第278話 対抗意識

 次のクラスに向かうつもりなんだけど、それよりも先に解決しておきたいことがある。

 それは沙羅さんのことだ。

 隠し事をしないという約束を破ったことは謝らなければならないが、今はそのことじゃない。先程教室を出てから、沙羅さんの様子がおかしいんだ。

 勿論パッと見では分からないくらいだけど、俺には沙羅さんが何か考え込んでいる…どこか落ち込んでいるような、そんな風に見える。

 そうであれば、思い付く理由などさっきのことしか無い訳で…


 だからここでフォローをすることも、やっぱり恋人として俺の役目…いや、役目とかそんなことじゃない。

 例え僅かなことでも、俺が出来ることであれば沙羅さんにしてあげたい。

 ただそれだけなんだ。

 

「沙羅さん」


「申し訳ございません、私は…」


 俺が話しかけると、何を言われるのかもう分かっていたのか、沙羅さんが申し訳なさそうに小さく俯いた。

 もちろん、沙羅さんが謝るようなことなど何一つ無いし、寧ろ最初にキレて騒ぎだしたのは俺の方だ。でも沙羅さんは、そう思っていないんだろうな。


 それならこういうとき、俺はどうするべきか…


 例えば沙羅さんなら、俺がそうなったときにどうしてくれるのか?

 俺が沙羅さんに何をしてあげたいのか?


 そんなことは考えるまでもないことだ。

 だからこそ、こういうときには俺の方から…


「沙羅さん、ありがとうございます」


 沙羅さんが苦しくならないように、力加減に気を付けながらゆっくりと背中に腕を回す。普段俺からこうすることは滅多にないからな。だから正直に言うと、かなり勇気のいる行動だ。

 沙羅さんが、嫌がったり拒否をしたりすることはないと自分でも分かっているけど…それでも自分からというのは、やはり大きな緊張を感じてしまう。


「一成…さん?」


「俺も沙羅さんのことを言われてキレちゃいましたけど、沙羅さんは俺の為に怒ってくれたんですよね。嬉しかったです。だから、ありがとうございます」


 ナデナデ… 


 いつも沙羅さんが俺にしてくれるように、後ろから手を回して、丁寧に頭を撫でてみる。力加減を間違えて、沙羅さんの綺麗な髪が崩れてしまうと困るからな。なるべくそれに気を付けながら、丁寧に、ゆっくりと。


「ふふ…それでしたら、私の方こそお礼を言わせて頂きたいです。一成さんが私の為に怒って下さって、本当に嬉しかったですから」


 気持ちが落ち着いてきたのか、沙羅さんが力を抜いて、俺に身体を預けるように寄り掛かってくれた。それが愛しくて思わずぎゅっとしたくなるけど、沙羅さんの制服がシワになると困る。


 …何か、困ることが多くて、制服姿で抱きしめるというのは地味に大変なんだな


 ナデナデ…


「何かよく分からない相手でしたね」


「はい。確か去年のミスコン優勝者でしたか。私は興味が無かったのでその辺りは無視していましたが…そう言えば、夏海が自意識過剰女と呼んでいましたが、あれは彼女のことだったのでしょうか?」


「確かに、びっくりするくらい自意識過剰でしたね。夏海先輩ファンクラブの二人も、あいつのことを嫌な奴だって言ってました。夏海先輩も、何か揉め事があったりしたんでしょうかね?」


「どうでしょう…夏海に聞いてみれば分かるかもしれませんが。ただ、どちらにしても興味はないですね」


「そうですね…沙羅さんからあそこまでやられて、それでも何か仕掛けてきたら大したもんですよ」


「…一成さんの、いじわる」


 ぎゅ…


 どこか甘えの混じったような声音の「いじわる」と共に、俺の胸にしがみついてくる沙羅さん。普段は反対の立場なので俺は甘えてばかりだが、こうして甘えてくれる沙羅さんも可愛い…いや、可愛すぎる!


