第309話 ご主人様
「お疲れ、どうだった、占いの方は?」
「何か面白い結果出た?」
俺達が暗幕を出ると、待ち構えていたように皆が集まってくる。
占いの結果が気になるのは分かるけど、こういうことは人に話さない方が…あれ?
それって、おみくじだっけ?
でもあれも一種の占いのような…
まぁ、沙羅さんに任せればいいか。
「そうですね、それは秘密にしておきます」
沙羅さんも俺と同じ事を考えたのか、片目瞑ると口許に指を立てて「しー」のポーズ。
そんなお茶目な仕草、可愛いすぎる!!
「そうですね、そういうのは人に言わない方がいいって聞いたことありますし」
「いや、それおみくじの話じゃなかったっけ?」
それは俺の脳内でも行われた討論なんだが、実際のところどうなんだろう?
ネットで調べれば分かったり?
「一成、次はお姉ちゃんと…」
「ごめん、花子さん、そろそろ俺達の教室へ行かないと時間が…」
「むー」
可愛らしく頬をぷっくりと膨らめて、花子さんがお冠をアピール。本当に申し訳ないと思うけど、そろそろ教室へ行かないと予約をしてある以上は迷惑をかけてしまう。
「…はぁはぁ…も、萌え力高すぎぃ…」
「…ど、どこまでもあざとい幼天使…いい!」
ちなみにこの「頬をぷっくり」は沙羅さんもやるが、それを見せられる俺としては、可愛すぎて違う意味で困ってしまう。
特に沙羅さんのぷっくりなんか、もう…その…凶悪なまでに可愛いすぎてですね。
見ているこっちが悶え死にそうになるくらい。
…っと、いつまでも放置してたら、花子さんが余計に不機嫌になっちゃう。
「もし次にこういう機会があったら、そのときは一緒にやろう」
可愛く膨らんでいる頬を突っつきたい衝動をぐっと堪えて、お願いオーラを滲ませながら説得に入る。オマケで申し訳なさそうな雰囲気も追加しておく。
「…むー…わかった…約束」
少し渋々といった感じで、それでも花子さんはコクリと頷いてくれた。
そのまま俺に向かって、スッと右手の小指を差し出す。
つまり、指切りをしろ…と?
こんな注目を集めている中でやるのは恥ずかしいが…仕方ない。
自分の右手の小指を花子さんの小指に絡ませて、無言の指切り。「あの歌」を歌わずに済んだのが救いかも。
「…な、なぁ、頼むから教えてくれよ」
「…岸山さん、岸山様!!」
「…絶対にヤダ!! と言うか、何を占ったかもう忘れた!! 全然記憶に無いから無理!!」
一方向こうでは、バカ共が岸山さんに群がっている。
もし少しでも怪しい素振りがあれば、俺は直ぐにでも割り込むつもりだったが…あれなら大丈夫そうか。
あれ程の占いを見せてくれた彼女だから、その辺りのプロ意識も高そうで実に頼もしい。
「さて、それじゃ次へ行こうか」
「待ってましたぁ、ティータイム!」
「メイドカフェって、行ったことないからちょっと楽しみです」
「私も! …って、そう言えば、西川さんの家ってメイドさんいたりするんですか?」
「お手伝いさんならいますよ。日本はメイドではなく家政婦さんが一般的ですから」
ちなみに、もし本物のメイドさんが日本のアレを見たら、バカにするなって怒るんじゃないかと俺は思っていたり。
執事は…比較的イメージとして近いのは秘書さんってところか?
