第55話 世話焼き女神様(友達ver)その3

トントントン…

グツグツ…


…嬉しい音が聞こえる…懐かしいような、久し振りのような…


ふわっ…


額に冷たい感触がした。

これは気持ちいい…暑いから余計に助かる…


「ん……」


俺は…どうしてたんだっけ…


人の気配が近づいてくる


「高梨さん、目が覚めてしまいましたか?」


「沙羅…先輩…」


「はい、おはようございます…ではありませんね。もう少しかかりますが、お食事を用意しておりますので、宜しければこのまま目を覚まして頂けますと。」


意識がハッキリしてきた。

そうだ、あのまま寝てしまったんだ。

あれはちょっと…いや、かなりズルかった…


「すみません、ずいぶん寝てしまったみたいで…」


時計を見ると、もう18時を過ぎている


「高梨さんのお仕事は、風邪を早く治すために栄養をつけることと、睡眠をとることです。それ以外のことは私のお仕事です。」


先輩がニコッと笑うと、なんだ…顔が火照る…熱が上がってるのか?


「あら?高梨さん、ひょっとしてお熱が上がってしまったのでは…」


先輩がそのまま近付いてくると、俺の額に手を当てた…


「うーん、特に上がってるような感じではありませんね。」


「いや、大丈夫です。多分熱のせいで、何となく火照っているような気がするだけですから」


「あ、そうでした、途中から冷やしたタオルを使用しておりましたから、反動が出てしまったかもしれませんね。」


そうか。あの冷たくて気持ちよかった感触は、冷やしたタオルだったのか。

ということは、そこまで俺の面倒を見てくれていたってことだよな。


「ありがとうございます、なんとなく、寝ていても気持ちよかった感じが残ってる気がします。」


「それは良かったです。では、お食事の準備をしてしまいますので、もう暫くお待ち下さいね。」


台所から、シチューのような、とてもいい匂いがしている。


……わかってはいたことだけど、先輩は凄いよな…こういう、学校とか勉強とは関係ない家庭的なことまで完璧なんて、俺は何をお返ししていけばいいんだろう…


🎵〜🎵〜


鼻歌のように、何かを口ずさみながら手際よく料理をする先輩見ていると、また顔が火照ってきてしまう…風邪のせいだよな…


「さぁお待たせ致しました。お食事の準備ができましたよ。」


またしても呆けていた俺は、先輩の声で我に返った。


「あ、ありがとうございます」


テーブルの上には、野菜がいっぱい入ったシチュー…かな?


「野菜と鶏肉のクリーム煮です。物足りないかもしれませんが、風邪で胃腸が弱っている可能性がありますので、我慢して下さいね。」


「いや、そんな、我慢なんてとんでもないです。充分すぎますよ!」


「それなら良かったです。でも、明日も物足りない献立になってしまうと思いますので…風邪が治ったらご褒美に作りたてのハンバーグをお作りしますね。」


作りたて!?

それは嬉しい…めちゃめちゃ嬉しい!


「ふふ…高梨さんは正直ですね。そこまで嬉しそうにして頂けますと、私としても作り甲斐があります。」


「……そんなにわかりやすいですか?」


「はい、とっても。」


うーん、そんなに顔に出てるのかなぁ…

今までそんなこと言われた覚えはないんだけど…


「さあ、冷めてしまう前に、召し上がって下さいね。」


…もちろん大変美味しく頂きました。

先輩の料理って、何を作っても美味いよな…


------------------------------------------


先輩が片付けを終えた頃には、もうだいぶ時間が遅くなってきていた。

送っていくことができないから、そろそろ帰って貰わないとさすがに心配…


「沙羅先輩、すみませんこんな時間まで…あとはもう自分で大丈夫ですから、これ以上遅くなる前に…」


「そうですね、そろそろお暇させて頂く時間ですね。こんなに時間が経つのが早いなんて…」


「本当は送らせて欲しいんですが…」


「ダメです、お気持ちだけ頂いておきますね。大丈夫です、焦らずとも近い内に、私のお家にご招待させて頂くことになると思いますので。」


…はい?何がどうして…


「えーと、そうなんですか?」


「はい。お母さんから、折を見てお呼びするように言われておりますので」


えええ!!

お母さんに挨拶するの!?

何で!?


「ですが、今はとにかく、風邪を治すことだけを考えていて下さいね。では、申し訳ございません、本日はこれで失礼致します。明日の朝、また参りますので」


「あ、沙羅先輩ちょっと待って下さい!」


そうだ、明日もし俺が寝てて起きなかったら先輩に迷惑をかけちゃうよな…どうせ俺は家から出ないし。


「明日の朝、俺が寝てて起きなかったら迷惑をかけてしまうので、鍵を持っていって下さい」


「………宜しいのですか?」


先輩が、驚いたような、感動したような表情をしている

? 何か変なこと言ったかな?

取り敢えず、気にしないでそのまま渡せばしっかり受け取ってくれた。


「…では、お預かり致します。それではまた明日…お休みなさい、高梨さん」


最後にとびきりの笑顔を残して、先輩は帰っていった。


……一人になって、何となく部屋を眺めると…いつもと変わらない光景が、妙に殺風景に見えるのは気のせいだろうか…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る