 ナデナデ…


「ふふ…一成さん…」


 ゴロゴロと猫が甘えるように、俺の胸に顔を擦り付けてくる沙羅さん。何だこれ、こんな可愛いの反則だろ…よし、もっと頭を撫でてあげよう。


 ナデナデ…


「…ね、ねぇ、花子さん。私達、どうしよう…」

「…アレはもう完全に回りが見えてない。また悪い癖が出た」

「…あはは、うん、でも…何かホッとしちゃったな」


 沙羅さんは顔を擦り付ける動きを止めると、今度は俺の背中に腕を回してきた。お互いでお互いを抱き締めるような…要は普通に抱き合う形になる。


「私は一成さんにだけ理解して頂ければ、他人にどう思われようと全く問題ありません。本当の私は…あなただけのものですから」


「沙羅さん…」


「かつては他人の評価を求めていた私が、こんなことを言うなど笑い種かもしれませんね。でも今の私は、あなたさえ分かって下されば、あなたさえ側に居て下されば、それだけでいいのです。それだけで幸せですから…」


 正直に言うと、「本当の沙羅さんを知らない癖に勝手なことを」と怒ったものの、だからと言って、そんな沙羅さんを他人に見せたいとは思わない。

 こんな可愛い沙羅さんも、俺にタダ甘な沙羅さんも、俺だけが知っていればいい。俺だけの沙羅さんなんだと、そんな独占欲があるのも確かだ。

 でもそれを言ってしまえば、矛盾が生じてしまう訳で。


「ふふ…」


「どうしました?」


「いえ、先程の一成さんを思い出してしまいまして。いつも素敵な一成さんですが、先程のように強気で強引な一成さんも、私は大好きですよ」


 そうだ、さっきキレた勢いで、沙羅さんに「黙ってろ」と言ってしまったんだよな。思い出してみても、今まで沙羅さんにそんなことを言った覚えはないし…これは…


「一成さん…謝らないで下さいね? 私は嬉しかったのですから、それは…めっ、ですよ?」


「は、はい」


 うーん、先を越されてしまった。

 謝るとまでは言わないけど、強引なことを言ってしまったから、そのことだけでもと思ったんだけど…

 どうやらまた「読まれて」しまったみたいだな。


「普段でも、もっと私に対して強く出て下さっても構いませんよ? 黙ってついてこい…くらい言って下さっても、私は喜んでついて参りますので」


「えっ!? い、いや、流石にそれは…」


「ふふ…ですがそうなってしまいますと、私の大好きな可愛い一成さんを見れなくなってしまいますね。それはそれで大変困りますので、匙加減を宜しくお願い致します」


「えーと…それは俺にどうしろと…」


 別に意識してやってる訳じゃないのに、匙加減をしてくれと言われても困るぞ。

 沙羅さんに甘えたくて狙っている訳でもないし、だからといって普段からあんな強気に出るつもりもない。


「申し訳ございません。私も自分で妙なことを言ったと自覚はしております。ですが、それはそれとして、今は…」


 沙羅さんが俺の胸から顔を離すと、背中に回していた腕を俺の後頭部に回してくる。

 この体勢はひょっとしなくても…


「一成さん、私の為に怒って下さって、ありがとうございます。一成さんのお気持ち、本当に嬉しかった…」


「沙羅さん、俺も嬉しかったです」


 至近距離で見つめ合うと、沙羅さんがふっ…と笑みを溢したと思えば、そのままゆっくりと目を閉じる。そのまま後頭部に回された手に少しだけ力が加わって、俺もそれに身を任せるように…


「おいバカップル、いい加減にしろ。ここを何処だと思ってる?」


「「っ!?」」


 花子さんの鋭い突っ込みで我に返ると…うん、バッチリと廊下だった。

 放課後もそれなりに遅い時間なので、人通りは少ないが…だからと言ってゼロでもない。

 白けた目でこちらを見ている花子さんと、両手で顔を覆いつつ、指の隙間からバッチリとこちらをガン見している藤堂さん。

 そして遠巻きに、俺達を呆然と眺めている数名の通行人と、何故かニヤけている……うわっ、あれは悠里さん達か!?


