第320話 サプライズ出場者
楽しかった昼食も終わり、いよいよ今日のメインイベント、ミスコンの開催時刻が迫ってきた。
沙羅さんは特に緊張した様子もなく、皆は少しワクワクしているような。でも俺は…密かに緊張していたりする。
「では、私達は先に行きますね」
「沙羅、頑張れとは言わないけど、出来ればあの女だけでも倒してね~」
皆は場所取りを兼ねて先に会場へ向かい、俺は沙羅さんの見送りで、この場に残ることになった。
ただ場所取りと言っても、場所自体は既に西川さんが確保してくれてあるそうな。
つまりこれは、皆が俺達に気を使ってくれくれたということ…その気持ちはありがたく頂戴しておこう。
「それでは、行って参ります」
意気揚々という感じではなく、だからと言って嫌々という感じでもない。
少しだけ…どこか決意のようなものを感じさせる瞳で、真っ直ぐに俺を見つめる沙羅さん。
「はい。頑張って…は、やっぱ違いますかね。この場合は、何て言えば…」
沙羅さん本人に頑張るつもりがないのに、「頑張って下さい」と応援するのは、ちょっと違うか。
となれば、ここは…
「沙羅さん、俺はいつも」
「一成さん、私はいつも」
「「……」」
沙羅さんの声と俺の声が綺麗に重なったのは、きっと沙羅さんも俺と同じことを考えてくれたから。
それはつまり、お互いが同じ気持ちを持っているってことで…
「ははっ…」
「ふふっ…」
それが嬉しくて思わず笑ってしまうと、沙羅さんも同じように笑いを溢す。
そんな沙羅さんの優しい笑顔が、俺の背中を押してくれたような気がして…
だから…これは俺が。
「沙羅さん、さっきも言いましたけど、俺はいつも側にいます。沙羅さんの側に…」
「はい…存じております。私達は、いつでも一緒ですから」
「ええ。だから…その…」
もう一息、沙羅さんに伝えたい気持ちがあるのに…それを何と言えばいいのか、上手い言葉が見つからない。
どうしよう…どうすれば…
「一成さん…」
優しい微笑みを浮かべて、話の続きを待ってくれている沙羅さん。
そうだよ、言葉で想いを上手く表現できないなら、どうすればいいかなんて考えるまでもないだろ。
「沙羅さん…」
俺は腕を伸ばして、沙羅さんの身体を軽く抱き寄せる。沙羅さんは俺の行動を予想していたのか、特に驚いた様子もなく、寧ろ自ら身体を預けるように俺の胸に収まってくれた。
本当はもっとしっかり抱き締めたいけど、沙羅さんの制服がシワになると困るから…力加減は適切に。
「一成…さん」
甘えを感じさせる沙羅さんの声音に、俺の心臓が勢いよく鼓動を加速させる。このままでは、沙羅さんにそれが聞こえてしまうのではないかと思ってしまう程。
「ふふ…一成さんの胸が…ドキドキしています…」
沙羅さんの声音に、色気のようなものまで混じり始めて…そんな声で囁かれてしまったら、俺は…
…って、いやいや、今はそうじゃないだろ。もうゆっくりしている時間もないし、ここは一気に決めろ、俺!
「沙羅さん」
名前を呼ぶと、俺の胸に耳を当てていた沙羅さんはゆっくりと上を向く。少し潤んだ沙羅さんの瞳に目が離せなくなり、俺は思わず固まってしまう。
自分から攻めるのは久し振りだからか、どうにも調子が…
「ふふ…」
雰囲気を察してくれたのか、沙羅さんは柔らかい笑みを浮かべ、そっと瞳を閉じる。
俺はその細い肩に手を当てて、顔をゆっくりと近づけて…唇まであと数センチ。
心の中に溢れる沙羅さんへの愛しさを、想いの全てを、このキスに込めて。
ちゅ…
俺の気持ちが伝わりますように…と、そう思いながら、沙羅さんと唇を重ねる。
すると沙羅さんの方から、押し上げるような力が加わり、俺の後頭部にも沙羅さんの手が回される。
まるで顔を下に引き寄せるような…って、「ような」じゃない!?
さ、沙羅さん、ちょっと待って!?
