第319話 ミスコンへの思惑

 興奮冷めやらぬと言った様子だったファンクラブは、二人が保健室へ向かうと、まるで波が引くようにどこかへ移動してしまった。

 反省会がどうのと聞こえたような気もするし、或いは「然るべき場所」へ移動したのかもしれないが…まぁそれは別にいいとして。


「高梨くん、この後どうする? 私達も保健室へ行く?」


「いやいや、満里奈。そこは二人きりにしてあげるのが優しさってもんでしょ…んふふ」


「え、でも保健室には先生がいるよ? だから二人きりにはなれないと思うけど…」


「いや、それは言葉のあやと言うか…」


 二人が保健室へ行ってしまった以上、俺達もここに残っている意味はない。夏海先輩の怪我が気になるのは確かだが、せっかく雄二が頑張ったのだから、ここは追いかけるよりも二人にしてあげたいというのが本音。


「夏海先輩のことは雄二に任せておこうよ。ね、一成?」


「ああ。雄二にはRAINを入れておくから、俺達は移動しようか?」


「そうですね。でも何かをするには中途半端な時間ですし…少し早いですが、花壇に移動しませんか?」


 沙羅さんに言われて時間を確認すると、もともと昼休みにしようと予定していた時間まで約30分。でもそれは、午後の予定を考えた上での時間なので、出来ればずらしたくない。となれば、他へ行くのは確かに中途半端すぎるかも。


「賛成で~す。応援で声出しすぎたから、そろそろ何か飲みたいかも」


「そうだね、私もそろそろ…」


「満里奈はイケメンの応援で疲れた?」


「ち、違うよ! もうっ、花子さんの意地悪っ」


 少しだけ顔を朱くして、可愛らしく頬を膨らめる藤堂さん。思わず和んでしまいそうな光景にほっこりしてしまうが、それを本人に言ったら怒られそう。

 でも、それは皆も同じように思ってるだろうから…特に速人は。


「休憩時間を取るなら、このまま花壇でのんびりするのも悪くないですね。準備するように指示をしておきますよ」


 西川さんはポーチからスマホを取り出すと、少し操作をしてからどこかへ連絡を始める。多分、昨日テントやらテーブルやらを準備してくれた人達だろうから…それならそれで、この後はゆっくり休憩ということで。