「さ、沙羅さん、次へ行きましょうか?」


 俺が慌てて腕を離すと、沙羅さんも少し残念そうにしながらゆっくりと腕を離してくれた。そのままお互いに、身体を離して距離をとる。


「そうですね。次は三年生の教室でしょうか」


「さっさと行って終わらせる。それにしても…満里奈も意外と」


「なななななな、何を言ってるのか分からないよ!?」


 何故か藤堂さんが大慌てになっているが、それよりも悠里さん達だ。絡まれると余計な時間を食いそうなので、ここは早めに次へ行った方がいいだろう。


「とにかく、次の教室へ行こうか」


「はい。残念ですが、この続きは今晩に致しましょう。先程は私が甘えさせて頂きましたので、次は一成さんの番ですよ?」


「えっ…いや、まぁそれは」


「ふふ…今日もお布団の中で、いっぱい私に甘えて下さいね? 可愛い一成さんを、思いきり可愛がって差し上げたいです…」


「お、お、お布団の中ぁぁ!?」


「満里奈、声が大きい。あと嫁に他意はないから大丈夫…な筈。深読みしすぎ…一体何を」


「うううううう、花子さんのいじわる!!!」


 いかん、これ以上は俺だけじゃなくて藤堂さんまでドツボに嵌まりそうだ。

 早く次に行かなければ…


 まぁ…今晩のことは今晩考えればいいだろう。沙羅さんは有言実行の人だから、どうなるかなんて目に見えているけどさ。


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 side 楠原玲奈(タカピー女)


 私には、自分が非常に恵まれた人間であるという自覚があります。

 それは客観的に見ても事実であり、生まれた時点でそうなることが決められていた、言わば私は選ばれた人間なのです。


 私が生まれた楠原家は、複数の会社経営を長く続けてきた創業家一族。そんな一族の社長令嬢として、私はこの世に生を受けました。

 先に生まれた兄も、私も、その時点で既に立場が決まっています。長男である兄が将来は社長職を受け継ぎ、私は一族の者として重要なポストを担う。

 そのために私は、幼少より社長令嬢として相応しい教育を施されてきました。

 その甲斐もあり、常に学業優秀、成績はトップ。そして中学にもなれば、母譲りでもある私の容姿に惹かれ、男性からの告白も増え、正に私の人気は止まることを知りませんでした。

 まぁ私と釣り合うような方はいませんでしたが…そもそも私には立場がありますからね。その時点で一般人とは精々友人止まりです。


 そして現在…この学校の特別進学コース(エリートコース)を経て、しかるべき大学に入り、やがて会社経営に携わる。

 私の進路は既に決まっているのです。


 それだけを聞けば、家に縛られた…という在り来たりな感じ方もあるでしょう。

 ですが、進路や身の振り方が決められているというだけで、それ以外は自分で決めて動くことができる。ですから私は、そんな風に思ったことはありません。

 寧ろその見返りとも言える、恩恵のようなものが十分にあるのです。

 当然ですがお金、そして社長令嬢としての地位、それに伴う周囲からのVIP的な扱い。これらがどれ程の恩恵なのか、一般人でも少し考えれば分かることでしょう。


 ちなみに恩恵という話では、いつも私に付き添っている彼ら…取り巻きなどと揶揄されていますが、何れも会社幹部の子息達です…彼らもやはり、私に従うことで恩恵を得るという、明確な上下関係が存在しているのです。