「んむっ…」
「ふふ…」
それぞれの方向から内側に向けた力が加わり、沙羅さんとのキスがより深くなる。いきなりのことで少しパニック気味になってしまった俺に、沙羅さんは可愛らしい声を漏らし…でもキスは続いたまま。
もう息を止めておくのは限界かも…と思ったところで、後頭部に回されていた沙羅さんの腕が解かれ、同時に唇もゆっくりと離れていく。
「さ、さ、沙羅さん…?」
「ふふ…申し訳ございません」
「いや、その…」
「一成さんのキスが嬉しくて、思わず…」
そんなことを言いつつ、沙羅さんはイタズラっぽい表情。
口許に添えられた手が、これまた妙な色気を感じさせて…キスの名残もあり、心臓のドキドキがまたしても加速していく。
そろそろ落ち着いてくれよ…
「一成さんのお気持ち…確かに頂戴致しました」
「…はい」
もうこれ以上の言葉は要らない。俺の気持ちは、沙羅さんにしっかりと届いたから。
だからこれ以上、言葉にならない何かを、無理に言う必要はないんだ。
「愛しております…一成さん」
「俺も…愛していますよ、沙羅さん」
溢れんばかりの笑顔を見せる沙羅さんを、もう一度だけ抱き締めて…
名残惜しい気持ちを堪えて、今度こそ沙羅さんの身体を離す。
「一成さん、また後で…」
「はい。行ってらっしゃい」
小さく手を振る沙羅さんに、笑顔で手を振り返し…後ろ姿をじっと見送る。
校舎に入り、姿が完全に見えなくなる、その瞬間まで…ずっと…
沙羅さん…
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会場へ近付くにつれて、あちこちでたむろしている人集りが増え始める。それは段々と増えていき、いつの間にか「人の群れ」と言える程に。
そしてグラウンドに辿り着いた俺を待っていたのは、ステージ前に用意された観客席(立ち見だが)を埋めつくす、溢れんばかりの人、人、人…
…なんじゃこりゃ!?
ワリと妙齢(?)な大人の男性方から、普通の学生風、お約束なチャラい連中、何故かリュックを背負ってる似たような風貌の集団に、女性陣もそこそこ、果ては小さい子供を連れた親子連れまで。
そして双眼鏡を片手にしている人が多い…皆さん、こういう場に慣れてるのでしょうか?
「高梨様」
そんな目の前の光景を呆然と眺めていると、突然真横から声を掛けてくる誰か。
この場の雰囲気にそぐわないスーツ姿でピシッと決めた…って、あれ?
良く見たら、花壇で色々と準備をしてくれた人?
「お待ちしておりました。お席は確保してございますので、ご案内致します」
「あ、すみません、ありがとうございます!」
「いえ、ではこちらへ」
妙に丁寧なお辞儀をして、女性はゆっくりと歩き始める。俺も黙ってその後に続くと、女性は客席の真横からステージ前へ回り込み、最前列とステージの間にある「空間」へ入って行く。
うーん、まだ開始前だから問題ないと思うけど…ここは間違いなく目立つコースなんだよね…
「おっ、副会長じゃん!!」
「生徒会長の応援か?」
「やっぱ気になるよな!」
「おい…あれ…」
「あぁ。でもよ、本当にアレと薩川さんがデキてるってのか?」
「お前らは昨日のアレを見てなねーからな…」
「あいつが勝手に言い寄ってるだけじゃね?」
「それありえるわ…つか、もしアレでイケるなら、俺だったらラクショーっしょ」
「バッカ、あれ見たらそんなこと言えなくなるぞ。薩川さんとスゲーいちゃついてたんだよ!!」
案の定、あっと言う間に客席の男性陣から注目を集めているようだ…が、問題はそこじゃない。明らかに好意的じゃない反応まで混じってる。
どうやら、俺が想像していたよりも、沙羅さんとの件が広がっていると考えた方が良さそうか。
「お、来た来た!!」
「高梨くん、こっちだよ!」
聞き覚えのある声に目を向けると、最前列の中央付近に皆の姿。
俺に手を振ってくれているのは…夏海先輩と立川さん。どうやら、無事に皆と合流できたようだ。
でも、こんなに人がいる中で、よくこんな特等席を取れたな。
「お待たせしました。と言うか、よくこんな場所…」
「むふふ、こっちにはえりりんが居るからねぇ」
「私達が来たときには、もうこのスペースがあったんだよ」
