれば条件なんて言えないくらい、喜んで受け入れられる内容だったし。
「幸せにするのは俺の役目…か。はは、まさかそれを、私自身が言われる日がくるなんてね。あの日のお義父さんも、こんな気持ちだったのかな…いや、子供が生意気言うなって、思われただけかな」
「政臣さん?」
政臣さんが楽しそうに、懐かしむように、どこか独り言で笑いながら…
それにお父さんって聞こえたけど、それはひょっとして「お義父さん」、真由美さんのお父さんのことなのかな?
「うん。沙羅が選んだ男なら間違いないと、そう思った私の感覚はやっぱり正しかった。しかも君は既に、西川社長とお義母さんという最強の後ろ楯があるからね。そっちの意味でも何ら不安はない。仕事なんてものはじっくりと覚えて経験していけばいいんだよ。でも人脈だけはそうもいかない。君はその人脈を引き寄せて、自分の力にする何かが…才能があるんだと、わたしはそう思ってる」
「え、えっと?」
政臣さんが興奮気味になってきて、しかも俺のことを褒めてくれているのは勿論嬉しいんだけど。
きっと俺に期待してくれているんだろうし、だからこそ、俺もその期待に応えたいって素直に思える。 これからもますます頑張ろうって、気合いが入った。
ただ…今は、話の本題が…ちょっと
「おっと、済まないね、つい話が脱線してしまった。つまり私は、それだけ君に期待してるってことなんだよ。だから私達は、今後も二人のことを応援していくよ」
「ありがとうございます。これからも頑張ります! それで…」
「うん、真由美の話に戻るよ。つまりだね、真由美が君に見ている姿は一つじゃないんだと、私は思う。沙羅を大切にしてくれる君、沙羅を幸せにしてくれる君、昔の自分を思い出させてくれる君、私の若い頃を連想させる君…そして」
政臣さんが、俺の目を真っ直ぐに見る。
一点だけを見つめるように、じっと…
だから俺も目を離さない。もうその答えは想像がついているけど、でも俺はそれを聞かなければならない。俺が本当の家族になる為にも。
「まだ名前も、姿も見ることが出来なかった子供の姿を、無意識にでも君と重ねて…だからこそ、行きすぎとも言える一層の愛情を持って、君と接しているんじゃないかと、そう思うんだ」
そして政臣さんから語られた一言は、俺の想像通り…予想通りの言葉だった。
これで、今まで真由美さんが、俺に対して過剰なまでの愛情を見せてくれたことの説明がつく。
「君には迷惑な話かもしれ…」
「ありがとうございます…それを聞いて、俺はますます真由美さんのことを、本当のお母さんだと思えるようになりました」
でも…それを知っても、俺の真由美さんに対する気持ちは全く変わらない。
それどころか、寧ろ…
「…一成くん?」
「例えそうだとしても、真由美さんは俺のことを、ちゃんと一成として見てくれてます。だから重ねていると言うよりは、その子の分まで俺を可愛がってくれてるんじゃないかって、そう思うんです。そう考えたら、真由美さんは二重の意味で、俺のことを本当の息子だと思ってくれてるってことじゃないですか? そんなの、俺には嬉しい気持ちしかないです」
俺は「重ねる」という考え方も、角度を変えれば違うニュアンスとして見ることが出来ると思う。
その人の「代わり」って考えると、ネガティブな印象が出てしまうけど、でも真由美さんも…そしてきっと花子さんも、「身代わり」として俺を見ているんじゃなくて、「その子の分」まで、俺のことを可愛がってくれてるんじゃないかって。
そう考えればより自然に納得できるし、その方が正しい捉え方だと思える。
「だからそれを聞いて…俺はますます、真由美さんのことを本当のお母さんだと思えるように…なりました。そして、そんな大切なことまで俺に話してくれた政臣さんも…やっぱり、やっぱり俺にとっては、本当の、お父さんです」
普段であればここまで言うのは本当に照れ臭かっただろうけど、でも政臣さんが、こんな大切なことを話してくれたんだ。