 こうして私は、何一つ曇りのない、極めて順風満帆な学生生活を送っていた訳です。

 あの日までは…ですが。


 あの日…忘れもしない中学二年の夏休み。


 世界的な不況の煽りを受け、父の会社も業績が低迷していることは子供ながらに理解していました。ですが、必ず父が何とかして下さると、私は安心して見守っていたのです。ですがその先に待っていたのは、超巨大企業からの買収による子会社化という結末でした…


 私の父の代で、長年一族経営だった会社は終わりを迎え、佐波エレクトロニクスの関連子会社として生まれ変わったのです。


 救いだったことは、経営形態そのものが維持されたということ。

 社長以下のすげ替えもなく、本社となった佐波エレクトロニクスから、監査を兼ねた常駐職員を幹部として数名受け入れることで、一応の形が成されました。


 ですから私は、今もこうして、変わらずに社長令嬢という立場を保っていられるのです。

 ただしそれは磐石ではない、あくまで本社が心変わりをしなければ…という条件の元に成り立った立場となってしまいました。


 正に薄氷の上に立つような…そんな立場でしょうかね。


 その代わりと言ってはなんですが、新たな利点も増えました。

 例えばこの学校…実質的には佐波エレクトロニクスの出資が殆どを占めており、私の進学がここに決まったことも、色々と融通が利くからという恩恵があったからです。

 子会社とはいえグループの一員でもあり、しかも私は社長令嬢ですから当然扱いは変わるというもの。

 だから私の補佐をする彼らもこの学校に進学することなり、彼らのお陰でこの学校に於ける私の地位は徐々に確立していくことになります。それと同時に、私に逆らえば学校が動く…という噂のようなものも流れ始め、いつしか色々と注目を集めるようになりました。もちろん私個人には、そこまでの権限はありません。

 父に言えば話は別かもしれませんが…


 そして注目が集まり始めれば、やはり私の容姿に惹かれる男子が一層増え、長いものに巻かれようとする女子も増える。一応の友人もいましたが、高校生ともなれば、そう言った下心は露骨に感じてしまうものです。

 まぁそれも仕方の無いことですよ、私がそういう立場にいるのですから。


 とまぁ、多少の変化はあったものの、概ね順風満帆となる予定だった高校生活ですが、残念ながら全て都合よく…とはならなかったのです。


 何故ならこの学校には、私にとって唯一、目の上のたん瘤とも言える、忌々しい存在がいるのですから。


 その存在の名は「薩川沙羅」


 私は入学前からその名前を知っていました。かつて父から言われたことは、今でもハッキリと覚えていますから。


……………

………


「玲奈、お前がこれから通う高校に、薩川というお嬢さんが同級生として入学してくる。必ず仲良くしなさい」


「…それは構いませんが、お父様がそのようなことを言われるなど初めてのことですね? 何か理由があるのでしょうか?」


「彼女は佐波エレクトロニクス本社の、薩川専務のお嬢さんだ。私達の立場からすれば上の存在になる」


「…いくら本社の専務とはいえ、お父様は社長ではありませんか? そこまで立場を気にされるようなことでは…」


「お前にはまだ分からないことだ。いいから黙って従いなさい」


「…畏まりました」


「いいか、くれぐれもお嬢さんと揉め事を起こすなよ? 仮にトラブルが起きそうになってもお前が折れろ。間違っても歯向かうような真似をするな」


「………はい」


 いくら父の言葉とはいえ、到底納得はできません。相手が本社の社長令嬢と言われればまだ納得もできますが、いち幹部の娘に、なぜ私達がそこまで下手に出なければならないのでしょうか?