 俺の方から、雄二に花壇で待っていることを連絡しておこう。

 あとは、夏海先輩の怪我が酷くなければいいんだけど…


……………

………


 花壇に到着した俺達を出迎えてくれたのは、昨日と同じく、タープテントやらテーブルなどが用意されている光景。

 テーブル上にはポータブルオーディオスピーカーが用意されていて、優雅なクラシックBGMが流れている。

 こんな、普段の花壇からは想像もつかない非日常的の光景でも、西川さんがこの場に居るというだけで簡単に受け入れることが出来てしまうのだから…何とも。


 取り敢えず俺が昨日と同じ席に向かうと、皆もそれに合わせたように昨日と同じ席へ。

 そのまま全員が席に着くと、どこに居たのかスーツ姿の人達が現れて、ティーカップやら何らやらの用意を始める。

 その様子を無言で眺めていると、テーブルの上には、お菓子まで並べられて、あっと言う間にティータイムの様相に。

 そして、こんな光景にも誰一人突っ込まないところがまた…いや、慣れてきましたね、皆さん。


「それでは皆さん、午前中、お疲れ様でした」


「「「お疲れ様で~す」」」


 西川さんの挨拶でティータイムが始まると、話題に上がるのはやはり、先程まで行われていたテニスのこと。

 先ずは速人の頑張りと勝利に、皆から改めてお祝いの言葉が伝えられ、速人が照れ臭そうにお礼を返す。

 でも藤堂さんとの名前呼びについて話題が及ばないのは…何となく暗黙の了解的な空気で、誰もそれに触れようとしない。

 まぁその辺りについては、二人で時間があるときに話をしてくれればいいだろうし、藤堂さんが困るような気もするから。


 そして速人の話題が終われば、当然次は夏海先輩の話になる。今は本人が居ないので、お互いに試合内容の感想を話し始めた、ちょうどそのとき。


「あ、戻ってきた!」


 立川さんの声に全員が視線を向けると、そこには雄二の肩に手を掛けて、少し歩き難そうにしながらこちらへ歩いてくる夏海先輩の姿。

 俺達が見ていることに気付き、苦笑を浮かべながら手を振る。


「お疲れ様、二人とも。夏海、具合はどう?」


 二人を席に座らせて、先ずは真横に座っている西川さんが話し掛ける。

 雄二の肩を借りたとは言え、一応ここまで歩いて来たことを考えれば、そこまで重症じゃないとは思うが。


「多分折れてはいないだろうけど、捻挫は間違いないってさ。あと骨にひびが入ってる可能性はあるから、検査して貰えって」


「そう…それなら、このまま病院へ向かう? 迎えを呼ぶけど…」


「絶対ヤダ! 無理しなきゃそこまで痛くないし、学祭が終わるまで私は帰らないよ」


 勿論そう言うだろうとは思っていたが…

 一応、確認の意味で雄二に視線を送ると、苦笑を浮かべて顔を縦に振る。

 ということは、既にその辺りの話はついているということか。


「それに、今日一番のメインイベントを見ないで帰るなんて、冗談じゃないからねぇ」


「そんな軽口が叩けるなら、問題無さそうですね」


 イタズラっぽく笑う夏海先輩に、沙羅さんが冷やかな反応を見せる。でもその口許は笑っていて…沙羅さんも心配していただろうから、少しは安心したのかも。


「もし無理だと判断したら、俺が強引にでも連れて帰りますから」


「ええ、橘さんにお任せしますよ。良かったですね、夏海?」


「…何がよ?」


「ふふ…何でもありませんよ?」


「くぅぅ、ムカつくぅぅ…」


 夏海先輩が、どこか照れ隠しを含んだ不機嫌顔で唸ると、沙羅さんはその様子を見ながら余裕の表情で微笑む。

 どうやら二人の決着(?)がついたようなので、時間的にもそろそろお昼を…っと、その前に。


「夏海先輩。改めてお疲れ様でした。それと、おめでとうございます」


「ふぇっ!?」


「夕月先輩、おめでとうございます!!」


「カッコよかったです!!」


「本当に。でも、あれでまたファンも増えたわね?」


「最後のドライブボレーは震えましたよ」


「えっ、ええっ!?」


 俺達からストレートに褒められて、夏海先輩はオロオロしながら真っ赤になってしまい、そんな可愛いらしい様子を、特に雄二が嬉しそうに見つめていて…この二人も、段々と「それっぽい」言動が増えてきたような。


「あれは愛の力」


「なるほど、橘さんの想いが夏海を…」


「やめてやめてやめて!! そういうこと言わないでぇぇぇぇぇ!!!」


 そしてせっかくのムードを、毎度お馴染み花子さんが壊しに行く。(沙羅さんは本気)

 相変わらずブレないね、花子さんも。


「別に照れなくてもいいでしょう? 愛する人への想いで強くなる。愛する人からの想いで強くなれる。それは何ら不思議なことではありませんよ。現に私はそうなのですから」


 そう言いながら、沙羅さんは優しい微笑みを浮かべて俺に視線を向ける。

 勿論それは俺も同じだから…俺はいつだって、心からそう思ってる。実感してる。


「あー…はいはい。あんたらが以心伝心なのは分かってるよ」


「夏海は素直じゃありませんね。先程の試合で実感したでしょう?」


「ノーコメント! そもそも、私達はあんたみたいになれないから」


「全く…まぁ、今はそういうことにしておきましょうか」


 沙羅さんの言う通り、夏海先輩だって本当は分かっている筈なのに…相変わらず素直じゃない。

 でも恋愛事に対して、極端なまでに照れ屋なのが夏海先輩らしさでもあるから。


「…愛する人の為なら、強くなれる…さっきの…」


「どうしたの、満里奈さん?」


「えっ!? う、ううん、何でもないよ?」


 沙羅さん達の話を、どこか真剣な様子で聞いていた藤堂さん。

 不意に速人から声を掛けられ、何故か慌てたようにかぶりを振る。 

 こっちの二人…特に藤堂さんの心理状況が掴みきれない部分があるので。

 或いは今の話から、何か思うところでもあったのか…さて?


