第16話 一番いい処理は?
ゲームや漫画ではない、俺が一人でこいつらを…なんて当然無理だ。
今だって、勢いと不意討ち気味の状況だったから上手くいっただけだ。
実は強い…なんて都合のいい設定がある訳ない
打開策を探す時間稼ぎのため、敢えて会話を引き伸ばすことにした。
それに、以前先輩は立ち入り禁止の屋上に人がいると通報がきたと言っていた。
時間を延ばせば、騒ぎを聞きつけた生徒会の人や、他の誰かが来てくれる可能性もあったからだ。
「それはこっちの台詞だ」
俺は先輩をあいつらの視界から隠すように、
少し横向きになり腕で視界を遮るような体勢をとった。
「あ…」
何となく先輩が場にそぐわない声を上げたような気がしたが、今はそれどころではない。
「お前ら何をするつもりだった?」
本当は先輩に聞かせたくはなかったが、話を延ばす為には仕方なかった。
「はぁ?んなの決まってんだろ、メチャメチャにして記念写真撮って二度と生意気な態度をとれなくしてやるんだよ」
「ウホ~悪ぃやつ~」
「お前も参加組だろうが!」
…聞くまでもなくわかっていた話だが。
「俺は今聞いたことをそのまま話すが?」
「証拠もないのにか?あるのはお前がそいつをボコった証拠だけだろ?告白しようとしただけのそいつを、嫉妬したお前がいきなりボコりました〜って思い付く限り話を盛ってやるよ」
「ギャハハハハ」
本当に、こういうやつらはどこまでも頭の悪さをアピールする笑い方をする
「説明ありがとね。本当に頭が悪くて助かるわ」
いつの間に来ていたのか…先輩の友人が屋上の出入り口にいた…スマホのカメラレンズをあいつらに向けていた。
それに続きもう一人、男子生徒が入ってきた。
確かあれは生徒会長だったはず…
「見て解ると思うけど、さっきのメチャメチャにしてやる〜とか全部録画したから。もう帰ったけど、一緒に録画した人まだいるからこのスマホ壊しても無駄だからね」
どうやら助かったようだ
あのとき説明しなかったが、雰囲気から何か察してくれたのか?
何にしても有り難い
それを受けて生徒会長が口を開いた
「未遂に終わったとはいえ、犯罪行為の証言はここにある。これを警察に提出して君達を補導して貰うこともできるし、更に親御さんを呼び出して自分達の息子が集団で婦女暴行を働こうとした証言を見て貰うこともできるが…どうする?」
「「「「「…………」」」」」
「言っておくが、民事での賠償請求、社会的な制裁など、他にも色々とやれることはある。君達は当然それらを受ける覚悟があって行動に移したんだろう?」
「いや、そんな大げさ…」
「俺は別に…」
「あの女に直接手を出したのはあいつだし」
どうやら責任を一人に擦り付けるつもりか
「勘弁して下さい!もう絶対にやりません!!」
俺に殴られて倒れていたやつが、焦ったように座ったまま謝った。実行犯だし、周りの反応からこのままだと自分が一番ヤバいと感じたようだな。
正直俺は、全員ぶっ飛ばしたいし、警察に捕まって苦しませたいと考えていた
でも、冷静に先輩のことを考えると、大事にするのは…とも考えていた。
もし警察沙汰やバカ共の保護者を巻き込めば、証拠の動画だけでなく先輩が狙われた事実を公表しなければならない。
例え先輩のことを隠しても、こいつらが先輩を狙っていたことを知っているやつらはいるし、学校で話題になるのは間違いない
そうなれば先輩は…どうなる…?
そこまで考えて、俺はまだ先輩を離していないことに気付いた
「すみません先輩、もう大丈夫そうです」
先輩を離すと、先輩がこちらを見た。
もう泣いてはいない。
いつもの…無表情のような、でも何か言いたそうな表情だった
生徒会長が続けた
「だが私は、君達が今回のことを一切他言しない、君達の仲間を含めもう二度と薩川さんに近づかないと約束するのであれば、処分を保留にすることも考えている。学校に警察が入れば他の生徒達への影響も考えなければならないしね。もちろん少しでも破ったと判断すれば、録画データを含め全て警察へ持っていくし、とれる措置は全て行う。そうなれば君達だけでなく家族も…これ以上は言わなくてもわかるね?」
これは…きっと生徒会長も俺と同じ事を考えているのか。
でも正直、この判断が正しいのか俺にはわからない。
いっそのこと警察沙汰にでもしてしまった方がいいと思う自分もいるが、そこまで追い込んだ場合、復讐がどうのという話も考えられるのではないか?
多少恩を着せたような形をとって処理をした方が後腐れないのか?
色々な可能性が頭を過り、一番いい処理が何なのか俺にはわからなかった。
俺が悩んでいる間も、会長はあいつらに余計な判断力を与えないことを計算しているのか、一気に話を叩き込んだ。
警察介入で学校や他の生徒に影響を与えたくないという理由をそのまま受け取ってくれるなら、仮に後で警察なり何なりが介入しても、こちらが何かした訳ではないと言い切れるのか?
「お、お願いします。もう何もしませんから!」
「俺は見てただけなんで!これからも一切関わらないです!」
「すんませんでした薩川さん!!」
「お願いします!許して下さい!警察は勘弁して下さい!!」
……結局、会長に任せるしかない状況が歯がゆい。
しかし、ここまでのことを仕出かしておいて…自分達がヤバくなる可能性を考えていなかったのだろうか?
何にしても本当に幼稚だな
…ところで先輩はさっきから何も言わないな。
横にいる先輩を見ると、相変わらす無表情で俺の顔をじっと…?
それに今気づいたが…
えーと、俺のブレザーの裾を握って離そうとしないし、俺をずっと見てるんだが…これはどういう…?
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