第111話 沙羅先輩の実家
「一成さん、本日はこの後ご予定がありますでしょうか?」
「特にないですけど、何か用事がありますか?」
昼食の片付けを終わらせた沙羅先輩が、テーブルに食後のデザートを用意しながら不意に聞いてきた。
今日はパイナップルを用意してくれたようで、食べやすいように一口サイズに切ってある。
「先程RAINで母から連絡がありまして、一成さんのご都合が宜しければ私の実家でお茶など如何でしょうか?…と。はい、あーん」
ぱくっ
もぐもぐ
「パイナップル久々に食べたけど美味い…俺は特に予定ないんで、沙羅先輩が良ければ行けますよ?」
そう言えば先輩の家に行くのも初めてだな。
それにあのときはバタバタしていて、真由美さんにしっかりと挨拶できなかったし。
「あ、そう言えばお父さんは?」
「父は昨日から出張なんです。そして私がこちらにいるので、恐らく一人で暇なんでしょう…あーん」
ぱくっ
もぐもぐ
そっか…正直、まだ沙羅先輩のお父さんに挨拶をする勇気はなかったので、助かったと思ってしまった。
「とにかく俺の方は大丈夫ですから、先輩さえよければ喜んで。」
「ありがとうごさいます。それでは少し休憩したら参りましょうか。あーん」
ぱくっ
もぐもぐ
沙羅先輩の実家か…少し緊張するな。
あ、手ぶらではさすがに不味いか。
こういうときは手土産くらい用意しないと失礼なのかな。
初めてだからよくわからない。
「先輩、途中で何か手土産を買ってから…」
「ふふ…そんなことお気になさらないで下さい。余計な買い物をさせてしまったら、私が母に叱られてしまいますから。このままで大丈夫です。はい、最後の一つですよ、あーん」
ぱくっ
もぐもぐ
そう言われてしまえば、無理に買うとは言えないよな。
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駅前を通り過ぎ住宅街に入った。
暫く歩くと、一件の住宅前で先輩が止まった。
大きめではあるが豪邸という訳でもない、でも俺の実家を考えれば充分に豪邸だな。
「今開けますので少々お待ち下さい」
先輩が鍵を取り出すと、玄関のドアを開ける。
先に入り靴を脱ぐと、しっかり揃えた。
こういうところまでしっかりしてるんだよな…
スリッパを履くと、俺の分も用意してくれた。俺は何となく立ち尽くしていたのだが
「さあ一成さん、どうぞお上がり下さいね。」
「お邪魔します…」
先輩の笑顔に動かされ、靴をしっかりと脱ぎ揃えてからスリッパを履く。
緊張するな…
玄関には、妖精を象った置物達が綺麗にレイアウトされており、コンセントの辺りなど細かい所に猫の壁紙が貼られている。
全体的に可愛いものが好きな様子だ。
広めのリビングに入ると、食事用のテーブルとは別に低めのテーブルがあり、それを囲うように大きめのソファーが配置されている。
テレビは大きいし、サラウンドシステムであろう複数のスピーカーも配置されている。
「こちらのソファにかけてお待ち下さい。母を呼んで参りますので。」
「うふふ、いらっしゃい高梨さん。来てくれて嬉しいわ。」
!?
声のした方を見ると、いつの間に来たのか真由美さんが立っていた。
挨拶をするのに座ったままでは宜しくないので、俺は慌てて立ち上がる
「お、お久しぶりです、真由美さん。ご招待頂いてありがとうございます。」
「こちらこそ、いつも沙羅ちゃんと仲良くしてくれてありがとう。羨ましいからたまには私も混ぜて貰おうと思って…」
「お母さん、まさかそんな理由で一成さんを呼んだのですか?」
沙羅先輩が俺の横に立ち、少し睨むような目付きで真由美さんに問いかける。
いや、仮にそうだとしても、俺は別に気にしてないから睨まなくても…
「もう〜沙羅ちゃんたら…高梨さんのことになるとすぐむきになるんだから。ちゃんと本題はあるのよ。それにしても…一成さんねぇ…」
真由美さんがニヤニヤしながらこちらを見た。どうやら沙羅先輩が、俺のことを名前で呼ぶようになったことを知らなかったらしい。
「それが何か?」
「何でもないのよ〜。仲が良くて羨ましいなって思っただけだから。高梨さん、私のことはいつでもお義母さんって呼んでくれていいからね?」
「は、はい…?」
いくらなんでも、沙羅先輩のお母さんを俺がお母さんと呼ぶのは変だろう。
沙羅先輩も不思議そうな顔をして真由美さんを見た後に、自分達が立ちっぱなしだったことに気付いたようだ。
「あ、立ち話で申し訳ございません。ソファにお座り下さい。私はお茶の準備をして参りますので」
沙羅先輩は俺に座るよう促すと、自身はお茶の準備に台所へ向かうようだ。
「それじゃあ宜しくね。私はその間、沙羅ちゃんの代わりに高梨さんと仲良く」
そう言いながら、俺の真横にくっついて座ろうとする真由美さんを沙羅先輩が素早く捕まえて引っ張っていく。
「お母さんも私と準備です」
「もう〜沙羅ちゃんの意地悪!」
うーん、真由美さんはウチの母親とは違う感じで自由な人だなぁ
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