「夕月先輩!! お姫様抱っこの感想を是非!!」


「ノーコメント!!」


「夏海先輩、嬉しかった?」


「ノーコメントだって言ってるでしょ!?」


「夏海、どんな気分だった?」


「だぁぁぁぁぁ!! ノーコメントだって言って…る…え、えりりん、大丈夫? 怖いよ?」


「ふふ…夏海は面白いことを言うわね? 私は普通よ?」


「え?」


「普通でしょ? 私は普通…」


「え、えりりんが壊れた…」


 一見すると普通に会話しているように見える光景でも、俺には見える…見えるぞ…

 かつて見た、西川さんを包む闇の衣が…って、冗談はさて置き。


 最近頼もしい姿を見る機会が多かっただけに、ここまで闇堕ちした西川さんを見たのは久しぶり…やっぱり夏海先輩のアレは衝撃だったんだろうな…うん。


………………


 二人が無事に合流して、西川さんも無事に戻って来た(?)ので、このままランチへ移項する。

 今日も昨日と同じ、各自持ち寄りのお弁当がテーブルの上にズラリと並び…とは言え、俺達男性陣は料理が全く出来ないので、持ってきたのは女性陣だけ(申し訳ない…)

 西川さんの豪華弁当には夏海先輩の箸が集中して、速人のメインはやはり藤堂さんのお弁当。そして雄二には夏海先輩。


 俺は勿論…


「はい、一成さん、あーん♪」


 ぱくっ…もぐもぐ…


 ふぅ…今日も絶好調に美味い…美味すぎる。


「ふふ…そんなに喜んで頂けると、私も幸せです♪」


 お弁当を食べる俺の顔を見ながら、幸せそうに微笑む沙羅さん。

 でもそんな沙羅さんを見ることが、俺にとっての幸せであり…お弁当も幸せで、つまり俺は幸せ2倍ってことに!


「一成、次はこれ。あーん…」


 ぱくっ…もぐもぐ…


 花子さんのコロッケは、ちょっとだけ焦げた部分があったり、形も少し独特だったりする。でもそれは、手作りをしてくれた証だから…俺はその気持ちが嬉しい。


「はぁぁ…薩川先輩のご飯を毎日食べてたら、絶対食べ過ぎて太っちゃいそうです…美味しすぎるぅ」


「うん、そうだね。でもいいなぁ…私もせめて、薩川先輩の足元くらいは、お料理が出来るようになりたいです」


 沙羅さんが皆用に作ってきたお弁当に箸を伸ばしながら、立川さんと藤堂さんが感動したように声を漏らす。俺も毎日食べて毎日感動しているのだから、そんな二人の気持ちは分かりすぎるくらいによく分かる。


「こればかりは、訓練と実習を繰り返すしかないですね。私も小さい頃からずっとやってきましたから、逆にそんなアッサリと上手くなれてしまったら、立つ瀬がないです」


 料理に限らず、沙羅さんの凄さは全て努力による賜物。勿論、才能があるからこそ、人より伸びるということはある。でもそれだって、沙羅さんが頑張ってきたからこそ伸びるのであり、やはり努力の結果だから。


「そう言えば、薩川先輩のお母さんも凄いんですよね?」


「ええ。残念ながら、普通の条件で家事をするのであれば、私もまだまだ及びませんね。はい、あーん…」


 ぱくっ…もぐもぐ…


「普通の条件…ですか?」


「それって普通じゃなければ…あ、意味がわかりました」


「洋子?」


 立川さんが瞬間的に俺を見て「またか」的(?)な表情を浮かべる。

 これを鋭いと言っていいのか分からないが…恐らくそれは正解です。


「つまり、高梨くんに対しての家事であれば負けないってことですよね?」


「あっ! そういう意味…」

 