真由美さんの気持ちがわかって…だからこそ、俺はその気持ちに答えたくて、俺の本当の気持ちを政臣さんに伝えたくて…
そう思ったら、自分でも驚くくらい、すんなりと言えてしまった。
でも、ここまで我慢した気持ちとか、嬉しさとか…俺は…
「そうか…そうだね。うん…うん、君の言う通りだ。確かに、真由美はきっと、きっと、あの子への愛情まで…君に…」
「はい…はい!! だから…だから俺は…俺は…俺…は…うれ、嬉し…です…」
もう、もう…無理…
沙羅さんが生まれたときの、二人の喜び様が目に浮かぶようで、それに感動して。真由美さんがどれだけ俺のことを思ってくれていたのか、その理由を知って…政臣さんの嬉しそうな…本当嬉しそうな顔を見て…嬉しそうに…
だから…俺も政臣さんも、暫く…
二人で、言葉にならなかった…
………………
「一成くん、話を聞いてくれてありがとう。君に話すことが出来て、本当に良かった」
「俺の方こそ、こんな大事な話を聞かせてくれて、ありがとうございました。これで俺は、今まで以上に、真由美さんの行動を素直に受け入れることが出来ます」
今までは色々と思うところがあって、本当にいいのか? とか、大丈夫なのか? みたいに、心配に思うことがあった。でも真由美さんが俺をどう思ってくれているのか分かった今なら、素直にそれを受け入れることが出来る。
但し…沙羅さんに迷惑をかけないという絶対条件は守った上での話だ。
「ありがとう。私もずっと気にしてはいたんだけど、それを知っているだけに、君と接する真由美が嬉しそうで何も言えなくてね。本当に申し訳なかった」
「いえ、事情を知ったら、政臣さんがそう思うのも当然だと思います。だから気にしないで下さい。俺は、真由美さんのそれも嬉しいですから。ただ…沙羅さんの前では…」
「うん。それについては、私の方からそれとなく話しておくよ」
「はい。俺も沙羅さんが見ていないときとか、沙羅さんが嫌に思わない範囲なら、少しくらいは真由美さんの好きにして貰ってもいいんじゃないか…とは思います。だから、その辺りで上手く…」
花子さん然り、真由美さんも、あくまで沙羅さんに迷惑をかけない、沙羅さんに嫌な思いをさせないってスタンスを守れるのであれば、俺としてもそのくらいは。
やっぱり沙羅さんが何よりも最優先ってことだけは、絶対に譲れない一線だけど。
「本当に…沙羅だけじゃなくて、真由美のことまで…迷惑をかけるね」
「迷惑じゃないです。だから、気にしないで下さい!」
「そうか…ありがとう。改めて、宜しくお願いするよ」
「はい」
「それと、今日の話は真由美には秘密にしておいて欲しい。あくまでも無意識だろうし、それを指摘して無理に意識させたくない」
「わかりました。でも、沙羅さんは本当にいいんですか?」
「名前も性別も姿すらわからないのに、実は兄か姉がいたなんて沙羅に伝えても、戸惑うだけだろうからね。でも、君がこの話を知った以上は、もし話した方がいいと判断したなら言ってくれても構わないよ。寧ろ、君からの方が、沙羅も冷静に話を聞けると思う」
俺からこんな話をするなんて、そんな大それたことをするのはどうかと思うけど…
でも政臣さんがそう言うのであれば、いつか。
「わかりました。もし、必要だと思えるときが来たなら、そのときは話をするかもしれません」
それがどんなときなのか分からないけど、もしそう思えるときが来たなら、そのときは。
「それでいいよ。沙羅のことは、君に任せた。全て君に任せる。そうだね…もしこの話をするときがあるとすれば…沙羅が」
「沙羅さんが?」
「はは、まだ気が早い話だね。やっぱりこれは、君がそう思ったときに話してくれ。勿論、話さなくてもいいよ。私達は、元々話すつもりが無かったんだから」
「りょ、了解です?」
話すに相応しい時期の心当たりがあるなら、教えてくれてもいいと思うんだけど。
でも、それも自分で決めろってこと…なのかな?