藤堂さんが、ここを「スペース」と呼んだのは、実は比喩でもなんでもなかったりする。何故なら、俺達がいるエリアをぐるっと囲むように、スーツ姿の方々が壁のように立っているから。
いや、これはありがたいけど、そこまでしてくれますか…
「ふふ、高梨さんの勇姿を見せて頂くのですから、やはり特等席でないと」
「そうそう、私はこの為に病院行くの止めたんだから、しっかり楽しませて貰わないとね」
「高梨くん、頑張ってね!!」
「応援してるよ!!」
「一成、頑張ろう」
「案外、終わってみれば、大したことなくて拍子抜け…って可能性もあるけどな」
「終わった後のことなんて、気にする必要はない。一成は自分のやるべきことだけを考えて。大丈夫、お姉ちゃんが側に居るから」
「そうだな…皆、ありがと」
事実、この場に皆が居てくれることが、どれだけ頼もしくて心強いことか。
実行するまでは問題ないとしても、終わった後にどうなるのか…それは想像がつかない。
でも、俺が今、こうして俺が落ち着いていられるのは、やっぱり皆がいてくれるから。
頼もしい親友達が、側に居てくれるからだ。
「さて、沙羅が見ていない今の内に…」
西川さんは自分のポーチを開けると、中から可愛らしいハート柄のハンカチ(?)にくるまれた「何か」を取り出す。
何か…なんて勿体つけなくても、ここで登場する物なんて、アレしかないんだけど。
「どうぞ、高梨さん」
皆が興味深そうに見守る中、西川さんがハンカチを外して、中身を公開する。
そこに現れたのは、勿論、例の赤い小箱。
「え…こ、これって…」
「えりりん、何これ?」
「まさか…」
「西川さん、今日までありがとうございました」
「いえ、大したことではありませんよ」
西川さんが差し出した小箱を受け取ると、皆の興味深そうな視線がそこに集中。
このままバッグにしまう…のはダメだよね。ええ、分かってます、分かってますから、そんなに怖い顔で見ないで下さい、夏海先輩と花子さん。
あと藤堂さんは、そんな悲しそうな顔で見ないで下さい。罪悪感が凄いです。
「一成…」
「分かってるよ」
花子さんから再度の要求があり、周りから見られないように…と言っても、周囲はガッチリと囲まれてるんだが。
それでも一応、こっそりと箱を開ける。
「っ!?」
「ええええええ!?」
「ちょ、これって、まさか!?」
「た、高梨くん、そこまでする!?」
驚愕の表情を浮かべたのは、今初めて指輪の存在を知った面々。でもそれは仕方ない。俺が今日プロポーズをすることを知っていて、そこに指輪が出てくれば、これがどういう意味を持つ物かなんて簡単に分かるだろうし。
「だって、必需品でしょ?」
「そ、そりゃ、そうだけど…」
「ね、ね、高梨くん、もっとよく見せて!!」
「あ、わ、私も見たいです!!」
「一成…」
夏海先輩はとにかく驚いていて、立川さんと藤堂さんは興味津々。そして花子さんは…黙っていてごめんなさい、そのジト目は勘弁して…
「うわっ、うわっ、凄いっ、これ高梨くんが買ったの!?」
「ふぁぁ…綺麗…」
「こ、これ、本物なの!?」
「失礼よ、夏海。これは高梨さんが、西川家御用達のお店で購入した、正真正銘の逸品なんだから」
「ええっ!? それって、メッチャ高いんじゃ…」
「下世話なことを言わない」
「あ、ごめん、高梨くん!」
「いえ、別にいいですよ。実際、普通だったら絶対に買えないくらいの物でしたから。だからこれを買えたのは、西川さんのお陰です」
これは鈴原さんが目一杯サービスしてくれたから買えたのであり、普通だったら絶対に買えないくらいの代物だった。
でもそれだって、元を正せば西川さんの紹介があったから…だからこそ、鈴原さんも無茶な相談に乗ってくれた訳で。
「こ、これって、エタニティだよね!?」
「そうだよ。正確にはハーフエタニティだけど」
まるで憧れの人にでも出会ったかのように、人一倍感動した様子の藤堂さん。
誕生石や石言葉なども詳しいし、ひょっとしたらこういう「ロマンチック」な意味合いのアイテムに対する思い入れが強いのかも。
「ねぇ、今日はこれも渡すの?」
「もちろんですよ」
「わぁ…素敵…いいなぁ…薩川先輩」
「うん。想像しただけで、私、感動しちゃいそう」
「私なんか、泣いちゃうかも…」
