第79話 体育祭 その4

「さて薩川さんの登場が近くなってきましたが、スタート地点の応援エリアに人が増えてきましたね。」


確かに人だかりができている。

ただ気になるのが、似たような風貌のやつらが多いことだ。

まさかあれがファンクラブか?


「あの…ひょっとしてあの人だかりって、沙羅先輩のファンクラブですか?」


「私もはっきりそうだとは言えないんだけど、多分そうじゃないかな?」


あいつらがそうなのか。

そもそも集まっているのを初めて見たが、やっぱりいたんだな。

沙羅先輩が嫌そうな顔をしているのがここからでも見える。


…あ、普通にマイクで喋ってた。

沙羅先輩に聞こえてしまったからあの表情になったのかも…


「高梨くんは生徒会でも副会長補助の役割があるのですが、薩川さんはどうですか?」


会長がなぜか競技と関係ないことを聞いてきた。

また何かを企んでいるのか? 単なる話題か?

でもスルーする訳にもいかず、当たり障りのない範囲で答えることにした。


「ええと…そうですね、基本的に真面目で仕事に対してストイックな感じはあるんですが、こちらの話はしっかりきいてくれますし、意見もちゃんと取り上げてくれます。わからないことがあれば丁寧に教えてくれますし…」


「…それは高梨くんだけだから」

「…教えてくれる前に自分で勉強しろって怒られるんだよ…」

「…知らぬが仏ってやつね」


いつの間に集まっていたのか、後ろで執行部メンバーが何かを言い合っている。


「なるほど、普段の薩川さんはそういう感じなんですね。このように薩川さんは副会長として…」


これは…敵を作りやすい沙羅先輩のフォローを考えていたのかもしれない。

確かに、こうやってフリートーク的に全校生徒に話を聞かせられる機会なんて殆どないから、好印象を与えられる数少ないチャンスかもしれない。


ちなみに沙羅先輩は、嬉しそうに笑顔を浮かべてこちらに小さく手を振っている。


「しかし高梨くんはよく見ていますね。やはりいつも…」

「さて、ついに注目の一戦です!私は実況で応援に行けませんので、この場から応援させて頂きます!」


油断できない

今何を言うつもりだったこの男は…

俺は会長に少し睨みを利かせながら強引に割り込んだ。


「お待たせ〜戻ってきたよ。」


ナイスタイミングで深澤先輩が戻ってきた。


「おっとここで深澤さんが戻りました。マイクを戻しますので高梨は退席させて頂きます。ありがとうございました」


俺はさっさと挨拶を済ませると、立ち上がりその場を後にする。

のんびりしていたら余計なことを言われそうだからだ。


今ならギリギリ間に合うかも…

応援エリアへ向かい、あいつらとは離れた場所に行く。


沙羅先輩は俺に気付いていたようで手を振ってくれた。俺は自分の出場のときの惨状を思い出して、あまり目立たないよう名前を呼ばずに声を出す


「頑張って下さい! ゴールエリアで待ってます!」


先輩は笑顔で頷いてくれた。


------------------------------------------


「いや〜さすがは薩川さん、素晴らしい走りでした!」


先輩は断トツの一着だった。

走っている姿に見とれていたのは多分俺だけではないだろう。


本当は声をかけたかったのだが、俺はゴールした先輩に合図を送ると早めに本部に戻る。

次は借り物競争があるため、今度は俺が準備をしなければならないからだ。


「次の借り物競争ですが、教職員テント及び本部テントで借りることは禁止となりま〜す。」


「「「えええええ」」」


主に男から声が上がった。

恐らく借り物にかこつけて沙羅先輩に接近しようとしていたのだろう。

もちろんそれを見越して、俺が打診しておいたのだが…正解だった。


まぁ俺も沙羅先輩に借りれなくなるんだけど…


「さて今回の借り物競争ですが、禁止エリアを設定したことで何故か男子側から非難の声があがってますね〜。薩川さん彼らをどう思いますか?」


「この程度のルールを守れないようでは…」


ピタリと非難の声が止んだ。

わかりやすいやつらだ。


「さて、皆さんが快く納得したところで競技が始まります。お題が物であれば持って行くだけですが、人なら一緒にゴールして下さいね〜」


------------------------------------------


順番が進み、今の組が終わったら次は俺の番だ。

そこまで難易度の高いものはなかったはずだし、ボーナスというか非常に楽なお題も入ってたはずだから、運が良ければ上位も狙えるはず。


「さて、次の組には高梨くんがいますね〜。結構応援されてるみたいなんで人気があるんですかね? さて彼はどんなお題を…あ! せっかく禁止エリアにしたのに薩川さんテントから出ようとしないで下さい!」


俺に人気とか天地がひっくり返っても有り得ないだろうが。

だが、今はそれよりも楽なお題に当たりますように。


そして沙羅先輩が何かしようとしたらしく、また実況で騒いでいるようだ。


よーい…パン!


俺は走りながら狙いを一つに絞った。

先に辿りついた連中が、俺が狙っているお題の両横を取っていったので、これだけがポツンと残されている。


やはりこれを狙えというお達しだな


お題を拾い、中を見る


「仲のいい同性の友達」


……俺には難易度が高すぎるお題だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る