……………
………
…
「んふふ、一成くんも政臣さんも、二人ともどうしたんですか? 妙に嬉しそうですけど?」
あれから…俺と政臣さんは、一応アルバイトの話もして母屋に戻った。
ちょうど沙羅さんが呼びに来ようとしていたみたいで、あんな情けない姿を見られなくてホッとしてしまったり。多分、政臣さんも。
そのままテーブルについて食事を始めたけど、真由美さんも沙羅さんも、俺達の様子に違和感を感じたみたいで、こっちを見ながら不思議そうに首を傾げていた。
「いや、何でもないんだ。ただ、一成くんからプレゼントを貰ってね…それがとても嬉しくて…真由美があんなに喜んでいた気持ちが分かったかなって」
「あら、一成くんったら、政臣さんの分まで用意してあったの?」
「はい。お義母さんとお義父さんへ、日頃の感謝を込めて…でしたから」
「ふふ…一成さんは、本当に素敵ですね。後で、私からもお礼をさせて下さい」
「えっ? でも、沙羅さんからはもう…」
沙羅さんからはお礼の言葉も、キスの嵐も、既に色々と貰っている訳で。
だからこれ以上は完全に過剰。
「それはそれ、これはこれ…です。後で、いい子いい子して差し上げますからね?」
それって結局、沙羅さんがしたいだけ…いや、俺もして欲しいから、素直にそれは受け入れさせて頂きますけどね…ええ。
「ははは、本当に、仲が良くていいことだよ」
「あら、随分余裕がありますね? 沙羅がこんなことを言ったら、いつもみたいに苦虫を潰したような表情をするかと思ったんですけど」
「もう大丈夫だよ。沙羅のことは、今度こそ一成くんに全て任せると決めたからね」
そう言って、俺に向かって意味深なウィンクを飛ばす政臣さん。さっきの言葉の意味は、こういうことも含んでいるってことなのか…
「あらら、そんなに一成くんのプレゼントが嬉しかったのかしら? でも良かったわね~沙羅ちゃん」
「まぁ…それが当然だとは思いますけどね。でも一成さんが頑張って下さったから、こうしてお父さんも心から認めてくれたんでしょうし」
「いや、俺は別に…」
「ふふ…謙遜なさらないで下さい。本当にお疲れ様でした、一成さん。今日も、お布団の中で抱っこしながら、いっぱい…」
「…ちょ、ちょ、ちょっと待った!! いいいい、今、お布団の中って言った!? きょ今日もって!?」
あ…沙羅さん…
それは、言ってはいけない最重要トップシークレット案件の一つだったのに…
政臣さんは当然、真由美さんも知らない(筈)話だし、それを言ってしまうと、さっき真由美さんが言った「節度を守っている」の説得力が一気に無くなって…
「はぁ…私達のことは、もう干渉しないのでは?」
「それとこれとは別だよ!!!! ま、まだ二人は高校生なのに、まさか、ど、ど、同衾!? か、一成くん、ちょちょっと話を…」
「えええええ!? いや、それは!!」
「もう、政臣さんったら、いい加減にしなさい! 大切な息子のことを信用できないんですか? しかも食事中なのに騒いで…ごめんなさいね、一成くん。はい、あーん…」
真由美さんの行動に脈略が全く無いけど、しれっと俺の方に玉子焼きを差し出してきたので…俺も思わずそれを食べ…る前に、沙羅さんから口許に差し出された玉子焼きをパクっと。
「ふふ…如何ですか? 一成さん」
「おいひいでふ…」
沙羅さんの玉子焼きは世界最強だから、もう美味しい以外の感想なんか出てこない。
「あああああ、沙羅ちゃん酷い!? お義母さんが先に…」
「知りませんね。と言いますか、一成さんにこれをしていいのは私だけなんですけど?」
「さ、沙羅!! まだ話は…」
ああ…何というか…平和だなぁ
でも、今日は本当にいい一日だった。
真由美さんのことを知って、政臣さんの思いを知って、だから自分がどれだけ受け入れて貰えているのかも知って…
俺も二人のことを、心から本当の両親として、もう一人のお父さんとお母さんだと思えるようになって。
だから、自分が本当に、この薩川家の一員となれた。
そう実感できたような、そんな一日だった。
「一成くん! まだ説明を…」
うーん…でもまだ完全には信用されてない…のかな?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
という訳で…
真由美さんが何故、一成に対して過剰なまでの愛情を見せるのか…というお話でした。
今回は今までと違う意味で真面目に書きましたが、書いていて情景が思い浮かんで思わず・・・自分で言うのもアレですけど(^^;
次回は学祭・・・の予定です。
これ以上は、久しぶりにノートに書きますので、例によってお付き合い下さる読者様は、このままノートの方へどうぞ(ぉ
それではまた次回~
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