そんなこと言いながら、早くも藤堂さんの目が潤んでいるような。
まだ実行した訳じゃないのに、そこまで感動されてしまうとちょっと照れ臭いかも。
「一成から、ここまでして貰える嫁は幸せ」
「そうだね…と言うか、ここまで本格的にやるつもりだとは思わなかったよ。こんな凄いの渡したら、沙羅、泣いちゃうんじゃない?」
「でしょうね。もし私なら、嬉しくて立ってられないかも…」
「私もです。好きな人からここまでして貰えるなんて、薩川先輩いいなぁ…」
「ロマンチック…高梨くん、凄い!!」
俺としても、思い入れの強いこの指輪を褒められて誇らしい気持ちはあるが…沙羅さんが泣いてしまうなんて言われちゃうと…ちょっと。
でも、そこまで喜んで貰えるのであれば、俺としても本望だから。
「…雄二、何を考えてる?」
「…お前だって、同じ事を考えてるだろ?」
「…あはは、でも、一成に教えられることが多いね…実際」
「…そうだな。俺も自分に恋人が出来ことで、つくづくそう思うようになった」
「あー、あー、マイクテステステス、マイクテ~ス!!」
ステージ上にあるスピーカーから聞こえて来たのは、毎度お馴染み、どこまでもハイテンションなアニメ声。
と言うか、只のマイクテストなのに、早くもハイテンションなのは何故に?
「OK? オッケーね、よしよし、んじゃ、そろそろいこっか!」
会場に漂っていた空気が変わり、煩かったざわめき声がピタリと静まる。
ソワソワ、ワクワクと、そんな客席の雰囲気だけが会場を包み込み、これから目の前に現れる「誰か」をじっと待つような、そんな視線がステージ上に殺到する中…
スピーカーから、オープニングを彩るBGMが流れ出す。
「よおおおおおおおおおっし!! そ・れ・じゃ…野郎共ぉぉぉぉ…いっくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
もうスピーカーから聞こえてくる声が凄すぎて、これって音割れしてるんじゃないかと思ってしまうくらい。
そして観客席からも、それに負けない、どす黒い大咆哮。
「きゃっ…」
「うわっ、これはすご…」
「噂は聞いてたけど、こりゃ凄いわ…」
あまりにも凄い大歓声に、俺も皆も思わずしかめっ面…花子さんに至っては、もうウンザリといった感じ。
ここはスペースが確保されているから助かったが、もし密集状態でこれをやられたら、たまったもんじゃないぞ…暑苦しすぎる。
パン!! パン!!
クラッカーのような炸裂音と共に、大量の紙吹雪が舞い散り、ステージ中央の登場口から飛び出してくる小柄な人影。
いつもより大きく結んだ二つの尻尾を揺らし、ピンク色のふわふわとしたスカートを靡かせて、どこぞの魔法少女のようなコスプレをしたその姿。
「あ、あれは!? くっ、やられた!?」
台詞がかった口調で、何故か凄く悔しそうな花子さんはさておき…ド派手な登場をぶちかましてくれた深澤さん、もとい、みなみんのお陰で、早くも客席のボルテージがワンランクアップ。
でも、何のアニメだろうな、あれ…?
「おっ待たせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、皆、みんな、元気ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「「「げんきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」」」
「ん~~~? 声が聞こえないぞぉぉぉぉぉぉ? もう一度…元気ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「「「げんきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」」」
昨日もこれを聞いたが、どうにもこのノリが苦手と言うか何と言うか。
こういうお祭り騒ぎはノってナンボだと分かっているけど、冷めた見方をしてしまう俺は、実はつまらない奴なんじゃないかと思ったり…
でも、皆も特に盛り上がってる感じじゃないし、これは俺達が普通なのか、それとも冷めているだけなのか、どっちだろうな?