あくまでイメージだが。
「そっかぁ。でも男子は、メイドさん居たら嬉しいんじゃない?」
「俺は…正直、メイドカフェのノリは苦手なんだが…」
雄二は、性格的にそう言うだろうと思っていた。こいつは硬派なところがあるから、昔からチャラチャラしたのが嫌いだったり苦手だったりする傾向にある。
「そうだね、俺は嫌いじゃないけど、正直苦手ではあるかな…色々と」
速人の場合は…必要以上にメイドさん達に囲まれて、何となく夜のお店みたいになりそうなイメージが…。
「あはは、横川くんは行ったら凄いことになりそうだよね。ちなみに高梨くんは…」
「俺は…」
「そもそも、一成さんにメイドやお手伝いさんは必要ありません」
「…です」
はい、沙羅さんがそういう反応を示すことは分かっておりました。
実の親である真由美さんにすら、俺の身の回りの世話と家事だけは絶対に譲らない沙羅さんだから…他人なんて論外だろう。
「あ、あー、いや、そういう意味じゃなくて」
「立川さん、沙羅にはそういうの通じないから」
「ソウデスネ」
「一成、そろそろ」
俺の上着の袖をちょこんと握り、花子さんがくいくいと軽く引っ張る。
そうだ、時間がないって言ってるのに、また余計なことを話し込んで遅くなるところだった…
「よし、行こうか」
「「「お~」」」
相変わらず周囲の注目を集めているから、このノリは少し恥ずかしい。
でも、皆とこうしていられるのは、俺としてもやっぱり楽しいことだから。
……………
ガラガラガラ~
「お帰りなさいませ、ご主人様」
っ!?
ほぼ毎日潜っている教室の扉を抜ければ、そこに待ち構えていたのは数人のクラスメイト…もとい、メイドさん達。
顔を見れば、それが誰なのかは勿論だが一目瞭然。でもこうして着飾っていると、印象や雰囲気が全然変わってしまうので…実際、こうも変わるものなのか…
「お、高梨くん、ひょっとしてウチらに見蕩れてる?」
「ち、ちがわい」
俺は思わず大きく反応してしまったが、こんなリアクションを見せたら肯定したようなものだ。
でもこれは違うぞ、俺は普通に戸惑っただけで…
「おーい、高梨くん、入り口で止まってないで、早く入ってよ~」
「あ、すみません…」
ありがたい事に、夏海先輩の声が場の空気を壊してくれる。そうだよ、これはクラスメイト達の普段と違う様子に、ほんのちょっとだけ戸惑っただけ。
気を取り直して何事も無かったように教室へ入ると、後に続いて皆が順番に入ってくる。目の前にいるメイドさんや、室内の飾りつけを見ながら、皆も興味深そうに唸り始めた。
「お帰りなさいませ、お嬢様!!」
「えっ、あ、はい、只今戻りました…」
メイドカフェ定番のノリに、沙羅さんが戸惑ったような反応を示す。こういうことに慣れていないのは分かっているので、ちょっと微笑ましい光景かも。
「うわぁ、メイド服、可愛い!」
「うん、こうして実際に見ると可愛いね。私もちょっと着てみたいかも…」
藤堂さんがメイド服…それは結構な破壊力を生み出しそうな気が。恥ずかしそうにしながら色々と応対する藤堂さんの姿が目に浮かんで…うん、可愛い。
そして速人も俺と同じ事を想像したのか、少し朱い顔で藤堂さんを見つめている。
でもこれは仕方ない。男のサガなんだから…
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ご苦労様」
花子さんはツインテールを靡かせ、妙に澄ました様子で颯爽と席へ向かって行く。ひょっとしなくても、それはお嬢様ロールプレイですかね?
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「お疲れ様です」
そして最後に入ってきた西川さんは、慣れた様子で何故かメイドさんへ労いの言葉を掛ける。しかも堂々としていて、その姿に全く違和感がない。
これ、お嬢様って言われ慣れてたり?