「はい。一成さんのことであれば、私は絶対に負けません。それが母であろうと祖母であろうと、絶対にです。ただ、お義母様は別ですが…」


「いや、俺が言うのもなんですけど、沙羅さんの方が圧倒的に上ですからね?」


 こう言ってしまうとオカンに悪いという気持ちはあるが、事実として、沙羅さんとオカンでは家事能力にかなりの差がある。

 特に料理に関しては明確な差があり、それはオカン本人も認めているから仕方ない。

 ただ、一応はオカンの名誉の為に言っておくと、決して料理がマズいとか下手とかそういう意味ではないんだ。単に、沙羅さんが凄すぎるだけで。


「ふふ…そう言って頂けるのはとても嬉しいですが、やはりお義母様から教えて頂きたいことが多いのも事実です。それに、一成さんの実のお母様と張り合う理由など、私には何一つございませんから。あ…一成さん、動いてはいけませんよ?」


 ふきふき…


 俺としてはオカンに限らず、真由美さんとも同じように仲良くして欲しいとは思う。でもこっちに関しては、真由美さんが俺に絡んでくるから難しい部分もあるので…

 それに、その理由を知ってしまった今となっては、ますます真由美さんの厚意を無下に断ることが出来なくなってしまった。


「何と言うか、話を聞いてると、薩川先輩はホントに"嫁"って感じですね!」


「あはは、確かに。あ、でも高梨くんがお婿さんだから…」


「いえ、そこは気にしていませんよ。実際、私の中では"嫁"というイメージの方が強いことも確かなので」


 俺は別に、婿とか嫁とか、その辺りを気にしたことはない。形式で言えば俺が「婿に行く」のであり、沙羅さんが「嫁に来る」訳じゃないと分かっているが…ぶっちゃけ、沙羅さんと一緒に居られるならどっちでもいいというのが本音。


「んで、今日のミスコンは、その女子力…嫁力? を見せるつもりはないの?」


「ええ、適当に終わらせますよ。はい、あーん」


 ぱくっ…もぐもぐ…


「そうなんですね。でも薩川先輩なら、実力の半分も見せれば余裕で優勝出来そうなのに…ちょっと勿体ない気もします」


「いや、私は逆に面白いと思うけどね? 沙羅が本気を出せば優勝なんて分かりきってるから…もし適当にやってあの女に勝ったら、それこそ爆笑もんだよ。盛大に笑ってやる」


「はぁ…夏海も相変わらずね」


「当ったり前じゃん! えりりんだって、あの女嫌いでしょ?」


「まぁ…少なくとも、好意的に考えることは出来ないけど」


 寧ろ、あいつを好意的に考えられる人がいるのなら見てみたい。精々、打算的な理由があって仕方なく…くらいが関の山だろうし、普通に仲良く出来るなら、それはどんなタイプの人なのか少し興味があるかも…


 なんて、ちょっと言い過ぎか?


「そう言えば、そもそもミスコンって、私達はどうすればいいですか? 薩川先輩が乗り気じゃないなら、応援しない方がいいですか?」


「どちらでも構いませんよ。ですが、応援して頂いても、特に何かを頑張るようなことはありませんが」


「りょーかいです。現地で空気読んで決めます」


「私は、それでも応援させて下さい!」


「嫁の気持ちが分かるから、私はノータッチにしとく。はい、一成…あーん」


 ぱくっ…もぐもぐ…


 一年組(女子)の方針は三者三様。見事なまでに性格が出ていると言うか、分り易いというか。でも立川さんに言われて俺も気付いたが、開催中に自分がどうするのか全く決めてなかった。

 最後に乱入することしか考えてなかったから…

 応援した方がいいのか?

 見守るだけ?


 うーん…


「…ねぇ、雄二。そろそろ、突っ込むべきだと思う?」

「…気持ちは分かるが、女性陣もスルーしてるみたいだから、そのままにしとけ」

「…そうだね。一成も全く気にしてないみたいだし…あそこまで行くと凄いねぇ」

「…もうあそこまで行ったら怖い物無しだろ…」


 いや、バッチリ聞こえてるんですけど…


 俺だって別に気にしていない訳じゃないが、これは優先順位の問題ってだけで。

 今更、バカップルと言われようが何と言われようが、沙羅さんが嬉しくて俺が嬉しいのであれば、そこに疑問を挟む余地など無い!