「うん、よしよし!!!! 元気が一番!! 元気が何よりだね!! さぁぁぁぁ…張り切って行こうか!!! 凛花祭恒例!!! 第32回、ミス・凛華高校コンテスト!!! 司会は勿論この私ぃぃぃぃぃ!! みんなのぉ……みなみんだ、よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
「「「み~なみぃぃぃぃぃぃん!!!!!」」」
とにかくノリで大絶叫をあげる観客と、お約束の"みなみん"コールを叫ぶファン(?)
もう秩序があるのかないのかよく分からん状況の中、それでもみなみん司会で進行していく。
「いやぁぁ…遂にこのときがやって来たねぇ。私もう昨日の夜はワクワクしちゃって、結局10時間くらいしか寝れなかったよぉ」
「寝すぎー!!」
「俺も俺も!!」
「んー、そっかそっか。やっぱ皆も楽しみだったよね? 私も楽しみだったよ。だってさ、ひょっとしたら…私が優勝しちゃうかも…なんちゃって!!」
みなみんの軽快なトークに、客席は和やかなムードに包まれる。
知っているのが不思議なくらいの学校ネタまで飛び出し、一頻りの笑いを取ったところで…
「さてさて、それじゃ先ずは、開催に先立って…準備会代表からの挨拶で~~~~す!!」
「どうも皆さん、本日はようこそお越し下さいました!! 初めましての方もいらっしゃるでしょうから、まずは簡単に自己紹介をさせて頂きます」
芝居がかった尊大な口調、妙な圧力を放つ幅広の恰幅、良く言えば貫禄のようなものを感じさせる風体。俺も一度だけ会ったことがあるが、出来れば二度と会いたくないと思ったウザさ200%の男。
「私は、この栄えある凛華高校ミス・コンテスト準備会で、現会長を勤めております、谷島と申します。どうぞ宜しくお願いします!!」
パチ…パチパチ…パチ…
あからさますぎるお情けの拍手と、みなみんがあれ程までに盛り上げた場を一瞬で白けさせる芸当。
ある意味で凄い、凄い才能だな。
「ふふふ、分かっておりますよ。せっかくのミスコンなのに、男がステージに居ても面白くありませんよね? ええ、ええ、分かっておりますとも」
負け惜しみなのか無駄に前向きなのか…きっと後者だろうが…そんな谷島の反応に対する客席の気持ちはきっと一つ。「男がいるから」つまらないんじゃなくて、「お前がいるから」つまらないんだよ!! …と。
「ですが皆さん、それでも少しだけお時間を下さい!! まず今回のミスコンですが、皆さん既にご存知の通り、現凛華高校に於いて名実共に頂点を決めるに相応しい出場者が揃っております!! しかもそれに加えて、今回は特別にサプライズ出場者も決定致しました!! 私も驚きましたが、皆さんもきっと驚かれると思います!! それ程の美貌の持ち主なのです!!! この方は在校生ではありませんが、"元"凛華生とのことで、出場資格ありと私が判断させて頂きました!!」
サプライズ?
つまり、公表されていない出場者がいるってことか?
…まぁ誰が出ようと、沙羅さんが優勝を狙わないのであれば関係ないが。
「在校生以外を出場させるなんて、いくらOGでもどうなの?」
「おおかた、嫁が独走するとコンテストの意味が薄れるから、焦って用意しただけ」
「それはありそうですね」
なるほど…確かにその可能性はあるかもしれない。それならかなりの人物を用意した可能性もあるし、あの自信の裏付けにもなる。それでタカピー女優勝できなかったりしたら、それはそれで面白そうだ。
「…ですから今回のミスコンは、間違いなく、栄えある凛華祭の歴史に名を残すものになると私は確信しております!! 皆さんにも必ずご納得して…」
完全に白けきっている観客を物ともせず、自分に酔っている谷島はペラペラと語り続ける。
どうも話を聞いているかぎり、今回の大会が自分の功績だと言いたいようだが…どこまでもお目出度い奴だ。
それならお望み通り、歴史に残るミスコンにしてやる。
「それでは、ご清聴ありがとうございました」
パチ…パチパチパチ…
客席からの冷めた視線を全身に浴びながら、まるで動じた様子もなく、意気揚々と袖に戻っていく谷島。
反対に、完全に盛り下がった会場を見ながらガックリと肩を落としたみなみんは…それでも気合いを入れ直したように、勢いよく前を向く。