 私は社長令嬢として、立場でそこまで負けているとは到底思えない。いえ、育ちの良さでは私が圧倒的に勝ってる筈。

 手を出すなというのであれば、せめて育ちの違いを…私が格上であるということを精々見せつけてやりたいですね。


 …そんな蟠りを抱えたまま入学を迎え、直ぐに私は件の「薩川沙羅」を知ることになる。


 入学式当日。

 新入生代表の挨拶は、入試成績がトップだった生徒が勤めるいわば名誉。

 ここまで常に成績で独走してきた私は、当然自分が勤めることになると思っていました。自信は十分にありましたので。

 ですが…選ばれたのは私ではなく、あの「薩川沙羅」


 初めて成績で負けた。

 しかも、よりにもよってあの女。

 これまで順風満帆だった私にとって、初めてのショック、初めての屈辱。

 私にそれを与えたのが、他ならぬ「薩川沙羅」でした。


 入学式での初見の印象は、私とは異なる、言ってみれば和風的な美人。所作の丁寧さや落ち着いた雰囲気。流れるように綺麗な長い黒髪。

 私のように洗練された動きはありませんでしたが、新入生代表の挨拶で見せた、凛として堂々とした佇まい。


 そんな彼女は入学して直ぐに噂となり、一年生の教室棟には、休み時間になるといつも男性の先輩が徘徊しているという異様な状況になっていました。

 確かにあの容姿では仕方ないと思う気持ちもありましたが、私にもこれまで容姿で男性からの人気を博してきた自負がある。

 だから自分も負けていないと、対抗心のような気持ちもがあったことは事実です。

 それに、入試の成績も所詮はまぐれだろうと考えていました。


 そして、これといった接触も無いまま時は過ぎ…

 気がつけば、私と彼女の差は逆転するどころか広がる一方。


 テストの成績は一度も勝てず、男子からの告白も話を聞く限りでは向こうが遥か上。しかも生徒会副会長という、この学校に於けるいわばヒロインとも言うべき立場まで手に入れて、男子からの色眼鏡はますます酷くなるばかり。


 そしていつしか、薩川沙羅は「孤高の女神様」と呼ばれるようになり、ファンクラブまで現れる始末。

 この私ですら、まだそれは無いと言うのに…どこまでも忌々しい。


 私には到底理解できませんが、孤高などと聞こえ良く言っても単に周囲を拒絶しているだけ。協調性を持たない、言わば社会性、社交性に欠陥のある不適合者のことでしょう?

 例え見た目が良くても、なぜあれ程の人気が出るというのか…


 でも私は直ぐに気付きました。

 あの「孤高の女神様」という二つ名が、その欠点を美点に変える隠れ蓑であるということを。


 協調性がない、社交性がないと言った社会性の欠如を、「自分に対して厳しい人間であるから」と都合よく解釈して、好感度に変換する。それが「孤高の女神」という二つ名に隠された真実。


 それが分かれば、この二つ名も意図的に作られたものであることは明白であり、では誰がそれを作り広めているのか…そんなことは考えるまでもありません。

 薩川沙羅が支持者を煽りファンクラブまで作らせて、自身の評価に繋げようと裏でこっそり糸を引いているのです。しかも夕月夏海という友人にまで、女子が主体のファンクラブを率いらせて協力体制を作り上げた…どこまでも腹黒い女。


 そんな矢先、学祭の企画でミスコンが開催されることを知ったのです。

 新たに私の支持者を獲得する意味でも、そしてこの学校に於ける新たな地位を確立させる為にも、実に丁度いい機会です。しかも実行委員会から招待枠での参加を求められたのですから、出ない訳にはいかないでしょう?


 そしてあの薩川沙羅も、生徒会枠として参加予定だと聞いたのです。こうなれば何としても…場合によっては裏を使ってでも、薩川沙羅の本性を暴き出して、ここで一気に潰す…そう意気込みました。


 ですが結果は…当日になって、薩川沙羅がまさかの逃亡。


 恐らくは私が参加することを知り、もし負けてしまえば、ここまで築いてきた仮初めの地位を失うことになる可能性があると考えたのでしょう。連絡がつかなくなり、直前のキャンセルともなれば、逃げたことは明白です。