 無いったら無い!!


「ふふ…一成さん、また"おべんと"が付いてますよ?」


「おべんと?」


「動かないて下さいね…」


 そう言いながら、沙羅さんはイタズラっぽい表情を浮かべて顔を寄せてくる。取り敢えず言われた通り、動かずに様子を見守っていると…沙羅さんは止まらずに、どんどん俺の顔に接近してくる。

 いや、と言うか、もうこれ以上は接近しすぎのような…


 ちゅ…


 っ!?


 結局最後の行き止まりまで沙羅さんの顔は止まらず、俺の口端には、沙羅さんの柔らかい唇の感触。

 これはいつぞやと同じで…つまり、「おべんと」ってのは、そういう意味か。

 でも俺はてっきり、ここまで来たら普通にキスをしてくれるのかも…なんて、いや、これは残念とかそんなことを思った訳じゃないぞ? 本当だぞ?


「はい、取れましたよ」


「そ、そうですか、ありがとうございます」


「ふふ…もう、一成さんったら…んっ…」


 ちゅ…


「んぐっ!?」


 油断したのも束の間、俺の顔を見て微笑んだ沙羅さんが、今度は一気に顔を寄せてきたと思えば…そのままで唇を塞がれてしまう。

 いきなりのことで驚いたものの、俺だってやっぱり嬉しい気持ちの方が強くて…結局、されるがままになってしまう。

 そのまま数秒、身動きを取らずに身を任せていると…やがて沙羅さんはゆっくりと離れていき、俺の目を見つめながら、もう一度、優しい微笑みを浮かべる。


「沙羅さん…」


「ふふ…一成さんのご希望とあれば、私はいつでも」


「いや…その」


「一成さん…可愛い♪」


 もう誰に言われなくても、俺は自分の顔が真っ赤になっているという自覚はある。だから答えに詰まってしまうと、沙羅さんは一層嬉しそうに微笑みながら、俺の頭へ腕を伸ばしてくる。そのまま頭を抱え込み、いつもと同じように天国へ抱き寄せてくれる。

 俺の顔全体を、沙羅さんの柔らかくて心地よい天国が出迎えてくれて…はい、本当に幸せです。


「…これさ、ミスコンの舞台でやらせたら面白いことになると思わない?」

「…確かに面白いかも」

「…ええっ!? 大騒ぎになっちゃうよ!?」

「…もう満里奈ってば、そこが面白い…あの西川さん、その目でこっちを見ないで下さい、めっちゃ恐いです」


「一成さん…私は、あなたさえ側に居て下されば、他には何も…」


 俺の耳元でそう囁く沙羅さんの声は、どこかいつもと違うような、何となくそんな気がして。

 或いはミスコン直前で、沙羅さんも何かしら緊張しているのかも…大事を前に緊張しているのは、俺も同じだから。


「沙羅さん…」


「一成さん?」


「大丈夫、俺達はいつも一緒です。俺はずっと、沙羅さんの傍にいます」


「はい…嬉しいです」


 沙羅さんが少しでも安心してくれるように…月並みでも、俺は自分の気持ちを伝える。本当は、全てを伝えたい気持ちもあるけど、でもそれはもう少しだけ我慢。


 もう少し…いよいよ、ミスコンが始まるから。


 大丈夫、やるべきことは一つだ。

 俺の気持ちを、想いを、沙羅さんに伝える。

 やるべきことは、ただ、それだけ。


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 side ミスコン準備会


「どうだ?」


「うーん…難しいですねぇ。さすがに薩川さんに匹敵するような人は難しいですよ」


「だよなぁ…やっぱり西川さんしかいないか…」


 孤高の女神様…薩川さんが出ることで、もう既に今回のミスコンは成功したも同然。

 会場の周囲は朝から多数の人で溢れ、あれも全員が場所取り狙いの観客。

 こんな光景を見たのは始めてであり、ここ10年くらいの記録にも、こんな報告は無かった。

 つまり…今回のミスコンは、凛花祭の歴史に名を残す程のもの。

 そしてそれは、最高責任者である私も当然!!