「よ、よ~~~し、それじゃ、気を取り直して……いっくよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
少しだけトーンが下がったような気もしないでもないけど、それでもみなみんの叫びには、しっかりと反応を示す観客。
あの状況から一息でここまでテンションをあげられるとは、素直に尊敬するぞ。
ある意味でプロだ…
「さぁさぁ、みんなのお待ちかね、出場者の登場だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
「「「きたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」」
「薩川さぁぁぁぁん!!!」
「女神さまぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「玲奈さぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
まだステージ上には誰一人出場者が上がってないのに、客席からは早速、推しの名前の大絶唱。既にバトルが始まっているような会場内の熱気に、みなみんが満足そうに頷くと…登場口の横に移動して、ポケットから折り畳まれた白い紙を取り出す。
「いよいよ薩川先輩の登場ですね!!」
「凄い…薩川先輩の名前もいっぱい聞こえてくるよ…」
「沙羅は分かるけど、やっぱり楠原さんも人気は高いみたいね」
「まぁ、ミスコンじゃ内面なんて見れないし、完全に猫被ってるからね、あいつ。しかも見た目"だけ"はいいし」
「正直、このノリはキツいな。つまらない奴と思われても、俺には無理だ」
「そうだね。俺もこういうのは無理かな」
「俺もだ」
「バカ共の騒ぎでストレスMAX」
周囲の盛り上がりに比べて、俺の周りだけは若干冷めたような雰囲気。
ちなみに花子さんは、あからさまに不機嫌そうな様子で…何故か俺の上着の袖を掴んでる。
いや、別にいいんだけど。
「さぁ次は8人目!!!! いよいよ優勝候補の一角だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺達がそうこうしている間に、ステージ上の出場者紹介が進み、次に登場するのは8人目…つまり、あのタカピー女の番だ。
「溢れる気品は隠しきれない、正真正銘のセレブお嬢様!!! 見目麗しいその外見は、寧ろ人気が出ない方がおかしい!? 皆さんご存知、去年の第31回コンテストの覇者、楠原…玲奈ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」
みなみんの盛り盛りな紹介と共に、意気揚々と登場口から現れたタカピー女。
客席のテンションが一段上がり、ちらほらと「玲奈」コールも聞こえ始める。
曲がりなりにも、前回の優勝者というだけのことはあるか。
「へぇ、あの人が去年の優勝者なんですね。確かに綺麗な人だとは思いますけど」
「去年は沙羅がバックレたからね。本人は実力で優勝したと思ってるよ」
「仮にそうだとしても、それでも優勝したことに変わりはないですからね」
確かに西川さんの言う通り、「少くとも次点で優勝するくらいには人気があった」と言うべきか。
でもさっき夏海先輩が言った通り、コンテスト中は猫を被っていれば、性格なんて全く分からないだろうし。
「うーん…薩川先輩が本気を出さないのに、それで調子に乗られるのは悔しいですね」
「まぁ仕方ないね。そもそも沙羅は、このミスコンに乗り気じゃないから」
「嫁は一成のこと以外、基本的にどうでもいい」
「だよね。それはよーく知ってるけど」
そんなイヤらしいニヤケ顔で見られても、俺は反応なんかしません。
いくらなんでも、そのくらいはもう慣れてますから。
「さぁ…さぁさぁさぁさぁ、長らく…たいっへん長らくお待たせしましたぁぁ。いやー、みんなの熱意が凄くて、みなみん、ちょっとだけ嫉妬中ですよぉぉ」
みなみんが声のトーンを下げて、勿体ぶるように客席の連中を煽り始める。
これが沙羅さんを登場させる為の演出なのは分かっているけど、そんな他の出場者と明らかに違う特別扱いを見せたら…タカピー女が凄い顔をしてるぞ。
猫が消えたら投票減るんじゃないのか?