ちなみに雄二は、無言で頷いてさっさと席へ向かってしまったし、速人に至っては複数のメイドさんから纏わり付かれて結構困っている様子。
たったこれだけのことなのに、ここまで個性や違いが出るのはちょっと面白い。
………………
奥に用意された大きいテーブルには「生徒会様御一行と書かれたプレートが載っていて、既にある程度の準備もされていた。
他のお客さんもいたのに、わざわざ手間を掛けさせてしまったことは、後で改めてお礼を伝えておかないと。
「…な、なぁ、あの薩川先輩の横にいる人」
「…おう、スゲー美人だな」
「…先輩達のグループRAINに出てたけど、多分、西川さんって人だぜ」
「…俺もそれ聞いたわ。去年まで薩川先輩と夕月先輩も合わせて、三姫って呼ばれてたんだってさ」
「…高梨に言って紹介して貰えねーかな」
「旦那様、お疲れ様です」
俺に声をかけてきたのは、見て驚く程の「それっぽさ」を纏った川村。
執事服が妙に似合っていて、雰囲気が「いかにも」な感じ。
思わず見入ってしまった。
「高梨、どうした?」
「あ、悪い、ちょっと驚いた。お前、妙に似合ってるな」
これはお世辞で言ってる訳じゃなく、本当に似合っていると思う。普段のちょっとお堅いイメージや、頭の回転の早さ…ついでに眼鏡も、実におあつらえ向きだ。
「そ、そうか? いや、女子からも散々同じ事を言われてるんだが」
「だろうな。お前だけコスプレじゃなくて、本物に見えるぞ」
「それは喜んでいいのか微妙だな」
コスプレを楽しむ人だったら間違いなく喜ぶだろうに、川村はもともと乗り気じゃない側の人間だから。
でも悪い気はしない…といったところか。
「あぁ、メニューを持ってきたんだ。一応、男は女性客対応だから…でも、薩川先輩にはお前が渡してくれ」
「わかった」
そこまで気を使わなくても…と思わないでもないが。いくら沙羅さんでも、そこまで細かく反応する訳じゃないし、下心さえ見せなければ普通に対応はする。
但し、あくまでも店員が普通の対応をすれば…だが。
ちなみに夏海先輩と藤堂さんの方は、他の執事が対応中…あれ、そう言えば、こういうときこそ率先して出てきそうな山川が居ない?
「そう言えば山川は?」
「あいつなら休憩時間で他へ遊びに行ってるぞ。騒がれると迷惑だから連絡してない」
「それは良い心掛け。褒めてあげる」
「…有り難き御言葉?」
お嬢様ロールプレイ中(?)の花子さんからお褒めの言葉を頂いて、川村が調子を合わせる。
珍しいこともあるもんだ。
「ご主人様、どうぞ」
「あ、ありがと」
川村と入れ替わるようにやってきたメイドさん達が、今度は俺達男性陣にメニューを配り始める。それはいいとしても、クラスメイトからご主人様呼びされるのはどうにも違和感がある。ただ、少なくとも嬉しいという感じではないので、俺はきっとご主人様属性…というか、メイド属性は無さそうだ。
「一成は属性無し?」
「へ?」
「ご主人様?」
っ!?
何かを考えている素振りを見せたと思えば、唐突な行動に出る花子さん。
俺も思わず反応してしまったが、これは決して「ご主人様」という単語に反応した訳じゃない。
ちょこんと首を傾げて、可愛らしく「ご主人様」と言った花子さんが可愛かっただけなんだから、か、勘違いしないでよね!?
「おっ、反応あり?」
「今のは微妙ですねぇ。どっちかと言えば、花子さんだから反応したような?」
「そうね。私もそんな風に見えたけど…」
「あの、俺を分析するの止めて貰えます?」
何が楽しいのかわからんが、皆してイチイチ俺の反応を注視するのは止めて欲しい。最近は西川さんや夏海先輩まで俺の表情を読むようになってきて、立川さんまでそうなったらますます…
「なら、試しに嫁も言ってみるといい」
「私ですか?」
「そう。一成が言葉に反応しているのか、人に反応しているのかそれで分かる」
「いや…あの…」
いやいや、沙羅さんにそんな呼ばれ方されたら、俺が反応しない訳が…
「ご、ご主人様?」
「…………」
沙羅さんが照れ臭そうに、顔を朱くして小さく呟く。俺は隣に居るから、それでもハッキリクッキリ聞こえましたよ、ええ。
「ただですね、言葉よりも…沙羅さんの、その、恥ずかしそうな表情がですね…俺には可愛すぎて今すぐ抱き締めたいと言いますか…」
「一成、本音が全部漏れてる」
「ふぉ!?」
「か、一成さん…」
こ、こんなギャグマンガみたいなことをやるやつ居ないだろうと思っていたのに、まさかの俺がそうだったと言うオチ!?