 でもだからこそ、だからこそ…もう一息、何かが欲しい。


 このままミスコンを開催しても、薩川さんの優勝が最初から決まっている以上は、完全なる出来レースになってしまう。

 去年優勝した楠原さんには悪いが、そもそもタレントが違いすぎる。このままミスコンを行えば、独走で薩川さんが優勝してしまうのは火を見るより明らかだ。


 勿論、薩川さんが出るだけで盛り上がるのは間違いない。優勝すれば盛り上がることも。でも独走すぎて、コンテストとしての意味合いが薄れてしまう。


 だからこそ、せめて対抗馬が欲しいと思ってしまうのは贅沢なのか…いや、準備会としては当たり前の話だ。


 という事で、現状、薩川さんに対抗できるとすれば…それはやはり、同じ三姫の一角。


 でも夕月さんは、残念ながらミスコン向きの人気ではない。どちらかと言えば女性陣に人気があるということもあり、それはミスコンとして最大のネック。


 となれば、やはり容姿、スペック的に、薩川さんに引けを取らないのは西川さんということになる。

 昨日、西川さんが来ていると聞いて早速見に行ったが、薩川さんと並んだ姿は正に衝撃。あれなら間違いなく対抗馬になれる。

 唯一のネックは、去年転校したことで、一年生に認知度が無いということだが…それでもあの容姿なら。


 だが問題は、昨日からコンタクトを取ろうとしているにも関わらず、いまだに接触出来ないということ。

 何人か向かわせたのに、いまだ誰一人接触出来ず…強引に接近しようとすると、何故か強面の大人に囲まれてしまうらしい。どうなってる?


 いや、今はそれよりも、何とかして接触の手段を…


「会長!! 別動隊から連絡がありました!!」


「どうした、何かあったか?」


「はい! 実は…」


「っ!? 本当か!?」


「これを…」


「おおっ!?」


 ふふふ…

 これはどうやら、幸運の女神は、最後の最後で私に微笑んでくれたらしい。


 さあ、最後の準備に向かうとしようか…いよいよ、いよいよだ。


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 side タカピー女


 遂にこのときが来ましたか…


 この私が、あの忌々しい薩川沙羅を下し、今度こそ文句の付けようが無い程の完全勝利を掴むときが!!


「玲奈、調子はどうだ?」


「絶好調ですよ、お兄様!」


「そうか、それにしても随分とご機嫌みたいだが…何かあったのかな?」


「いえいえ、私の優勝は確実だと思っただけです」


「それはそうだろう。やるまでもないコンテストだが…やはり盛り上がりは重要だからな」


 そう、盛り上がりは重要なんです。

 盛り上がるだけ盛り上げて、観客の注目が最大限に集まったところで…


 あの女が、奈落に落ちる。


 でも、これは自業自得ですよ。

 脇が甘いのです…こんな重大なスキャンダル、もはや人気が落ちるというレベルではないでしょうに。

 私をコケにした、あの高梨共々…せめて退学にならなければいいですね?


 あぁ、この件については、私は全く関係ありません。

 だって、私に全く関わりのない誰かが、勝手に突然何かを騒いだとしても…それは私には関係のないことですからね。


 さぁ、そろそろ準備をしませんと。

 あ、優勝のコメントも考えておかなければいけませんね。

 はぁ…楽しみですこと…色々と。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 お待たせしてます。

 体調が悪いわけではありません、いつも通りの理由です(ぉ


 という訳で、ついにここまで来ました。

 本当に辿り着くのか怪しいと思われた読者様もいらっしゃるかと思いますが、次回からミスコンです。

 学祭だけで何話続いているのか・・・想定外であって想定内です(謎)

 頑張ります、ここで頑張らないと、自分も後悔するので。


 もうかなり前の話になってしまいましたが、沙羅さんへの質問コーナーで募集したコメントは、全て採用させて頂くつもりです。ただ、使い所についてはこちらで決めさせていただくので、もし満足できない答えが出てしまったときはすみません…


 それでは次回、ミスコン開催です

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