「遂に本日のラストナンバー!!! 各方面からのラブコールをガン無視して、去年は結局ドタキャンをした大本命!!!! 成績最優秀、文武両道!! しかも家庭科全般大得意とは、これまた実にあざといぞ!!!! 嫁にしたい女子ナンバー1の座は、ミスコンでも通用するのか!!?? 皆さんご存知、我らが凛華高校の誇るスーパーヒロイン!!!! 今年は生徒会長という"いかにも"な肩書きまで引っ提げて、満を持しての登場だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! エントリーNo.9!!! 孤高の女神様!! 薩川ぁぁぁぁ、沙羅ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぉぉぉぉぉぉぁぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
某格闘技大会の選手紹介みたいなノリでみなみんが叫ぶと、客席からは、学校の外まで聞こえているんじゃないかと思える程の大歓声があがる。
もう煩くて耳を塞ぎたくなるくらい。
でも…
登場口に姿を現した沙羅さんは、そんな大騒ぎなど全く気にした様子もなく。
ただ静かに前だけを見据え、笑顔など無縁とばかりに、能面のような無表情。
胸を張り、堂々と歩くその姿は神々しさすら感じさせるようで…思わず息を飲むほど。
そしてそれは俺だけじゃなく、皆も…恐らく客席で騒いでいたバカ共までも。
まるでこの場にいる全員が、等しく沙羅さんの纏う雰囲気に呑まれたように、ステージ上の沙羅さんから目が離せなくなっているような…
でも、残念ながらそれは、一瞬のこと。
「薩川さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」
「女神さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「沙羅ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
客席からまたしても騒がしいコールが始まり、それを皮切りに、至るところで沙羅さんの名前を叫ぶ声が溢れ出す。
せっかく静かになったと思った会場が、これまで以上に騒がしくなってしまう。
せめてもう少しくらい、空気を読めないのか?
「いやぁ、何というか…凄い歓声ですねぇ。流石は優…おっと、中立の司会者がこれ以上のコメントはマズいですね!! 気を付けます!! という訳で、この9人が今回の正規出場者となります!!!! それでは続けて、今回の目玉の一つ、準備会特別枠で急遽出場することが決まった10人目の出場者に登場して頂きましょう!!!」
いよいよサプライズの出場者が出てくるのか…
沙羅さんが優勝を狙わない以上、どんな相手でもこちらは構わないが、俺としても一応は気になる。
「エントリーNo.10!!! 年齢不詳、本名不明!!! ほんわか癒し系ボイスと柔らかい大人の雰囲気、隠しきれない我が儘ボディが男子のバブみを呼び起こす!!! こんな美女は滅多にいないぞ!!! 眼鏡もセクシー、モデル体型羨ましい!! 謎の超絶美女、まゆさんの登場でぇぇぇぇぇぇぇす!!!!!!」
健全な高校生なら、思わず反応しそう(俺は沙羅さんがいるから大丈夫)な紹介と共に、登場口に現れた人物。
ふんわりした服装、それなのに隠しきれていないモデルのようなスタイル。特に気になるのは、とても自己主張の強い、男なら思わず目が行ってしまいそうな程の大きめな何か。
アップで纏められた髪、うなじのセクシーさが妙に際立つ。
そして、立っているだけなのに周囲を和ませるような、癒しを感じさせる柔らかい微笑み。
それはまるで、俺がよく知る誰かを連想させる…よう…で?
いや…
ちょっと待ってくれ。
連想させると言うか、これは…そんなものじゃないぞ…
ふぅ…落ち着け、落ち着けよ、俺。
落ち着いて分析してみるんだ。
まず眼鏡を外してみる。
そして髪を下ろす。
するとそこに現れるのは…あら不思議。
沙羅さんが大人になったら、こんな風になるのかなぁと思える程の超絶美女。
おまけに隠しきれない悩ましボディ。
うん…これは間違いない。
って言うか…
何でここにいるんですかね、真由美さん!!!!????
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
どうも、約一週間ぶりのご無沙汰です。
こんなところでブレーキがかかるとは自分でも思ってませんでしたが、絶賛、苦労しております(ぉ
今回は12000文字・・・二回に分けようかと思いましたが、お待たせしているので一気に行っちゃいますw
ということで、ミスコンは・・・えー・・・やっぱり予想されていた方がいて焦りましたが、真由美さん登場ですww
毎回先の展開を言い当てられてしまうので半分開き直ってますが、単純で先を読みやすい・・・んでしょうか?
それとも皆さんが鋭すぎるんでしょうか?
こうなると、意地でも予想外の展開を考えたくなりますね(爆)
それでは、また次回に~
補足・・・現在タカピー女の従兄は所用により、現地入りしておりません(ぉ
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