 そしてコンテストの結果は、当然ですが私の圧勝。分かりきった結果ですから特に喜びはありませんが、薩川沙羅を直接潰す機会が失われたことは残念でした。

 父との約束で、直接的に手を出さないという制約がなければ…本当に残念ですね。


……………

………


 以前、ミスコンの後で一度だけ話をしたことがあります。ですが


「私は仕事を優先したまでです。そもそも興味もありませんでしたから」


 という一言が返ってきただけでした。

 しかもあの目…冷めきっていて、こちらを見ているのかいないのか分からない、無感情とも言える視線。

 あんな女に人気が出る訳が無い。となれば当然、裏で人気取りの為に動いているのは間違いありませんね。


 そして今日、思わぬところで対面することになった訳ですが…


 あぁ、思い出すだけでも忌々しい、悔しいっ…

 この私が、あの女の圧力に逆らえず、何も言い返すことが出来なかったなんて…


 私もこれまで、様々な人間と渡り合ってきました。学生だけじゃない、大人とも、それこそ権力者をも相手にしてきたのです。

 そんな私が、ただの一言も言えなかった。


 ミスコンの話をしていたときとは明らかに違う、凄まじい迫力とプレッシャー。

 そして…以前とは全く違う、あの目。

 怒りというには生温い、私が存在することすら許さないと言われたような、明確なまでの何かを感じる強烈な意思。

 それを正面から当てられて、私は何も言えず、何も動けず…ただ黙って言われるままでした。


 同性の…しかも相手は単なる同級生だというのに!!!


 なぜ彼女があれ程の激しい怒りを見せたのか…

 私の挑発にもまるで動じず、それどころか全てに於て興味がないと切り捨てていたのに…いえ、そんなことは分かりきっていることですね。


 あの薩川沙羅が男性を名前で呼び、自身を名前で呼ばせるなど、普通に考えて有り得ないことです。

 そして最後の台詞…


 つまり、薩川沙羅は高梨に想いを寄せている。そしてそれは高梨も同じ。

 だからこそ、薩川沙羅は高梨のことで信じられない程の怒りを露にしたということでしょう。

 ですがこれで、今まで明確な弱点の無かった薩川沙羅に、やっと付け入る隙ができたのかもしれません。後は何かチャンスがあれば…


 そして…高梨。


 私のことを知っていて、それでも普通に接してくるとは、なかなか見所のある男だと思ったのに…

 或いは、私の理解者となれるかもしれない、数少ない人物かもと一瞬でも期待させておきながら…まさか、私のことを全く知らないとは。


 自分で言うのも何ですが、この学校に於ける私の知名度は、どこぞの「女神」にも引けを取らない筈です。現に一年生からも、既に何度も告白を受けているのですから。


 そんな自分の無知を棚にあげて…よくも、よくもこの私に恥をかかせてくれましたね。

 しかもクラスメイト達の前で、これ程の大恥をかかされるとは…絶対に許せません。

 薩川沙羅共々、チャンスがあれば必ずお返しをさせて頂きますよ。あの「天使」とか言われている小さい女も同じです。二つ名を持つ女など、ロクでもない存在だと決まっていますからね。


 しかし…こうなってくると、直接手を出せないというのが本当に辛いです。

 本来であれば容赦などする必要はないのですが、こうして回りくどい手段を選ばなければならないのは本当に面倒ですね。


 先ずは今回のミスコンで、どちらが上なのか思い知らせてあげますよ。

 舞台上で高梨という存在が明るみになり「孤高の女神様」という理想像が崩れたら…果たしてどれ程の人気が残るのか、楽しみですね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ちなみに…

 西川さんは、この学校では西川グループの社長令嬢であることを公言していません。知っているのは友人等を含めた一部と、教師陣だけです。


 さて、一成が気合いを入れているミスコンに、また一つ余計な(?)要素が加わりました。果たして計画通りに事が運ぶのか…


 相変わらず進行の遅い物語です。

 学祭はもう少しお待ち下さい。まだ書くことが残っているの(ぉ


 次回は・・・どうしようかなw

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