第110話 友人達の考察 その2
「いやー楽しかったねぇ」
「楽しかったのは事実ですけど、夕月さんははしゃぎすぎですよ。」
夜になり、橘くんに電話をかけた。
今日の総括というか…ただ余韻を楽しみたかっただけなんだけど。
「どうだったあの二人?」
「いや、俺も一成から聞いてはいましたけど、あそこまで仲が進んでいるとは思いませんでしたよ。」
前回ショッピングモールで見たときも二人だけの世界を展開していたのたが、あのときと決定的に違うことがある。それは沙羅だ。
当時の沙羅は、既に好意があったのに特別仲のいい友達として高梨くんを見ていた。だからいい雰囲気にはなっていたけど表情から見えていたのは喜びと楽しさだった。
でも今回は違う。
それに気付いて思わず嬉しくなって飛び込んでしまった(バカップルに苛ついた訳ではないのよ)けど、沙羅の表情には明らかに「幸せ」が浮かんでいた。
乙女の私にはわかる。
沙羅が高梨くんを見つめている表情は、どこからどう見ても恋する乙女だった。
つまり沙羅は、やっと親友と恋人の違いを心の中で大なり小なり理解できたのだと思う。
ちょっと前は嫉妬で苦しくて泣いていた沙羅が、今は高梨くんと一緒にいることで幸せを感じている。
これは今度こそ恋バナができそうね。
「沙羅の成長が目覚ましくて、見ていて楽しいわ」
「それを言うなら一成も、薩川さんが良ければ自分はどうでもいいって言ってたやつが、今では自分から意識して行動しようと頑張ってますからね。」
もともと恋人みたいな二人だったから、あっという間にバカップルになっちゃったけどね。
「沙羅はもう大丈夫だと思うわ。足りない部分もいずれ経験していくでしょうし。」
「一成も大丈夫ですよ。学校のことも解決したようだし、あとはキメるだけでしょうね。」
あとはいつ高梨くんがもう一度告白するかね。忘れてはいないだろうけど、完全に恋人みたいになっちゃったから惰性でそのまま〜とかありそうで怖いわ。
「ところで…夕月さんかなりやられてましたけど、薩川さんはそんなに怖いんですか? 一成とイチャつく姿しか見てないので想像つかないんですけど。」
……やめて、思い出させないで
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「夏海、こんなリゾートプールに来たのですから、楽しくてはしゃぎたくなる気持ちもよくわかります。それは当然のことでしょう。ですが私は最初から言ってあったはずです。高梨さんは怪我が治ってないので、無理はさせない、危ないこともさせないと。一成さんだって本当は楽しみたいであろうことは私も充分わかっていました。それでも私の意見を聞き入れて下さって、私と一緒に我慢することを選んで下さったのです。貴方達がはしゃいで遊びに行く姿を後ろから眺めている一成さんが可哀想で、水着でなければ抱き締めて慰めて差し上げたかったのに、そんな私達の気も知らずあなたときたら……中略……もしあれで手首が悪化してしまったら、今までの一成さんの努力が無駄になってしまうではないですか! プールまで行っても我慢して耐えていた一成さんの努力を、あなたの軽率な行為で台無しにしてしまうところだったのですよ? はしゃぐならせめて一成さんの迷惑にならない形で………以下略」
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きつかった…
あんな長い説教をされたのは生まれて初めてだわ。
というか沙羅は高梨くんのこと好きすぎでしょ…
「………沙羅が甘いのは高梨くんだけだから。橘くんは高梨くんの友人枠で多少優遇されてるけど、そういう要素がなければまともに相手されないからね。」
「そうなんですね…ちょっと想像できません」
まぁ橘くんはこれからも付き合っていく人だし、その内見ることがあるだろうね。
「はぁ…沙羅に思いっきり先へ行かれちゃったわ」
「俺も一成に置いていかれた感じです。」
私の回りで一番早く彼氏を作ったのが、男嫌いを拗らせていた沙羅になるとは予想外すぎたわね。
そういえば橘君ってどうなのかしら?
「ねぇ…そう言えば聞いたことなかったけど、橘くんは彼女いるの?」
「今はいないですよ。ここだけの話、以前少しだけ付き合ったことがあるんですけど直ぐにわかれてしまいました。」
「へぇ…思ってた感じじゃなかったとか?」
「こう言うと失礼かもしれないですが、楽しくなかったんですよね。俺は一緒にいて気軽に楽しくやっていける人がいいので。」
あーそれは私もわかるかも。
やっぱ楽しくなくちゃね。
ちなみに高梨くんと沙羅は一緒にいるだけで幸せだから、沈黙も苦にならないタイプよね。
「そう言う夕月さんはどうなんですか…というかお相手は?」
「私も楽しい相手がいいわね…そんな人がいたら今回のプールに連れていくわよ。」
「なるほど、夕月さんも同じなんですね」
…………
な、何この沈黙
「と、とにかく、もう大丈夫だとは思うけど、あの二人は手がかかるからしっかりと恋人になるまで見守るということで!」
「は、はい、異議無しです!」
あの二人は多分大丈夫だろうけど、見てる分には楽しいから、もう少しだけお節介を焼かせて貰おうかしらね〜
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