そして沙羅さんが真っ赤になりながら、俺の顔をじっと見つめて…何故か両手を広げました?
「さ、沙羅さん?」
「いえ、その、ご希望でしたら、私はいつでも…どちらになさいます? 一成さんに抱っこして頂くのも、私が抱っこして差し上げるのも…」
モジモジしつつも、どこか…いや、かなり期待したように、俺に目で何かを訴えかけてくる沙羅さん。
うう…それはズルすぎ…
「ねぇ沙羅、まさかそれ本気で言っていないですよね?」
「えりりん、沙羅が本気なの分かってて聞いてるよね?」
「私には冗談を言う理由がありませんが?」
「「「……………」」」
沙羅さんの表情は、「おかしなことを聞きますね、絵理は?」と言わんばかり。不思議そうな表情がありありと浮かんでいて。
そして俺も、沙羅さんが本気なのは知っておりますので。
だからこそ俺は、迂闊に変なことを言ってはいけないということも十分に理解しているんですよ。
「…ねぇねぇ、薩川先輩、何をしようとしてると思う?」
「…多分、高梨くんを抱き締めようと…」
「…だよね!? だよね!? きゃぁぁぁ」
「…くぅぅぅ、毎度毎度、見せ付けやがってぇぇ」
「…悔しくない、俺は悔しくないぞぉぉ」
「…思いきって邪魔して…」
「…お前、薩川先輩に殺されるぞ」
「一成さん、ご主人様とお呼びした方が宜しいですか?」
「い、いや、普通でいいですよ」
沙羅さんはこういうことでも真面目に捉えてしまうから、俺が「呼んで欲しい」と言えば恐らくその通りにしてしまう。
でも俺は今までに無いパターンで多少ドキっとしただけで、ご主人様属性もないし、沙羅さんにはいつも通りで居て欲しい。
「ふふ…畏まりました」
「薩川先輩、高梨くんが呼んで欲しいって言ったら、本当にご主人様って呼ぶつもりだったんですか?」
「勿論ですよ。私が出来ることであれば、一成さんのお望みは全て叶えて差し上げたいと思っていますから」
分かってたけど、やっぱり沙羅さんは本気だったか…
冗談でも呼んで欲しいって言わなくて良かった。
「ですが、正直に言いますとホッとしています」
「あ、ですよね! やっぱそんな呼び方は…」
「私は一成さんを、"あなた"とお呼びしたいので」
「「「……………」」」
おかしいな、これは今更の話じゃなくて、今までもそういう会話が何度かあった筈。
なのに、何で皆さんそんな白けた目で俺達を見ているのでしょうか?
不思議ですねぇ…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ちょっと短かったですが、キリが良いので今回はここまでです。
色々続いたんで、盛り上がりのない平常シーンな感じになってしまいした(^^;
前回のモブ子さん視点ですが、タロット含めて面白かったと言って頂けて嬉しいです。タロットは書く前に調べましたが、難しくて苦労したので・・・
次に書く機会がれば、今度はモブ男くんにしてみようかなと。
ちなみにキャラ紹介ですが、メインの9人以外は設定してあったことが少ないので今ちょっと纏めています。もう少々お待ちください。
次は政臣さんと真由美さんにしようかなと思っています。
それでは次回~
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